『興亡の天秤錘』(=トリスロ・ボロス・ショージョン)
『興亡の天秤錘』(=トリスロ・ボロス・ショージョン)
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・・・ヴィッチェオ共和国・・・改訂中
クレヨン半島とオスカン半島に挟まれたドーリエ海の最北湾内に存在する国家である。北部都市国家群の一部ではあるものの、南洋だけでなく鈍海にさえも絶大な影響力と覇を持ち合わせている。
元は大移動時に難民がカン族から逃れるべく作り上げた、干潟の要塞都市が前身だ。時代ごとに様々な勢力の元に下るが、常に自治権を確保することに全力を尽くす姿勢を貫いてきた。
交易商人が権力を握る国家であり、オスカン半島西部海岸やその他の主要な交易ポイントに入殖・基地化し、ヌムとの交易の窓口として栄えている。主力は勿論のこと海運・交易ではあるが、国内産業の育成にも最近は乗り出している。諸国からもそのブランドは、一定の地位を認められている。
国内を統治する貴族の殆どの先祖が商人であり、元首を頂点に敷いた元老院の寡頭政治性を貫いている。議会の多数決で国政が決まるが、合理的な運営が為されているのでそれほど失政はない。非常時の際には「10人委員会」に決定権が委託される。
国是には「神は居れども、まず我々は共和国人なのだ」が定められている。言葉通りに大陸で完全に政治から宗教の分離が成功している家の1つである。これは、時代毎にあらゆる覇権勢力の元を渡り歩いた歴史から、特定の奉ずるべき神と出会わなかった影響が大きい。共和国を訪れた人々は、国内の雑多な現在では禁教・邪教・禍教の認識である信仰の建築物等に驚くという。
陸軍国家ではないが、海上戦や拠点防衛、制圧を主にする屈強な海兵と長年のノウハウの元で培われた海軍が今日までの共和国を支えている。都市国家群の有力なライヴァル(海洋都市)との抗争を諌めるのにも貢献している。当然情報を非常に重要視しており情報収集分野では大陸随一を誇る。そのため、統一連盟の情報省エリート達の重要な赴任先として認識されている。
国民は皆強い愛国心を持っていて、国家に対して誇りを持っている。共和国が長年、民に対して責任を持った統治と政治を行なった結果であった。
宗教については寛容だが、国家に害をもたらすものへは徹底的に処断する。同時に異種族や異民族への差別や偏見に対して全く動じない。ただし、必要に応じては民族、種族、特定宗教の特区を認めている。
嘗ての南洋のライヴァルであったジェスコ市国の現在の変わり様から時代の流れをひしひしと感じているが、簡単には領域型国家へと主導権は渡さないようだ。
アレシア王国とは南洋政策の一致から同王国のクレヨン半島南部攻略戦で協力したが、重要交易拠点の確保のために利用した側面が強く、漁夫の利を得るのに成功した。しかし同時に、ジェスコ市国への重要な盾であり矛になり得る存在なので、決して軽視はしていない。
海運国であるので、何よりもシーレーンの確保に拘り南海の補給整備拠点となる重要地点確保・維持は基本政策の一環であって、領土拡大の野心を持つことは許されないという苦い実情がそこにはある。しかし共和国はつい100年前にドーリエ海に面するボルル王国を自国領に組み込んでいる。
ボルルの地は8割以上が山地に閉ざされた僻地に等しい。しかし住民は古代帝国の《道》の忠実な後見人であり、街道の整備を怠らず、余所者を歓迎するだけの度量を秘めていた。そのため、大移動の影響を緩やかに受け止めながら、長きの安定を維持出来たのである。
国土の平地や麓には農業共同体が点在し、山地を放牧集団が渡り歩き、海岸線沿いにはドーリエ海周辺の民族の入殖地が元になった港町が並んでいる。信仰は、山地独特の土着宗教が多勢を占めて入るが、北部は聖槍教の影響を強く受け、沿岸部や南部は古代の多神教の面影が残っている。
ボルルには長年王が出現せず、それ故に歴代の強国が勝手に領有を宣言してきた。僻地であるためどの国も港以外に魅力を感じなかったが、ボルル人にとってはどうでもよかった。やがてクレヨン半島の海洋都市国家が進出すると、大口の取引先や海賊行のライヴァルとして付き合いが続いた。特に地理的にも近く、油断ならないジェスコの一匹狼とは違う安定した基盤を持つ共和国とは信頼関係を育んでいた。
共和国にとっても、自らのシーレーン維持に欠かせない中継港の設置に協力してくれただけでなく、ジェスコ船を積極的に狙い撃ちしてくれたり、対共和国連合に本土まで押し込まれた時にもヴィウールのドーリエ海入殖地への侵攻の際にも迷わず義勇兵として駆けつけてくれたボルルとは切っても切り離せない関係であった。
というのも、共和国が“南海大戦”後から激化したヌム系の海賊による沿岸部(当時の南洋に面する土地は軒並み)一帯へ頻繁に行われた凄まじい襲撃を国益を守る為とはいえ自国民の犠牲を払ってまで押し留めてくれた行為にボルルの民が恩義を感じたからだ。だが、大国化を画策するオスカンの騒乱とも無縁とはいかなかった。
オスカンの内陸で成り上がるには鉱床を抑える必要がある。ボルルの山地には小規模ながらも希少資源の供給が見込める土壌が幾つもあった。当時新興であったエルドシア君主国も例に漏れず、ボルルの山地の確保に舵を切った。ボルルが本格的に経験する侵略であり、その混乱に乗じた周辺国の国土切り取りが行われ、初めて他国への強い危機感を持った。
