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学園生活と婚約者との逢瀬、そして

はっきり言おう。

私はもう、リリィ無しでは居られない体になってしまった。


……一線を超えたわけではないからそこは安心してほしい!


心情的に、だ。


彼女の居ない一年は本当につまらない日々だった。王太子補正かなんか知らないけれど、勉強にもついていけているし、武闘関係も特に難なくこなせている。

だからこそ、つまらない。

勿論、リリィの居ない一年の間に友人と呼べる人も出来た。王族だからと言って優遇はされない。但し王族は必ず生徒会に入らなければいけない決まりがあったりする。でも最初から全て任される訳もなく、なんならちゃんと雑用から始まった。そこで知り合った面々は、間違いなく、ゲームの攻略対象達であったけれど…。


学園に来て一年。リリィが学園に入学した時はそれはもう嬉しくて仕方なかった。離れ離れだった愛しい人にやっと会えたのだから!

そう簡単に会える訳ではないけれど、同じ学園内…近くに居るというだけで干からびていた心が潤いを増していく。



「…あ、ケイト様!」


学園の庭園奥にひっそりとある東屋。そこで待ち合わせをしようと言ったのは、彼女の入学式が終わり、茶会や諸々の行事が落ち着き、数ヶ月が経った頃になってしまった。本当はもっと早くに会いたかったのに。


「待たせた?ごめんね。生徒会の仕事を終わらせてから来てしまったから…」

「ふふ、全然。ケイト様を待っている間も、やっと貴方に会えるんだって嬉しくて堪らなかったんですから。待つ時間も含めて」


うん、今日も私の嫁が可愛い。どこでそんな笑顔覚えてきたのかと問いたくなる程だ。

一年と数ヶ月会ってないだけで、随分大人びたなと見つめてしまう。話に拠れば、王太子妃教育も頑張ってくれているらしい。


「王太子妃教育…大変でしょう?…無理してない?」

「ぁ…、大丈夫です!確かにずっとお勉強とダンスも厳しいですが、貴方の妃になれるのだと思うと、頑張れるのです。それに…」

「……あ!」


彼女の指に着けられていた指輪は、幼いながらも花の精に力を貸して貰いながら作った物だった。大分前の物なのに、全く劣化していない。


「もしかして、これも花の精が…?」

「はい。手伝ってもらいました!あとはわたくしの維持魔法で整えてあります。…あ、装飾品とか、あまり見られてはいけないので、二人だけの秘密ですよ?」


リリィの、悪戯をした子供の様な笑顔に心臓が跳ね上がった。

ゲームではクールで表情の変化も乏しかった彼女を変えたのは私なんだ。そう思うと胸の高鳴りが更に増して苦しいくらいだ。しかもその指輪を身に付けていると、どんなに辛くても乗り越えられるのだと言われてしまえば…もう、うん、落ちた。

とっくにだけど。


この日から人の訪れる事の少ないこの東屋は、私達の逢瀬の場所となっていった。

リリィとは婚約者とはいえ、クラスも学年も違う私達は交流する接点がない。あるとすれば学食だが…、そこに二人で居ようものなら、王太子とその婚約者というだけで注目の的となり食事どころではなくなる。


それに私に学食は無用だった。

何故かって?それは、ほぼ毎日リリィがお弁当を持ってきてくれるからなんだよ!これがまた美味しくて堪らない。彼女だって寮生活な筈なのに、いつ作ってるのかはちょっと謎だけど。


…でも少し複雑。リリィはこんなにも尽くしてくれるのに、私は彼女に何も返せていない。かと言って贈り物をするのも違うしな、と悩んでいると。


「わたくしはケイト様とご一緒出来る事が、一番のご褒美です」


だって!聞きましたか!?ああ今の表情撮っておきたかった…。こういう時だけ前世に戻りたくなる。スクショしまくっている自分が容易に想像出来てしまう。何故ゲーム会社は悪役令嬢ルートを作ってくれなかったのか!

