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冒険者の旅  作者: カルタへーナ
国紹介
3/10

『遥かなる辺境』(=コイッジス・レトリンムル)

 連盟の支配領域は「遥かなる辺境=コイッジス・レトリンムル」と古代帝国時代に呼ばれた、主に東はモーレリア山脈、西はイピリム半島のイーロー山脈の2つの関門によって挟まれた果てが見えない大魔境全土に及んでいる。

 モントルはその寿命が尽きるまで、支配中枢である「大神の掌=タユルコン・アィフ」を中心に四方に文明を播種させてきた。当然の如く、レトリンムルは有望で成功間違いなしの価値ある領域として、早くから注視されていたものの、領域全体が複雑な生態系によって交互に成り立つ複合型の巨大魔境であったため、帝国崩壊に至るまで、入殖の成功は数多く報告されたが、維持及び発展拡大したのは数えるのみだった。

 だが、そうした事情を大移動は一変させた。多くの民族や種族が西へと押し流され、大挙してレトリンムルに流れこんだ。真っ先に標的となったのは安定した発展を続けていた各入殖地(既に都市国家や小規模な国が成立)であり、激しい略奪に遭った民達はさらに奥地へと逃げ込み、そこで遭遇した原住種との対立も発生し動乱の時代に突入したのだ。

 けれども、元々が巨大な魔境であるため、唸るほど有り余る土地を内包している。そして、魔物が適度な脅威として存在していた。初期の頃は激しい種族や人種・民族対立が吹き荒れたが、50年も経つと幾分か落ち着きを取り戻した。

 帝国崩壊から70年もした頃には更なる西征を企てたカン族や支配下の民の大軍勢が“ケンターン戦役”でランガン=ケンターンにより撤退に追い込まれ、時の指導者だったティバン4世が再起を図るべく開催した激励の大宴の席で、実子であった三姉妹により暗殺されるという一大事が発生し、東の脅威が消え去ったことでレトリンムルの動乱は完全に沈静化した。

 因みにカン族は、衆人観衆の前で身内に王を殺されるという失態を晒し、内部の最大勢力の求心力が著しく低下したことで、土着化するか、共存や融和に成功した少数の氏族以外は完全に分裂して殺し合いを始めてしまった。三姉妹はその中で巧みに図太く立ち回り、妹1人の犠牲を出したものの、『ベルテ正統王国』をアィフ北部に興し、ティバン4世以前から始まっていたカン族内部から分離独立した遊牧民(東部地域に散った)の諸部族に対する障壁として成立させた。

 一方で、この戦は後の歴史を左右した巨大な勢力を誕生させた。『光神器聖堂会』、通称“聖槍教”である。

 槍使いであったランガルを始めとした時の英勇達が「知性宿せし武具インテリジェンスウェポン」を使用して“ケンターン戦役”に勝利したがために、その地位を確固としたのである。そして聖槍教の背後には、魔導結社がいた。

 古代帝国が崩壊して以降、大陸諸民族・種族にとって魔導は神秘の存在となった。民族大移動は帝国が発展させていたこれらの技術を破壊し、途絶えさせたのだ。

 この神秘の力を継承したのが当時の大陸に割拠した魔導結社だった。旧帝国研究機関を前身とする彼等は、混乱期の中で複数の派閥に枝分かれしながらも生き延びることに成功していた。しかし反動で、秘密主義の強い排他的な組織になってしまった。オスルの新たな民達は彼等に畏怖を感じつつも時として莫大な利益を齎してくれる存在として付かず離れずの関係が続いていたのだ。

 戦役当時の大陸には三つの主流な派閥(イヨン派・ナテリス派・マルコネン派)が勢力を持っていた。聖槍教はナテリス派が原型になったのである。如何に排他的な組織であっても、支持者が外部に確保されない状況ではどんな組織も後継が育たず潰えてしまう。事実、騎馬王朝『ムル・コンドル王国』によってクレヨン半島のマルコネン派は制圧され、衰退していた。

