10、恋の気配?
レベッカは俺の言葉が上手く飲み込めないのか、思考停止したように固まってしまった。俺はそんなレベッカを急かすことなくひたすら待つ。
すると数分後に、ゆっくりと顔を上げたレベッカは……俺の頬に触れた。
「突然消えたり、しないよね?」
「そんなことしないけど……」
俺はレベッカの言葉の意味が分からなくて少し首を傾げたけど、すぐその理由に思い至った。あのお伽話のせいか。
神の眷属の話はいくつか残っているけど、その中で何年間も忽然と姿を消した眷属がいるのだ。今思えばあれって神域にいたんだろうな。
「確かに別の空間に移動する能力はあるけど、あれは俺の意思で使うものだから突然消えることはないよ」
「そっか、良かった」
レベッカはそれが確認できたら安心したのか、俺の頬から手を離して、へにゃりと思わず抱きしめたくなるような笑みを浮かべた。
「突然いなくなっちゃったら寂しいから、その別の空間? に移動する時は事前に教えてね」
「もちろん。というか、その空間にはレベッカも連れていけたはず」
「そうなの?」
「うん、ちょっと待ってて。平和の女神様に、セレミース様に聞いてみるから」
俺のその言葉の意味を正確に理解したレベッカは、驚きに瞳を見開いてから口を閉じた。俺はそんなレベッカに心配はいらないと伝えるように笑みを浮かべてから、セレミース様に呼び掛ける。
『セレミース様、今大丈夫ですか?』
『ええ、大丈夫よ』
『良かったです。一つ聞きたいことがあるんですけど、神域って人間も連れていけるんですよね?』
『ええ、そうよ。ただ人間の場合は物と違って、貴方と同じように入った場所にしか出られないわ。それから上限があって数人程度が限界ね』
人数の上限があるのか。ただ数人なら今のところ問題はないな。連れて行く候補はレベッカしかいないし。
『教えてくださってありがとうございます。それで相談なのですが、レベッカを連れて行ってもいいでしょうか?』
『ええ、もちろん。リュカが良いと思ったのならば私が反対することはないわ。自由に連れてきて良いわよ』
『本当ですか! ありがとうございます!』
セレミース様との会話が終わったところで、俺はレベッカに視線を戻した。
「やっぱりレベッカも連れて行けるって」
「リュカ、今話してたのって……」
「セレミース様。眷属はどこにいても自由に話しかけられるんだ」
「凄いね……なんだか現実感がないよ」
「分かる。俺も最初は夢かなって思った。じゃあレベッカ、平和の女神様が許可してくれたから一緒に神域に行ってくれる? その方がレベッカも説明を理解しやすいだろうし」
俺がレベッカの手を取ってそう告げると、さっきまでどこか夢見心地な表情を浮かべていたレベッカがハッと我に返った。そして自分の体を見下ろして……首をブンブンと横に振る。
「い、今からすぐにってこと!? それは無理!」
「セレミース様も歓迎してくれてるし、心配はいらないけど……あっ、怖いとか?」
「い、いやいや、そういうことじゃないから! 女神様と会うのに一日働いて髪の毛はボサボサだし、服装だって適当だし、顔とかも汚れてるだろうし……」
俺はレベッカのその言葉を聞いて、じっと顔を覗き込んだ。別にそんな気にするほどボサボサじゃないと思うんだけど。
「綺麗な赤髪はしっかりまとまってるし、服装は冒険者として一般的なものだし、汚れは一日頑張って働いた証だから、気にしなくていいと思うんだけど……」
本心からそう告げると、レベッカは照れたように顔を赤くして両手で頬を押さえた。
「ちょ、ちょっと待って。リュカ、そういうこと他の女の子にも言ってるの!?」
「いや、レベッカほど仲良い女の子はいないから、言ってないかな……多分」
「それならいいけど、あんまりそういうこと言っちゃダメだからね。相手の子が勘違いしちゃうんだから」
俺はレベッカの態度と照れた様子とその言葉で、やっとレベッカの言わんとするところが分かった。口説いてるとかそういう意味になるってことか。
「気をつける」
今までの人生はとにかく生きることに必死だったから、恋とか愛とかって考えたこともなかった。でもこれからは余裕ができるし、俺も恋人を作れるんだよな。
まだ誰かを好きになったりしたことはないから実感が湧かないけど、楽しく一緒にいられる人と出会えたらいいな。
「話が逸れたけど、そのまま神域に行くのでいい?」
「うぅ……まあ、いいことにする」
「分かった。じゃあ行こう」
俺は改めてレベッカの手を取って、ベッドから立ち上がった。そして初めての他人を連れた神域干渉を発動すると……一瞬後に俺とレベッカは、問題なく神域の東屋の中に立っていた。目の前にはソファーに座るセレミース様がいる。
面白い! 二人の行方が気になる!
などと思ってくださった方は、ぜひ★★★★★評価やブックマークなどお願いいたします。
とても励みになります!