取り敢えず周りに合わせて王となる存在を担いだはいいが、各集団の首長達の投票制によるもので、まだまだ権威には程遠かった。それに、国を作った事がないボルル人は何をすればいいのかさっぱり分からない。最終的に共和国による行政指導と資本投下を受けることで、ボルル王国は誕生したのだった。共和国としても、民族共同体の勃興により政情が流動的なオスカンに緩衝地としての足掛かりを築いておくことは理にかなっていた。
しかし今までボルルのことはボルル人が決めていた。公然とその場へヴィッチェオ人が入り込んできたのだ。ボルル人の間に共和国に対する反抗心が急速に芽生えることは必然だった。こうした感情は時に暴動や排斥運動や破壊活動などの形で現れた。一方、こうした動きは実は周辺国が薪を炉に焼べている裏の事情もあった。オスカンの諸国は異種族や異民族の扱いが上手くなくては成立しない。生まれたてのボルル王国など赤子の手を捻るようなものだった。
トヤク・グマルティは父方がヴィッチェオ系の移民であり、共和国の影響を強く受け同時に反抗感情が最も盛んな沿岸部で生まれた。幼い頃に排斥運動に巻き込まれた彼は平野を抜けた山地へと逃れ、母方の叔母の家で落ち着いた。彼が23の時まで女手一つで彼を育て上げた叔母は山地で流行った疫病で財産の家畜共々死んでしまい、トヤクはその後の4年間を山地を根城にする山賊団の1つに身を寄せた(当時の治安情勢は悪化の一途を辿り、今まで必要の無かった犯罪に手を染める人々が増えた)。
だがその山賊団はヴィウールの手先として働いており共和国人への反感を煽るべく汚れ仕事を請け負っていることを知った。見切りをつけた彼は《道》の管理人(古代帝国よりインフラ技術とノウハウを伝授し継承してきたボルルの顔役)に通報して得た金で沿岸部へと戻った。そこでも上手くはいかず、海賊すれすれの密輸業を行っていた時に共和国に捕縛された。
本来はここで彼の命運は尽きる筈であったが、当時共和国本土の10人委員会により密かに検討されていた計画により密かにボルル側へ戻ることになった。与えられた任務はボルル側で行われている反共和国運動への潜入及び実態調査である。トヤクは優秀なスパイだった。彼はボルルの反共和国感情を憎んでもいたが、共和国も同じように憎んでいた。それがより一層彼に真実味を持たせ、深部への潜入を容易とさせたのだ。
トヤクが送り込む情報の量と質を共和国は歓迎したが、次第にボルル内の反共和国運動の総元締めに近づく彼を危険視した。またトヤクは周辺諸国との接触に成功し、彼らのスパイの役割も担っていたのだ。しかし時すでに遅しで、ボルルへの諸国連合による全土征服が始まった。トヤクが満を期して焚き付けたのだった。この危機にボルル人達はパニックとなった。明確に自身らに向けられる侵略の意思を初めて感じ取ったのだ。頼るべき国は共和国しかなかった。
を中心とした対共和国連合にヌム系海賊の度重なる沿岸部襲撃による余波で飢饉に陥り、ヴィウール王国の侵攻に合いそうになった時に、海賊を一掃した上にわざわざ対王国用の同盟設立に尽力してくれた共和国(ヴィウール王国がアレシアへの介入の兆しを見せたから国益を守るため)を重要なパートナーとして誘ったためであった。なのでボルル王国は経済的には影響下に置かれているが、一定の自治を保ち共和国へ精強な山岳兵(陸兵)を提供している。オスカン半島は本土の隣国である以上、共和国は諸勢力の動静に即座に対応できるよう心がけている。
大陸各国からは拝金主義者と罵られるが、分裂したクレヨン半島は勿論、南方大陸でさえ国際貨幣として最も信頼できる「ドゥオム金貨」を世に供給しているのは紛れもなく共和国である。それに、場当たり的なジェスコの交易とは違い、的確に選定され、維持を怠らず、サービスも行き届いた通商運営を行っている。
外から見ると北部都市国家群の1勢力だが、無駄に関わろうとせず自国の維持が第一目的なので、常に自国第一、国益重視の判断を下す。だが、その態度が他の都市国家や背後の大国を刺激し、何度も大国や都市国家との戦争を経験している。結局は、共和国でさえ片足を半島の騒乱に突っ込んでいるのは確かだろう。
領域型国家の南洋進出や新天地発見によっていずれ起こるであろう自国覇権の衰退を予見しており、新たな市場開拓のため南方大陸ヌムに存在する浮遊都市商隊への出費と並行した各王朝のインフラ開発を後押ししており、その最終目標は東方世界進出である。アスラン・フィージカの伸張を危険視し、この勢力への対抗策としてさらに東側の遊牧系タゥロビート朝やその北のオアシス世界の列強の一国であるラク朝ハムザ帝国と既に密接な繋がりを持っている模様だ。これらの政策の裏で統一連盟と東方開拓政策での協約を結ぶなど油断ができない。
・・・オエス=テミ国・・・改訂中
クレヨン半島の中央部に跨る版図を持つ教団国家である。ただ単にテミ国と呼称される場合もある。その起源は海を越えた南洋大陸の北部の、異端扱いされオスルへと逃れてきた慈愛と敬愛の体現主たる「エティメス神」を崇める集団である。スコイラ帝国侵攻時の大義名分にある異端には彼らも含まれていた。
漂着当初は各地にコミュニティーを拡散形成することに集中して、閉鎖・排他的な集団の見方が強く、迫害の対象であった。しかし、徐々に貧困層を中心に信者を拡大させていき、やがては貴族層にも信徒を持つようになる。最後には“100年戦争”を皮斬りにその勢力を爆発的に増やすことに成功する。加えて、各支持層の有力者に働きかけて戦争終結に向けて動いていた。
