『大神の掌』(=タユルコン・アィフ)
「大神の掌=タユルコン・アィフ」
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・・・モントル神聖王国・・・(作成中)
神聖王国は古代帝国の領土の中で最も栄えた地である大陸オスル中央部広域に君臨する大国である。古代帝国の技術や文化と伝統や精神を受け継ぐ正当な後継者であるという建国時の国是から、名称が決められた。
建前上は1つの王権の元に連結してとされているが、周辺国の認識では中小国家の寄り集まりに過ぎない。神聖王の選出権を持つ4人の選帝侯を含めた74の封建諸侯と彼等の付き人たる騎士たちがそれぞれの荘園を築き上げており、それを巡っての内乱もどきが耐えない。厳密な区分けではないが、ザックリ分けると6つの小国と3つの辺境伯領、そして2つのヒト以外の種族の統治国家に、同じく2つの宗教特区が存在することになる。
この様に周辺国が少なくとも国として体を成している中、何故この地域だけ後進的なのだろう。2つの理由が挙げられる。1つ目は、大戦の主戦場だったことである。歴史的に見てもカン族のオスル全域への侵攻を妨げた「ケンターンの戦い」は現王国領内で起きたし、「大空戦争」で真っ先に攻められ、盾の役割を果たした地域も王国領内。加えて、100年戦争時でさえ連合の攻勢限界点としての壁の役割を担ったのも王国領内なのだ。常に戦乱の渦中にあったのでは、発展や統一などとは無縁なのだ。
2つ目は地域特性が関係している。彼の地はこの時代より実に開拓が困難であった。1年中、背の高い木に覆われた森林が乱立し、地表は日の光とは無縁だった。加えて沼地がその周りを覆っており、古代帝国時には巨人の血を引く民族が住んでいた。そして、強力な魔物が跋扈する大陸最大の魔境と認識されていた。ただし、物語開始時点でこの地域の8割強は生存可能領域へと切り開かれている。
ヌム大陸からの侵攻以来、彼の大陸と積極的に交流する機会が増えて、そこから遙か東方の地より流れてきた農業技術が導入されてきた影響で、全地域の生存圏化の達成は夢ではない。そうはいっても、迷宮や魔境の数だと大陸内で随一を未だに誇っている。原因は、古代帝国時代の駐留軍の基地(要塞)が頑強な造りのお陰で現在も点在しており、迷宮の基礎基盤となっている。そして、「大空戦争」や「100年戦争」初期の時代に竜人達、魔導結社、魔族連合が試験的、実践的に投入した魔導生物群の生き残りが少なくない数生存していて各共同体を形成しているからだ。
この国の建国も「100年戦争」に起因する。「大空戦争」時代から既に小国の乱立状態が形成されていたことで戦争中はあらゆる勢力の元で闘った王達が多い。生き残りを懸けて傭兵として属国に近い待遇を甘んじて受けたのだ。さて、【リヒタンシェップの和平協議】の際、この地域の処遇を如何にすべきかで意見が大きく割れた。
最終的に壊滅被害を受けたオスル東部に於ける復興並びに再殖民の最前線基地としての役割を押しつけられた。裏には大国同士のバトルを避けるための緩衝地としての狙いもあった。こうして厄介ごとを全て押しつけられる形でこの【神聖モントル王国】は再生への架け橋の希望として誕生したのである。
ただ、初期の頃は神聖王は有名無実などではなく、しっかりと機能していた。これは当時の人間の想いを全て体現していたからだ。再生と復興はその地域に住む民全ての思いだったから可及的速やかに能力がある王が抽出され、各地域の連携も取れていた。それに技術面では劣っていたが一時期は魔導面において他国を凌駕していた時期も存在していたのだ。
「100年戦争」は、魔導結社が自らの存在意義と価値を取り戻すために暗躍した一面も持っていた。ただし、その動きは領土型国家の統制の邪魔でしかなく、彼等は磨り潰されるか、服従するかを選択された。当然抗った者もいたが、それ以上に内部抗争ばかりの機関を嫌がり、より良い環境を求めて吸収されるものも存在していた。
彼等は戦後、半数が王国領内で保護された。行くべき場所をなくしていた彼等を時の国王、シューディッヒ・ガッデフォン・バッハ1世は復興並びに国の貴重な戦力として受け入れる。皮肉にも魔導生物が放し飼いにされている彼の地は魅力的な実験場だった。こうして両者は互いを認め合った。ひょっとするとこのままいけば一大魔導帝国を築き上げることも可能だった筈だ。
結論を言うとそんなことは起こりえなかった。周辺国が許すはずもないし、なによりも復興と再生で一致している小国は目的を達すると再び瓦解状態に巻き戻ってしまう。名君主の王も輩出されたのは初期の数代のみで後は各国の思惑の結果、能力はあるが出自の国優先の国策を取るものばかりであった。
決定打は9代目神聖王のルートヴィヒ4世の治世で王国北東部に位置する聖ローリス騎士団が毎年行う【凱旋】に耐えかねた獣人達による実質的な独立宣告と騎士団領に於ける破壊略奪行為だった。対外的な目線ならば彼等は反乱分子なので騎士団への配慮から鎮圧するのが王として当然であるし、肩入れなどするならそれは独立を黙認したも同然となり、もはや大国として纏まることは不可能となる。
