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29 魔女

要望に答えるべく出来るだけ早く双狼の話を書くため少し長くなりました。


とりあえず次の話を後で上げるので、その後に番外編みたいな感じで出します。


( ˘꒳˘)


エレノアさんに連れてこられたのは始まりの街ファーストの北口からミカヅキ平原に出るとすぐ見える北部の岩場だった。


『ロッソ岩場』という地名らしい。


ゴツゴツした岩があらゆる所に散らばっており、岩場の東端にそびえる巨大な岩山からは絶えなく小岩が転がり落ちてくる。


地形もでこぼこと凹凸を描いており、とても歩きにくそうな場所だ。


「エレノアさん?この先にエリアボス?なるものがいるのですか?」


「うん……この先の『ジメット湿原』に続く道にいる」


ジメット湿原……すごく湿気の多そうな場所だ。

名前を聞くだけでうんざりする。


ちょっと嫌になった私は抱えているラビをもふもふする。


「きゅっ!」


ラビは嬉しそうに声を上げる。


「……ずっと持ってるけど、重くない?」


「女の子に重いというのは禁句ですよ!!」


「キュキュッ!!」


「……女の子なんだ」


そう、ラビは女の子だった!!


……それは置いといて。


「ん……敵きたよ」


「らじゃー!!とりあえずもふもふかどう……か……?」


早速もふろうとヒナが突撃の準備をする、も。


どしん!どしん!!


と、眼前を歩くのは。


『ギゴグギガガガガガガガ……ガギッ』


もふもふとは程遠い……ゴツゴツしたゴーレムであった。


「きゃぁぁぁぁぁもふもふじゃなぁぁぁぁぁい!!」


叫ぶヒナ。

ヒナに突っ込んでくるゴーレム。

叫びながらゴーレムが振りかざす巨腕を回避する。


「エーレーノーアーさぁぁぁぁん!!もふもふじゃなぁぁぁぁぁい!!」


「そりゃぁ……こんな所にもふもふなんていると思う?」


辺り一面がゴツゴツとした、殺風景な岩場。

もふもふ要素皆無である。


「……とりあえず片付けようか、『爆裂魔法 バーニング』!!」


エレノアがそう口にすると、手に持っていた杖から赤い文字が描かれた魔法陣が出現した。


「……あれ?……なんかこれ、私ピンチ?」


何やらヤバい雰囲気を醸し出すエレノアのスキルに、ヒナの本能が危険を察知する!!


