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冒険者の旅  作者: カルタへーナ
オスルの歴史
2/10

続大陸史(作成中)

歴史の節目になるであろうエルサゴ軍とアズロス軍団との衝突はロメルニス王国南東部の「カスカーロス地方」で起きようとしていた。正確にはエルサゴ軍がこの地を戦場と設定し移動を開始したのだった。

この動向を把握したディムロー将軍は彼の地でエルサゴ軍を完全に根絶やしにすることを決断した。無視することも出来たが(この地方は王国全土から見ても僻地もいいところで土民や魔物すらいなかった)、そうすると侵攻軍残党と合流を果たす前に背後を急襲される恐れもあり、さらに重要なことにこの地方の付近には「モナン街道」という王都へと直通の道が存在していた。

王国南部にはモナン街道を含め3つの首都への直通の街道が存在していたがこの街道からが最短距離だった。放置は許されなかったのだ。この第3次イフェアヌス大同盟戦は、王国の敵国だけでなく、ヒト以外の勢力も今まで以上に注目していた。彼らはエルサゴ軍が有利になるように支援や工作を惜しまずに行うだけでなく、絶えず王国防衛網を圧迫することで、各軍管区の軍団をその地で釘付けにしていたのだ。

王都には精鋭の位置付けだが実戦が皆無の防衛軍のみしか配備されていなかった。他の軍団ならまだしも、エルサゴ軍相手では持久戦など到底期待できず、陥落の可能性が高かった。

一方のエルサゴもここが決戦の地になると確信していた。ここへ布陣すれば軍団を引きずり出せるし、僻地のため地の利は双方対等となる。それに余計な邪魔は入らない。軍団より二日も早くに到着した彼は時間を無駄にしなかった。斥候部隊により周囲の地形をつぶさに確認させ、優位な地形にある小高い丘の上に布陣を完了させた。

しかし、ディムロー将軍は一枚上手に、斥候部隊が地形確認をしている間にエルサゴ軍の背後へと回ることに成功する。軍団の迅速な行動を可能にする秘訣には素早い地形認識が含まれている。将軍は、背後へと回るのに焦りを感じず、反対に堂々と移動した。そうすることがエルサゴ軍への一番の圧力になると計算していたからだ。エルサゴ軍の警戒心や恐れを嘲笑うかのようなこの移動は、軍団を動揺させかねなかった。

報告を聞くとエルサゴは全軍に速やかに陣を解き後背の敵を討つと命令を下した。この機を逃せば、敵に対しての兵士の士気が崩壊しかねない。

両軍は「ザギント」と呼ばれる平野で激突した。太陽を背にしたアズロス軍団は挑発を繰り返してエルサゴ軍に開戦を迫ったがエルサゴはここに来て全軍に向けてある訓示を言う。


「諸君、私たちはこの日のために戦ってきた。対峙するはまごうことなき人類最強の軍団だ。我々が重ねてきた勝利すらも、彼らの軍功の前には霞んで見えるかもしれない。しかし断言する。彼らには未来がないことを!! 彼らが手に入れられぬ未来が一体誰の物であるかなど、もはや君達は十分過ぎるほど分かっているだろう。この戦いの勝利は、後世へと語り継がれることになる。そして諸君、今日この地で彼らと戦うことは決して偶然ではないのだ! 大いなる宿願に導かれたのだ。君達の1人1人が全く異なる動機で戦ってきたことは私も、勿論君たちも知っている。しかしその動機さえも乗り越え、諸君らは一丸となり今日いう日にたどり着いたのだ! 私たちは勝たねばならない。私のためではなく、自らの友の、そう、これから肩を並べて戦う戦友の、そして我々以上に勝利を望んでいる大同盟の同胞のために!! 我々は進む、戦う、勝利する。諸君! 既に勝ち取るべき未来が、目の前には有るのだから!!」


高く昇った日に向けて、エルサゴ軍は前進を開始した。

歩兵同士の戦闘は主導権を握るのが双方苦心していた。エルサゴ軍の兵は瞬発的な爆発力を持っていることが利点だが持久力が無かった(古参兵は違う、そのため前面に彼らを配置しておいた)。アズロス軍団の兵は耐えることを知っていたがここへ来るのに重装備を取り外していたため本来よりも攻撃の威力が非常に薄いのが欠点だった。