ところが、自身も旧北海民の血を引く母と捕虜として残ったグルカンの血を引く豪族の父との間に生まれただけにルートヴィヒは深慮して決断した。正式な連合軍を招集して騎士団と剣を交えたのだ。
そして、勝利した。皮肉にも「ヒト及び、彼等の保有する奴隷以外の種族は劣等種」であるとのスローガンを平気で醸し出している騎士団にとって最も恥すべき且つ、衝撃的な大敗となった。王国領内は基本的に共和連盟以上に各民族の混血が多く、各種族ともどこかで血が繋がっている。言い方は悪いが雑種性が非常に濃い。
それに他国が褒美を約束した獣人達やそれを知った他の獣人、種族も入殖しており、あらゆる意味で雑他な地域なのだ。つまり純血を至上とする騎士団が劣等種に負けたのだ。エルサゴの伝統は未だ生きていた。
この「ドッチェ攻防戦」、「シンネカンの戦い」で騎士団は総長のカール・リラ・セルバンテスを含めた大勢の騎士を失い誇りも失った。この時から両者は宿命的なライヴァルだと互いを認識した。戦後、ルートヴィヒは【初代獣王】となるヨナタン・マルヤランタに冠を授けた。次いで、その他の各地の豪族の纏め役達にも冠を授けた。
こうして王国は形骸化し、実質の内部分裂状態へと正式に移行した。愚策か良策だったかの議論は無駄なので、事実を書き記す。王国が内戦状態に入り、統一の可能性はかき消えた。同時に結社残党が画策した魔導帝国建国も夢幻の彼方へと消えた。以降、彼等は独立した各国に取り入るか、吸収されたとはいえ独自の教育機関を維持している周辺国の魔導機関へと離散していった。
物語開始時の神聖王はループレヒト・ヘザー・マンチー二6世だが、受難の時代に戴冠したことになる。南はオレビィオ侯国が独立し、東の合同公国とは未だに国交停止状態。ウルガール王国は例年の如く遊牧系の襲撃部隊を使って国力を削ぎに来ているうえ、聖ローリス騎士団には獣王国領以南は実効支配されている。北方は大陸同盟の工作で離反を起こす領地が増え、西部は頻繁に統一連盟の威力偵察がおこなわれ、神聖王国は今、建国以来の危機が訪れている。
だが彼は、それでも融和的な態度を崩すことはなく、各諸侯・騎士・独立都市・宗教領の諍いを丹念に調停して回っている。周辺国との関係の見直しにも腐心しているうえに、積極的な産業の養成に努めている。その姿に感化され、神聖王国は少しずつだが纏まりを取り戻してきているようだ。
・・・モーレリア山脈連邦・・・
木人エルフはロメルニス王国設立以前の世界において覇権を手にする種族の1つだった。尖った耳を持つ彼等は、魔力が自らを定義した精霊という名の魔導生物を操る術に長けている。彼等は精霊と森を愛しそれ以外に執着を持たなかった。森に作りし共同体の為の労力たる奴隷を求め遠征に行くこともしばしばあった。
彼等の誇りは、共同体の森の周囲の土地を一定間隔焼き尽くし無人の野とすることだった。側から見れば、孤島の様に焼け爛れた野の中で美しく整えられた森が見えたことだろう。気に入らない森や生態系が崩れた森は迷わず焼き尽くし、新たな森を探す為に他所へと移り住むのを繰り返した。
その習性はロメルニスの圧政を経て、モントルの時代となっても断絶することは不可能だったという。古代帝国ではエルフ達が自らの罪の為に彼等が好む炎で生きたまま焼き殺される姿が見られたという。しかし、ヒトの技術の発展で森が開発され始めると、次第に定住型の種族に落ち着いていった。いつしか炎は信仰の対象になり、使うには制限が掛け始められた。
そんな過去を持つエルフ達のモーレリア山脈連邦は、オスルに点在するエルフ共同体で最大の規模を持ち、確固とした領域を保持している。
古代帝国崩壊後の動乱期でヒトはオスルで最大の領域を手中に収める勢力となった。しかし最強ではなく、その権力基盤は脆弱で当時はまだ覇権を狙う異種族な異民族などに常に注意を払わなければならなかった。
当然そのご時世では、ヒト以外の種族も生き残りを賭けて戦わなければならなかった。むしろ彼等の方が必死だったかも知れない。彼等の庇護者であったモントルはすでにこの世に存在しなくなったから。
ドワーフ(岩人)は早々と地下の領域に逃れたが、エルフ(木人)はそうはいかなかった。それぞれの氏族ごとに独立し、時に団結し、時に同胞を裏切り殺し合いながら生存領域を求めオスル中を徘徊した。
彼等はその行手を阻む如何なる障害も容赦無く焼き払った。当時のオスルでエルフは炎を操る悪魔以外の何者でもなかった。狩る者から狩られる者に立場が変わった木人は今度は自らの生存を守るために炎を解き放った。
現在の大陸で彼等が炎を禁断とするのは、昔の記憶が安定した現在の生活にとっては足枷にしかならないからだ。