なんて、考えても仕方ない事だけれど、私は王太子に転生出来て良かったと、今なら言える。幼い頃のリリィが見れたし、…ヒロインと結ばれて、リリィとは友情ルートとかは嫌だった。


いつの間にか欲張りになった私は、友情なんて生易しいものじゃなくて、彼女を手に入れたくて仕方なくなってしまった。いや、もう私の婚約者ではあるけれど、もっと夢中になって欲しいし、独り占めしたい。彼女のクラスの男子に嫉妬してしまいそうです。

いえ、してます。物凄く羨ましいんだもの。


「リリィと…もっと一緒に居たいな」

「……、ええ、わたくしもです。嬉しい…ケイト様にそう言って貰えるなんて」

「…っ」


思わず口をついて出た言葉に、そう言ってふにゃ、と笑うその笑顔はきっと誰も知らないだろう。これは私だけの特権だ。

耳に入ってくる情報によると、彼女は淑女の鑑らしく、女生徒の人気も密かにあると聞いた。ただ完璧すぎる故、近寄り難いとの声もある。難しい話だ。

確かに彼女は公爵令嬢だから、話し掛けるのは容易いものではないだろう。でも彼女はそんな事気にも掛けず、なんなら自分から自分より下級の生徒に声を掛けているらしい。

確かに、学園に入ったら身分は捨てろ、との言葉があるくらいだ。でもケイトもリリィも、ゲームでは身分の格差を重きにおいていた様な…。

貴族のマナーは暗黙のルール。それは平民でも知っている。目上の貴族…、それこそ王族や公爵家の者相手には容易く声も掛けられない。

なのにも関わらず、彼女は自らどこの家柄であろうと声を掛け、困っていれば助け、皆の力となった。お陰で彼女の株は上がる一方だ。

喜ばしい事なんだけれども…なんだか少し寂しい気分にもなる。慕われているという事は私と居る時間がどうしても限られてしまう。それが嫌なのだ。

私は私が思っている以上に独占欲が強い事に気付かされてしまった。




それからまた数ヶ月、また数ヶ月と、生徒会の業務に追われる私。どんな生徒からも誘われてある意味モテ期状態のリリィ。

双方忙しくて、あの東屋で会う機会は減っていった。勿論時間を見付けては、優先的にリリィと逢瀬を交わしているけれど。


新たに新入生が増える入学式も終えた私は、生徒会副会長になった途端仕事がやたら増えた。現生徒会の会長からは、「会長になったらもっと仕事が増えますよ!殿下!」と意気揚々に言われてしまって…立ち直れなくりそう。14歳でやる仕事か、これ…。

不安になるくらいの書類の山を漸く片付けて、もう夕刻だが、少しの時間でもいいから東屋に彼女が居ないか確かめに行こうと思い、いつも通りの道を歩いていると。


「きゃぁっ!」


廊下の曲がり角で、女生徒とぶつかった。咄嗟に転びそうになった女生徒の手を掴み助けるも、その代償として彼女が抱えていた書類達は無惨にも床に散らばる事になってしまった。


「失礼。急いでいたものだから…」

「だ、大丈夫ですよ。ありがとうございます…転ばずに済みました」


急いでリリィの元へと向かわねば。そう思いながらも、自分の不注意で散らかしてしまった事実は変わらない。書類を拾い集めていると、多分彼女のであろう長い髪が、ぱさりと床に落ちてきた。


私は書類を拾う手を止め、顔を上げ女生徒へと視線を移す。




『ケイト、リリーナ嬢を大切にする為には、気を付けておきなさいね』


『ピンクやオレンジの髪の女生徒。貴方と学園で必ず出会うわ。どちらかは貴方のプレイしていたゲームでしか分からないけれども』


『その子は確実に貴方とリリーナ嬢の仲を裂こうとするわよ』




母上、貴方は本当に預言者としての素質があるのかもしれませんよ。



「…?どうかしましたか?」


目の前には、コーラルピンクの髪の、女生徒…もとい、このゲームの本当の主人公。

ヒロインとの出逢いイベントを、迎えてしまいました。

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