『風の荒地』(=シィオル・ドォルテーガ)
『風の荒地』(=シィオル・ドォルテーガ)
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・・・ハト・ミッレト・・・改訂中
かつてヒトは魔族を恐れた。しかし魔族とは蔑称である。彼等には誇り高き「グルカン」の名前があるのだ。魔王大戦と呼ばれる“100年戦争”初期でグルカンに打ち勝ったヒトが、勝利を誇示するために使い出した。
遥か昔、オスル領域から遙か東方に位置するオイレン山脈に住んでいた彼等は更に東から襲来したカン族に押し出されてオスル最東部の現在の地でようやく安住を得た。しかし、彼等の黒みがかった青白い肌はオスルのどの勢力にも受け入れられず無視されることとなる。
恒常的にわざわざ奴隷商人が私兵と共に乗り込み、酷い場合だと国家が組織的に武装勢力を送り込み掠奪と簒奪を繰り返した。
耐えるしかなかった。ヒトが傲慢にも自らの地位を過信し自分たちを物扱いすることを何時の日か後悔させる為にグルカンは力を蓄えた。
点在していた協同体が連絡を取り合うのは容易だった。技術を少しずつ奪って独自に発展させることもした。同じくヒトの奴隷狩りから逃れてきた者達を受け入れた。その殆どが獣人だったため、彼等のツテでオスル全域の共同体とも連絡を密に取り合っていた。“大空戦争”と呼ばれた戦争で敗退した竜人達を受け入れ強力な国家を形作っていった。
ヒトは何も気づかなかった。グルカンの支配地域は彼等の認識では魔境同然で、関心がなかったのだ。その遥か縦深奥深くで何が行われているかなど、興味すら抱かなかったのだ。
そして、『ノゼェーリフ大王国』と称して“大空戦争”終結後、200年が経過した時代にヒト国家に対して戦端をこじ開けた。
それは同時に獣人の蜂起へと発展し、大戦へと発展した。爆発的な勢いで前進する大王国民は僅か2月足らずで2つの大国を陥落し4つの小国を蹂躙した。
10年に渡り各地を転戦しオスル中央部の大森林にまで勢力範囲を拡大した。ただし、ヒトは馬鹿ではなかったし、グルカンが期待した勝利と殺戮の高揚はその頃には得られなくなっていた。
それはヒトの国家が脅威に対しての団結をまだ忘れていなかった。つい100年足らず前にスコイラ帝国からの侵攻軍に対して、大同盟軍を結成した事実があり、ノウハウは未だ廃れていなかったことになる。
ヒトの国家は徹底して守勢を貫いた。挑発に乗らず奥へ奥へと引きずりこんだのだ。同時に徹底した焦土作戦を実施して民達は後方へ下がらせた(あまりにも身勝手な計画で、殆どが味方に殺され、捨てられ、見捨てられた。初期の難民が生まれた瞬間でもあった。ヌムや北海へ離散した者も多かったという)。
大王国は大同盟の遅滞戦略を見抜いていたが、死守されている要衝を攻略できる体力はすでに尽きかけていた。勝利は心地良いものだが、それに溺れすぎるのも良くない。オスル最果ての地である東を脱し、安全で豊かな地域を勢力圏に収めた今となってはグルカン達も、彼等に付き従った者たちも、段々と意見が食い違い始めた。
その間ヒトは後方の憂いである獣人達の驚異を取り除くことに着手する。軍へ志願し、功績を得た者へは特権を与えることや未開拓地(魔境や迷宮)に率先して開拓を志願したときその地を自治地域として認めるなど、彼等の不満はヒト世界の圧迫なのだから彼等の世界を与えるか、ヒトの支配層への参入権を与えて上への道をちらつかせた。
そもそも、獣人達への認識はこの当時すっかり変貌していたのだ。帝国崩壊時に全てのモラルが吹き飛び、再び種族同士、民族同士で殺し合ったが一段落つけば共存していた事実があり、ヒトとの混血も多く存在し社会の一部としてどこかで認められていた。
蜂起が頻発したのはヒト至上主義の宗教地域か隔離政策をとっていた国などに集中している。しかしやはり、獣人達の不満は溜まりに溜まっていたことも実情だった。