 この問題を世俗組織として生まれ変わることでナテリス派は解決を図った。実際に、インテリジェンスウェポンの持つ力は強大であり、無知に還ったオスルの新たな民達の信奉を集めるには十分すぎる力を持っていた。ケンターンやその仲間は神から神器を授かりし英雄となり、その神器を独占する聖槍教には膨大な信者が集う。戦役から550年余りの世は聖槍教が支配した。

 聖槍教は権力基盤確保のため、外部の脅威を求めた。騎馬民族を脅威に仕立て上げようとしたが、隣接する2つの王朝はどちらも安定した軍事力を持っていたので、及び腰になった。標的は自然と決まった。自らの同胞である旧帝国研究機関の残党達だ。魔導結社という都合の良い言葉で恐怖を作り、迫害を始めた。

 というのも、確かに結社は排他的な組織だが、旧帝国の寛容さを受け継いでいるため、大移動後の各地域にうまく馴染んでいた。内実が原始的な生活を行う魔導研究ばかりの貧しい変人集団だったのだから(大陸の新たな民達は少しの衝突を経て気づいた)仕方のない話だ。

 多くの地域では、彼等は距離を置かれながらも良き隣人として馴染んでいる場合が大半だった。レトリンムルも例外ではない。寧ろ、この辺境では、彼等と新たな民達との一体化がより早く進んでいた。イピリム半島のような生存可能地域が限定される厳しい地勢とは違い、巨大な魔境とはいえ、可能性に満ちた広大な土地が存在したからだ。生存地域の拡大のためには、結社達の力と知識が不可欠だった。

 だが、宗教として成り立った聖槍教には時間も金も思想さえも持っている。暴力を正当化するには十分な資質だ。教会は結社に選択を迫った。民との絆を断たれ殲滅されるか、改宗して自らに下るかをだ。

 激しい迫害には、教会の恐怖と焦りが関係していた。聖槍教は民の無知無学に漬け込んで勢力を保っていたが、詐欺手法のタネを理解し説明出来るその他の結社のことを危険視していた。巨大な権力とその威光を盾に、着々と寄る辺との繋がりを切り崩された結社を飲み込こむことに執着したのだ。

 そして【イーステネヴィラの論争会】以後の魔導結社の明確な異端化と迫害は、オスルの民と結社の間に大きな亀裂を生み出し、排除すべき敵として互いを遠ざけてしまった。結社の活動の急速な先鋭化や武装化、再編・合併・増強そして過激化が活発となったのもこの頃からである。一方で、教会に与したり、過激化する等の組織の変質に危惧を感じた者による脱退も増加した。彼等の各地の集団や土豪や豪族に取り入って権力構造を創造し、大陸の安定化の促進に寄与すると同時に、今日の宮廷魔導士の立場を生み出すきっかけとなった。

 結局のところ、教会圏に近い結社が迫害を負う形であった。しかしレトリンムルでは事情がまた違った。このあまりにも大きすぎる魔境に住む人々が生存を勝ち取り、安定して社会を発展させ、文明を保つには結社達の力が不可欠だった。彼らはとっくに共同体の一部としての地位を確立し、融合していたのである。

 厳しい地勢の中で種族・民族間の縄張りに煩いイピリム半島の場合、結社は効率的に土着化したし、土着民と移民の勢力争いが激しいオスカン半島では、結社はすり潰されて消え去った。イヨン派は勢力圏内に引き篭もり、最も閉鎖的で排他的な組織として生き残った。

 聖槍教は以降の数世紀を大陸で敵うものなどもはや存在しないとして、神器の英勇とインテリジェンスウェポンの両者を巧く使いながら最強勢力として君臨した。だが、魔導教団の跋扈による分離独立騒ぎと続く南方大陸ヌムとの本土での激しい消耗戦やイヨン派の逆襲によって、その身は傷つき疲弊し、組織や教義はねじ曲がっていった。その最たる例が魔族コビアと奴隷種ジュークの誕生である。

