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砂上の古都から東京へ

作者:

 令和と言う年号も耳に馴染むようになった202X年。

 この年の九月、東京は例年に比べてかなり涼しいと言う話であった。

 だが、 瑠夏ルカには正直ピンとこない。大学のキャンパスが東京にありながら、数ヶ月単位で東京に住んでいなかったからだ。何ならつい先日まで日本国内にすらいなかった。

 瑠夏ルカが過ごしていたの都は砂上の都市カイロであった。


「前にフィールドワークで行ったカイロの暑さより不快感が酷い……」


 拒否感を醸し出した表情を浮かべる。


「まぁ向こうでも冷房にあたっていた時間のほうが長かった気がするけれど……」


 空気を和らげる世間話なので、わざとらしいぐらい冗談めかしく言うが二人共クスリとも笑わない……。

 高速道路を快走するワンボックスカー。その後部座席で、先輩と俺をエジプトへ送りつけた教授へ向けて言ったのだ。どちらも俺より年上だ。

 俺の軽口に二人は、愛想笑いと相づちで返した。


「加藤君……君の不満は、十二分に理解した……だが遺跡の発掘で成果を出したそうじゃないか?」


 教授は、心底嬉しそうな声色で成果を尋ねる。

 答えは知っているクセに。


「アメリカのチームもイギリスのチームも出し抜いてやりましたよ……」

「それは凄いね……確か両グループ共に高名な先生がいらっしゃったはずだが一体全体どんなマジックを使ったの?」


 先輩がルームミラー越しにコチラを見ながら訪ねた。


「まぁ本来俺と行くハズだった何処ぞの誰かは、国際フォーラムだがに出るために来ませんでしたけどね……」

「……」

「早く教えてよ!」

「簡単ですよ。初日に、古本屋と図書館と国の資料館で古地図を探して入手しておきました。それを解析しつつ現地住民への聞き取りと今までの発掘データを総合して怪しい所を手当り次第集中的に発掘しました。お陰で、両チームの教授からは、恨まれるし。嫌がらせされるしで散々でしたよ……まるでアメリカ化石戦争のコープとマーシュですよ。まぁそのコープとマーシュのお陰で、エジプト古王国時代より前の遺物が掘り出せましたけど……」


 米英チームにダミーの採掘地点と怪しい地点を織り交ぜてエジプト人を使って横流しし優先度が高い場所から発掘し最後に米英チームの採掘地点を掘る事でより深い場所まで発掘できる為効率が良かった。


「やはり君の発掘に関する鋭い嗅覚とセンスに、駆け引きは、凄まじい……唯一欠点があるとすれば……論文が拙い事ぐらいだ……うちのゼミに来ないか?」

「教授。俺の専攻は、考古学じゃなくて民俗学なのでお断りします……民俗学のハズなのに爺さんが考古学者と言うだけでフィールドワークへ放り出されること3回! もう我慢の限界です! 教授のお願いも今回限りにさせてもらいます!!」


 そう言うと、慌てた様子で教授助手席から身を乗り出し俺の方を掴み。


「民俗学の方は、加藤君! 君全く成果出てないじゃないか!! 考古学の方は1回の未発掘遺跡の発見に2回の歴史的異物の発見と飛ぶ鳥を落とす勢いの世界有数の若手発掘家じゃないか!! 今回の発見だって必ずどちらかは含まれるはずだ!!」

「全て偶然ですよ! それにイマイチとか言うな! 気にしてるんだから余計に、傷つくでしょうが!!」

「偶然なものか! 天命だよ! 天命! 日本考古学会の生きる巨人! 神の御手……ゴッドハンドとまで呼ばれた加藤 慎一しんいち博士その血に流れる才能をドブに捨てるのは勿体ないぞ!!」