だが、時間が経つにつれ戦闘は王国側に有利となってくる。最精鋭軍団のため全員が戦い慣れているし、各種族の欠点や弱点を熟知していたからだ。その反面、騎兵の戦いは断然に優勢だった。ヒトの常識である騎馬など生ぬるく、召喚や獣化、魔導強化、改造、使役、洗脳など手段を選ばずに集められた凶獣をエルサゴ軍は惜しげなく戦場に解き放った。装備を軽くした軍団は、対応に手間がかかり次なる一手を打つことが出来ずにいた。

敵の騎兵を期待通り蹴散らした諸種族の混戦部隊は距離をとって展開していた魔導支援部隊を敗走さ軍団航空戦力の援護を許さなかった(王国の魔導師部隊は飛行可能かつ対空・地攻撃も出来る。対してエルサゴ軍には飛行系種族も参加し、空の主導権は拮抗したまま)。

一方の数で勝っていた王国側は物量を駆使し歩兵と騎兵の合流を許さなかった。戦場は地獄絵図と化していた。魔力の過剰供給で体が吹き飛ぶ兵士が双方に何人も見られ、圧倒的強さを持つ二つ名持ちの英勇は、本領を発揮する前に即座に数で叩き潰された。戦傷で動けない者は、その場に置き去りにされ、敵味方双方に踏み潰されるか盾として利用された。互いの兵士の断末魔や雄叫び、命乞い、意味不明な叫び声であたりの空気は満たされた。最後には、魔導を使い果たし、武器が全て役立たずとなった両軍は、共に己の肉体を凶器に変えて、本能を駆使して殺し合った。

しばらくすると、王国軍右翼の兵達の動きが目に見えて疎かになり始めた。実はこの平野は一面草で覆われているため一見どこも平坦だと錯覚するがある部分が湿地となっていて、足を泥に取られやすくなっている。エルサゴは斥候部隊からこの報告を聞くと主戦場はここしか無いと決意した。つまりアズロス軍団を背後へ故意に回らせることで決戦の場の「ザギント」へ導いたのだった。

ディムロー将軍は当初エルサゴ軍の自軍左翼歩兵を薄くし右翼へ多めに回している歪な斜線布陣を警戒こそすれ、それほど気にもとめていなかったのだが湿地の存在を把握すると全てがエルサゴの罠だったことを見抜いた。彼が副官達の脱出を決断したのとエルサゴが渾身の一言を叫んだのは同時だった。


「諸君!! 栄光はもはや我々のものだ!!」


合図を機に温存されていた右翼の兵力が迅速に移動を開始し、王国軍を包み込むように展開し始めた。乱戦下で好き放題に敵と戯れていた騎兵も、無秩序な遊撃が嘘だったかのように、再集結し王国軍中央の背後をあっと言う間に突いた。

ディムロー将軍はもはやこれまでと覚悟しつつも航空部隊残存に副官ら1500の兵の退却援護を命ずると、自らが陣頭で指揮を執った。この副官らの脱出を見たエルサゴ軍指揮官らの間でも追撃すべきだとの意見が出たがエルサゴの「敵主力を撃滅するのが第一目標であり、それには全戦力が一丸とならなければならない。彼らを倒すのはまた後だ」との渇で沈黙した(彼らは歴戦の英勇であり将官なので生きていると王都戦力の立て直しを図られる可能性があった)。

完全に包囲された王国軍では(湿地ではまっている兵には航空部隊が攻撃)将軍が陣頭に立って戦うことで辛うじて全面崩壊を免れていた。だが、完全に包囲されているため圧殺されるのは時間の問題だった。包囲殲滅での死因の多くは敵の攻撃では無く押し込まれた味方同士の押しつぶしである。

こうして敵主力の無力化に成功したエルサゴ軍は包囲が抜かれないよう注意しつつ前面の敵に集中すればいいだけだった(弓兵、魔導兵、投石兵も余力を残していた一部が近接武器を引き抜き果敢に攻撃を継続していたが輪が狭まり味方撃ちの危険があるためエルサゴは味方の負傷兵の救出を命じた)。

