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女神の代行者となった少年、盤上の王となる  作者: 蒼井美紗
第2章 帝国編

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71、馬車の残骸

 騎士たちがいる場所に戻って寝る準備を済ませ、近くの木を背もたれにして体を休める体勢に入ったところで、まだ寝るまでには時間があったのでセレミース様にさっきの話を伝えておくことにした。


『セレミース様、今ってお時間ありますか?』


 声を掛けると、すぐに返答が聞こえてくる。


『大丈夫よ。また何かあったの?』

『はい。実はこの国にはクーデターを企む勢力がいたことが分かりまして、その勢力の手助けをすることにしました』


 それからエルネストたちのことを詳しく説明すると、セレミース様の声音が今までよりも明るいものに変わった。


『帝国にもまだそのような者たちがいたのね。それは喜ばしいことだわ』

『はい。なので俺たちはエルネストのことを手助けする方向で、帝国を正常に戻そうと思います』

『そうね。国を立て直すというのは力があれば達成できることではないから、それが一番だと思うわ。ただ気になるのは、クーデターが成功するかどうかね』


 そうなんだよな……そこが一番心配だ。俺は強い力を持っているが、一番弱いのが乱戦なのだ。

 敵の数が多くてもその場に敵しかいない状態なら勝つのは容易いが、敵味方入り乱れている場合は大規模な魔法が使えない。剣を振るうにも周囲を気にする必要がある。


『リュカとレベッカの二人で城に乗り込むのが一番早いでしょうけど、それだとクーデターにならないものね』

『今回は敵を倒したら終わりではないので、そこが難しいです』

『そうね……二人は強敵だけを狙って倒していくのが良いのかしら。とりあえず、セザールという者の監視をしながら帝国内で強い騎士の情報も集めておくわ』

『ありがとうございます。よろしくお願いします』


 そこでセレミース様との話が終わり、俺は大きく伸びをしてから周囲を見回した。この騎士のどれほどが敵になるのだろうか。


 そんなことを考えながらレベッカと静かに雑談をして夜を過ごし、見張りを交代しながら軽く睡眠もとって体力を回復させた。



 次の日の午前中。俺たちはやっとアンが乗っていた馬車の下に辿り着いていた。馬車は原型を留めていなく、魔物に荒らされている様子も確認できる。


「……これ、望み薄じゃないか?」


 誰かがポツリと呟いた言葉が意外にも響き、騎士たちの間には絶望感が漂った。そんな中でエルネストが馬車の残骸を退かしていき、その下にアンがいないかを確かめる。


「皆も手伝え。馬車の調査に五人、残りは周辺の捜索だ。暗くなるまでにはここに戻ってこい」

「……かしこまりました」

 

 それから俺たちは周辺の捜索部隊に入り必死にアンのことを探したが、もちろんアンはどこにもいない。足跡などもないことから、騎士たちはもう諦めムードだ。


「アンリエット王女の痕跡は見つかりませんでした」

「私たちも見つけられませんでした」

「そうか。馬車にも痕跡はなかった」


 全ての捜索隊が報告をしてエルネストが馬車の調査結果を口にしたところで、場を沈黙が支配する。


「……い、遺体が見つからないってことは、生きてる可能性があるってことじゃ」


 一人の騎士がなんとか希望を持ちたいとその言葉を発したが、すぐに他の騎士がその希望を打ち砕く。


「魔物が連れ去った可能性が高いだろう。……魔物の足跡ならいくつもあったからな」

「……じゃあ、探しても無駄ってことか?」


 その言葉に誰も言葉を発せず、騎士たちはその場に座り込んだ。


「はぁ、もうやってらんねぇよ!」

「本当だよな。なんで俺たちがこんな目に遭わなきゃいけねぇんだ!」

「収穫なしで帰ったら、どうなると思う?」

「……俺ら騎士は大切な戦力だろ? さすがに命を取られるようなことは……」


 騎士の希望のこもったその言葉に、数人の騎士が暗い表情でポツリと呟いた。


「でもよ、上の考えてることはよく分からねぇよな」

「……国をどうしたいのか、最近は分からなくなってきたぜ」

「なんだよお前ら、好き放題できるって喜んでただろ?」


 エルネストの仲間の騎士が発したその言葉に、騎士たちは顔を赤くして立ち上がる。しかし何も反論できないのか、またその場にどかっと座り込んだ。


 この様子だと、実際にクーデターを起こしたらエルネストたちの味方になる騎士は多いのかもしれないな。ただ事前に仲間に引き入れることは難しいのだろう。絶対に今の上層部に告げ口して、いい待遇を得ようとするやつがいるから。


「とにかく、一週間は捜索を続ける。今日はもう遅いから休むぞ」


 エルネストのその言葉で話は終わりとなり、騎士たちはそれぞれ野営の準備に取り掛かった。

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