連邦は標高が8000メートルに及ぶモーレリア山脈を中核とし、白き血の守護者たるハイエルフの5家を頂点にエルフの貴族、平民、そしてダークエルフと続いている身分制度が存在している。
黒樹人ダークエルフ。褐色の肌を持ちし彼等こそ炎の秘術を司る嘗ての司祭階級の地位を占める崇高な種族だった。帝国崩壊後の逃避行の中で、多くのエルフが体を例外なく異種族に差し出さねばならなかった。ダークエルフ達はその身が壊れるのも構わず、共同体たる一族と氏族の集団への献身を貫いたのに。
混乱期が収まり、安住の地での安全な生活が始まると彼等は汚れた血として蔑まれた。ハイエルフがそう仕組んだのだ。純血を貫いただけのお飾り達は、共同体の希望として守られ、祭り上げられる象徴としてその血を保たれただけの事実に我慢がならなかった。
血の濃い者が精霊の寵愛を受けやすいことを利用し、白き血と肌を持つものを神に等しき存在として崇める構図を定着させるのに差したる労力は払われなかった。ダークエルフ達も流れに逆らえなかった。共同体を離れて生きる道が見つからなかったから。
モーレリア山脈の麓に辿り着いた木人エルフの集団も例外ではなかった。山脈は頂上付近は恐ろしい豪雪地帯で適応した魔物や種族が暮らしていたが、それより下は美しい自然に溢れていた。エルフ達は遂に自分たちの理想の森を見つけたのである。
しかしその森には先住者達がいた。岩人ドワーフや小人系種族と山岳獣人達だった。帝国崩壊以前からこの山脈に住んでいた彼等は帝国とは協定を結んで安全を保障されていた。エルフ達に存在が知られると、いらぬいざこざを起こすことは間違いなかったから。
仕掛けたのは原住民側だった。山脈の民は帝国の崩壊などどうでもよかったが、余所者が居座るのを看過できなかったのだ。些細な小競り合いは、いつしか終わりの見えない血みどろの争いに発展する。
だが炎を操り、山頂付近のクレーターに位置する世界樹が吐き出し続ける精霊の援護を得たエルフ達を止められるものは残念ながら山脈の民にはいなかった。要塞化した地下へと潜り抗戦を続ける彼等だが追い詰められるのは時間の問題だった。最後の策で山頂近辺の魔物を嗾けた。
人為的なスタンピードは木人エルフ達を恐れ慄かせ、そして激しい憎悪を呼び起こすのに時間はかからなかった。黒樹人ダークエルフが汚れ役を引き受けた。
長きにわたる戦いは、大陸各地から大勢の同胞を集まる狼煙になっていた。住処を欲する彼等は、山脈の民との対話など無用と切り捨て、絶滅を望んでいた。ダークエルフは、その炎の力を要塞化された地下坑道へと解き放った。それ以降、山脈の民達は姿を見せなくなり、山頂付近に点在する種族達も服属を願い出てきた。古代帝国の帝都が陥落してから、80年経った後の話だった。
時がさらに200年も過ぎ去り、“大空戦争”の記憶も寂れてきた頃。
エルフ達がその権勢を確固とし、山脈とその周辺領域の支配を公然たるものとした時代に山脈の民達の子孫は帰ってきた。
生き埋めにされかけた民達はさらに地下へと潜った。そして合流したのだ。帝国崩壊後もしぶとく生き延びた地下の勢力に。彼等は山脈の民を迎え入れた。中にはエルフ達に追い出された者も少なくなかったのだ。山脈の民は復讐を誓っていた。地下の民は宥めた。時を待て、と。
モーレリア山脈の西側と山脈を隔てたさらに西の世界、嘗ての帝国から「遙かなるレトリンムル(辺境)」と呼ばれたイピリム半島を超える長大な大地の地下に生存領域を確立させた地下の民達は戦火を逃れた集団を吸収しながら貪欲に発展を続けていた。
彼等は地表に憧れを抱いていた。地表の民が自分たちを地底に押し込めたと信じていたから。
いつの日か、地下から這い出て恵の大地を我が物にする野心を彼等は共有していた。彼等は【“地底王”ヒリウノス】に率いられた王国を名乗った。岩人ドワーフの精密な技術を基盤に、地下に溢れる無尽蔵の魔力と贅沢な資源を糧に、王国はあらゆる地上へと軍勢を繰り出した。
エルフ達は彼等が何者なのか察しがついていた。しかし皆殺しになるつもりもなかった。決死の抵抗が繰り返された。モーレリア山脈に集う現在の民達は己の住処を奪われないように粘り強く戦った。奇しくも100年前の山脈の民と同じように。
エルフ達はその生存領域を守り抜いた。既に傭兵として各地に出荷されていたダークエルフ達の伝手から周辺国を巻き込んだり、世界樹の加護を存分に受けられるように山脈や森を作り替えていたことが功を奏した。
けれども敵のの根拠地である地下深くへは全く攻め込めない。王国が大迷宮として作り直していたからだ。やがて王国の民は他に得られた地表に乗り移っていく。エルフの土地(モーレリア山脈周辺)に拘る理由も世代も既に薄れてしまったからだ。やがて【“地底王”ヒリウノス】は地表への入殖が進むにつれ、その権力は衰退し、遂には王位継承の縺れで側近の従士に殺された。地底の王国はバラバラに分解した。