これほどきれいに決まった完全包囲殲滅はエルサゴが指揮する大同盟軍だからこそ可能だった。アズロス軍団の多くの兵士はその大半が何も出来ずにすり減らされていった。死闘の末に戦場で勝者として立っていたのはエルサゴ軍だった。自らを触媒として王国秘蔵の疫病型魔導兵器を投入しようとしたディムロー将軍は、術式を阻害され、体の大半が弾け飛んでも尚、目に生気を残し、エルサゴ軍を見据えていた。恐怖に駆られた兵士の飽和攻撃でさらにズタズタに引き裂かれ、ようやく死んだと確認されたのだった。

こうして、後の世に「ザギントの会戦」として名を残す戦いは終結した。アズロス軍団の会戦の生き残り達の処刑音がザギントの平野に響き渡る中、エルサゴは厳しい選択を迫られていた。


エルサゴは選択せねばならなかった。劇的な勝利を掴み取ったとはいえ、自軍の置かれた立場は余りにも不利だった。精鋭の半数がこの会戦で行動不能となり戦友とはいえ油断できない居残り組の大同盟軍の独走を抑えることができるか不安だった。さらに、補給基地を落としたとはいえ、王国占領地に居座る侵攻軍残党はまだまだ余裕があった。エルサゴがいなくては大同盟軍も所詮は寄せ集めで、今回の開戦中にあろうことか逆に敵軍の挑発に乗り、幾らかの損害を出した挙句、補給路の確保にも支障を出していた。

 王国側が占領地域を放棄し、本来の国土維持を選択した場合、エルサゴ軍は両方面から挟撃を受けることになる。それも、敵地内でだ。勝機は一切無かった。

王国の首都へと肉薄するかを。傷病兵の治療や補給物資の受け取り、軍の再編の合間を縫って大同盟軍上層部で議論が交わされた。そして、ここは政治手腕が優れるカタライカ・ヌビーニオに対策が一任された。彼は敵味方双方の領域内で大々的な宣伝活動を行う。即ち、アズロス軍団の壊滅を喧伝したのだ。効果はすぐにも出始めた。まず侵攻軍残党が各地で次々と投降を開始し、王都へ続く道に僅かに残っていた守備隊も続々と降伏を申し出てきた。エルサゴ軍を阻む者は最早王都城壁しか存在しなかった。出立の日、エルサゴは六万五千の兵を前にしてある宣告をする。(傷病兵は連れて行けず、速攻が鍵)


「私が今日ここにいるのは諸君らのお陰である。諸君らを誰が忍耐強く勇敢で、そして誇り高き戦士であることを否定できようか。この栄光は末代まで語られることだろう。だが諸君、我々は戦闘には勝利したが戦争には勝利していない。今から私は戦争を終わらせに行く。だが諸君、止めはしない、去りたい者は遠慮無く去ってほしい。あなた方はもう十分戦ったのだから」