 こともあろうに教会は、異端を通り越して、人類全ての敵性種だと支柱に収めたアィフ以東に住まうオスル東部民や北方民を認定したのである。東部地域は西部地域による屈辱を長い年月受け続けることになる。だがオスルは、繁栄を謳歌した者の傲慢を決して許しはしないことを教会は忘れていたのだ。

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・・・レーベック統一連盟・・・(改訂中)


《統一連盟圏:影響域…連盟の意向を無視できない》

(連盟管理区:旧共和連盟領…地図から消された空白の地) レーベック中央州圏

(中央州直轄領:対外出撃地…現地統治機構に指導層が就く連盟圏の最前線) アピュア殖民圏 カタロ教圏 カザンカ地底王国 マールギル法国 オル首長国 ルピリカ開発協会

(中央州代理領:内部統制組織…国の概念を持たない共同体・集団・民族を管理する) オーデレーテ島代議院 守護巫女マリキット領 ウマワー航路共同体 漂流民空族連帯 ミカレイナ諸島群国

(委託統治領:政治的要衝…連盟指導層の介入が控えられている) ジュールヌール封印都市 ユーグスホォツ諸侯議会 ワジィーコ部族地帯 パカオ湖評議会 プロウディネス精霊皇国 アルカ神山国 ジュマン刻印国

(連盟加盟領:旧占領地…嘗て全土を連盟に併合されていた) オレオハルト聖王国 コッソレル草原会議 パトロクス帝国 ブルリオタニス辺境帝国 エジフツ大理石同盟 ヨドンソォグ大王領 オニール=パン五神同格連合

(準加盟領:旧合併地…支配層自らが加盟を申し立てた) アウロカ獣神国 ラッセレ都市同盟 ゴホーレル鉄塔王国 ポージュー皇国 トイス族領 ティプ雹虎国

(連盟保護領:進駐地域…政治・地勢・軍事等あらゆる観点から領内に連盟軍拠点を内包) 西ジボレ開拓旅団領 トペッツォ神龍国 クフィル天上都 ミンセンク帝国 テコゼット亜神独立評議領 マッシュベ紫樹海区

(未加盟国:国境地帯…連盟圏と外部との緩衝地帯) マッティチェリ公国 ロンレーア王国 タイマント候国 ゴディマ土侯国 トーテリドン民政連邦 キャション自由国

(予備加盟領:解放地区…無政府状態に陥ったと連盟に判断された領域) ベッフェ大法典解釈圏:神威崩壊に伴い国土全体が内乱に陥っている連盟圏最大の解放地区 帝国連合共同統治圏:旧ヴィンガイヒ帝国へ挑んだ独立戦争の失敗により旧属国を巻き込んで共倒れ オードペトロ王位継承圏:4王族の私闘が破綻し内戦へと拡大 マルカ・コモッセ水質洗浄圏:魔物の死骸による山脈の水源汚染で周囲一帯が打撃を受ける ドゥ・シテラ共和制圏:山脈連邦から支援を受けたヒト種の蜂起で政権は半転覆状態


〔連盟圏の国々に住まう民達は誰1人として連盟の実態を知らないじゃ。無論、加盟国を統べる者にしてもそれは同じこと… 一説には連盟という名前が一人歩きをしているだけとも語られておる… だが、誤解してはならぬぞ。彼奴らは必要な時にしか姿を表さないだけなのじゃ。連盟の息吹は既に我等の体に染み付いておる。その名を受け入れた以上、その存在の気配を常に感じることになる。恐れずとも、憎まずとも、崇めずともよい… 我等と連盟は既にひとつなのじゃから〕



 統一連盟は、その動静如何で大陸オスル、果ては南方大陸ヌムに至る領域の情勢を一夜にして激変させる最大最強勢力として君臨している。連盟の最終的な目標は大陸平和の実現という壮大な夢に等しい内容であり、その手段は連盟による大陸全土の平定にある。