そのため、「リヒテンシェップの和平協議」の際にその功績は評価されはしたが、各国での布教を認められた程度で、一番の争点となった領土譲渡は立ち消えとなった。その結果、協議終了の2ケ月後に現在の領土を根城とした土着民へ「教えを知らぬ者たちへの伝道義務」と称した殺戮と狼藉をはたらき、国家樹立を宣言した。
このことは汚点であり、信者の急増が急激に減少したのは少なからず根本にこの事件が絡んでいる。当初は教団は認めずにいたが、4代目教主【祭祀長ミィザ】ラケーレ・ベルターリが正式に罪を認め、鎮魂を願ってレオニダス記念教会を土着民等の残骸が投棄された土地に奉納した。
並行して行われた旧土着民の子孫への積極的な封土により、多くの僭主領を生み出すに至った。現在でも常に豪族同士の小競り合いが起きており、教会の世俗権力が行き届かない領地が数多く存在しクレヨン半島のその他の地域と何ら変わらない。教義たる慈愛とやらも使い方次第であることを皮肉にも実践してしまった。
お国柄、魔導分野では神聖系統・治癒系統に掛けては一日の長があり、聖都ナルナスに向かう信者の保護と国防を担う「聖騎士団パライム」が存在している。この騎士隊は政治中枢の神政庁傘下であり、独自の諜報・防諜組織を兼ねてもいる。小規模ながらも自前の海軍を保持しているので防衛力は充実している。
また、「聖翼隊シンバンド」と呼ばれる慈善医療組織を保持しており、各地の戦場へ赴き無償で負傷者達の看護を行っていることが信者やシンパの支持を得ている。ただし、魔導技術の開発・実験部隊と対敵謀略組織としての側面も併せ持っているので大国、特に統一連盟では入国を拒否された。
このテミ国の暗部でありながら、奇跡の光でもある両面を持つ聖翼隊は神政庁とは別の指揮系統に属している。そしてその前身は半島に逃げ込んだ魔導結社だった。
クレヨン半島では大移動後に生まれた騎馬王朝時代の激しい弾圧(市民に隠れて楯突こうとした)によって、結社は少人数に分散し地下へ潜ることを余儀なくされた。しかし、騎馬の統一王朝が崩壊しようやく日の目を見ることが叶うと思った矢先に、再び半島は諸勢力の食い物に成り下がってしまった。
彼等自身も長い潜伏期間中に都市国家に雇用されたり、傭兵団化したり、もっとひどいと教団化することで宗教土豪として生き延びていたりと最早復権など叶うはずがない実情があった。郷愁の念はあるがこの土地で暮らすことが未来への道を開くと信じていたのだ。
そうした彼等に浸透し出したのがヌムでは既に迫害されオスルへと逃れ始めていたエティメス教だ。彼等だけでなく、クレヨン半島の民はその立場から慈愛を尊重し、実際に体現している彼等に共感と尊敬の念を抱いた。
だが大勢の民は勘違いをしていたのだ。エティメス教は確かにスコイラ帝国が危険視した通り、異端にして過激な集団だった。“100年戦争”の終結に彼等が莫大な労力を払ったことは間違いないが、彼等からの要求とは各国全てに宗教特区を設けてもらうことだった。
野望の頭角を表した集団を各国は怪しみ、詳細な調査をしたところ、ヌムでの彼等の行いはスコイラ帝国を「教えを知らぬ者」と断定し、周辺勢力や内部の不満分子の焚き付け、貧困層の組織暴力化と並行した反乱に呼応する殺戮行などの度を超えた実態が確認された。
先の“南海大戦”と魔導国家群(山脈西方に一時期覇を唱えた魔導師至上主義の勢力:呆気なく滅びたが、各地に残滓がある)を解体した戦争の混乱で南方とは長らく密接なやり取りが途絶えていたことが災いした。半島の海洋都市国家は交易の過程で情報を掴み、声高に警告していたが、今までに狡猾に立ち回って半島を大陸勢力に差し出してきた者達の言葉など半島の民には届かなかった。その代償は大きかった。
和平協議の布告文書で自身らの目論見が外されたことを悟ったエティメス教上層部は一刻の猶予も無いと焦った。彼等の悲願であるエティメス神の教えの元で永遠の繁栄が約束された聖地獲得がせっかく逃げ延びたオスルの地でさえ叶わないとすれば一体どうすれば良いのか。
標的に選ばれたのは前々から目をつけていたクレヨン半島の魔導地帯(結社排斥が起きた後も強固に影響力を保ち続けている地域:弱体化しているけど一応元はそう)だった。彼等にとっては、どれ程絆を育もうとも結局集団に加わらない輩など皆一様にして「教えを知らぬ者たち」だったのだ。
各地のコミュニティーから続々と敬虔な信徒達が喜び勇んで魔導地帯へと武器を手に殺到した。その土地の民達は決死の防衛を行なった。大陸諸国はここにきてようやくエティメス教の危険性を認識したのだ。絶望的な抵抗を続ける民達に支援が絶えることはなかったが、幻想郷建設の野望と理想に燃える狂信者を前にしては品薄だった。
投降する集団が増えるにつれ、エティメス教の負担は急増し、各地から集結しつつある信徒らを未だに闘志の衰えない魔導教団群にぶつけるのにも翳りが見え始めた。上層部はその他の半島勢力や機会を伺いつつある大陸勢力の力関係、自身らの現状と政治的判断を考慮した末に速やかな停戦・終戦を迎えて聖地宣言(ある種の国家樹立)を布告する決断を下す。幸いなことに投降した魔導結社や教団の系譜にある連中を使った交渉や内部工作で魔導教団群の動きを封じ、半独立状態に置くことで馬鹿騒ぎは決着した。
エティメス教はこれで獅子身中の虫を自ら招き入れた。投降した集団はなにも戦況に絶望したのではない。結社や教団の団員はよく分かっていた。エティメス教自体に罪が無いことを。全てはその教えを人々に真理が如く吹き込む上層部こそが諸悪の根源であることを同じ特質を持っている彼等は十分過ぎる程に感じ取っていた。