 と濁った目になる教授。


 駄目だ。欲望に支配されている。


「そんなぁ〜昔何度かフィールドワークに付いていって鍛えられただけなのに〜〜助けてくださいよ! 先輩ぃ〜」


 先輩に助けを求めるが先輩はニヤニヤとチェシャ猫の様に笑うだけだ。


「あははは、まぁ残念ながらカトー君才能はあるよねぇ〜インディー・ジョー○ズ顔負けの発見してるし……」

「俺は、民俗学者です!!」

「あ、そうだ! 両方なればいいじゃない? それに今回見つけた異物は、民俗学的にも重要な物何でしょ? だったら両方やっちゃえば一挙両得よ? 聴いて掘って調べてぜーんぶ自分でできるのよ?」

「無理ですよ。上皇陛下みたいに天皇と学者の二足の草鞋を履いて両方で成功するなって中々ないですよ」

「そんなことないと思うけどなぁ……私に友達二股して貢がせた金をホストに貢いでる子いるし……」

「そんな友達とは縁を切ってしまえ!」

「あはは、まぁそうよねぇ……異物について聞かせてよ」

「中近東……平たくいえば、現在の中央アジアその昔東方世界オリエントと呼ばれていたあたりでは、蛇は、生と死を司る不死の象徴とされており、その不思議な脱皮という生体から不死の存在と考え恵みを与え時には命を奪う女神達……大地母神と結びつけて考えていました……それに関わる古代の女神像です」

「大地母神と言うとバビロニア神話の女神ティアマトとかエジプト神話のイシスなんかがそうよね?」

「えぇ。初期キリスト教の聖母マリアも地母神の亜種で

初期のマリア修道院は地母神特にイシスを祀っていたモノを改修したものが多かったようで……ブラックマリアとも呼ばれていますね……」


 現在残るヨーロッパのキリスト教会の1/3ほどは、聖母マリア教会とでも言うべき教会で、当時禁忌であった知識の秘奥を伝える場となっている。


「で、その女神像は、どんな姿をしているの?」


「気になりますか?」


 教授には写真を予め女神像の写真を送ってあるので食いつきが悪い。


「それはもちろん」


 スマホに撮ってある写真を見せた。


「なにこれ? ラーミアかラブクラフトかしら?」


 その感想は、ある意味正しいものであった。

 ハニワを思わせるダルマの様なずんぐりむっくりな女性像は胸と臀部が丸く大きい下半身はとぐろを巻いた蛇の様になっており背中と思わしき部分には、鳥か蝙蝠の翼のような紋様が彫り込まれており手には剣のようなオブジェクトを持っている。


「これは、古代では神々の王……主神は、男性的な神ではなく女神だった証拠なのではないか? と考えています剣は王権……武力の象徴ですし……動物の特徴は古代神に多く見られる特徴でもあります……例えば、ギリシャ神話の神王妃ヘラは、雌牛に例えられますし世界中の多くの神話の神々が対応する神獣や果樹を持っています。エジプトの場合は神々が動物の姿を撮っていますがね……早くMRIや放射性炭素年代測定法で時代を割り出したいです」

「いったいどこの女神サマなのかしら?」

「古代の女神ですから神仏習合の様に合体し神話や伝承から消え去った女神なのかもしれません……恐らくはは、現在発見されている中では最も古い原型に近い原初の大地母神……神女王ルートとでも呼びましょうか……」

「神仏習合ね……エジプトの太陽神ラーやテーベの守護神アモンを同一視して同じ神として、習合した姿がアモン・ラー神となるように吸収合併されてしまったという事ね……」

「えぇその通りです。おそらくは、天空神バアルの妻アナトや悪魔の母リリスのような極めて古い神格だと考えられます」

「極めて古いか……」

「そうだ! 加藤君今夜は、ゼミのみんなで君の帰国祝をやるんだ会場は抑えてあるから今ちょうど向かってるところだ……」

「嬉しいのですが、荷物も多いですし。疲れているのですが……」

「風呂は心の洗濯と言う。俺は、酒は、心の水だと思うのだよ」

「はぁ……ロシア人か何かか?」

「まぁいいじゃない……呼ばれるウチが花よ何時もの店予約してるからね」


 そう言って先輩は、アクセルを踏みしめた。

 