エルサゴの話が終わったとき誰もが地の果てまでついて行くと懇願した。最早彼らに撤退の文字は存在しなかったのだ。彼は一言、


「進軍開始!!」


栄光は最早目の前にあった。だが現実はそう簡単にはいかない。ここに来てディムロー将軍が命を賭して逃がした副官達が王国で動き出そうとしていた。当時王国上層部は腐りきっており、逃げ延びた彼らを処刑しようと画策していた。それを察知した彼らは残りの守備隊の指揮権を握り上層部を拘束し実権を奪った。そして密かに王族達を城外へと逃し王都城壁を最終防衛線と定め最後の決戦を行おうとしていた。(時間を稼ぎ王族達に復権の望みを託す)六日足らずで王都へと肉薄したエルサゴ軍は防備が整った状態の王都を見て後悔すると同時に(副官達の脱出を阻止すればよかった)速やかに包囲戦のための準備を整えた。戦闘は大同盟軍有利で進んだ。しかし、防衛側は鬼神のごとく奮戦したのは間違いない。住民全員の協力を得て(陥落すればどんな目に遭うか分かって恐怖したから)連日の怒濤のごとく押し寄せる敵兵の攻勢をよく耐えしのいでいた。それに彼らの目的は時間稼ぎなので戦略的には勝利していたのだ。それでも圧倒的な物量を誇り精鋭揃いのエルサゴ軍を相手に疲労を重ね日を追うごとに死傷者は増えていった。城壁の上での戦闘では「狂戦士」タンスカ・ヘイオ、「毒杖の賢者」クフ・バイェトゥ、「大地の鉄壁」ジットン・ミトス、「天帝騎士」オーサック・ガトリクス、「再誕の巫女」リリーメラ・ウシュパニシカ、そして「常闇の導師」チノス・アウーリなどの高名な戦士らが命を散らせていた。だが、なかなか動かない戦局は包囲戦開始から二週間後についにエルサゴ側へと傾く。王都の後背は巨大な「アンバレリア海」と呼ばれる湖が存在し一種の内海として王国の物流の要となっていた。その水は王都に生活用水として引き入れられ、港もその水で成り立っていた。(王都は港を抱擁していた)エルサゴはここに勝機を見出した。王国側は当然この地点の重要性を熟知していたため800の兵と「半獣面」ノラン・サンチェ、「海神の槍」ザス・トッシュ、「鷹の弓」ワカン・ナーシといった武人達を配置すると共に引き取れる船は全て港へと回収しそれらを自沈させることで即席の封鎖線を作り上げた。残っていた船は敵に利用されないよう全て燃やされた。だが、先の海戦で大勝利を得たイブンシーはここを突破する策があった。船を処分したといっても内海に存在している物全てを回収できるはずが無いため、エルサゴ軍が戦っている間、彼は内海に点在する港湾都市を回り船を貸すよう要求した。(半ば脅し、五千の大軍を見れば腰抜かす)エルサゴ軍には自分が帰るまで港側に攻勢を仕掛け出来るだけ守備兵力を削っておくよう頼んでいた。一定数の船を確保した彼は颯爽と踵を返して帰ってきた。そして夜、守備兵の隙を突き火船を封鎖線へと突入させた。即席のバリケートはこの一撃で抜かれることとなりエルサゴはこれを見て全軍に総攻撃を命じた。(イブンシーの作戦を信用し、全軍に戦闘体制をすでに取らせ十分な食事も取らせておいた)あらゆる防衛網が穴だらけとなり、指揮系統は崩壊し王国軍は最早ただの盗賊集団と何ら変わらなかった。(装備を脱いで群衆に紛れ込む者、略奪を始める者、市民から袋だたきに遭う者、市民を盾にする者など最盛期の王国軍の姿形はどこにいったのやら)それでも旧副官達や少数の兵らは絶望的な抵抗を続け血みどろの撤退線を開始した。その途中、「骨の達人」ソロモン・ネバティ、「炎宴の化身」レオ二ド・コンチウム、「氷窟の狼」レレ・キナイカ、そして「千剣の真鍮」マンサモ・レキティオスなどが命を堕とした。落ち延びた彼らは旧副官6名と100足らずの兵士だけだったが大同盟軍の兵士の足を止めさせるだけのことはあった。報告を聞いたエルサゴは降伏を勧告する気は一切無かった。ただ、圧殺せよと言った。夜明け前に彼らは皆殺しにされその首は高く掲げられ城壁に飾られた仲間達とようやく合流できた。だがここにきて王族らの行方が分からないとの知らせが届き、エルサゴは市街の掃討を行うよう命じたが、(関係者は皆殺しになっていたので王族の脱出はバレていない)四日に及ぶ捜索でも見つからずついに包囲前に脱出したことを悟った。焼け跡で煙がくすぶる場所で彼は一人立っていた。彼の心中は分からない。