エルフ達はいつか山脈を超えた西より来たる脅威(地底の国の末裔)に備えるべく、急速に団結を強めてゆく。事実、地下の民は分裂しただけでその勢力は衰えず、地表に出た者達も山脈を超えない保証はなかった。大迷宮には抵抗を諦めない嘗ての山脈の民達の末裔が報復の機会を窺っているという。
山脈を我が物とした木人エルフ達の歴史は常に地底の勢力との抗争で紡がれている。そのせいで地底を根城とすることが多い岩人ドワーフとの対立が誤った風潮として広まってしまった。地底の民は山脈のエルフへ大迷宮内の勢力を焚き付けることで山脈の西への干渉を防いだ。しかし既に地表へと入殖した民との軋轢や、それらを囲む周辺国からの圧力は山脈西方を侵し始めていた。
エルフ達は地底の民からの当て付けを防ぐために、豊かな地下資源と古代の叡智を餌に、台頭し始めた冒険者や大同盟によって年々衰退していく奴隷産業や自身らの社会に必要な黒樹人ダークエルフを利用し、大迷宮の攻略を今日まで推し進めている。ダークエルフを中心に運用した傭兵産業は強大な軍事力を山脈のエルフ達に与えた。
“100年戦争”時には狡猾に立ち回り、周辺地域の不安定化工作を行い侵略の魔の手が向かないようにした。共和連盟の誕生にどうやら手を貸したらしい。しかし、彼等はとてつもない怪物を育てるきっかけを作ったとはこの時は思いもよらなかった。「リヒタンシェップの和平協議」でオスルの民達から連邦として認められたことを無邪気に喜んでいた。
閉鎖的な国家で通行許可をもらった者でないと自国内の通過を認めない。違反者には如何なる社会的地位の者でも即時の死刑が現場指揮官の独断で許可されている。
山頂に彼等の考えによると全ての精霊の発生源ともなる世界樹とデレミ湖が存在しているので世界中の木人エルフ達には聖地同然であり巡礼者が後を絶たない。ヒト世界の法には遵守する義務は無いが同時に干渉し干渉される権利も無いとし中立を唱っている。
ほぼ大陸中央に位置しているモーレリアは、それ自体が強固な要塞の価値を持っている。攻められる危険は無いに等しいが、周辺国の思惑が一致すれば簡単に握りつぶされることは承知していた。そのため、連邦以前の共同体時代からエルフ達は周辺一帯の思惑が一致しないよう調整することが外交戦略の伝統となった。
そうした工作活動は、大陸の大国化時代が始まるとより一層活性化し、明らかに限度を越え始めている。一方で、山脈が皮肉にも大国同士のストッパーの役割を果たしている側面もあるので、譲歩せざるを得ない。彼の地がヌムと良い勝負の一大奴隷市場と化しているのは酷薄な計算の副産物であった。
そんな連邦も、建国初期からの周辺情勢の安定による種族人口や奴隷市場の拡張に伴って、慢性的な食糧不足に陥っている。ところが、壊滅的な食糧自給率を改善する方法など一切思いつかないまま結局は輸入に頼ってしまっている。それを連邦を煙たがる周辺諸国が見逃すはずも無く、高い金を巻き上げられることとなった。事態の打開で、外貨獲得を目的に傭兵産業にさらに力を入れている。
外へと出荷される大半はダークエルフであった。彼等はエルフ達の最下層であることなど気にもせず、ただただハイエルフ、エルフを恐れて主従関係を築いていた。炎の力が禁断となって以来、彼等は完全に異端扱いとなり、歴史は忘れ去られ、エルフに捏造された都合のいい嘘を信じ込んできたのだ。呪われた肌の種族であるとして。
だが、400年前の南方大陸からの大侵攻での接敵から徐々に認識が変わってきた。ヌム大陸の住民は赤銅色の肌や、完全に黒い肌、自分たちと同じく焦げ茶色の肌を持つ者で占められていた。彼等は世界の広さと自分たちの世界の狭さに驚嘆した。
古代帝国の崩壊時に南方へと散った同胞の子孫達との邂逅を経験したこともとてつもない要因だろう。奪われ捨て去られた誇りと歴史をオスルの黒樹人ダークエルフが取り戻した瞬間だった。“100年戦争”でそういった者達との傭兵としての交流などで徐々にダークエルフ達は怒りと屈辱を抱くようになる。
これを危険視したエルフ達の反応は至極真っ当であった。今までの支配構造が入れ替わるなど誰であれ到底容認できるわけがない。だから、弾圧もより激しく過激になっていく。
その結果ダークエルフ達との溝はより一層深まってしまった。そして、その波は連邦内だけにとどまらず、オスル全域へと拡散の兆しを見せていた。そのことを統一連盟が見過ごすわけが無く、くさびを打ち込むかのようにダークエルフ達へと支援を行った。武装などではなく留学を推奨したのだ。ただし、戻ってきた者達はすっかりと連盟シンパに仕立てられていた。
連邦は抗議したが、連盟は自らの意思で自発的に彼等自身が行った行為であるので、責任は一切合切そちらにあると説いた。山脈の西、「遥かなるレトリンムル(辺境)」の大半を支配下に収め、エルフ達の仇敵であり続けるはずだった地底の勢力(地底王亡き後は完全に離合集散を繰り返し、稀に統一され大迷宮を利用して攻勢をかけてくる)のカザンカ地底王国ですら片手間に飲み干し、大迷宮の管理権を握った連盟に連邦は逆らえなかった。