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 



 眼前の焼きタレと黄金色のキンキンに冷えたジョッキビールを楽しむ。


「教授? 勿論僕の支払いは、教授持ちですよね?」

「あぁ……勿論だとも……」


 歯切れが悪いが知ったことじゃない……単位とバイト代で釣った罰だ。 


「すいませ~ん。生中とうま塩キャベツとモツ煮込みお願いしますぅ〜」


 しばらく待つと料理が届く。


「いやぁエジプトの飯より美味い!!」

「楽しんでるみたいね……」

「えぇ……向こうで外で飲むなんて危なくてできませんから……」

「まぁそうよねぇ……私もイラン高原へ行ったことがあるけど確かに海外は何処でも危ないからねぇ〜〜」


 なんて言いながら泡盛を一気に、飲んでいる。流石沖縄県民恐るべし。


 このままだとこのウワバミに潰されるので考古学専攻の先輩達に押し付けることにした。「先輩向こうで先輩たちが呼んでましたよ〜」


「あら〜〜そう?」


 などと言って去っていった。嵐のような女性だ。


 向こうは阿鼻叫喚の地獄絵図となる事だろう。

 

 南無残。


 そんなことを思いながら後輩や先輩達と楽しく飲んでいると……。


「あら、人気者じゃない? ルカ」


 俺は、突然の訪問者に驚いてた。この女セレーナ・アルジェントと関わるとロクな目に合わないからだ。


「離れてくれ セレーナ君と関わってロクな目にあった試しがない! 今はそんな余力はないので即刻。俺から離れてくれ」

「あら、釣れないことを言うのね……セレーナななんて他人行儀な言い方はしないでって。何度も行っているでしょう? セリー、セラ、セナどれでも好きに呼んで頂戴」


 流石イタリア人人の話を聞かない。


「それと今回はどんな聖遺物をかっぱらってきたの?」

「聖遺物って大袈裟だな……エジプト古王国時代以前の大地母神の神像だよ……」

「あら。それは随分と大立ち回りをしたんじゃないかしら?」

「そんな事はないさ……魔女とあだ名される君と違ってね。」

「そう言えば、君と初めて会ったのも発掘調査だったね?」

「えぇ。そうね忌々しい事に私達が2ヶ月かけて調査したのに貴方は、一週間で異物を掘り当てた……」


 「まぁそう大したことじゃないよ……うちのチームのメンバー数人が、原因不明の熱を出したときは焦ったけどね。あはははは」


 「本当に大変だったんだから……あー思い出したら腹が立ってきたいいからルカ飲みなさい今日は帰れないと思いなさいこのセレーナ・アルジェントがお酌してあげるのだから光栄に思いなさいな。定員さん赤ワインで口当たりの良いものを瓶で下さる?」



 ……… 


 ……


 …



 「ホントに当日帰れなかったじゃないか……」

 路地裏でキャリーケースにもたれかかりガラガラと音を立て学生寮とあだ名されるアパートへ向かう。

 帰国したのが夕方8時飲み会が終わったのが朝の3時6時間以上も酒を浴びるように飲んでいたため千鳥足だし思考もまとまらない。

 考古学部の友人の白井とセレーナに、いい気分にさせられ飲まされまくったせいだ。

 「カトー酒切れてるぞ? 今日の主役はお前だ」などと言って酒を浴びるように飲ませやがって因みにカトーとは、彼の先行の古代ローマの政治家の大カトーから発音似てるねとつけられたあだ名だノリノリで広めたのはセレーナだが。


 フラフラとした足取りで一弾一弾金属製の足音が響く階段を踏みしめ2階の自室へと向かった。

 鍵を占めると、玄関へ倒れるように横になりそのまま眠りに落ちてしまう。


 こんな日も悪くない……冷たい床も心地良いし……。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 短編ながら様々な知識や背景がうかがえる素敵な作品でした。登場人物の掛け合いが軽妙で、雰囲気がよく伝わってきました。 [一言] 考古学に興味がわきました。笑 面白かったです!
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