 連盟は、元になった集団である難民共同体が誕生してから300年と経っていないにもかかわらず、南北両大陸に跨る覇権を握りしめることに成功した。全ては、“100年戦争”という馬鹿げた戦乱が、自分の身を守る事さえウブな難民共同体を短期間で怪物に育て上げることを可能としたのだった。

 

 奴隷種ジュークと魔族コビアの連合的な一斉侵攻によって発生したこの戦争は、当時の大陸聖槍同盟諸国(現在の西部諸国地域)の緒戦からの連続した敗北にも関わらず、侵攻から僅か30年目にして両種族の敗退で幕を閉じるはずだった。

 奇襲を見事に成功されたとはいえ、当時のオスル各国は文明外の蛮地とされた現在の東部地域の国と民を盾とした焦土作戦による時間稼ぎが功を奏し、聖槍教が纏め役となり結成された大同盟軍によって両種族の侵攻を食い止められたからだ。

 しかし、敵の継戦能力切れと戦略目的の達成による敵陣の士気の崩壊と内部分裂が表面化した隙に反抗に打って出て、未開の土地を含む多くの領域を手中に収めた際に、自国が奪取した土地に対して勢力拡大の魅力を見出した幾つかの国による領有宣言が発せられた。

 しかし当然ながら少なくとも侵攻前にその土地を内包していた勢力がそれを認めるはずも無く、といって戦乱により力を奪われた彼等は国土を引き裂かれた状態で大国に立ち向かえる余力は全くなかった。

 そこで被害者同士が手を結んで同盟を締結したのだ。そして後ろ盾を手に入れるため土地の占領国と敵対する大国と手を結ぶこととなった。それは様々な国や民の憎悪や敵愾心を煽る羽目になった。

 このイザコザが70年に渡って続くとは当人らも予想してはいなかっただろう。戦乱の中で成り上がりを目指す勢力の介入や、時を同じくした南方大陸ヌムの覇権国であったスコイラ帝国崩壊後の内戦と再編により爪弾きにされた経験豊富な武装集団の流入に加えて他種族の共同体の思惑が重なり事態を複雑化させたのだ。

 無責任な焦土作戦で住処や地位を無くした大量の難民が生まれ、ある者には新天地、ある者には故郷、ある者には希望の大地であった領域が代理戦争の主舞台となったことで彼等の僅かながらの我慢も弾け飛んだ。難民の襲撃と移動が唸る様に多発した。大陸に大移動から600年振りの混乱期が訪れた。

 超大国モントル帝国であればこそ差し伸べた福祉精神は期待できず、大陸の国々は難民達を敵対国家に対してのただの肉の盾として利用する様になった。飢えた猛獣は使い所次第だったのだ。

 連盟の元になる集団はある程度国々の勃興が収まり秩序が生まれてきた大陸中央部から西寄りのリル王国で産声を上げた。土台が整えられてきた国々で用済みとなった難民達が怒りをついに爆発させ、物量にモノを言わせ飢饉による王国内の反乱に乗じて乗っ取りに成功したのだった。

 蜂起は成功したが実に偶発的な結果であって元々が捨て身だったためどうすることも出来なかった。放っておいたら同士討ちで殺戮が始まる難民集団のリーダー格達は話し合った末にこの地に自分たちの共同体を建設することに決定した。皆が果てしない戦争に疲れ果て、安息の地を欲していたのだった。

 当時の各国はこの惨事に恐怖した。各自が似たような難民の盾を駆使していたため同じ事態になることを恐れたのだ。昨日の敵は今日の友とやらなのか大陸諸国一同歩調を合わせてこの共同体を潰そうとした。

 その前面に押し出されたのが結局は難民達だった。同じ者同士で血を流し合わせることほど効率的なことはない。そう思ったのだろう。彼らは前へ進まなければ後ろの友軍もどきから殺される。