「『星纏』!!……にっ、逃げろぉぉぉー!!」


手に入れたばかりのスキルをまたしても戦闘に使わず、逃げるために使い。


そして次の瞬間。


ゴーレムのいた場所、つまりヒナの元々いた場所が。


ゴーレム諸共、木っ端微塵となった。


「ェエェエッ、エレノアさん!?何したんですか!?」


ゴーレムが消失したことについて、自分も危なかったということを忘れエレノアさんに問いつめる。


「スキルだよ……私の。『爆裂魔法』っていうスキルの1つ」


エレノアの職業『魔女』だけが使うことの出来る、強力なスキル。


名前からして危険そうなスキルだ。

その威力は先のゴーレムが身をもって証明してくれた。


「……じゃ、先行こっか、そろそろ着くから……」


「へ、へい……」


つい口調が下っ端っぽくなってしまうヒナなのであった。


・ーーーーー・


「ついた……ほら、あそこに見えるでしょ?」


「え、あの水色のうねうねしたやつ……?」


エレノアについて行った先にいたのは、透き通った水色の球体だった。

表面からは細く長い触手が生え揃っており。


生理的に受け付けられないような醜悪な見た目をしていた。


……透明で綺麗な色をしているのに周りの触手が台無しにしている。


「あれはグラトニースライム……なんでも食べちゃう食いしん坊」


グラトニースライムというあの気持ちの悪い物体がどうやらエリアボスらしい。

ぷるんっ、ぷるんっ、と、地面を揺らして自らも跳ねて揺らしながら辺り一面を闊歩するその姿は、とても気持ち悪かった。


遠目で見ると愛らしいと思うのだが、あれは愛らしさの範疇を超えている。

その巨大な体躯の中に存在するは様々な動物や魔物の死骸。

消化が中途半端に長く続いているせいか、その中に囚われていた魔物動物達は皆、表面が溶けて少し見せられない状態になっている。


それを……ヒナが見てしまった。


「ヒナ……?どうした……って……」


「よくもぉ……よくも、あの子たちを食べてくれたなぁ?」


エレノアがヒナの様子をちらりと横目で見ると。


鬼のような形相でグラトニースライムを、親の仇と言わんばかりの顔で見つめる。


ヒナがいた。


「ころすころすころすころすころすころすころすころすころすころす」


「おっ、落ち着いて……ヒナ……「これが落ち着いていられるかッ!!」……ごめんなさい」


説得を諦めたエレノア。

動物や魔物のこととなるとヒナはおかしくなる。

最初あった時とは全然印象が変わってしまい、少しガッカリするエレノアであった。


「奴は生かしておけんッ!!……『星纏』!!」


ようやく本来の使い方が出来た星纏。

太陽の化身のような体毛を身にまとい、野生の狩人と言われる狼を連想させるような耳としっぽを生やして。


グラトニースライムに向かって突撃した。


「……ヒナ!グラトニースライムには物理攻撃が効かないんだけど……!!」


エレノアの忠告を無視してグラトニースライムに一直線。


『グラボッボボボァァァァァァ!!』


薄気味悪い雄叫びを上げて、全身の触手がヒナに向かって襲いかかる。

触手の威力はこの岩場の岩が簡単に崩れてしまうほど高い。

1度でも当たったのならヒナは終わりだろう。


……しかし、当たらない……いや、当たっているが意味をなさない。


ヒナに向かってくる触手は全てヒナによって破壊されていた。


「……!?なんで物理が効いてるの!?」


ヒナは自らの手に生えた魔狼の爪で触手を屠っている。

それは物理攻撃であるのだが、何故か触手……大元のグラトニースライムにもダメージが入っているようだ。


「なにが……っ!?まさか……」


エレノアがヒナをよく注意して見てみると。

ヒナの爪……いや、手が微かに金色に光っているのが見えた。


それは『陽光の魔狼』と同じ色であった。


「そういうことか……『星纏』はただ身体能力の向上や変身効果だけでなく、元々陽光の魔狼自身が持っていたスキルなども使うことができるようになるのか……!!」


そう、ヒナは星纏によって現在纏っている陽光の魔狼のスキルである『陽爪』を使って今まで攻撃していたのだ。

陽光は魔法使いなどのスキルと同じで、MPを消費して使うスキルである。

そしてその威力は物理攻撃力を示すATKによって左右される……訳ではなく。


使用者のMP総量によって威力が変わる。

因みにそれはエレノアが使っていた爆裂魔法も同じである。


一見物理攻撃に見えるこの陽爪攻撃も、近距離攻撃スキルでありながら魔力由来の攻撃であるのでグラトニースライムにダメージを与えることが出来る。


触手攻撃を掻い潜ることなく、正面から破壊して突き進んだ先に待っている巨大なグラトニースライム。


ついにその巨体を捉え、ヒナが爪を振るう!!


……が。


「……ッ!?ダメージは入っているけど……まだ火力が足りない!!」


そう、ヒナの火力はグラトニースライムを倒すには1歩足りなかった。


しかし確実にダメージは入っている。

もう一度、と、再度突撃をしようとすると。


『ググラグラッボボオオォオォォォ!!!!!!』


怒りを露わにするかのように叫んだ。


そしてヒナに向かって先程と同じ……いや。

先程の倍以上の物量の触手が向かってきた。


そしてその触手には食らったであろう、動物や魔物達の骨が先端に取り付けられており、攻撃したらしたで恐らくヒナにもダメージが入るだろう。


破壊するにはグラトニースライムの触手と強度が違うので厳しかった。


今度は回避に徹するヒナ。


「ッ!!……痛っ」


少し腕に掠った。

右から、左から。

そして上から下から、と際限なく繰り返される触手の攻撃。


「……ッ!?……後ろが……」


回避を続けて後退していくと、後ろには岩山が。

ついに追い詰められてしまったヒナ。


ヒナにグラトニースライムが迫る。


そしてそろそろヒナのスタミナも限界に近い。


そろそろヤバい……と思ったその時。


「……ヒナ、1人で突っ走るのは危険だ……私もいること、忘れないで?」


と、突然エレノアがヒナの目の前に転移してきた。


「……はっ!!え、エレノアさん!?」


正気に戻ったヒナ。


「ヒナ、仲間はちゃんと頼らなきゃ……だめだよ?」


そうエレノアが言うと、杖を前にかざす。

そして次の瞬間。


杖を地面に突き刺した。


「『魔道の頂 氷山創造』」


魔道の頂に達した者が使うことの許された……本来なら使うことの出来ない『魔法』。


とてつもない衝撃と音が鳴り響いた後、目を開けると。


目の前には岩場に似合わない、岩山をも超える巨大さを誇る。


氷山が。


グラトニースライムを葬り去っていた。


「……これが私の派生職業……」


「『魔女』の力」


と、ヒナの方を振り向き、キメ顔でそう言った。


が。


「エレノアさん……風でスカートめくれてるよ?」


「えっ……」


ぱんつを丸出しにしてキメ顔を披露するその姿は。


何とも言えなかった。




おぱんつ?


縞ぱんです。水色と白色の。


( ˘꒳˘)

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