外部から如何に圧力を掛けたところで、スコイラの迫害を生き延びてしぶとく盛り返した実績から、より結束を強める危険があった。かと言って内部からに変革は絶望的で、その体質は永遠と受け継がれることだろう。外部の者が内部から変える他術は無い。魔導集団達は民の為、クレヨン半島の為、エティメス教自体の為に潜り込む決意を下したのだった。
各国民はエティメス教を白眼視したが、彼等と共に戦乱期を生き延びたクレヨンの民達はそうは思わなかった。魔導集団達も同じ考えだった。教えは決して間違ってはいないのだ。ただ体現者達が誤っているだけで。
エティメス教が確かな根拠地である聖地を持ったことで、彼等の願いの一部は叶い、その影響力は拡大の一途を辿った。しかし領土を持つ事は組織を育成せねば守り抜けない。共同体の枠を抜け出せていない彼等には至難の業だった。
その代役を買って出たのが魔導集団達だった。しかし当然実権を奪われる可能性を危惧した上層部の激しい非難と策略が吹き荒れたけれど、徐々に取り込めば良いとする穏健派や集団自身の献身的な態度と行動によって自体は沈静化する。その水面下では相変わらず暗闘が繰り広げられてはいたのだが。
一方のエティメス教上層部も変わりつつあった。領土と内包する民を統治せねばならない責務を抱えたことで彼等も世俗化を避けられなかった。何よりも、各地に根強く割拠する魔導教団領や旧土着民の集団、エティメス教に対する憎しみ、貨幣問題、悪化した治安、人口増による食料問題、外交問題、復興問題、信徒同士の軋轢といった障害が否が応でも彼等に現実を直視させた。
オエス=テミ国の誕生は苦難に満ちていた。しかし、誕生したからには放置は許されない。
ただエティメス教内部の変質を嫌悪する勢力が建国初期には優勢で、静かなる衝突が時に水面に浮かび上がる場合もあった。その最たる例が2代目教主の失踪と3代目教主の自殺であろう。4代目のミィザであるラケーレにして半島出身者がその座を手にしたのは複雑な駆け引きと単純な劇薬が功を奏したようだ。この時期からテミ国の領土は少しずつ纏りを取り戻しつつあった。
しかしそれは抵抗勢力の存在と独立性に対する黙認を保障するという妥協で成り立っていたのだ。旧土着民達は国内の有力土豪と合流し神政代理領として自由に振る舞えるようになった。魔導教団はテミ国神政庁附属の修道会に変貌を遂げ後世へその存在と教えを残そうとする構えを見せた。神政庁内に取り込まれた魔導集団はテミ国の慈愛を世に広める為に聖翼隊を組織し、独自の権力を持つことになった。
聖翼隊に対する神政庁の警戒心は有名だが、シンバンドは一種のカウンター機能でもある。現在も脈々と神政庁内部に蔓延る過激派が主導権を握らないように諌める立ち位置を心掛けているのだ。だが一方で聖翼隊は各修道会から派遣された要員からも構成させるため、時に要らぬ暴走を起こすこともある。
反面、聖騎士団とはテミ国防衛構想で一致しているため、隊が進んで汚れ役を買って出ている。聖都の占領が2度に及んだ頃から経典に記載されている天魔・神徒・聖獣・疫病・厄災を人為的に再現する計画を始動させた。多大なる人と金と物を費やした果てに、甚大な成果を手にする。
こうした所業は隊の一側面に過ぎず、本業はあくまでも慈善医療団体である。事実、その深甚たる見識と敬虔な医療行為はこれまでに戦災で傷ついた大勢を救ってきた。そして欠かせないのが大陸オスルを襲った伝染病対策や新天地開拓で発生した検疫事業を見事成功に導いたことだろう。隊は現実的な奇跡を、各修道会は神秘的な奇跡を神政庁が体現することに貢献している。聖騎士団は時々起こる彼等の暴走を鎮める為に尽力してもいる。
神政庁はパライムの取り込みに熱心だが、豪族や僭主領出身者が多い同団の掌握は難しいだろう。シルバンドも他人事ではなく、巧妙に隠されていたが最近になって彼等の活動資産の4割が統一連盟から捻出されていたことが判明した。
テミ国はたいした産業を持たないが信徒達からの寄進で国庫は唸るほど余裕がある。領土は公的には分割しておらず、現地にある教会支部の布教地域がそのまま各教会支部の領地として成り立ち、運営されている。大陸諸国の各層にシンパが存在しその影響力は侮れないが、大国の逆工作で中々国内を纏めきれず、4度ばかり聖都ナルナスの占領を経験している。
最初の占領はナルナス内で影響力を持つ有力家門が仕組んだ事などから、テミ国外の信徒は純粋に神政庁を慕っているものの、国内に住む民達は日常的に彼等の世俗的な面と触れ合うため、冷めた目で見ている。なお、異教徒も聖都内に定住して長い。
近年の新天地世界の発見や、東方開拓の活性化、そして南方世界との急接近が大陸を揺れ動かす中で疎外感を感じており、それならばと布教拡大を試みたのだが、危惧を懐いた大国に圧力を掛けられ頓挫した影響で、教義解釈の違いを巡って対立が発生している模様だ。
共和国の報告によればアルシュミオン星抱神国内で聖翼隊の協力により鹵獲された無傷の【魔王】がジェスコ入殖地内のシンパを通して鈍海から運び出され、途中から合流したトラスモン騎士団と同団の支配下にあるレンドス島にて巡礼者に偽装した聖騎士に引き渡されたことが確認さた。しかし事件を神政庁側が把握しているかは不明であり、連盟の協力者からの情報によれば無事にテミ国内の秘匿施設に収容されたとのことだった。混乱に陥ろうとするテミ国は事態の終息にどうやら圧倒的な力を求め始めたらしい。
