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卒業パーティー

「紳士淑女の諸君、改めて卒業おめでとう。この学園で学んだ事を活かしてくれる未来を期待しているよ。今宵のパーティー、存分に楽しんでいってくれたまえ」



父上…もとい、国王陛下から祝いの言葉を賜り終えれば、流れ始めた曲に合わせパートナーとダンスをしたり、食事や交流を楽しんだりと様々だった。


勿論私達もダンスを楽しませてもらった。

ファーストダンスと言っても過言ではなくて少し緊張してしまったけれど、リリィとの仲をこの場にいる全員に見せ付ける事が出来る絶好の機会だ。

この機を逃す訳にはいかないという気持ちと、純粋にリリィと踊れる事が嬉しかった。


「…やっぱり、今日のリリィは誰よりも素敵だね」

「まぁ…、ふふ、ケイト様が気に入ってくださったのなら、それだけで満足ですわ」


ステップを踏みながらの二人の会話は曲に拐われ掻き消えてしまうも、皆の視線が私達の仲睦まじさを雄弁に語る。

でも少しだけ不満な事がある。


「…やっぱりもう少し控えめなドレスの方が良かったかな…?どちらもきっと似合うけど、皆がリリィに見蕩れてるのが気に入らない」


は、と気付いた時にはもう遅かった。

口から本音がダダ漏れだったのだ。

流石に恥ずかしいと思いながらもリリィに視線を移すと、頬を染めるリリィがそこに居た。


リリィの肌が白いせいで、その朱はよく映えていて…見蕩れているのは私の方だったのだ。


「わたくしも、…同じことを考えていましたわ」


そう言ってよりいっそう体を寄せてくるリリィを抱き留め、幸せだという思いに包まれ無意識に笑みを浮かべていた。


一曲が終われば一度ダンスを止める。

名残惜しいが、少しばかりこの手を離さなければいけない。

それを知ってか知らずか、リリィの方から手をするりと抜け出していってしまう。


ずっと二人だけで、踊っていられたらいいのに。


そんな溜息はこつ、と細く細工されたヒールの音を立てて目の前に現れた友人に消されてしまう。


「全く、お二人を見ていると妬けてしまいますよ。殿下、一曲お願い出来ます?」

「ああ、勿論だよ、アンネ」


アンネリーゼ・ロンディ伯爵令嬢。

彼女と最初に話したのは三回生になった頃だっただろうか。


生徒会の仕事が溜まっていた時、ルークがサポートとして彼女を連れてきてくれたのが切っ掛けだった。

頭の回る彼女には何度か助けられ、感謝している。敏腕秘書とでも表そうか。

度々サボるフォードを探し当て、連れてくるのも彼女の役目だった。

それを機に二人は親密な関係になっていったみたいだけどね。


アイシアから流れる噂を鵜呑みにした連中を、一刀両断したのも彼女と言って過言ではない。

ごく稀に、男子生徒に襲われかけた事があったが残念ながらそんな人達はもうこの場に居ない。

普通に考えて、王族にそういう事して良しと思ってるの?

中身が女だと吹聴され、彼はそれを信じただけでその行動に出たというのなら流石に頭が足りてないだろう。

その生徒は廃嫡され、もうどこにいるかもわからないけれど。


そしてその現場でよく私を助け出してくれたのも彼女だ…。

あまりにもチート過ぎて何も言えないが、そんな事もありアンネには頭が上がらない。


「卒業おめでとう、アンネ。許されるならアンネを側近として迎えたかったくらいだよ。」

「ケイト殿下も、ご卒業おめでとうございます。…勿体ないお言葉ですわ。ですが、どこの国を回っても殿下の側近が女性なんて話、聞いた事ありませんよ?」

「それなら私達が第一人者になればいい。前例がないなら作ってしまえばいいんだよ」

「もう…。貴方ってそういう方でしたね。ですが私も商人としての仕事があるので無理です」


こうきっぱりと断ってくれるのも彼女のいいところなんだと思う。

考えてみます、なんて答えではぐらかさず無理だ、なんて王太子殿下である自分に言える女性は彼女くらいだろう。


「…、リリーナ嬢の事、よろしく頼んだよ」

「ええ、勿論。王太子殿下からのご命令ですもの」


そう言って笑った彼女は私から体を離し、早々に声を掛けてきた男性とまた踊り始めた。


実は彼女には、リリィの従者としての仕事もお願いしていた。

勿論彼女自身が商人として経営している店に影響が出ない程度という約束だが。

アンネには頭が上がらないと言う話を零した時、「もっと頭を上げられなくしてあげましょうか?殿下」と言われ、彼女の気迫にひぇ…と間抜けな声を上げてしまった。


アンネもまた、アイシアを警戒してくれている一人だ。

食堂の騒ぎのあったあの日、リリィの護衛は本当に大丈夫なのかと問いかけてきたくらいだ。

アンネ自ら、リリィの従者になれないかと名乗り出たと言ってもいいのではないだろうか。


そして何より、彼女は剣技を得意としている。

商人より騎士団に入った方がいいのでは…?というくらいには強い。本当に。

前に、嘗めて掛かってきたからという理由で騎士組の何人かを相手に無傷で帰ってきた。

勿論相手達は、発見時立ち上がれない程ボロボロだった。残念だったね、喧嘩を売る相手を間違えてしまうなんて。


さて、思い出に耽っている場合ではない。

あの手この手で何としてでも王家と繋がりを持ちたがる者は沢山居る。

既に何人かダンスに誘われているが皆自分が先だと一向に話が進まない状態だ。


そろそろご令嬢達を止めに行こうと足を踏み出した時、突然ゾ、と背筋が凍る感覚に襲われた。




肌がザワつくこの感覚はよく知っている。

いや、覚えざるを得なかった感覚だ。




「御機嫌よう、ケイト殿下」




やっぱり…、聞こえた声はアイシアのものだった。


ゆっくりと声のする方向を振り向けば、一定の距離を保ちつつ完璧なカーテシーをしていたアイシアがそこに居る。

こうして見ると本当にただの令嬢だ。

微笑む姿まで完璧で、今までの振る舞いが嘘のように思える。

それがまた、不気味だった。


「ケイト殿下、ご卒業おめでとうございます」


あの時のヒステリックさはどこへやら。

淑女としての振る舞いを身に付けた彼女は確かに、ゲームで見たヒロインであった。


「…ありがとう。そのドレスとても似合っているよ」

「ありがとうございます。あら…殿下、グラスをお持ちでないのですか?それでしたらどうぞこちらのグラスをお持ちになって?…殿下のご卒業とこれからの国の発展を祝して、乾杯することくらいはお許しいただけますよね?」

「ああ、勿論だ。ありがとう」


彼女からグラスを受け取り、葡萄酒で満たされたそれを彼女の持つグラスとを触れない程度に合わせる。

今年は葡萄が豊作だと誰かが言っていたっけ。

きっと上等な葡萄酒を手に入れてくれたのだろうとグラスに口を付けた瞬間、液体を飲み込む前に私はグラスを口から離した。


「…どうしました殿下?男爵家の用意する葡萄酒では物足りませんでした…?」


「…、アイシア嬢」

「はい、なんですか?」




「この葡萄酒、何を入れたんだい」

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