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君の言葉で世界が変わる

「ケイト様、どういう事ですの…?ケイト様が女性って

…」


聞かれてしまった…。

リリィに、アイシアとの会話を聞かれてしまった。

私が周りを警戒していなかったせいで…。


終わった、何もかも。



『化け物みたいに』


アイシアがあの日放った言葉が、何度も頭の中で響き渡る。


お終いだ…。


私はただ立ち尽くすしか出来なくなっていた。

それをいい事に私に体を寄せていたアイシアがリリィの元へと揺らりと向かう。


「ふふ、バラす手間が省けたわ。そう、ケイト様は、…いえ、ケイト様の中身、精神は女性なのよ。ふふ、…あはははっ!!どう?リリーナ様?同じ女に好意を向けられていたと知った気分は?さぞかし気持ちが悪いでしょうね!だって同じ女からの好意ですもの!友愛ならともかく、恋慕なんて…。でもあたしは違うわ。女だろうが男だろうが、『この国の王太子殿下である、ケイト・エディ・グリーファン』であれば愛せるの!貴方方と違ってね!」


アイシアはそう捲し立てれば、高らかに笑いながら私の元へと向かってくる。

リリィはまだ状況を理解出来てないのか、その瞳を大きく見開かせたまま、私と同じ様に立ち尽くしていた。


ああ…、彼女にだけは、嫌われたくなかったのにな…。

もっと、もっとリリィと一緒に…。



「それの何が問題だと言うのです?」


「…は?」


私より先に声を発したのはアイシアだった。

と言うより、私は声が出せなかったのだ。

多分アイシアも私と同じで、まさかリリィからそんな風に返されるとは思ってもいなかったのだろう。


リリィは歩みを止めたアイシアの横を通り抜け、私の目の前に立った。


この一年で、私は随分と背が伸びたらしい。

リリィを見下ろす体勢になっている事に驚いているのは、現実逃避からなのか、混乱のせいか。

どちらにせよリリィからの次の言葉が怖かった。


「ケイト様、ケイト様は、…わたくしのこと、どう思っているんですか?」

「え…?」


思わず声が漏れた。

勿論、さっきまでの話を聞いていなかった訳では無い。

見つめてくる瞳の強さで気付いた。彼女は…私から直接聞きたかったがっているんだ。私の本心を。


本当に、言ってもいいんだろうか。

アイシアの言う通り、化け物だとリリィから言われたら…。

そんな恐怖が過ぎるけれど、…けれども。


「私、わたしは…」


「リリィの事が、好き…。例えリリィに軽蔑されたとしても、私はリリィの事が好き…!王になった時、リリィ以外、王妃として迎えたくないし、迎えられない…!」


涙で視界がぼやける。ああ、なんて格好悪いんだろう。

それでも、どうしても伝えておきたかった。

例えもう私を呼んでくれなくなって、軽蔑されたとしても…。


「…良かった」

「…え?」

「ケイト様、どうしてもっと早く仰ってくれなかったんです?もっと早く知っていたら、ケイト様を支えてあげられましたのに」


むす、とリリィは片頬を膨らませて、わたくしは拗ねてます!とアピールしてくる。

今彼女はなんと言った…?

軽蔑するどころか、支えたかった…?

驚いてぽけ、と突っ立ったままでいたら、聞いてます?

なんてまだ拗ねた表情のまま顔を覗き込まれてしまい、その可愛さと強かさに、私は泣きながらへら、と笑った。

もっと早くに言ってたら…なんて、考えもしなかった。絶対軽蔑されると思った。

…でも、そんな事杞憂だったんだね。


リリィは私の手を取って繋ぐようにすれば、何年経とうがあの頃から変わらない笑顔を向けられ、私は嬉しくて繋いだ手に力を込めた。


「ち、ちょっと待ちなさいよ!あんたちゃんと分かってんの!見た目は男かもしれないけど、中身は女なんだよ!?女からそういう目で見られて、気持ち悪いと思わないの!?」


つい二人の世界に入ってしまった。

置いてきぼりのアイシアは未だに暴言を吐き続けている。

今までと違い荒い口調で、醜く。

それでも、何度も気持ち悪いと言われてしまえば、本当はリリィが無理しているのではないのかと疑心暗鬼に陥りかけ、少し眩暈がした。

そうしてよろめいた私を、リリィは支えて私と同じようにアイシアの方を向いた。


「貴方の言葉は先程から矛盾だらけですわ。ケイト様を愛せると言ったり、女性であると言うケイト様からの好意は気持ちが悪いと言ったり。わたくしはそんな些細なことに左右されません。…だって、まだ子供だったあの日から、わたくしはずっとケイト様しか見ておりませんもの」


今のリリィは、普段のリリィより勇ましく見えて。

そして彼女の言葉がただ嬉しくて私の涙腺は崩壊してしまったかのように、ボロボロと涙を零した。


「リリィ、リリィごめ…っ、ごめんねリリィ…!」

「…ケイト様、わたくし嬉しかったんです。貴方からちゃんと、好きと言って貰えて…。それだけで十分です、だから泣かないで」


私は私を隠す事なく、繋いだままでは拭えない涙をボロボロと零しながらリリィに何度も謝った。

一年も傍に居られなかった事。

隠していた事。不安にさせた事。

色々な気持ちが涙として溢れてきて、止まるまで時間がかかったけれど、リリィはずっと傍に居てくれた。抱き締めてくれた。

ああ、やっぱり、私はリリィしか好きになれない。そう確信した。


「…、は、馬鹿らしい。ケイトの中身は女だって言い触らしてやるんだから!そしたらあんた達の株もだだ下がりよ!リリーナの悪事だって信じてる奴がいるんだから、二人揃って醜聞塗れになればいいのよ!」


何がおかしいのか、また高らかに笑うアイシアの方が、立派な悪役令嬢っぽさを放っている。

けれど私はもう彼女なんて気に留めない。

泣き止んだ私はまた目元を拭ってアイシアに向き直った。

今度は何も、迷いなんて無く強い視線を彼女に送る。


「勝手にすればいいさ。それに大半の生徒達からは、アイシアは虚言癖と妄言癖だって言われてるらしいからね」


その言葉を聞いて、怒りのせいか顔を赤くしたアイシアは荒々しく東屋から出て行ってしまった。

彼女が立ち去った事で、漸く緊張の糸が解けたのか私は椅子に倒れ込む様に座った。


「…!大丈夫ですか!?ケイト様!」

「あ、ああ…ごめん、大丈夫…。ちょっと腰が抜けちゃった」


はは、と笑う私とは反対に、彼女の表情は曇っている。

その表情にまた考えてしまう。

本当は嫌なんじゃないかな。私が女だなんて…。


「…リリィ、本当にいいの…?」

「?何がです?」

「えっと、私が……女だって言うこと」

「ああ、そのことでしたか。全然、気にしていませんよ?確かに少しは驚きましたが、わたくしがケイト様を好きな気持ちに変わりはありません。当然でしょう?」


何が当然なのか分からなかったけど、嬉しくてニヤけそうになる


頬を必死に堪えた。

でも、お陰で胸のつっかえが取れた様な気がして…本当に安心した。


「あ、でも」

「…?なんだい?」


「わたくしより先に、ケイト様の秘密を知っていたアイシア様はずるいと思います!」



またむす、と唇を尖らせて拗ねるものだから、本当に可愛くて仕方がない。


私はごめんね、と一言呟き、リリィの頬にキスをして抱き締めた。

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