 後の連盟の前身集団は覚悟を決めた。取引さえも完全に拒絶され、なぶり殺ししか道は見えなかった。

 それでも闘おうと彼等は決意していた。何も失うは物は無かったし帰るべき場所もない。唯一あるとすれば隣人であり戦友であり友でもある仲間であろう。

 種族の、人種の、言葉の壁をも越えて団結していた。驚くべきことに難民達の方が士気がとても高く統率が意外にとれていた。

 難民達が選択した手段は明快でゲリラ戦の展開だ。“100年戦争”が長引いたのは、各勢力が同盟、決裂、分裂、吸収、造反、また同盟の決まった流れを延々と繰り返したことが原因だった。その間に休戦・停戦・妥協がねじ込まれ国力の微妙な拮抗であらゆる動きが封じられていた。

 しかしここにきて、難民共同体という共通の敵で利害が一致したのだ。この暴流に抗うには、勝ち負けに拘ない防御する側に適しているゲリラ戦の選択は正しかった。

 対して各国の連合は内情はお粗末なもので、碌に指揮系統の整備すらされてもいず、その大半が傭兵(これまでの大同盟結成の際は全ての民が聖戦士と認定される特別処置が慣例)だったため規律は無きに等しく、傭兵同士で利権を争ったり(仕えている国や諸侯同士の個人的な内紛も頻発し、巻き込まれる場合も)、物資の横流しや不正使用などはまだ良い方で、ひどい時は貴族(王族・聖職者達も含む)や兵士、商人の個人的な着服や奪い合いが表面化していた。これは、この規模の大軍を養えるだけの資金の捻出の頓挫にもつながった(銀行が大陸各地で発展し始めたのはこの頃から)。

 両者は互いに内部に様々な不安要素を内包しながらも、勝ち負け関係なしの不毛な戦いを強いられた。忍耐の限界を迎えた国々が連合(名目に過ぎず、実質は存在しない利害一致のみの集団)を段々と離反していく中、難民の共同体は日に日に勢力を強め(敵方から物資・人員・技術を調達できた)、立派な共和制体を持ち始めていた。

 だらだらした戦局は天秤が不安定で、誰も敗北か勝利かなど判断できない時期にまで行き着いた。だからこそ、ついにそれが破られる。連合に押し出された難民達(この頃には経験豊富な精鋭と呼んでもいいのか)の大半が共同体側に加わる腹を決め、それに呼応して反転攻勢を仕掛けたからだ。

 俊敏に不利を悟った連合軍の大半を占める傭兵達が難民集団に参加していた同族や知り合いの傭兵のツテを頼りに寝返り始めたことも大きな要因だろう。

 一度勢いの付いた物を止めるには相当な力がいる。傾いた戦局を元に戻せる力のある者など皆無だった。こうして大敗を味わった各国は戦争が次の段階へと移ったことを認め、最早自分たちも時代遅れであることを認識したのである。

 大陸諸国はついに100年に及んだ戦争の正式な終結を視野に入れることになる。

 続々と移住希望の難民が後を絶たない共和政体へと各国が調整に6年の歳月を要した「リヒタンシェップの和平協議」への参加要請が届き、正式に『レーベック共和連盟』としてその存在が承認されることとなる(拡大を続ける過程で国名は変化した)。

 共和連盟の登場で、当時のオスル各国は強固な中央集権型国家の強さを感じた。以降大陸では国や共同体の吸収合併に再編といった統廃合の動きが活発化した。オスルは大国の乱立時代へと突入したのだった。

 この流れは共和連盟ですら無関係ではなかった。ひょっとするとオスルやヌムの難民が全て集まってくる程の勢いで人口が増え続けていたために統治の限界点の問題に於いて破綻する危険が常にあった。結局は他国の領土への拡大主義を選択(復讐も同時に求めたのか)しなくてはいけなかったのは皮肉な必然だった。