山脈連邦の君主には、精霊術に秀でたハイエルフが就任する。この君主には全エルフの尊敬と崇拝が集まる【精霊王】の称号が贈られる。ただ、この称号を得るために名家5家による壮絶な政略が張り巡らされるのも仕方が無いことだ。
実は、このハイエルフの名家の1つ、ギレンセン家当主の私生児であるフェーベ・ギレンセンはオスル全土で手配されている国家規模の厄災だ。ダークエルフの傭兵を見初めた当時の当主が強姦して生まれた子供で、エルフのどの階級からも同胞とは見られなかった。
彼女は、その身に宿す膨大な炎の力を使って、連邦評議会(実際はハイエルフだけで行われる)の彼女への抹殺の命を受けた精鋭部隊を皆殺しにした後、評議会員の大半を襲撃し殺害後、その足でデレミ湖を管理している隠者に重症を負わせ、それまでに殺害してきた死骸を湖に投棄した。
事件の後、彼女は“100年戦争”後期の外界へと行方を眩ました。死亡の風説が流れていたが、「リヒタンシュタップの和平協議」締結後に再び活動を始め、時の【精霊王】暗殺を皮斬りに大陸中のエルフ共同体へと現在に至るまで襲撃を繰り返している。
彼女は一見孤立しているかのように見えるが、あらゆる勢力や思惑を秘めた個人が彼女に利用価値を認め支援している。もっとも、双方が互いを利用しているため単純な関係ではないようだ。
・・・トモイ獣王国・・・旧ワーレンブルク連邦(作成中)
200年前にヨナタン・マルヤランタによって打ち建てられた獣人の国家。獣王は代々神聖王から選帝侯の位を授かり、公式には王国の一部という扱いにあるものの空洞化している。
しかし意外にも獣王国民は自信が神聖王国人であることを誇りにしているようだ。世界で初となる複数の種族の獣人による統合国家であり、一種族の支配を容認しない珍しい体系を保っている。
形は王政だが、毎年行われる武闘大会で勝ち残った者が王座を戴く仕来りとなっている。力を崇める獣人ならではの制度ではあるが、行政制度は連盟の力を借りて能力・実力主義となっている。連盟とは深い関係となってはいるが神聖王国を形作る選帝侯国家としての立場を保ち続けており、あくまでも中立を貫いている。
王は行政官人事に口出しできず、特定の種族による独裁や派閥形成を避けるために監察議会なるものが存在している。しかし、有事の際には速やかに王権の下に権力が集中するように設定されている。また、平時はもっぱら元老院によって政治が行われており、基本的に王が口出しすることは少ない。この国が王に期待しているのは絶対的な暴力の象徴であり、即ち軍事的権威そのものなのだ。
内紛が激しい神聖王国内でかなりの勢力を築くことができているがその立場は危ういものがある。狂信的な他種族排斥主義者の軍事組織であるローリス騎士団との対決は建国時から宿命的なものだった。今までは両国の間の「黒き森林」が防御線となっており、小競り合い程度ですんでいた。ただし、騎士団はカートラント王国領内を自由に通行可能となったため、迂回して獣王国南部の神聖王国の加盟国のブレミア王国領を一部占拠して前線拠点を構築し、そこから北部、つまり獣王国南部を侵し始めている。それに押し出される形で北部への獣人の移動が始まっており、鮨詰め状態が懸念されている。だが、獣王国も調子に乗った騎士団への報復として騎士団領要衝の街道中継地であるレカデナ市への【“獣神”緑園のグシメリルゲ】投下を実施し、同市一帯の神域化に成功した。
西に位置する神聖王国内の強国であるリシンヴァル王室議会国はなんとか避難民を受け入れてくれているが、善意とは程遠い思惑があるようだ。北の大陸同盟圏とは友好的なのだが条約機構を牛耳る“盟都”による獣王国北部の交易都市を踏み台にした王国経済への浸透行為には長年頭を悩ませており、今回も避難民達に利益を見出した彼等は食指を伸ばし始めているようだ。
ヒトに対しての差別と偏見は存在するが、ごく一部であり、当然同じ獣人内でも種族間の争いがあるが基本的にマシである。行政区分けされてはいるが、種族ごとの選り分けとはなっていない。
現獣王は4年連続で就任しているネコ系獣人フェゼント・フォン・フィッシャー。本来は最大で連続3年まで黙認されるが、騎士団が防衛網を無力化したため、急遽実績のある彼が王を続けている。
王者の一族と名高い種族は幾つか存在しているが、議会が慎重に討議し精査した結果、政治大局と戦局全体を理解し、人望もある彼が選ばれた。
・・・聖ローリス騎士団・・・改訂中