ヒトの覇権はまだ不安定で、むしろだからこそ不満をぶつける対象を異種族や異民族に求めていた。強者の寛容が出来始めるのはまだ少しかかる頃だった。
当時の獣人は全体数の3分の1は魔境で生存しているので、大抵がその地で生存権を死守している。蜂起の危険性を抱える国家も厄介払いできるとして快く承諾した面も助太刀となった。こうして10年の内に攻勢限界点まで引きずり込まれた大王国の民と挟撃の可能性を切り捨てた大同盟が対峙する。
本国との補給が滞りがちとなった大王国の民の間では意見が完全に割れていた。魔族の集団は、グルカンが主導しているだけで基本は内部の各勢力の思惑が入り交じっていた。それに加え、本国を捨てて入殖を試みる集団も出てくるし、本国そのものを見限ったり嫌悪したもの達も中には出始めていた。
魔族が一致しているのはヒトへの憎悪のみでしかない。勝ち続けている時は関係ないが、敗北や情勢が長く膠着するとすぐに分裂気味になった。
大きく分けて継戦派と講話派の派閥が出来上がりつつある中、反抗作戦の準備の一環としての内部工作により情報を得ていた大同盟側は仕掛けるならば今しかないと判断する。対戦開始から12年目にして反撃の狼煙をあげたのだ。だが一方でこの動きは同じく敵陣への情報収集並びにヒトの一派からの支援を受けて、警戒に余念がなかった魔族側も察知して防御の態勢を整える。
しかし大同盟には防備を打ち破る革新的な武器を保持していた。まず「大砲」。竜人達との覇権戦争時期に開発され、南方のスコイラ襲来時に効力を発揮した火薬を用いた兵器だ。
試作として投入された魔導砲を参考に、ある程度東方から伝わっていた火薬を応用したのだった。これは城壁を崩すのに重宝した。
次いで「砂漠の血液」と呼ばれる極めて高い粘性を持つ発火する液体だった。スコイラ侵攻時に始めてオスルの民の目に触れたものだった。火焔弾の一種で一般人でも扱えることから当時の大同盟軍も苦しい戦いを強いられたようだ。
その時の手法を真似て事前に大陸から仕入れていた物を戦線に投入し、防衛陣地を突き崩すのに非常に役立った。魔導よりも簡易で安上がりなのでこの点でも重宝された。
こうして時間は掛かりつつも徐々に大王国の民を元の領域に押し込めていくことに成功したかに見えた大同盟だったが、魔族とて必死の想いで掴み取った土地を明け渡すわけにはいかない。幾十にも張り巡らされた防御線と陣地とそこに張り付く決死の覚悟を持った民達の抵抗が大同盟の進撃を停止させた。
勝利をどうしても渇望する大同名側は、是が非にもどこかに楔を打ち込みたかった。
この当時、北海大陸同盟はできたばかりの連携も定かでは無い、新参勢力で大同盟にこそ参加してはいないが大陸の政治に参画できる機会を狙っていた。大王国西海岸への上陸作戦は大同盟にとって願ってもいない機会だった。こうして大王国側は戦端を開いて以来始めて本土が戦場と化した。民達は一族総出で最前線へと赴いていたのでろくな守備勢力もいなかった。
ただし大同盟とて地の利がない以上下手に奥地に進んで全滅するのは本意ではないので、前線拠点の構築と周辺への偵察を行う。この判断は正しく、オスルの東部はまだ開発が進んでおらず、グルカン達が作った大王国がが最大の勢力なだけで、全く未開だったり未接触の民達が数多く住んでいた。余所者の大同盟は現地民に敵と等しい認識をされている。
大同盟側はまずこれらの民達に対しての対策を立てねばならなかった。これが大王国が防御戦を造る時間を与えることになり、同時に強襲上陸の発想を手に入れるきっかけになる。
これを真似て撤退を強いられていた魔族達は敵軍の後背に乗り上げる作戦を立案する。選らばれた一部の精鋭と失うものがなくなった民たちが志願した。水先案内人は元北海民で、完全に現地と同化していた者達が選ばれた。
変わらず川を利用した昔ながらの移動兼戦闘用の船で交易を行っていた彼等はこの作戦に賛成出来かねなかった。南海への出口は確保しているとはいえ、戦局をひっくり返せる戦力を輸送することは現実的ではなく、道中必ずヴィッチェオ共和国やジェスコ市国等の海洋国家の艦隊が妨害してたどり着けないと訴えた。また当時は南海の鯱であるアレシア王国の艦隊も見逃すはずがない、と。