現在の教主は【祭祀長ミィザ】アロンツォ・フレゴ
・・・オレビィオ候国・・・作成中
クレヨン半島北部のモーレリア山脈最西部に位置する国家。元々は神聖モントル王国内のイヌ系獣人コボルトの自治領だったが30年前に合同公国に神聖王国が攻め込んだのを機に独立を果たす。
「神聖法権」に批准することなく、神聖王輩出並びに、選択権の剥奪が行われた程度であり、独立初期は当時の神聖王から敵視されたが、次代からは最早王国領ではないと考えられて緩やかに分離していった。
というものの、実際はオレーシャ合同公国のシンパが当主の座に就いたためであり、最初は傀儡もいいところだった。ただ、南方大陸の海賊が跳梁し、海運が脅かされたため陸路に活路を求め、半島北部に乱立する都市国家群を飲み込んだところ、結果的に他の都市国家に敵視されてそれら敵性国家軍の妨害・破壊工作により安全の確保が不可能になった。
最後には泥沼の戦闘状態と成り、こうなると合同公国は手を引かざるを得なくなった。これを機に候国は自立の道を進む。位置的に統一連盟とは入魂の中であり、自国の存在価値を神聖王国側への圧力装置として認めさせている。とはいえ、あくまでも盾としての役割であるので国交では寧ろ友好的な方だ。
豊かな土地とは言いがたいが、連盟と神聖王国の緊張関係が高まった影響で不安定化した山脈連邦より、より確実且つ安全に交易可能な街道状態を餌に、物流の拠点として成功している。尚、北部都市国家群とは2度に亘る血みどろの戦いの後に和平が結ばれた。
現在の当主はクッチ・ド・オレビィエン候
・・・ジェスコ市国・・・
市国はクレヨン半島北西部に位置する都市国家だ。海洋港湾国家としての一面も持っており、長年ヴィッチェオ共和国とは南洋航路支配でライヴァル関係にある。昔は他に2つの有力な海洋都市国家とも競争していたが、長い抗争の果てに市国と共和国が残った。オスルで始めて銀行が誕生した土地でもある。ライヴァルの共和国もこの制度の有用性に気づいたようだが、合理性重視の商人国家の観点から導入には慎重を期している。
400年前の“南海大戦”の際に大同盟軍への投資でヴィッチェオ共和国が熱心だったことから(大同盟はこれで幾度も助太刀されている)各国共に国に左右されない銀行の有用性を認めたのだ。確かな格式を持った銀行は市国の財政を一任されており、財政規模だけなら共和国を凌ぐ。
市国は自国権益獲得と拡大に今まで尽くしてきた強力な傭兵軍団を持っている。その手綱を握るのは市国の財産家達である。儲ける代わりに命を張って国を守ることが名誉とされているのだ。
共和国よりも距離が近い潜在的な敵国であるアレシア王国とは衝突を続けている。王国が譲渡された新天地領土の権益を危惧しており、開拓事業妨害のため、15年前の戦争で王国の入殖地を兼ねた軍事基地が建設されていたマントゥーバ島を王国側から奪い取った。
議会制だが、実態は名門4家による寡頭制に近く、常に名門同士で争っているのが実状だ。これらの影響で、共和国ほど柔軟で合理的な政策が打ち出されるわけではない。そのためか、諜報・謀略のノウハウと実績は高い割に、個人主義的な傾向からか体系化されておらず、統一連盟に出し抜かれることが多くなった。
船乗りの才に関しては1人1人が天才的な素質を秘めており、プロフェッショナルとしての気高き誇りを大事にしている。ところが、この気質が一匹狼を数多く輩出し、大国化の時代に於いて著しく団結力を阻害する要因になっている。だが、ジェスコ人の祖国に対する郷土愛は本物であり、邪なる意思を持とうものなら想像を絶する犠牲を覚悟しなくてはならない。
近年は、名門への婚姻と銀行内部への懐柔でコスタンリ=シーニャ帝国の影響が国家の方針に強く反映されるが、不思議と統一連盟寄りの発言力が増し始めている。連盟との力関係には圧倒的な差があるが、最早公然と南洋西部制海権を奪いに来る連盟に対して市国民は強烈な対抗意識を持っている。最近の動向によれば共和国よりも主導権を握っている鈍海への投資が活発化しており、東部域に何か動乱が巻き起こるのではと噂されている。
共和国の南洋に於ける勢力圏を快く思っておらず、何は共和国と敵対するであろう新興のアスラン・フィージカを始めとしたオスカン半島周囲の諸勢力に積極的な工作を行っている模様だ。
・・・ゴチェロ=アレシア王国パウジーニ朝・・・改訂中
オスルから南洋に突き出るクレヨン半島近海に存在するアレシア島を根拠地とする。南洋の中心地としての立地のため、エルサゴの時代よりも昔から多種多様な種族や民族が略奪と侵入を試みた結果、オスルで初めて法典が誕生した地となった。
この存在は、クレヨン半島の八都市同盟結成にも寄与したとされるが、伝統的に大陸から距離を置いていた。古代帝国誕生時にも関心を示さなかったが、着々と力をつけた帝国によって強制的に属領とされた。
大移動時に古代帝国から自然分裂し、いくつかの民族の集団を吸収しながら現在へと至る。これまでに3度ほど支配系統が移り変わったことがある。
呼び名や支配者は変われども、アレシアの地は長い民族・種族闘争の果てに、如何なる種族をも受け入れる土壌を育んだのに、国家の存在が台頭するにつれ、アレシアは主体を見失った。
その結果、“南海大戦”前には既に南方ヌム海賊に通商路や港湾施設を我が物顔で横取りされ、挙句は沿岸部襲撃はまだ良い方で、上陸戦まで展開されたのだ。結局海賊共の総元締めとなった『デヴィン朝スコイラ帝国』の白陽海(ラク−エダナ−シヒィータ)での前線補給拠点として従属する羽目になる。“南海大戦”時には、両大陸の係争地として散々に荒らし回され、自然終戦に落ち着いた同戦役の原因となった勢力に最後は屈服したのだ。
