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女神の代行者となった少年、盤上の王となる  作者: 蒼井美紗
第1章 成り上がり編

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48、セレミース様からの頼み

 セレミース様の言葉にまず反応したのはミローラ様だった。ミローラ様は不機嫌そうに唇を尖らせて、足をぶらぶらと上下に揺らす。


「僕は戦争が一番嫌いだ。人はたくさん死ぬし自然も破壊されるし、獣や魔物の住処もなくなる」

「ええ、戦争なんて誰にも利益がない無駄な行いだわ」


 二人は顔を見合わせて共に嫌悪感を露わにすると、俺とアンに視線を戻した。


「だからリュカ、帝国の解体をお願いしたいの」

「アンリエット、僕からもお願いするよ。リュカと一緒に馬鹿な行いを止めて欲しい」


 二人のその言葉に俺とアンはほぼ同時に頷き、拳を握りしめて気合を入れた。


「戦争は絶対に止めます」

「私もです。戦争で傷つくのは多くの市井の人々ですから」

「わ、私も手伝います……!」


 俺たちの言葉から少し遅れてレベッカが発した言葉に、セレミース様とミローラ様は共に優しい笑みを浮かべた。


「ありがとう。もし眷属が二人以上作れるならば、レベッカも眷属にしたのだけれど」

「本当だね。でも眷属にはできなくても、大切な僕の仲間だと思っているよ。アンリエットの仲間だもの」

「そうね。私もよ」

「ミローラ様、セレミース様、ありがとうございます!」


 レベッカは二人の言葉に顔を輝かせ、満面の笑みを浮かべた。


 レベッカが疎外感を感じなくて良かったな……多分セレミース様とミローラ様は配慮してくれたんだろう。本当に素敵なお二方だ。


「セレミース様、帝国の現状を教えていただいても構いませんか? 具体的にどうすれば戦争は止まるでしょうか。というよりも、なぜ帝国は現在のような過激な国となったのでしょうか」

「それが……まだあまりよく分かっていないのよ。水鏡で見ることができる範囲は狭くて全てを把握はできないの。ただ上層部が悪いということは分かるわ。国王主導で現在の国家運営がされているようだから」


 確かに水鏡も万能じゃないよな……誰か一人を観察するにはとても便利だけど、複数人の監視は難しいはずだ。


「上層部が悪いとなると、――暗殺でしょうか?」

「そうね。できれば誰が帝国の現在を作り出したのかしっかりと把握して、最低限の被害で済ませたいわ」

「僕からもお願いするよ。無駄な殺生は避けて欲しい」

「俺も無駄な殺しはしたくないです……ので、まずは帝国に潜入ですね」


 かなり難しい仕事になりそうだと思いながらそう言うと、セレミース様とミローラ様が同時に頷いた。


「帝国に潜入するなら私はどうすれば良いかしら。さすがにすぐ帝都に入れば、私がアンリエットだとバレてしまうと思うけれど」

「そうだよね。髪型を変えても……バレちゃう可能性は捨て切れないかな」


 アンには帝都じゃなくて、別の場所で情報収集をしてもらうのがいいかな。俺がそう考え始めた時、ミローラ様が満面の笑みで片手をビシッとあげた。


「それなら僕が良いものを持ってるよ!」


 そう言って立ち上がると、少し遠くにある植物の蔦で作られた籠を漁り、その中からシンプルなローブを取り出す。


「これを使ったらどうかな!」

「あら、便利なものを持っているわね」

「それは何でしょうか?」

「これは変身ローブだよ! ダンジョンの宝箱から稀に出るアイテムなんだけど、数代前の眷属の子が手に入れてたのを今思い出したんだ。潜入している間だけならこれでバレないと思うよ」


 変身ローブってことは、外見を変えられるのだろうか。そんなに便利なアイテムもあるのか。


「アンリエット、一度着てみる?」

「はい。ありがとうございます」


 アンが水色の綺麗なローブを羽織ると、アンの外見が一瞬にして変化した。豪奢な金髪は薄いピンク色に変わり、瞳の色もピンクになったことでイメージが全く変わる。少しだけ顔の印象も幼くなったかもしれない。


「凄いね! これならバレないよ!」

「髪の毛を縛ったりすれば完璧だな」

「アンリエット、こっちに鏡があるよ」


 ミローラ様に手招きされて鏡の前に向かったアンは、自分の姿を見て瞳を見開いた。


「凄いわ……こんなに印象が変わるのですね。これは王宮で一度ローブを脱ぐことが義務付けられるのも分かります」

「そんな決まりがあるのか?」

「ええ、全身の印象を変えることができるアイテムがあるからと聞いたことがあったけれど、ここまでとは驚いたわ。まさかミローラ様が持っていたなんて」


 ミローラ様は外見が変わったアンのことをニコニコと見つめてから、嬉しそうにアンに抱きついた。そして顔を見上げて口を開く。


「アンが王宮を抜け出すって言った時に渡そうかと思ったんだけど、王宮の周りでローブを着ていると一度脱いでと言われるかもしれないと思って、渡さなかったんだ。でも冒険者ならローブを着ている人も多くいるし、問題ないだろう?」

「はい。ありがとうございます。これで私も帝都に問題なく潜入できそうです」


 アンはそう言って綺麗な笑みを浮かべると、ローブを脱いで丁寧に畳んだ。


「これはお借りしても良いでしょうか?」

「もちろんだよ!」

「じゃあこれで皆が潜入できるな。アンとは帝都で合流するのでいい? 多分俺とレベッカはアンが馬車ごと崖下に落ちたように偽装したあと、報告のために帝都に行くだろうから」

「もちろんよ」

 

 アンは一人で帝都まで移動できるかな……そこだけが心配だ。でもアンだって眷属だし、危険なら神域に逃げればいいんだよな。そう考えたら心配はいらないか。


「帝都に集まってからのことはどうする?」

「そこは……また後で考えればいいんじゃないか? どうなるのか分からないし」

「確かにそうだね。じゃあまずはアンを助ける作戦を成功させよう!」


 拳を振り上げてそう言ったレベッカに、皆が頬を緩めて頷いた。


「ではそろそろ私は王宮に戻るわ。もうあまり時間がないの」

「そっか。次に会えるのは出発日?」

「そうなるわね。それまでは誰にもバレないようにしておくわ」

「頑張ってね」

「また後でな」


 それから俺たちは神域から下界に戻り、アンを宿から送り出した。

 作戦がバレず無事にアンが逃げられるまでは安心できないな……俺は国王を裏切る行為に緊張しつつ、アンを助けるためだと拳を握りしめた。


「レベッカ、頑張ろうな」

「うん。アンを助けようね」

ここで1章は完結です!

2章は帝国編となります。近いうちに2章の投稿を開始しますので、少しお待ちいただけたら幸いです。


面白い、続きも読みたいと思ってくださった方は、ぜひ★★★★★評価をしていただけたら嬉しいです!

感想やレビューなどもぜひ!

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