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女神の代行者となった少年、盤上の王となる  作者: 蒼井美紗
第2章 帝国編

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51、突然の魔物

 王都を出て三日が過ぎた。ここまでは不気味なほど順調な旅路だ。今は休憩時間で、馬車を止めてアンも外で羽を伸ばしている。


「アンリエット様、リラックスしてるみたいだね」

「そうだな。体調も悪くなさそうだし良かった」


 休憩しているアンの周囲には円状に護衛が連なっていて、俺たちはその一番外側だ。騎士の隙間から辛うじて見えるアンの様子は笑顔に見える。


「そろそろ王国内の道中も半分は来たかな」

「確かにそのぐらいかもな」

「順調で良かったよね。でもこの先に一番の難所があるんでしょ?」

「そうだ。多分……あと数時間で入るんじゃないかな。薄暗い森に囲まれた細い道らしいから、魔物による突然の襲撃に警戒だな。木々に隠れられてたら、飛びかかってくるまで気づかない場合もあると思うし」

「そうだね。気を付けよう」


 ここまでの道中では強い魔物どころかほとんど魔物を見ていないような状況だし、本当に気をつけないと。平和すぎて警戒心が下がっている。

 こういう気を抜いた時が危ないんだ。


「そろそろ休憩も終わりかな」

 

 レベッカがアンの方に視線を向けながらそう呟いたのとほぼ同時に、アンが馬車に戻るために立ち上がったのが見えた。


 今回の休憩も問題なかったな……そう安心した瞬間。


「グォォォォォ!!」


 かなりの近距離から、魔物の雄叫びが響いた。


「……っ」

「ア、アンリエット様を守れ!!」

「早く馬車の中へ!」


 騎士たちの慌てた叫び声が響く中、俺とレベッカは魔物の正体を探る。


「リュ、リュカ! なんで急にこんな近くから!?」

「分からない! けど、もしかしたらダンジョンがあるのかも!」


 この辺は人里から離れてるから、領主の私兵団が定期的に見回りをしているとはいえ、ダンジョンの発生に気づくのは遅れるだろう。


「さっきの叫び声って、かなり大きい魔物だよね!」

「そうだと思う!」


 ドシンッ、ドシンッという重低音が断続的に聞こえているし、音が響くたび僅かに地面が揺れることから考えて、相当な大きさの魔物だろう。

 俺は突然の緊急事態に冷や汗が背中を伝うのを感じた。


『セレミース様。今俺たちがいる場所の近くに巨大な魔物がいると思うのですが、場所と種類を教えてもらえませんか? 突然すみません。緊急事態でして』

『分かったわ。少し待っていて』


 セレミース様はすぐに真剣な声音で答えてくれる。それから返答を待つ間にアンは騎士たちに誘導されて無事に馬車へ戻り、騎士は半数以上が馬車の護衛についた。残りの半数は魔物に対応するらしい。


「リュカさん、レベッカさん。何の魔物か分かるでしょうか?」


 魔物の足音が聞こえてくる森に向かって武器を構える俺とレベッカのところに、ランシアン様が駆け寄ってきた。


「まだ分かりません。ただ相当な大きさの魔物であることは間違いないです」

「この足音ですからね……私たちはどのように動けば、お二人の邪魔にならないでしょうか?」


 ランシアン様は魔物に対しては俺たちの方が対処に慣れていると思ったのか、素直に意見を聞いてくれる。この人って本当にいい人だよな。


「できれば遠くからの援護をお願いしたいです」

「分かりました。ではレベッカさんに合わせます」


 ランシアン様が頷いて後ろに下がっていたのとほぼ同時に、セレミース様の声が聞こえた。


『リュカ、アースドラゴンがいるわ。リュカたちがいる場所から森の中に数百メートルほどの場所ね。近くのダンジョンから出てきたみたい。見た限りそこまで強い魔物がいるダンジョンではないから、奥の魔物がダンジョン外に出てくる珍しいパターンね』

『そんなパターンがあるのですか?』

『たまにあるのよ、イレギュラーが。アースドラゴンは木々を薙ぎ倒しながらそっちに向かってるわ。リュカたちが姿を捉えられるまで一分ってところかしら』

『分かりました。ありがとうございます』


 これだけ観衆がいるとなると、仮初の平和や神域干渉は使えないよな。剣と神力行使だけで勝たないといけないのは、ちょっと不安だけど仕方がない。

 今のところ公にしてる魔法属性は氷だけだから、できれば氷魔法で倒せたらいいな……他に使うとするなら森の近くだし水か風だ。


「レベッカ、アースドラゴンがいるらしい。あと一分で来る」


 騎士には聞こえないように小声で伝えると、アースドラゴンという言葉にレベッカは顔を強張らせた。


「……アースドラゴンって飛べないんだよね?」

「確か翼はなかったはず。でも巨体の割に動きが素早くて、巨体で押し潰してきたり噛み付いてきたりするらしいから注意して。あとは……土魔法が使えるはず」

「分かった。私とにかく弱い部分を弓で狙うよ。やっぱり目かな」

「そうだな。あとアースドラゴンは耳も弱点だったはず。顔の側面に小さな穴があるんだ」


 俺のその言葉にレベッカが頷いて弓を構えたその瞬間、俺たちの目の前の木が薙ぎ倒されて、アースドラゴンが姿を現した。

 かなり興奮してるな……腹が減ってるのかもしれない。

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