〔我々は遥か太古より大勢から言われてきた。混じったモノ、劣等階級、失敗作、悲劇の者共、例を挙げれば枚挙にいとまがない。それに対して我々は強く否定出来るだろうか? いや、否定出来まい。集った諸兄同士、お互いを見れば一目瞭然なのだ。だがそれは、それは果たしてそうまでして卑下しなくてはならないものなのか? これに対する答えは、総じて断じて否であると、私達だからこそ言い返せる。私達は自分たち自身の存在について一片たりとも疑問を持ったことはない!! と、言ったら嘘になる。集った者達の大半が抱いたことではないか? しかしそれは、我々を貶めた側からの評価なのだと考え直してほしい! 奴等は私達の見た目で全てを決める。確かに目立つ特徴だ。ではこれは呪いなのか? 恥の証なのか? 祖先からの罪、或いは親の大罪だとでもいうのかっ!? こんな愚かで下劣な屈辱と偏見が俺たちを縛り、苦しめ、侵食してきたのだ!! 俺やお前達のそれは絆だ! 血統をも超越した過去から今を飛び越えずっと先の未来までをも結ぶ太く長い蔓に等しい! 俺達の敵は、簡単にその蔓を断てると長い間勘違いしてきた。その考えを今こそ正してやろう。我々の蔓は何本もの同胞が絡み合い、硬くしなやかで棘がある。そして1箇所からのみ生えてはいない! 我々の運動を奴等は決して根絶出来ない! 新たな同胞が再び蔓を這わせるからだ!! 我らの荊は君達の力無くして成り立たない! ようこそ“荊運動”へ!!〕
大陸オスル南部や南海地域を除いたオスルの土地で、騎士団を示す言葉は大抵、ローリスの騎士達を指している。彼等は、モントル神聖王国より東の広範囲な開墾地域を根城とする宗教集団である。
しかし最もよく知られているのは、「ヒトをもっとも崇高にして絶対支配的な種族」と位置付け、それ以外を家畜以下と見なすローリス教を支柱と擦る、悪名高い教団国家であることだろう。
オスル中央部以東への再開発を兼ねた進出を脅威から護るため、“100年戦争”終結後に食い詰めた戦士達とその子弟を再雇用し、結成された民兵組織の1つが前身となった。戦後の西方世界で勃興したヒト至上主義をふんだんに盛り込んだ新興宗教のローリス教により内部から乗っ取られた形である。
当の民兵組織は、ローリス教黎明時、教祖と配下の教団の盾と矛に収まる予定だった。しかし、教団母体がオトケヴィクシ邦圏残党による地下組織だったため、感づいた民兵達に急襲され全滅してしまった。なので現在の騎士団は、父祖より代々継承される非常に洗練された戦闘技術と固い結束を誇る精強無比で冷酷無慈悲な戦闘部隊そのものである。
当初は、“凱旋”と称する他国へ主にヒト以外の集団を狩りにいく組織行動を行っていた。道中で、思想に賛同する有象無象を糾合し、それなりの数で越境するので、各国は恐ろしく危険な略奪集団として敵視していた(異種族はその場で殺すか奴隷として自領の開発に役立たせるが、あくまでも標準であり、食い詰め者や傭兵、奴隷商人、山賊、盗賊などの輩も参加しているので去った後は何も残らない。騎士団は周囲への牽制としてわざと放置している)。
だがこの“凱旋”も、50年程度で廃れた。周辺勢力が騎士団にも勝るとも劣らぬ堅固な武力を持ち慣れたこともあるし、騎士団最大の脅威たる獣王国や神国の圧力によって、無駄な兵力を避けなくなった切実な理由もある。
しかし、田舎者に等しい無強要な集団が今日まで生存出来たのには、彼等が独自に作りあげた兵器である『魔導鎧』の力が大きく帰依している。明らかにインテリジェンスウェポンの上位互換の技術の産物なのだが、どうして片田舎の無教養な集団に技術が渡ったのかは謎のままだ。他国が最も恐れながらも欲を膨らます特一級品で、大変な力を持ち、騎士団を今日まで支えてきた象徴でもある。
エリート騎士ともなると、専属の鍛冶集団が宛がわれ、特注の鎧を授けられる。この兵器の製造法は徹底して隠匿されており、様々な組織が探し出そうと躍起になって挑戦しているが、1度も成功していない。中には、報復として執拗に付け狙われ、滅んだ勢力もあるので、割に合わないと殆どが手を引いてしまった。
というのがおおまかに世間で語られている騎士団の評価であった。このイメージは騎士団が意図的に広めて定着させたものである。その方が都合が良いからだ。実態は、騎士団の76%が混血である。
前身である民兵集団は勢い余って指導部を殲滅してしまい、騎士団発足20年目にして未来への指標を失った。学も教養もコネもない棄民崩れで田舎者の武装集団になど当時は誰も見向きもしなかった。ローリス教のそれまでの栄華は、邦圏残党の支援で演出された詐欺も同然の代物で頼りにすらならない。周囲は調子に乗って“凱旋”を繰り返したことで買った恨みから、敵対勢力だらけの状態。騎士団の頭目達は
開発された肥沃な大地を領土に収めているので食うには困らないが、北海大陸同盟と貿易協定でいざこざを起こし、北洋領土の要衝だったモルドール島を占拠され、事実上の海上封鎖をされている。思想に賛成する貴族・団体からの寄進・救恤金(昔は“凱旋”を恐れた周辺の領主や土豪、勢力などから見逃してもらうための寄付が行われていた時期もあった。だが、気分次第で約束は破られるし、国家が騎士団領を包囲するように勢力を伸ばしてくると対抗策が立てられるようになり誰も寄付をしなくなった)もあるので、財政は豊かな方。戦利品や奴隷として運よく扱われた異種族は、彼等の領土内で労働力として使役されている。しかし、ヒトに対しては非常に好待遇で迎え入れるので閉鎖的ではない。ところが、迎え入れられる者達はいずれも高い技術力を身に付けている連中だけだから、他国の平民階級からは意外にも嫌われている。
