失恋した時に読むラブストーリー
構想3分、執筆20分。
誰にでも、忘れてはいけない時代がありますよね。
春菜が泣いている。
春菜が、校門前の階段に座り込み、失恋の傷を抱えて泣いている。
俺には分かっていた。
俺には、春菜の想う先輩にはもう好きな人がいて、その人に真摯に尽くす真面目な先輩であるという事が分かっていた。
春菜は校庭一面の桜に背中を押され、失恋覚悟で先輩に告白し、そして桜より一足早く散っただけ。
俺は春菜の決意に戸惑い、心の底では認めたくなかったが、結局彼女を応援した。
春菜はまるで一本の木の様に、自らの周りに悲しみの花を咲かせ、やがてその素足が校舎に根を張っていく。
俺はまるで散り行く花びらの様に、風に舞いながら彼女の視界を離れ、やがて生徒達の喜びと悲しみの感情が俺の身体に降り積もっていく。
行き交う誰もが春菜に声を掛けられず、やがて夕焼けは泣き尽くす彼女と、感情の重さで動けない俺の背中を焼き尽くす。
俺と春菜の関係は、何物でもない。
元カノ、元カレでも無いし、幼馴染みでも無い。
ただの友達だ。
でも俺にとっては、ただの友達で終わりたい人にはならなかった。
今はどうしようも無い。
春菜は悪くないし、先輩も悪くない。
俺は彼女の失恋を目の当たりにして、自分にもまだチャンスがあると、少し安心するかと思っていたが、そんな事は無かった。
好きな人が悲しむのは、そして誰も悪くない現実を知るのは、見ていて胸が張り裂けそうだよ。
夜桜を揺らす風が消える頃、春菜はようやく泣き止んだ。
俺の身体に降り積もっていた感情が消える頃、俺達はようやく顔を見合わせる。
少しばかり不思議そうに、真っ直ぐ俺を見つめる春菜。
俺に出来る事は、春菜に好きなだけ泣かせてあげる事であり、彼女を決して見捨てない友達の代表として、この場にひとり残る事だけ。
それ以上の何か、幸運な何かを期待したら、俺は余計な慰めをかけてしまっていただろう。
「……帰ろうか……?」
夜空の下では、笑顔も涙も謎のまま。
この一言だけ、言ってもいいだろう。神様。
その瞬間、春菜が再び泣き出した。
俺は事態が飲み込めず、思わず彼女の元へと駆け出していく。
「……うっ、ああっ……あ、ありがとう……」
涙と嗚咽にまみれて、春菜はそう声を絞り出し、俺達はもう少し、夜桜を眺める事にした。