 王族を逃したのは大同盟軍に取って手痛い損失だった。彼らは居るだけで旗印となるため王国を潰すためにはなんとしても彼らの身柄が必要だった。(逃げ回られ、臨時政府を建てられ抵抗活動を展開されるのは困る)エルサゴは早急に捜索を開始しなくてはならなかったが軍は疲弊している上に住民らの協力も期待できない敵地となると勝手が違う。落胆しつつも軍の再編や周辺勢力の(同盟国や近隣諸国、そして王国内有力部族)動向を探りながら暗中模索を繰り返すこと一週間、吉報がもたらされる。やはり王都陥落はかなりの衝撃を与えたようで、王族をかくまった都市らがエルサゴに享受の証として情報を提供したのだった。(王族に義理を果たしつつ占領軍に媚びを売る)それらを辿ると彼らは一旦は国外への脱出を画策したようだが有力者や側近の助言で(エルサゴ軍に恩を売るため首を差し出されるかも)南の海域にある「アレシア島」に逃げることにしたようだ。この情報が精査されるのを待たずにエルサゴは軍を率いて南部の港湾都市へと向かった。だが五つ存在する都市は見せしめの意味を含めて滅ぼされた。碌に守備兵力も無い都市はエルサゴ軍の敵では無く海と陸からの一斉同時攻撃で陥落。(イブンシーがここでも大活躍)エルサゴは副次目的のために徹底的な略奪を許可する。住民は皆奴隷として容赦なく売り飛ばされたが肝心の王族らは確保できていなかった。エルサゴは焦っていた。島はあらゆる種族が古来より覇権を巡って戦ってきた土地であり多種多様な文化を形成し王国が最終的に侵略した土地だった。だが、高度な自治が認められており、かなりの兵力も存在し強力な海軍も保持していた。それなりの広さのため包囲するにしても兵が足りず、制海権を取るのも困難である。(イブンシーは最も出会いたくない相手だと語る)だが大同盟の悲願であり彼の宿願であるロメルニス王国壊滅はこの島の攻略なしにはあり得なかった。(妥協して好待遇での降伏も思案された)だが世の中は摩訶不思議で南部都市群攻略から七日も待たずして島の領主から降伏をもうし出される。そこには王族達の身柄も引き渡す準備があるとあった。罠の危険も看過できなかった。エルサゴ一人でまとめていると言っても過言では内大同盟軍は彼が居なくなれば瓦解するのは必然。交渉のスキに彼を誅殺しようとする策やもしれなかった。それならばと領主自らそちらに赴く準備があるという。精強な軍700に囲まれながら8代目領主ネッシア・ウログが上陸する。穏やかな顔つきだが鍛え上げた肉体を観るに相当な戦士であることがうかがえた。彼は、王族達を引き渡しエルサゴに「我々はあなた方の要求に全て応える用意があるが、一つだけ約束していただきたい。」と頼んだ。エルサゴは「王族を殺さないでほしいというたぐいの物で無ければ受け入れよう」と返した。


彼はただ「島に手を出さないでくれ」


実は今回の裏切り行為には島の内部事情が絡んでいた。前述でも述べたようにこの島は多種多様な種族が血みどろの戦いを繰り広げてきた、彼らはその果てに共生を見出したのだ。覇権を握るのがどこで有ろうと他種族を尊重し共に歩むことを暗黙の掟としていた。(守らないやつはたたき出され傭兵か海賊に転身、又は商人として自立)そんなところへ王族の亡命がおこった。領主は名目上は王国の領土なのだからまあ仕方ないと思っていた。(ここを拠点にしつつ大同盟軍と渡り合う、といっても政治交渉で。ぐらいの気構えを持っていた)だが、王族らは思っていた以上に腐っていた。この島のことを理解せず自分たちの身の上も認めようとせず尊大ぶって好き勝手し放題。(過度な要求に島民への残虐行為)その上護衛の兵士達の礼儀もなっていなかったし、王権を笠に着て日々堕落していた。彼らは島の人間から観ると高貴で自分たちの主君で守るべき対象などでは微塵もなく、完全な疫病神だった。持て余した領主はこれならいっそ大同盟軍に降伏し島の主権を認めてもらえればいいやと思い始める。計画は実に鮮やかに行われた。何時もの夕食の席で王族達以外のお供を皆殺しにしたのだ。料理に毒を入れだめ押しで潜ませていた兵によって串刺しにされた。(領主側も無傷では無く死傷者もそれなりに出た、王族の護衛は強者ばかり)「嵐」ヒミルコ・ガイシオス、「月影の伏兵」ネネチク・オシロット、「魔樹」スーコン・キキネイ、「王杯」ダキオス・コルネリスタなどが討ち取られ後には顔を青くしただガタガタ震えているだけの王族らが残った。エルサゴはこれらの事情を把握するとただ一言「島はあなたたちの物です」。こうしてロメルニス王国を滅ぼした大同盟軍だったが問題は山積みだった。