しかし切羽詰まった情勢を打開する手段として如何に現実味がないことでも実行する他ない状況で、何よりも住もうとした土地を追い出された大王国の民達の懇願も後押しした。
彼等に幸運だったのは南海を渡る可能性を大同盟が見切れず、海洋国家も警戒がヌム国家からの大同盟軍への支援物資(正式な国家間の交易)を狙う海賊相手へ警戒を強めていたため妨害は予想海域よりも奥で、実に大同盟傘下の地域でも中枢を担う国の後背へと揚陸できる地点で起こった。
南海中部で補足された魔族船団を慌てて追う形となった各国海軍だが南海は彼等の庭であるし、練度十分な海兵もいたので急ぎこそすれ恐れなど微塵もなかった。結局魔族の船団は上陸に失敗し西へと海流に押し出された。
全滅を免れたのは、南海の水棲系種族が同情を覚え、こっそりと手を貸したからだ。後で大同盟に発覚したが、彼等の気持ちも理解され、不問となった。
これで少なくない兵力をすり減らすこととなった連合艦隊は最早戦略目標が達成困難なため、上陸可能な地点ならば何処へでも上陸して死兵となりて少しでも大同盟各国に損害を与えることを決意した。
こうしてオスル南岸に次々と漂着した彼等は文字通りの現地調達で物資を補給しながら領域内で暴れ回った。殆どの兵が出払っているのは双方同じなためかなりの損害を与えることに成功した。しかし時間の問題で全滅は必定だった。
一部の勢力は未だに蜂起を諦めていない獣人勢力と接触しそれなりの規模と化した。一時はイーロー山脈からモーレリア山脈を横断する規模の領域の獲得に成功したが、『カサマント帝国』(後の連合共和国)の援軍で現地国家が奪還に成功し全滅した。これが後の“100年戦争”の一端になってしまう。一方のグルカンと獣人や各種族の集団の本体は作戦の失敗が明白となり打つ手がなくなってしまう。そしてついにグルカン同士は勿論、その他の種族同士で意見が一致しなくなり対立が露わになる。
父祖の代より恨みを教え込まれてきた彼等だが、最早それを信じるほか自己を維持できないほど追い詰められていた。徹底抗戦しか道が見えていない彼等に見切りを付けて講話派やその他の諸種族、民は大王国を離脱した。こうした動きによって大王国から分離したのが現在のスラヴィア公国だった。
この集団は大同盟と単独講和し戦線を離脱した。大同盟側も上陸部隊は一向に奥地へと進めず、挙句には魔族達に背後をひっ掻き回され、余裕が少なくなりつつあったのだ。しかしこの大王国の分裂が彼等の勝利を後押しした要因となった。
大幅に国力が削られた大王国の寿命は風前の灯火であった。“コンクスの戦い”での【“大王”ハッシュミト・テルガデ】の死は寧ろグルカン達を死兵へと変えてしまった。数少ない捕虜は大同盟の勝利の証にすらならなかった。20年に及ぶ戦いは幕を閉じかけたが大同盟が手に入れた土地を巡っての争いが長引いた。初めは大規模な戦いが、そして延々と小競り合いが続く80年が到来した。
ハト・ミッレト(意味は“再建の誓い”)は生存の獲得を目指してオスル戦乱を尻目に細々と国力を蓄え、250年以上を経てようやく大国の地位に返り咲いた。スラヴィア公国とは紆余曲折あるものの聖ローリス騎士団と敵対する点で一致している。国力回復の証としてか、識字率がとても高い。
統治体系は【長老議員】と呼ばれる各種の有力者達の合議制で営まれている。グルカン達にとっての敗戦で大王国は空中分解し、大勢のグルカンが国を見限って“100年戦争”真っ只中のオスルに一旗揚げようと出て行った。その隙を突き、今までグルカンによって牽引されてきた支配地域の種族・民族の勢力増長を許してしまい単一種族で主権を握ることは不可能なったからだ。