ハト・ミッレトとは仇敵であり長年殺し合っている。一進一退の膠着状態を保っており、【魔王】が投入されたにもかかわらずそのほとんどが生きては帰れなかった。西の神聖王国方面では「黒き森林」を挟んで獣王国と睨み合っているが、南部方面からの侵入に成功し、その土地を実効支配している。だがしかし獣王国秘蔵の【獣霊】を補給線破壊に投入され、慣れない土地で果てのない消耗戦を強いられている。
冒険者ギルドの中枢であり、始まりの地であるハトフを陥落させた張本人である。騎士団は基本的に、自身らの武力に誇りを持っているので、他の武装組織は認めない。街の陥落時には数多くの冒険者達が彼等の刀刃に消えた。
教義は徹底して遵守するが、経済活動にも理解を示し、領内で積極的にそれらを支援している。騎士としての矜持を大切にしているが、それは自身等の支配の肯定と同義であるので、同胞であるはずのヒトの低層階級などを見下している。この傾向は上級騎士・特権騎士に多く見られる。最近ではその選民的な価値観が災いし、幅広い層から入団者を募集しているにも関わらず、騎士団内の血統政治に反発する騎士達が増えている。
現在の総長はエメリヒ・ダン・グルムバッハ
・・・カートラント王国・・・(作成中)
大陸オスル内部には未だに西部と東部の諸国間で根深い対立が存在している。これは大陸の歴史を紐解けば、圧倒的に超大陸との回廊の出入り口としての役割を果たしている東部を経由してオスルへと侵入する脅威が多いことがそもそもの原因だ。
その西東の境目に腰を据えているのがカートラント王国である。国土の西に神聖王国、東に星抱神国、南に合同公国、北にローリス騎士団が位置する王国は一種の緩衝地帯として存続しているような格好だ。しかし、東部地域の至る所に根を張り巡らせており、研ぎ澄まされた軍事力と西東を結ぶ中間点に位置する利点を生かした経済力を背景に、境界域の顔役として各勢力から一目置かれている。
国内は、公式語であるオフィツ語を含めた6つの言語と11の信仰が存在し、14の集団に国民は分かれて生活が営まれている。それら集団の自治によって王国は分割統治されているかのように見えるが、各領土に建設されている王権都市クルタマと、そこを治める行政代官リットフカと登記組合ザーリャポによって極めて緩やかだが、頑とした統治体制が成立している。
オスルの中で貴族が存在しない数少ない国だが、それに匹敵する権力がクルタマと同都市を支援する組合に付与されており、近隣のクルタマの動向を互いに監視し合いながら影響下にある民草の支配に努めている。
建国当初はまず間違いなく大国であったし、それは自他共に認めている。“100年戦争”の最中から急激に始まった再入植の影響で非常に多くの国家が乱立することになる筈であった小国家群はカートラント王国の登場で急速に纏まり始めた。
この国の前身となったのは入植民を魔物の脅威から護るために建設された拠点都市が結んだ同盟であった。初期の王国では、自立し始めた小国家群に対して自らを彼等の庇護者と定め、神聖王国やハト・ミッレト、スラヴィア公国に対抗できる一大国家を建設することが夢であった。しかし、聖ローリス騎士団誕生過程での分離独立で軍事力の大半を削がれ、さらには『アルシュミオン公国』と『キエロフ候国』の2国に大半の小国家を吸収され手詰まりとなった。現在のアルシュミオン大公国はこの時の生き残りだった。
海への入り口を抑えられて、窮地に陥ったが巧妙な外交作戦で東部2国をつぶし合いをさせることで国力回復の時間稼ぎを行う。結果として、十分に自衛できる国力を持つまでには間に合った。その間に情勢は著しく変化した。大公国の誕生と更なる拡大の動きに加え、神聖王国内での対王国軍事協定を東部国家同士で締結する動きがチラついた。神国の膨張で王国南部の小国家3つは合同公国へと変貌し、北部で軍事圧力を掛けてくる騎士団とその“凱旋”に賛同する国内勢力が勢いづき国内が割れ始めた。
神聖王国の王もそうだが、それ以上に受難なのが当代の王である。カジミェシュ・ニンヘン・ポアヴレ2世は実に外交的に苦労している王の一人だ。
彼は神聖王国内部の対王国連合と大公国の二大敵対勢力に挟まれている現状を理解していた。2つの国力相手では無駄な力は使えない。なので、国内の信派が増えてきた騎士団を暴力装置として使用することにした。騎士団は神聖王国とは完全に敵対し、大公国に関しては領土拡張の可能性を潰されたため恨みに思っていた。これを利用し、王は騎士団へと接近を始めた。軍事通行権を認めて対神聖王国戦線を優位に進めさせた。大公国も下手に王国に手を出すと騎士団の報復があるので手出しが困難になった。
