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二人のアイドル  作者: ユージオ14
第1話 トップアイドルの一日
7/29

6

 皆が寝静まる時間、暗く静かな場所でポツンと置かれた街灯の下、色が剥げて元の色がわからなくなったベンチに、世界で一番見慣れた人物が座っていた。私の名前を呼ぶのは何だか気恥ずかしく、無言で近づいていく。お疲れ様、と私に気付いた理佐ちゃんは声をかけてきた。

 まず最初に、今日一日の出来事を理佐ちゃんに伝える。理佐ちゃんが戻った時に、何か手違いがあったら困るから。私が一通り話し終えると、今度は理佐ちゃんが私の一日の出来事を話してくれた。話しぶりから察するに、楽しく過ごせていたようで安心した。


「これから、どうしよっか」


 私は早速本題に入った。今日はあまりに時間がなく、応急策としてそのままそれぞれの生活を行った。

 だが、ずっとこのままというわけにもいかない。いつかはボロが出るし、これからどうなるかもわからない。何かしらの対策を考える必要がある。

 しかし、私の思いとは裏腹に理佐ちゃんは軽い口調で言う。


「どうすればいいかもわからないし、とりあえずはこのままで生活してみよう」


 えっ、と思わず声が漏れ出た。


「……いいの?」


 理佐ちゃんは、私の大好きな人だし、私の身体も「どうぞ使ってください!」というところだけど、理佐ちゃんからしたら一ファンの人に自身の身体を使われるというのは、あまり良い心地がしないのではないだろうか。更に言えば、アオハルの理佐という存在は日本の大多数が知っている存在となっている。ちょっとした不適切な発言も、私の身体なら精々先生に叱られるぐらいだが、理佐ちゃんの場合はニュースで紹介されてしまう。

 今日だってマナミンに気付かれそうになっていた。私には、アオハルの理佐という存在は荷が重い気がするのだけど……。


「青葉さんは、早く戻りたいよね。ごめんね」


 私を気遣う理佐ちゃん。優しい言葉だが、それ以上に"青葉さんは"という言葉が気にかかった。

 だが実際、元に戻る方法は見当もつかない。しばらくはこのままでいざるを得ない。

 理佐ちゃんから明日のスケジュールの確認を行い、私たちはそれぞれの家に戻った。


「ここ……だよね」


 歩いて数分、理佐ちゃんが住んでいるマンションに着く。玄関でカードキーを差して中に入る。エレベーターで五階まで上がり、別の鍵でドアノブに差し込む。ガチャッ、という音と共にドアが開いた。

 中は、とても綺麗に整頓されていた。というよりも、物がほとんどなかった。居間には、青の絨毯の上に白いテーブルがあり、隅には程よい大きさのテレビが置かれているのみとなっている。部屋は二つあり、一室は寝室として使われていて、もう一室には勉強机や洗濯されたであろう服が干されていた。

 何と言うか、あまり生活感がない。多忙のため、家にいる時間が少ないからなのだろうか。冷蔵庫を開けてみると、豆腐にもずく、サラダチキンと調理の必要がなくヘルシーなものが少し入っているだけで、空白の空間が目立った。

 唯一、目を引いたのが、ベッドの横に掛けられていたシャツだ。胸元に大きく、サインが書かれている。英語でかつサイン特有の崩れた書き方なので、合っているかは不確かだけど、"おおぬままい"と書かれているように見える。名前から、パッと顔をイメージすることは出来なかった。

 アイドルが住んでいる場所だから、豪華な家具がいっぱいあって広い家に住んでいるのかと思っていたけど、思いのほか質素でびっくりした。ただ、防犯に関しては、しっかりしていそうなマンションだったので安心した。

 シャワーを浴び、歯を磨き、時間も遅いので、眠りに就こうかと思いベッドに入る。しかし、中々眠ることが出来ない。身体がムズムズして起き上がる。身体が自然と勉強机のある部屋に動いていく。机の上には無数のノートが置かれていた。てきとうに一冊を手に取る。"七月二十日 握手会 名古屋"と書かれたノートにはびっちりとその日の出来事、反省点などが書かれていた。その日に握手に来た人についても書かれている。○○さん、ニット帽にリュック、あごの髭が特徴的。自分と同い年の息子がいる。五月のライブに来てくれていた。など、事細かに記載されている。机の隣にある本棚にはノートがびっしりと入っている。

 アオハルがアイドルとしてデビューして、まだ一年半程度。その時間でこれだけのノートが消費されるのか……。驚くと同時に、この身体がここに来た意味がわかった。別のノートを手に取る。"八月パート二"と書かれたノートには毎日の出来事が、先ほどのノートと同じように記されている。

 つまり、今日の出来事をノートに書き忘れないでいるように、ということなのだろう。こういった努力が、理佐ちゃんが愛される理由の一つなのかもしれない。

 身体は最高に疲れていたが、理佐ちゃんのためにと思うと、不思議と悪くない気分だった。

 結局、眠りに就いた時には深夜二時を回っていた。

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