その当事者である『ペルネオーン海神帝国』は、アレシア島を自国覇権の鍵を握る要衝地であると見抜き、苛烈な支配を敢行した。それも、帝国の偏屈な宗教観について行けずレンドス島騎士団と手を結んだ土豪が現れるまで、アレシア人達は反抗する気力すら奪われ、傀儡王朝に従っていたのだから、アレシアの凋落は日の目を見るまでもなく明らかだったのだ。
だが、民が望まない中で行われた外部勢力の力を借りた反乱のツケは大きく、以降のアレシア島は内乱状態に陥ってしまう。この戦乱を鎮めたのが、当時クレヨン半島南部に点在していたアレシア系入殖者の子孫であり、義勇兵として参戦したケンボレ・パウジーニだった。16年もの年月を掛けて統一した時には、彼は40を幾つか過ぎていた。アレシアの歴史を動かすのは、常に外からの来訪者だったことを人々は統一の瞬間に思い出したのだ。
しかし、ここからがまた問題で、彼は南クレヨンを版図とするモルタニア王室傘下である南ゴチェロ王国配下の中堅貴族の三男だったのだ。彼は望まなかったが実家とその背後に控えたゴチェロ・モルタニア両国が島の領有権を南洋覇権のために寄越せと言ってきた。
さらにここで南大陸に勢力を拡大させたコスタンリ=シーニャ帝国が安全保障の観点から南海の安定化に力を注ぎ始め、ヴィッチェオ共和国とジェスコ市国も国益の観点から介入の兆しを見せ始めた。
皮肉にもアレシア島を救ったのは統一連盟によるミカレイナ諸島群国(海神帝国の成れの果て)の領有化と南方進出政策の開始だった。アレシアは浮き足だった南海沿岸国の合間を抜けて、何とか地盤を固めることができたのだ。
統一連盟によってペルネオーンの残滓が息の根を止められたことで、復興の好景気と平穏を保てていた南海は連盟・その他のオスル諸国・南方ヌム海賊の三つ巴へと突入した。南洋利権に関わりを持つ国々は連盟に出し抜かれたことを知り、躍起になって挽回策を模索し始めたのだ。そうした焦りにこそ、付け入るチャンスを見出す者もまた存在する。
アレシアは後者だった。地盤固めは王国の安全保障に必要不可欠だったのだ。西の海は連盟の進出により誰も手出しが出来ない。東側もオスカン諸国は共食いと南方勢力との小競り合いに労力を費やしている。南側は海賊の跋扈は未だ激しいがトラスモン騎士団の睨みや南洋交易の影響で一応の落ち着きを取り戻している。
問題は北の既に当時大国の食い物になっていたクレオン半島だった。北部都市国家郡は大陸諸国の政治情勢に組み込まれ振り回され、中部ではオエス=テミ国が猛威を振るっていた。そしてパウジーニの故郷である南部ゴチェロ王国は宗主であるモルタニアから切り離されたことによる政治的混乱が内戦へと発展し五つ巴が続いていた。
そこになんとしてもオスカン対策とシーレーン持続と東方政策の遂行のために、クレヨン半島に基地を持ちたかったヴィッチェオ共和国の思惑が上乗せされた。アレシア州大神宮司領(帝国側呼称)転覆時に取り残された旧海神帝国民の子孫達との衝突を利用した共和国の巧みな誘導工作の末に、アレシアは南ゴチェロを平定するに至った。
現在の王国領土は本島と周辺の島以外にクレヨン半島の南部全域が版図となっている。と、聞こえはいいが相互支援関係にあった共和国に交易の要となる立地を租借という形で掠め取られ、その他の地域の統治を押し付けられているのも事実であった。
生憎とアレシアは長い年月島国だったため、れっきとした大陸領土を自らが主体的に治めることは初めてだった。蔓延る不満分子を抑えながら、大陸諸国(特に北部都市国家と南方の支援を受けた海賊)からの干渉を、当時の王国が防ぐことは明らかに力不足であった。
だが時代の波を王国も無視できなかった。旧南ゴチェロの残党達が中心となって扇動した中央政府が直ちに半島側(島側の土豪や土着勢力に配慮)に設置された。新政府がまず必要とするのは圧倒的な秩序的暴力である。直ちに直属の軍隊の設立が行われた。
現在の一般的な軍隊の主力は傭兵の割合が高いことで知られている。王国の場合も同じだったが、ゴチェロ王国の失落と新王国設立の混乱で職にあぶれた貴族や平民、安定的な根拠地を求める半島の傭兵集団、略奪目当ての盗賊集団やごろつきらが一挙に押しかけてきた。
これら集団の統率は難儀であったが、余所者を根気よく受け入れ続けるアレシアの気質を受け継いでいた王国は決して途中で手を緩めたりなどしなかった。というのも、ここで放り出せばアレシア島側の分離独立の南洋中央に秩序を求める諸勢力の思惑と一致し、連盟・帝国・レンドス騎士団・共和国といった列強から軍事顧問団が派遣され、瞬く間に精鋭部隊として作り直された。
その実力はオエス=テミ国の半島南部への侵食を食い止め、南方大陸ヌムのタイザ朝の後継者争いから王国へ逃れてきた第3王子捕縛のため北上した海賊の大船団を率いるマグラド・イグ・アテクと随行した王朝の将軍を捕虜としたことで証明された。この時、捕虜とした海賊達の指導を受けて海軍も大幅に整えられることになった。
王国はその立地から全方位を潜在的な敵勢力に囲まれている。自国の独立を守るために両大陸双方の動静に目を光らせるようになったが、かえってその態度が挑戦を挑まれる糸口にもなり得た。そのため、常備軍の一部を傭兵団に仕立て上げ、遊兵として各地域で運用している。