何事も壊すのは用意で、築くのは困難であるとの理がある。ロメルニス王国が崩壊し秩序無き世が到来した。(旧王国領内で)強大な国力を誇っていただけに周辺国への余波もすさまじく戦後処理は困窮した。何よりも問題なのは旧王国領内の治安の維持と領土分割、そしてエルサゴの処置である。エルサゴは元は将官クラスだがクーデターまがいを起こし指揮権を奪い取った。そのお陰で戦争には勝利したものの軍規違反を犯したのには違いなかった。しかし下手に処分を下すと民衆からの反発が強く、最悪暴動も起こりかねなかった。(それだけ彼は庶民に人気があった、英雄)大同盟軍加盟国上層部(宮廷人)は知恵をこらした結果最適の処分を思いつく。エルサゴに旧王国領土の治安担当長官を命じたのだ。要するに、一番の汚れ仕事を命じたのだった。だがエルサゴは不服無く受諾する。差別の源と言われたロメルニス王国を「平等」の大義の名の下に滅ぼした。(他種族混戦軍、エルサゴ自身も混血)もはや世界が他種族を受け入れ無ければならないのは時間の問題だったからだ。理想の実現のため彼は最後まで身を粉にするつもりでいた。治安維持上旧領土内にいる不穏分子を削り取らねばならなかった。これには軍事力が必要とされたがエルサゴの現状を聞きつけ彼の元部下達が馳せ参じ一端の軍団を形成していた。主な不安勢力は三つ。一つ目は旧領土北方に位置する「オケアリアス都市同盟」。(元は都市間の利益を守るための同盟勢力だったが王国崩壊を受け軍事同盟へと変貌。北海の海賊やさらに北の群島や半島の勢力とも繋がっており(植民も行っている)奴隷貿易で財をなしていた)二つ目は「オトー二ヤ・アンクル」。(元は炭坑夫らの共同体だったが鍛冶職人が研究のために参加しそれを受け王国各地に網を張り巡らす勢力に変わった。王国崩壊で奴隷商人や食い詰め兵士に傭兵が合流しておりある種の軍閥)最後に「アダゴント」。(一番やっかいな勢力。王国躍進に深く関わっており他種族狩りを生業とする騎馬集団。その前進は王国の旧強襲偵察部隊であり結束を固め独自の武装勢力として王国から権限を与えられるのに成功。血族を重視して一族で家業を受け継いでいる。その存在はロメルニス王国の発展と密接している)だが、エルサゴはこれらの勢力を全く恐れていなかった。なぜなら王国崩壊の余波を受けその副次効果として生み出されたものが少なくなかったため治安を維持し職を見つけてやれば切り崩せるスキが数多く存在していたからだ。実際前述の2集団においてはその方法で緩やかな武装解除が実行された。(抵抗した奴らは皆殺し、無論のこと)だが一番やっかいなのは騎馬集団である。彼らはエルサゴの理念と真っ向から衝突する活動を行っているため最早根絶やししか選択肢は無かった。彼らとの抗争は血で血を洗う激しい物だった。(騎馬を駆使し逃げ回りつつも隙を見せれば攻勢に出るといううまいやり方)地の利もある上に未だに周辺住民にも根強い人気があり奴隷狩りの技を駆使してエルサゴ軍を苦しめた。(彼も何度か重傷を負わされた)だが、二年の激闘の末彼らを王国領内北西部に閉じ込めることに成功する。焦った彼らはそこらかしこで略奪を繰り返し住民の支持を失っていた。そんなときある都市からエルサゴに支援要請が来る。襲われているので助けていくと。彼は疑いもせず少数の兵を先行させそれと行動を共にし都市へと急行した。後続の軍が駆けつけたとき見たのは固く閉ざされた都市とその城壁の上に誇らしげにかざされたエルサゴの遺体だった。(都市は差別主義者が主権を握り住民もそれに習った)(備考、エルサゴの遺体はバラバラになっていた)全てはエルサゴを殺すための罠だった。英雄の死、それはいかなる障壁をも乗り越え波紋を世界へと広げた。享年47歳、最後まで理想を信じてやまなかった。彼を殺害するのに成功した「アダゴント」はパレード気分だった。宿敵を討ち、王国でさえ息を止めれなかった男を仕留めたのだから。彼らが支配地域の独立と国の建国を宣言したのはエルサゴの死の四日後だった。彼らは身の程をわきまえなかった。エルサゴの仲間は報復を決意する。集められるだけの兵を集め(エルサゴ直属の兵士、傭兵、副官らの国の国軍、志願兵)騎馬集団の領域へ進撃を開始した。それぞれ別々の集団だったがエルサゴの元で戦ってきた戦友達である、何も遣り取りせずとも呼吸は万全に合っていた。絨毯爆撃のごとく敵領内へ突入した彼らは村という村、町という町を全て焼き払い砦を潰しどれほど小規模であっても敵集団をひねり潰していった。四ヶ月足らずで騎馬集団の国は壊滅し、エルサゴの誅殺に手を貸した都市は報復として赤子に至るまで皆殺しの上、町を焼き払い地上から抹消させた。騎馬の集団で捕虜となった者は最も恥とされる死に方で処刑された。(裸にされたうえ、馬を使用した刑に処されること)こうしてロメルニス王国の意志を継ぐ者はどこにも居なくなった。