この時代ではオスル各地の国や地域にグルカンの血は受け継がれている。不思議なことだが、今日のヒトの覇権は結局は他種の力無くては為し得なかったのであって、ヒト自身もそのことを思い知らされた。なので、当時のヒト同士が争う愚かな“100年戦争”期でもあったからこそ、逆にそれ程忌避されること無く受け入れられたのかもしれない。
それでもグルカンに対してヒトが潜在的な危機感を持っているのも事実ではあるので、対抗策としてハト・ミッレトは大王国時代に大同盟にとって恐怖の代名詞であった【魔王】の技術を引き続き運用している。一種の異界転生のようなもので、グルカンが元々は祖先帰りの儀式として使用していたものを応用・転用し生み出された特異魔物である。単体(分体機能や増殖、繁殖、統率、寄生、洗脳等の能力あり)でも大同盟に大損害を与えた。
ところがこの【魔王】は必ずしも国に利益をもたらす存在になるとは限らない。お世辞にもハト・ミッレトは強固な統治体系とは言い難く、議会内での政治抗争に利用される場合もあれば、それに嫌気が差して独自の軍閥(勢力)として独立してしまう場合もある。酷い場合だと神国に引き抜かれてハト・ミッレトとの対決を露わにする場合もあった。これらに留まらず、オスルやヌムにまで独断遠征を敢行し、各地で厄災をもたらす事例もある。それだけでも迷惑だが定住して独自の勢力圏を定める場合もある。
ヒトの論理体系ではなく、それより威力がある自然体系が基礎となる魔導を使用し、尚且つその扱いが優れているのに加え軍事用に鍛えられ研鑽を積んだ魔道生物兵器そのものが【魔王】となるので、討伐しようにも無駄な犠牲が積み重なる。【魔王】はハト・ミッレトに各国の不信感を集めたが、どこも似たり寄ったりのことを戦時平時問わずやっているので強くは追求できないらしい。
狂気じみた戦闘能力を持つ聖ローリス騎士団はこういった【魔王】専用の撃滅部隊を運用しているとの噂があり、事実として誰に討伐されたのか不明の【魔王】も数多く存在している。これはハト・ミッレト領内でも確認されているため彼の国は現在、本格的に騎士団を相手取るために統一連盟と取引をして、軍制改革に勤しんでいる。主力産物は毛皮や塩で、北海大陸同盟や神聖王国北岸とは頻繁に取引がある。その他に国内に鉱石の一大産出地が多数存在している。
ヒトに対しては領土内に少なからず生存している上に混血も多く、大陸全土で同胞が受け入れられているので昔よりは好意的。国土防衛のため他国間の対立を維持することで自国領から目をそらせてきたので、かなり外交上手だろう。【魔王】もそのための一手段に過ぎないようだ。
・・・スラヴィア公国・・・
遡ること250年以上も昔、“魔王大戦”が既に魔族達の敗退の段階に入った頃、大王国を見限り分離独立した勢力が前身となった。現在、形の上ではグルカンの公爵(大戦時に講和派を纏めていたのが大王の異父兄だった)が担ぎ上げられているが、実態は魔族グルカン内の各氏族を中核とした土豪勢力が割拠しており、慢性的な内紛が続いて完全に公爵位は形骸化している。
その領土は、大陸オスル最東部に位置しており、その更に東の先は強力な魔物が跋扈する領域のため人類の行き来は非常に少ない。ただし、大移動が証明しているとおり突破は不可能ではない。
現実に、オスルを一部として内包する超大陸には人類の勢力圏があらゆる地域に確立され、現在進行で拡大を続けている。そうした領域間を略奪して廻る騎馬民族や、交易商隊や氏族規模の流民が昔から一定数存在していた。その数は今もなお、増加の兆しを見せている。
大戦末期、既に少なくない数のグルカンが大王国を見限り、生き延びるための手段を模索していた。そんな時に、大王の兄が講和を求める集団を率いて現在の公国領で再起(攻勢限界に陥る前にカタをつけようとしたが内部で潰された)を図っているという。狡猾な者どもはこれを福音として捉えた。