分散的に火山が島内に存在しており、そこから採れる硫黄は輸出品の頭目である。他にも塩やオリーブに小麦などが挙げられる。気候は年中温暖であり、住民は皆陽気で禁欲的な性格で伝統重視の傾向が強い。しかし、余所者を受け入れる度量の大きさも持ち合わせている。
精強な海軍を保持し、島自体が南海の物流の要所として価値を発揮していたので繁栄を謳歌してきた。ただし、近年において南洋では共和国や市国、ヌムの海賊の他に統一連盟やコスタンリ帝国などによる列強が台頭した結果、南海全域に覇を唱えた時代は終わりを迎えつつある。
しかし幸か不幸か南海以外の交易市場を求めたスタリポス王国の思惑と一致し、合同出資したヌムの伝説にある魔大陸を見つけるための外洋調査政策の結果、新天地勢力とのルピリカ大陸(魔大陸の現地名)で結んだ協約により新天地領土を譲られることになった。王国の可能性は大いに広がったが、嫉妬した市国に南海の中継拠点領であるマントゥーバ島を奪い取られ、開拓事業の大幅な減衰が確認されている。
今や【軍獣尖兵団】はカートラント王国内の【鍛冶屋】と並ぶ大陸有数の傭兵団の1つである。その指揮系統は王国とは別口を装ってはいるが有事の際には速やかに麾下へと編入される。王国が辛うじて新天地領土を維持できているのはこの兵団の尽力によるもだろう。
しかし近年、中央政府はアレシア島の分離運動を警戒している。島内勢力は長年島国として培われてきた世界しか知らないため、大陸領土を持つこと、ましてや主権政府が半島側(どちらかと言えば)にあることなど認められなかったのだ。分裂か合致か、王国はその岐路に立たされている。
現在の王はシプリン・テリス・ド・ジョルジー二1世
・・・北部都市国家群・・・
モーレリア山脈南部、クレヨン半島の北部から中腹にかけて無数に存在する小国家群。クレヨン半島はたいした資源を持たなかったため、国力が全てを決める領土国家の時代に馴染めずに、結果として半島の蹂躙を許してしまった。かつては、その独立性が功を奏し、商工業を活性化させて、時代を先行する先進技術の開発を始めとした学問・芸術・文化の発展と発達が著しい時期も存在したが今では鳴りを潜めている。
“100年戦争”終結後も政治的な混乱が続き、叛乱・暗殺・背信が横行し、今に至るまで統一は行われていない。長い分断のためか、各都市勢力は互いを憎しみあっており、自都市が有利になるためには大国を引きずり出すことも辞さない。セントニッコロ国を初めとする、神聖王国、イピリム半島の勢力からは自身の領域拡大のための版図としか見られていないため、問題の根本的な解決はまだ先になりそうだ。
議会制や共和制、地方貴族・豪族の支配が現在も乱立しており、その領域には無数の砦が建設されている。実態は傀儡・衆愚・恐怖政治が善政と交互で興隆しては衰退する流れの繰り返しであり、長年膠着状態が続いている。故に、確固たる地盤を持つためには大国の傀儡に下る他方法が無い。現在北部都市国家群に属する勢力は何れも大国の影響下に置かれている。
反面この大国の後ろ盾によってエティメス神を奉じるニッコロ国の増長を食い止めている面があり、都市国家群としては複雑な心境だ。ニッコロ国内部の豪族達と内通しており、現在も大陸オスル全土に影響力を誇る彼の勢力への対抗策として常に目を光らせている。
帝国崩壊後に半島に流れ着いた魔導結社は騎馬民族の半島統治時代に完全に土着勢力と化した。都市に吸収されたり、独自の軍事勢力(傭兵団)として生計を立て始める場合もあった。現在の半島出身傭兵団はこの頃の名残を引き継いでいる。
ようやく和平を結んだオレヴィオ候国との関係は修復しつつあるが、逆にそれが統一連盟からの工作員の流入を許し、連盟の影響力が拡大している。長きにわたる戦乱のため、権謀術数に掛けては一流だが、大国の圧倒的な軍事力を前にしては意味をなさなくなっている。
・・・トラスモン大陸郷土防衛騎士団・・・改訂中
騎士団は大陸オスルと南方ヌムを隔てる南洋東部の中間点に佇むレンドス島に居を構える武装組織である。庶民達が親しむ呼称として“レンドス騎士団”が定着している。
騎士団の前身となったのは400年前の“南海大戦”、即ちスコイラ帝国侵攻軍の撃退時に、南方に於ける制海権獲得と次なる侵攻を食い止める可く大同盟軍志願者によって設置された、監視拠点に駐在する軍団が前身となった。
レンドス島以外にも、建設された拠点はあったが、ヌムの混乱による政変とオスル各国の利害衝突によって、現在まで生き延びたのは、トラスモン騎士団のみであった。
レンドス島は特殊な島である。島には巨大な地下迷宮とヒトが建てたのかさえ不明な巨人像が居を構えている。それらは、先住であるタレゴ人によって代々管理されており、レンドスの支配者が変わり続けてる中でも、陰の支援者として彼等は影響力を持ち続けている。大同盟軍も、スコイラの総督が治める当時の島に突入した際、略奪と殺戮を行おうとしたが、押し入った人員の半数を消滅させられる洗礼を受けた。
島での騎士団の本拠地は、一番の交易拠点であるレスカナ市を見下ろす小高い丘の上の旧神殿を改装した要塞にある。だが、総司令部は、島の迷宮の原型である地下都市に存在している。その他にも数多くの城砦を島々に築いており、現在も補修と増強を繰り返して、それらで要塞線を形作っている。結成から数えて、11度のヌム大陸と南海諸国からの侵攻を経験しているが、いずれも撤退に追い込んでいる。
