あたしはヒロイン(※ヒロイン視点)
突然だけど、あたしには前世の記憶がある。
あたしはアイシア・ヒロフィーヌ。男爵家の生まれよ。
そしてあたしは、生まれた時から前世の記憶があった。
そう、『アイシア』と赤子のあたしを覗き込んだ母と父に呼ばれた時に、ここはあのゲームの中の舞台だと知ったの。
しかもアイシア・ヒロフィーヌはヒロインのデフォルト名!こんな偶然ってある?とあたしは幼子ながら満面の笑みを浮かべた。
前世のあたしは病弱で入院ばかりしていた。
だからこそこの体が嬉しい。
どれだけ動いても喉の奥が焼ける様な痛みと咳がない、脈拍が乱れることもない。風邪も滅多に引かない。
ずっと欲しかった体。
ああ!ここがあたしにとっての楽園なんだわ!
あたしはこの世界に生まれ変わる為に、前世で苦労をしなければいけなかった。きっと徳を積まければいけなかったのね。でもそんなことどうでもいい。
あたしはようやく、あたしが輝ける場所に来れた!だってあたしヒロインなんだもの!
あたしがこの世界の主役なのよ!
ヒロインになったならまずはどうする?
あのゲーム通りに学園に行けるようになるまで待つ?
ううん、そんなの嫌。早く学園に行けるように行動に移さなくちゃ!
あたしの目的はただ一つ。
この世界の王子様と結婚すること!
他の攻略対象も魅力的だけれど、折角ならあたしが一番輝ける場所で暮らし、一生を終えたい。
それを確実に叶えられるのは王妃になること以外無いわ!
…なんて、言ったところで誰も信じてはくれないだろうから、あたしはこの事を誰にも言わなかった。
ああでも暇潰しの話題に、あたしが小さい頃からお世話をしてくれているメイドにだけは、一度話した事がある。
幾つの頃だったかなんて忘れちゃったけどね。
「…それは大変な思いをされましたね。だからお嬢様は聡明なのですね」
あら、と驚いた表情を見せるも、彼女はすぐいつもの笑顔に戻ったから、きっと半信半疑なのね。
当たり前だけれど。これで信じてもらえるような甘い世の中じゃないのよ。
だってあたしは設定通り男爵令嬢、相手は王様になる人。世迷い言だなんて言われるのがオチだわ。
聡明…ではないと思う。確かにこの世界の事は何度もプレイしているから、勉強はそれほど苦ではない。何度も選択肢で見ていたから、それくらい覚えてる。
しかも学園に通うまでは家庭教師付き。それって結局、入院してる時とあまり変わらないじゃない。だから一刻も早く学園に行かなくちゃって焦っちゃう。
それ以上に、今のあたしは物凄く充実している。
しかも、しかも死ぬ間際までプレイする程好きだったゲームの中に転生出来ちゃうなんて!
夢にまで見たお嬢様生活。令嬢生活は規則でガチガチだったから、お母様とお父様に隠れて外に出ては、芝生の上を走ったり、寝転んだり木に登ってみたり、なんでも出来たわ!
学園に入る為の入試対策だってバッチリよ。
全てはあの学園に入学する為。
私の…運命の人に出会う為。
ああ、早く逢いたいわ。
「待っててね、ケイトさま。あたしがあの悪女から助けてあげますからね」
貴方にあんな女似合わないわ。あたしみたいに輝いている女でいなくちゃ。
太陽みたいに輝く金色に恋焦がれたあたしは、彼の顔を思い浮かべながら今日も一日、健やかに過ごし眠りについた。