彼等は今なお挫けずに戦い続ける入殖民の同胞とグルカン達をこれまでも支え続けた友好種族を道連れに自滅する大王国を見捨てて、講和派の領域へと雪崩れ込んだ。講和派の庇護の元、保身に走ることを企てたのだ。しかし結局、大王国の自然瓦解と大同盟(当時の対魔族征伐軍)側の継戦能力切れと後方の喪乱勃発に伴った“魔王大戦”の呆気ない終結で梯子をいきなり外され、なんとも後味の悪い空気が残った。
だがそれも、大同盟側が“魔王大戦”から“100年戦争”へ呼び名を変えながら壮絶な内輪揉めを開始し、旧オトケヴィクシ邦圏が支配した広大な土地が緩衝地帯として機能することが確認されるまでだった。西方人(グルカン達のヒト種の認識)が本土での戦いに熱中し、最早遠征する余力も危害も無いことを悟った彼等は講和派に対して権力闘争を仕掛けた。たとえ匿って貰った恩人だとしても、危機は過ぎ去り、困難で苦難に満ちた時代が待ち受けていたからだ。
しかし講和派は持ち前の屁理屈と温存した武力を存分に奮ってこの厄介な複数の無法隣人の集団を組み伏した。グルカン達であっても殺し合いに疲れていたのだ。公国の枠組みが出来上がったのもこの当時である。けれども、100年も経つと世代交代や周辺勢力との軋轢、表面化した各首領(旧長達)同士の血族対立、公爵位の継承問題、治安の悪化、産業の行き詰まりが重くのし掛かった。
そして遂に内紛が勃発した。間の悪いことに、統一連盟の急激な伸張による大陸オスル各地での大国化の時期に重なり、周辺をも巻き込んだ代理戦争の性格が強まっていった。緩衝地域に神国が生まれ、ハト・ミッレトでも合議制が定着し安定化するにつれ、公国の内紛も急速に萎んだが、それまでに払った犠牲は戻らない。
公国は住民の8割方がグルカンで構成されている。彼等は基本的に排他的である。代理戦争時代に各地から雪崩れ込んだ傭兵や余所者に好き放題収奪され、またしても奴隷として連行された者も少なくなかったからだ。当時の記憶と憎しみは今でも受け継がれ尾を引いている。土地に対しての執着が強く、自分の土地は自分で守るか奪う気風が根強い。
ハト・ミッレトの領域から続く大陸北洋へと打通した河川が領土の奥深くに続いているため、物流の要所要所に北海系各種の入殖地が残っている。ヒトに対しては厳しい風潮が残っているが、入殖者を受け入れて、交易を重ねる内にそういった複雑な恩讐の関係を乗り越えてきている。
クサンティオ族のように、人類勢力圏のある超大陸中央部からの覇権争いで負けた種族や一族が偶に来るので本格的に東部への開拓を視野に入れている。培われた気風故に、こうした流民が来る度に公国内部の勢力図を巡って内戦へと発展することが多々であるため、開拓は公国の苦しい内情を打開するための苦肉の策でもあるのだ。
大陸東部の最強の一角である神国とは犬猿の仲であり、幾度もの衝突を重ねているが、皮肉にも彼の国の傭兵需要が貧しい公国民達の稼ぐ手段として定着してしまっている。それより現在は聖ローリス騎士団を目下最大の怨敵として捉え、ハト・ミッレトと神国同士の連携を差配することを望んでいる。
ハト・ミッレトについては最大の仮想敵国として憎悪を秘めた対立関係にある。代理戦争を仕掛けた張本人の1人であるし、自分たちが見捨てた旧大王国の大地を豊かに作り替えたことにも嫉妬を覚えているようだ。向こう側からしても、公国民は戦争を勝手に放り投げ自分達を見捨てた裏切り者共の子孫だと不信感を持たれ両者の間に広がる溝は深い。
公国の主な輸出品は毛皮であり、交易品を鈍海東部に建設した港湾要塞都市からあらゆる地点に運送できる。鈍海での権益争いでは後発であるのでヴィッチェオ共和国への対抗策として利害が一致したジェスコ市国と協調している。
以前は領土奥深くまで続く川のお陰で北海まで交易業を広げていたが、騎士団が北岸出入り口を容赦なく通行封鎖したため、公国経済の雲行きが怪しくなっている。また“凱旋”時に騎士団は川を下って公国領へも進出を開始したので、報復として公国は騎士団の河川封鎖目的の砦を崩落させた。