 難民の急激な流入は大陸諸勢力の思惑も多分に関係している。不穏分子の受け皿として連盟は存続を許されたのだ。各勢力は出来れば内部分裂と抗争の果ての弱体化や自滅を期待し、あらゆる工作や圧力を連盟へと差し向けたがいずれも功を奏さなかった。本来ならばまず間違いなく効果的なこれらの策略を回避し脅威的な成長と発達を遂げた連盟には大きな秘密があるようだ。

 流れ着いた難民の中には迫害を受けた魔導結社や異端の教団、暗殺集団や滅ぼされた高貴な血筋の残党、高度な知性を持った魔導生物など御伽噺の世界から来たような連中も多く存在していた。それほどまでに、この共同体は皆の希望の証であったのだ。

 連盟内部は非常に多種多様な民族・種族・集団が入り乱れ、意思の統一など不可能に近い。そのため、恐ろしく強権的かつ堅固な意思決定機構を有する統治が行われている。その統治体制は各国からみても謎が多く、情報が完全に閉じられている。

 建前上は、連盟加盟国による合同決議制国家となっていて、これまで傘下に下った地域も自治レベルに留まらず、主権の保全や軍の保有すら完全に認められている(傘下国同士の戦争もある程度は許容されている)のだが、連盟国土の隅から隅に至るまでが中央州の監察・監督下に置かれ、完全な統制を実現させている。

 各種魔導・産業・技術の発展は著しく、オスル全土では最高峰の水準を誇っている。それを中央が独占すること無く等しく各地域で活用されているため、統一連盟内は非常に豊かな経済的繁栄を誇っている。これを活かして飽くなき拡大を試みているが、軍事的な手段だけに止まらず、あらゆる手段を用いて領土を獲得してきた。

 連盟指導層は真面目にオスル全土の併合による大陸平和の実現を目指している。しかしまた、そこへ至るまでの障害や弊害が多くあることも理解・実感しつつも最終目標として定めている。しかし大陸オスルにその欲望は留まらないようで、今やその版図は概要にまで及び、新天地勢力との窓口であるルピリカ大陸での経済開発の主導権をコスタンリ=シーニャ帝国と競っている。南方大陸でもメレニナ人の殖民圏を保護下に置いて、遊牧民を懐柔することで奥地への切り口を開こうとしている。そしてどうやらザワヒ・アクルシャ・ダマーイ(南方浮遊都市)への投資を利用した東洋航路開拓にも目を向けていることが確認されている。

 そのための犠牲になってきた占領地の政策は非常に徹底したものであり、人心掌握のための象徴として現地支配系統は基本温存するが、目眩しの様なものであくまでも真の実権は中央から派遣された官僚・軍属などの国家内国家による勢力が握っている。彼等の任務は、任地の保護・発展・繁栄であるが、中央州への傀儡として育成することも満更ではないようだ。連盟傘下の国々の指導層は、その支配を不気味に思いながらも虎視眈々と連盟の隙を伺おうとしている。

 能力次第で、どんな種族・民族・人種も高い地位に昇ることが可能である。反面、反体制派・危険思想保持者・工作員などが入り込む余地がある。連盟の恐るべきところはそれすらも許容し、自身のための革新を促す因子になるのではという期待を持っていることだ。

 連盟は非常に幅広く柔軟で高精度且つ冷徹な革新的情報運用能力を持っている。ヴィッチェオ共和国やジェスコ市国などは、長年の心血を注いだ努力によって格式ある情報網を築き上げてきたが、その優位性も連盟の数と質と組織力の前では意味を為さない。

 領域内のいかなる非公然勢力の存在も認めてはいないが無論、完全排除などは現実的ではないのである程度は生かしてある。現在の連盟内部には無数の地下組織が誕生している。まあしかし、連盟指導層事態が秘密結社と同等の存在で、中枢に至っては噂話と推測の域を出ない虚構の存在として常に認識されているのだからお互い様だろう。

 連盟中枢は自らが唯一で全てだと捉えている。だが、この考えには計り知れない想いが込められているのかもしれない。

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