構成員は中核で最精鋭の1500の騎士と常備雇用の7500の兵員とその周辺の数万規模の傭兵団で埋まっている。オスルや敵方であるはずの南方・南洋種族出身といった非常に豊富な人的資源を持つ。とはいえ設立当初は封建制が強く反映された組織だったが、激動の時代を生き抜くにつれ、強大な軍事機構と化した。南洋東部の秩序を守る使命を誇りとし、身分や血統如きに拘らず、幅広い層から構成されている。
一方、スコイラ帝国崩壊後の南海情勢だと、確執を残しつつも友好な関係を両大陸が維持している現在、その使命は微妙な変更を強いられた。そうした中でも、南方大陸からの防波堤としての機能は健在である。
何故ならば、神君統治が慣習となっているヌム国家の性質上、神の化身たる支配者の一言であっさりと友好は反故になり得るからだ。また昨今、南洋利権は拡大の一途を辿っているため、両大陸諸国の南洋利権争奪戦は次第に激化しているからだ。騎士団自体は政治の一駒に過ぎないが、そうしたことは気にせずに、現在でも黙々と任務を継続中である。
容赦の無い南洋の海空賊に対する取り締まりや、両大陸間を結ぶ商船への攻撃・商船の拿捕といった行為を平気で行う。そのため、南方との繋がりの強いクレヨン・オスカン半島諸国とは極めて敵対的な過去を共有している。だが現状、オスル南部に陣取る勢力の殆どが南方大陸と国交を結んでいるので、騎士団は自身に都合の良い“敵対”を武器に臨機応変に各勢力を相手取っている。
柔軟な一軍事組織の範疇を超える芸当から、畏怖と皮肉めいた羨望を込めて両大陸から「南洋の渦」と唾棄されている。騎士団の名を世に轟かしたのは南海全土を自国圏と公言した『ペルネオーン海神帝国』との長年に渡った血で血を洗う衝突だ。それを滅亡せしめたのはつい数十年前の話である。もっともこれは当時の統一連盟が南方進出政策幕開けの景気づけに裏で糸を引いていたとされる。
様々な時代を潜り抜けながら騎士団は海空賊行からの収入や、騎士達の親類や支援者からの寄付、積極的な外部投資の他、こつこつと島の産業を発展させ独自の交易網を作りあげてきた。そのため近年では徐々にだが襲撃行を減らしつつあり、独立国家として舵を切ろうとする動きもある。
南方大陸ヌムには異教徒の奴隷市場が一大産業として認められ栄えているため、昔からオスル南沿岸部を始め、南海は貴重な奴隷の策源地として海賊に襲われてきた。レンドス騎士団はそういったオスル産の奴隷の救出・解放に少なからず貢献しているので世間からの評価はそれほど悪くはない。奴隷制を強く否定するセントニッコロ国からは「聖翼隊」を派遣され、強い繋がりを持っている。
反面、オスルでは大同盟軍の結成の度に奴隷制への嫌悪が叫ばれ、公には行われなくなった。だが、ヒトがかつて異種族に奴隷にされてきたように、ヒトが覇権を握る現在でもそれは変わらず、裏では密かに脈々とヒトによる異種族への奴隷狩りが行われてきた。各国は強くこれらを否定はしているが、利権や思想、立場などを下地にあらゆる層へ食い込んでいる。その魔の手は、ヌムは勿論、南洋種族へも及んでいる。
前身であるトラスモン軍団はヌムとオスルの距離が縮まるにつれ、奴隷交易を頑に否定する南洋東部の治安組織の体が強くなっていく。そうした時に彼らを頼り始めたのは南海種族だった。2つの大陸間の海で生きる彼らは複数の種族や氏族で勢力を保ってきた。大陸勢力群に属さない彼らは奴隷商人にとって、とても都合の良すぎる獲物として昔から狙われてきたのだ。
当初対応に困った軍団だったが、大同盟の理想を引き継ぐ組織として当然であるとし、守備範囲を大幅に引き伸ばした。やはり当然、弊害や障害が驚くほど噴出したが、根気良く任務をこなす献身的で生真面目な戦士の姿を目にした南洋種族からは絶大な信頼を得た。次第に彼らは軍団への参加を訴え、終いにはヌムからも志願者が訪ねる事態となった。騎士団が騎士団として正式にスタートしたのはkのおときからだろう。彼等が今現在も存続を許されているのは、この時、分け隔てなく人々を受け入れたからだろう。
今日のレンドス島は南洋東部の一大自由交易港としてあらゆる勢力の欲望が介在する場所となっている。同時にヌム国家からは常に手が届く範囲の邪魔者であり、宝物殿だとして狙われている。島には、迷宮などの古代の遺産がいまだ数多く眠っているからでもある。
騎士団の戦闘能力は代々受け継がれる力の継承の他に、対人戦闘を空や海で重ね、航路の安全確保のために水棲系・浮遊系魔物を掃討し、島での実戦と同等の訓練を行うことで、組織・個人関係なく異常なレベルを誇る。
そのためどうしても聖ローリス騎士団と同一視されがちで迷惑している(徹底した秘匿事項として、同騎士団とは水面下で協力関係にある)。個人レベルでは組織人事の事情で差別に偏見は当然同伴しているが、組織レベルでは皆無という強靭な組織である。
種の比率は、ヒト1.4 獣人1.5 岩人ドワーフ0.8 森人種(エルフ系)1.1 南海種族1 竜人種0.5 巨人種0.6 鳥人種0.4 小人種0.6 その他(妖精種・水棲種・グルカン等)となっている。
だが、問題がないわけではない。古代帝国による領有以前から土着していたタレゴ人系住民とペラクトス系住民同士の対立や島に押しかけて居座っている魔導結社・教団の子孫との対決に加え、守護神の封印問題への配慮など問題は山積みだ。
そして騎士団運営に必要不可欠だが、蓄積され過ぎた富それ自体が騎士団どころか、レンドス島内部の大きな亀裂となるのは時間の問題だろう。
現在の団長はカルデニッツァ・ド・ヴィラレット