騎士団はこれで完全に公国を仇敵と認識したが、ハト・ミッレトが軍制改革に乗り出してきたので騎士団はそちらへの対処で後手に回り、以後、河川の主導権は公国が握ることになる。しかし膠着した情勢をいい事に悪しき伝統の密貿易が活発化しているらしい。
現在の公爵はチェーキレ・カロバ・ロホグシ1世
・・・アルシュミオン星抱神国・・・作成中
アルシュミオンは単に神国とだけ呼称されることが多い。その版図は鈍海北岸から北海領域までの大陸東を南北に打通する広範囲に跨った領域である。完膚なきまでに叩き潰された『オトケヴィクシ邦圏』が栄華を享受した領域は“魔王大戦”後に行われた再殖民(東へ追いやられた聖槍信徒会が推進)によって勃興した無数の中小国家が割拠したことで有名だった。
だが現在より120年ほど前に起こった“訪神運動”の惨劇の末に誕生した神国によってその大部分を削り取られている状態である。その急進的な勢力拡大と閉鎖的な信仰制度を危険視した周辺国により形成された包囲網を何回も食い破る実力を持っており、大陸オスル東部の覇権を競っている。
星抱神スヴィクアラの御心が代弁される御告げに従う忠実なる民達と、彼らを率いる星抱神に忠誠を誓う伝導者が政治の中枢を担う狂信的な宗教国家である。御心を信じぬ者達を邪教の徒として徹底的に排除することで現在の大国にまで成長した。鈍海圏や北海圏やグルカン圏に属する国々にとっては仇敵と言っても過言ではなく、幾度もの熾烈な殺し合いを繰り広げてきた。
旧名が『アルシュミオン公国』となるオスル東部に位置する大国であり鈍海で強大な権力を持っている。元々は東部への再植民によって建国された雑多な国家の内の1つだったが、カートラント王国からの騎士団の分離独立を目の当たりにし、王国の無力を痛感した結果、勢力圏に入るのを拒み周辺国を吸収して成り上がった。位置的に魔族グルカンに対する防衛の最前線となってはいるが、聖ローリス騎士団の誕生で共通の敵を見出し、妥協に成功している。
騎士団は元は入植民の警護部隊だったことから、大陸東部の国家に対しては実質の盟主のように振る舞う節がある。それらの国家を吸収合併した大公国を騎士団はライヴァルだとし、敵愾心を抱き、なんとかして影響下に組み込もうとしている。
そのため、大公国は騎士団への対抗措置として周辺国との協調を図ろうとするが、国が他の国を飲み込んで出来た性質上、侵攻を念頭に置いてしまう。周辺国からもそれを見透かされ、騎士団用の盾としての役割を押し付けられる形となっている。強みが弱点となってしまうことになったが、現在までも騎士団に対抗できている。
しかし、これらのことは重大な欠陥であることを大公家を始め、宮廷の幾人かは理解しているが、構造的な矛盾を排除できず、戦争によって地位を保ってきた名家も多いので彼等の突き上げを受けている。
国内は新たに入植してきた民と、住処を捨てなかった現地民の混合状態であり、土着信仰の力は侮れなかったが民族的・種族的な信仰は維持されてる。一応は一神教国ではあるが、言い切れるのか非常に難しい。大公国の国教は「“鉄と明星の星神”リンテンドット」とされている。戦乱で荒らされた国土を復興させ、尚且つ拡大の時代において他国を喰らって生き延びることが優先された名残である。
公国で信仰されていたが、大公国へと変化したときに正式に国教として革めた。ただ、信徒は大公国民の3割にすら満たず、名門や大公自身は崇めているものの、殆どの平民階級はそれぞれの信じる神を祭っている。なので、一神に統率された多神の国とも言える。
鈍海に面している南部は非常に肥沃な大地であり、農作物が豊富に採れる。しかし、近年では超大陸中央部からの移民が鈍海を越えてくることが増え、南部農民との軋轢が広まりつつあることが懸念事項だろう。その他にも今までに征服された国家の復権を目指す動きが各地で起こっている。
グルカンに対しては警戒心が強く、これはグルカン系2大国と面しているので致し方なく、実際に国内のグルカンの約1割弱が2国の間諜として動いている。
現在の大公はヨガイラ・ドット・ケーストゥティス1世