また、国内の“凱旋”賛同勢力をこれで満足させ、次の動きを封じた後、徐々に政治的に規制を課して行動できなくした。更にヒト以外の種族は南部に疎開させ、騎士団が通る北部から遠ざけた。
こうして、大国を律した後は東部へと目を向ける。合同公国は大公国と一応有効な関係下にあるが、水面下では既に戦いが始まっていた。しかし、どちらもお互いの権利を主張しているので、そこに王国は第三国としての身分を利用し、仲裁的な立場で合同公国と仲を結んだ。無論、大公国ともである。
また、合同公国は神聖王国と国交を止めているとはいえ、交易が出来なくては意味が無いのだし、何よりも神聖王国内部の勢力は合同公国の高い技術力を必要としていた。そこで、王国は第三国経由でのルートを提供したのである。これらの外交戦略で王国はひとまずは安心だが、長続きしないことも理解していた。
カートラント王国は再入植民や戦災難民が基礎として建国されたため、神聖王国と同じくらい雑多な民族や種族が混在している。王国は王権の元、彼らの権利を認めている。彼らを頼りにオスル各国から様々な理由で親族や同胞が押し寄せてくるようになった。こうなるとどうやっても摩擦や軋轢が増えてしまうし、排斥思想に気触れる者が増えるのも致し方ないのかもしれない。
そんな王国の内部で活動する【鍛冶屋】の名で知られる傭兵団が存在する。合同公国から爪弾きにされた岩人ドワーフ達が流れ着いて結成した集団だが、結成当時の王国はまだまだ国力が薄く、周辺国から狙われていた。傭兵団にとっては稼ぎ場だったのだ。国境紛争の連戦で直ぐに練度が高くなり、武勲や功績を地道に手に入れて発言力を増していった。
今では、カートラント王国を出撃拠点にオスル各地に赴いては戦火に飛び込んでいる。冒険者ギルドとはいくつもの権益で衝突しており、彼らと互角に渡り合える数少ない組織の1つ。専門の暗殺団を保有しているとの噂もあるが真偽は不明だ。仲間内しか信用せず、内情は表には出てこない。金のためならば手段は一切問わず依頼を遂行することで有名だ。歴代の王はこの傭兵団を利用こそすれ、付かず離れずを徹底して、その距離を保つことに腐心している。
・・・フィル=コルジャーヴ合同公国・・・(作成中)
オスル中央部より少々東に位置する国であり、この国名が誕生したのが物語から約80年前に遡る。
新参と見られがちだが由緒ある3国が合同して出来た国。この内2カ国がヒト以外の種族によって建国された。オレーシャ公国はドワーフ(岩人)が、カルソウ大公領は鳥類系を頂としている。そもそも何故合併したかについてはやはり周囲を囲まれることに危機感を抱いたからであろう。
発端は最東部の旧スーバリア王国の西側に位置する大陸の内海の1つ(鈍海)の北岸に位置するトルボス王国の陥落であった。これは即ちスーバリア国と東部二国の通商が壊滅的なダメージを受けたことを暗示していた。
頭上を最大の仮想敵国でアルシュミオン大公国に抑えられ、南部は国を名乗ってはいるがカン族の末裔の遊牧系と古代帝国崩壊時に東部から押し出され鈍海を越えてやってきたコーカソス族がヌム大陸遠征軍と新たに内海を越えてやってきたクサンティオ族の猛攻に耐えるために団結したに過ぎないウルガール王国が席巻している。
大公国は上層部が「火の信仰」を崇める一神教の地域であり、スーバリアは土着信仰が盛んな多神教国である。そのために齟齬が生じて国交は残念ながら良好とは言えない。ウルガールにしても正式に交易はしているが未だに王位が遊牧系と定住系のどちらかが就くことで国策が左右され、その度に内紛状態に陥ってしまう状況にあり、そんな情勢下で碌に治安維持できるはずも無く隊商が通過しようものなら確実に遊牧系に襲われる。西部はモントルと接してはいるものの常に分裂状態のため、通貨や税率に両替高が違うので非常に難儀する。
安全且つ確実な交易路が閉ざされてしまっては餓死するのは必定である。三国の上層部が危機感を抱くのは当然でその結果三国は紆余曲折あったがどうにか中間に位置するオレーシャ公国が中心となって合併に成功。以降大公国とは程々に敵対しつつも他の二国に関しては以前のように舐められず国政に強い影響力を持つようになった。
そして通貨が統一されたことにより鈍海の南方、ヌム大陸のシュリオデルタを現在保有するマフン朝との国交の樹立が成功したのだった。これにより豊富な食糧を手に入れることが可能となり大公国との睨み合いも可能となった。
50年前はモントル王に他種族排斥派の王が即位し、急激に関係が冷え込むこととなった。ついには宣戦が30年前に布告されたがモントルの性格を熟知していた当時の公王が事前に画策していたオレビィオ侯爵領の独立戦争が見事に遠征軍の気勢を削いで防衛戦に成功出来た。
最近のモントル王は排斥派を国王にすることに懲りた選帝侯達の思惑で融和的な王が就くようになったため、合同公国と神聖王国は国境封鎖を続けてはいるものの、関係は確実に修復されつつある。
鋳造産業や硬貨作りにおいては非常に高品質で重要な主力産業の一角を占めている。