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二人のアイドル  作者: ユージオ14
第2話 平凡な高校生の一日
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「お願いね」


「う、うん。頑張ってみるけど……」


 伏し目がちに言う青葉さんに申し訳なさを感じながらも、改善案も見つからない現状ではお願いするほかなかった。とぼとぼと歩いていく後ろ姿を見送り、私は青葉さんの家に戻る。

 これから私は、小石青葉として学校に行かなければならない。先ほど、青葉さんについてのある程度の基礎情報は教えてもらったが、周りに不審がられないよう細心の注意をはらう必要がある。

 机の上に置いてあったバッグの中身を確認する。今日の授業に使う教材は入っている。ハンガーにかかっている制服を手に取り、手早く着替える。白のセーターに水色のスカーフ、胸元には里塚(さとづか)高校の里の字の交渉が飾られている。普段と違う場所で普段と違う制服に着替えている自分に、さほど違和感がないことを不思議に思いながらも、着替えを終わると下に降りて台所に置かれているお弁当の入った袋を手に取り、青葉さんの父と母に「行ってきます」と言って玄関を開ける。

 外に出て、太陽の眩しさに目を細める。マスクもグラサンもせずに外に出るのは、とても久々だ。学校へ向かう道中、たくさんの人とすれ違ったが誰もこちらを見ない。見ないでくれる。


「ふふっ」


 自然と笑みが零れてしまった自分に驚いて、また私は笑った。



 学校に着いて、青葉さんのクラスに向かう。ここに来るまでは、迷ってしまわないか不安だったが、身体が覚えてくれているようで、勝手に目的地まで歩みを進めてくれた。

 自席に座り一息つく。この場所も、周りの人も、全てが初めてのはずだが、不思議と嫌な気持ちはなかった。


「おはよう!今日ウエスタンで理佐ちゃん出るよね」


 私の左横、窓際の壁にもたれかかるようにして、一人の女性が私に話しかける。この人は、私も知っている。確か、有紀(ゆき)さんだ。アオハルのライブや私の握手会にも来てくれているので覚えている。


「そうだね」


 青葉さんと有紀さん間のテンション感がわからないので、極力短く返事する。しかし、有紀さんは首をひねって私をじろじろと見る。何か変だっただろうか。


「青葉、今日調子悪い?いつもは、理佐ちゃんのことになったらうるさいぐらいなのに」


 どうやら私は対応を間違っていたらしい。

 不審がる有紀さんに、弁解の言葉を入れたいところだが、どう喋るのが適切なのかわからない。必死に頭を回転させていると、自然と口が開く。


「朝だから抑えているだけだよ。もちろん録画しているし、何だったら金曜のSステも録画しているよ!」


 私の言葉に、有紀は「おっ、さすがだねえ」と頷いた。

 青葉さんの中に入っているのは私だが、時には私の意志とは別に青葉さんの記憶が身体や口を動かしてくれる。もしかしたら、私の方も同じなのかもしれない。だとしたら、安心だ。今日は、生放送やドラマの読み合わせと重たい仕事が多いので、内心心配だったが私の今まで積み重ねたものが助けてくれるはずだ。

 その後、いくつかの授業を受けて休み時間には有紀さんを含むクラスの友達と雑談をして時間を過ごした。私の知らない人ばかりだったが、青葉さんの記憶が覚えていたので楽しくおしゃべりをすることが出来た。


 体育の時間。男子はサッカー、女子はバレーということで、六対六で試合を行った。相手のアタックが飛んでくる。胸元に来た球をレシーブするため一歩下がりアンダーで返したい。しかし、私が思った通り身体は動いてくれず二の腕に球は当たった後、地面に落ちた。私はそのまま尻餅をつく。


「大丈夫?ドンマイ!」


 チームメイトから励ましの声が聞こえてくる。

 そこで、気付く。この身体は青葉さんの身体だ。私が自身の身体にいる時とは、勝手が違って当たり前。しかし、それが皆の足を引っ張って良い理由にはならない。

 私は起き上がると、細かくステップを踏み手足を動かす。私と青葉さんの間にあるギャップを埋めるためだ。きっと、青葉さんは運動が苦手なのだろう。私も同じだからわかる。だが運動が苦手なら苦手で、やりようはある。運動神経の低さは読みでカバー出来る。

 ……うん、慣れてきた。ドンと来いという思いで、相手のサーブを待つ。相手のサーブは私の方へ飛んでくる。このままでは前方に落ちてしまう。一歩、二歩と足を進めて頭から滑り込み床と球の間に手を入れる。

 ポーンと球は上空に飛ぶ。チームメイトがトスをしてアタックを行う。それがゆっくりと相手のコートに落ちる。


「すごいよ、青葉!急にどうした!?」


 チームメイトが私の元に寄ってくる。皆驚いた顔をしている。私は困ったように笑って、皆とハイタッチをした。

 同年代で楽しく身体を動かしたのは、何か月ぶりだろう。アオハルに入ってからは一度もないな、などと考えながらも私の口角は自然に上がっていた。

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