 巨星墜ちる。彼が生き続けたらどれ程の偉業を成し遂げたのだろう。又その影でどれだけ多くの人々が死に行くのか。ただ一つ確かなことはオテオス・エルサゴの代わりを務める者は誰一人としていない。皆はエルサゴには成れないのだ。彼の死をきっかけに旧領土をどうするか各国が激論を交わした。王国領土は宝の山と言っても過言ではないほど地下資源や豊饒の大地、海、そして技術や人材が眠っていたからだ。戦争が始まった。エルサゴの戦友達はその最前線で戦った。かつての友を裏切り殺し利用し、それぞれがそれぞれの思惑で戦った。エルサゴの理想は歴史の渦へと消えようとしていた。「後継者戦争」と後の世で呼ばれることとなる戦いの勝者はエルサゴの盟友であったオベラティウス・エフェスその人だった。30年に及ぶ戦いの中、彼がどれほ程苦悩し、葛藤し、後悔したか示す物は何一つない。彼が死にその息子のダキウス・エフェスがモントル(架け橋の意味を持つ)帝国の建国を宣言したのは偶然か必然か。いずれにしろかつての差別主義の土壌であった旧王国領内にヒトと他種族が手を取り合う国が産まれたのは皮肉としてもおかしくはない。この帝国は以後四百年にわたってオスル(大陸)の覇権を握り続け唯一絶対の超大国として君臨し続けた。その政治体制は皇帝を頂点に元老院による議会政治である。新たな血を受け入れながら帝国は巨大化していった。最後にはオスル全域の国々を飲み込むまで成長した。エルサゴの夢は彼の死後50年後にようやくか叶ったのである。(それでも数の比率的にヒトが上位となる、差別はやはり消えない。それでも共生を成し遂げたのは大きい)だが国は栄枯盛衰なもの。いつかは終わりが来る。末期の帝国は政権を一族で受け継ぐいわゆる貴族性とそれほど変わりが無く、インフラ整備には金を投入せず防衛をおろそかにしがちだった。(敵という敵がそれほど居なかった)とどめを刺したのは諸部族民の大移動だった。遠く東の彼方から彼らは移動してきた。押し出されてきたと言っても過言ではないだろう。草原と山岳、荒野と砂漠、森林を越え彼らはやってきた。カン族と呼ばれる彼らは生粋の騎馬民族だった。騎馬では語弊があり正確には「ジェメ」と呼ばれる魔獣を操るヒトの集団だった。その容姿はまるで小人のようだが彼らより大きくドワーフと同じほど屈強な体格で悪魔のような顔らしい。彼らの移動の要因は食糧不足だった。当時世界的な気候変動が起きあらゆるバランスが崩れ例年より遙かに下回る量の食糧しか確保できずにいた。そこで彼らは豊かな土地を目指し移動を始めたのだが行く手に存在する定住民をことごとく追い立てたので彼らもカン族から逃げるため移動する他無かったのだ。人間食うに困ると何をしでかすか分からないのは自明の理である。そんな人々が平和を享受し安定的な食糧を産出していたモントル帝国に目をつけるのは当たり前のことだった。平和ぼけのお陰で碌な防衛体制すらもとれなかった帝国は元定住種族民(難民)とカン族の二重の大津波をモロに受け内部分裂を起こし自滅の道を辿った。長い長い時が過ぎ、収奪のためにやってきた彼らが満足しその地に定住を始め元々居た民族と交わり始めた。新たな秩序が生まれ、新たな国が勃興し、新しい民族や種族が興った。彼らはどこへ行き、そして何を為すのか、それはこの後の本編で。

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