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清貧に生きる野良神官は魔物退治をしながらお金を稼ぐ夢を見る  作者: 兎野羽地郎
第一部 第四章

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第十三話 誘拐事件

 十一月になった。

 メアリーが成人したので、マルセロ商会とアドルフさんにお披露目をした。薬師だが、薬草が採れるところへ行くときには一緒に魔物狩りをするからだ。


 まずは装備の授与だ。

 と言っても、皆の前で試着するだけだが。

 

 黒紫、緑マーブル二種類、頭巾、ネックガードを装備してもらう。刺繍は薄紫だ。

 おしゃれが大好きな彼女はネックガードが気に入ったようで、この日以来毎日つけるようになった。 


 それはいいのだが……。


「どうしてもネズミ退治は嫌なの?」

「嫌よ。下水道の中に入るんでしょ? 服が臭くなっちゃうじゃない。手が汚れたりしたら、変な薬が出来ちゃうわ」

「服は大丈夫よ。黒紫があるし。頭巾被っとけば髪の毛も守れるわ。何かあってもクリーン・アップの魔法使ったげるわよ」

「い~や!」


 森に入って薬草を引っこ抜いても手は汚れると思うのだが、嫌なら仕方ない。どうせ来月成人する娘はもっと嫌がるだろうし。


「じゃあ、仕方ないわね。パウルさんの話じゃ、今月の半ばくらいにはキツネが出てくるみたいだから、その時に一緒に行こうか」

「出来れば、薬草は週に一回は採りに行きたいんだけど」


 週に一回か。今はネズミ退治くらいしか仕事がない。まだ行ってない禁漁区の西側にでも行くかな。


「どうですかパウルさん。禁漁区の西はまだ行ってないですよね」

「まあ、そうだが、どうせなら北の渓流沿いまで行ってみんか? その方が珍しい薬草も取れると思うぞ」

「遠くなったら帰って来るのが大変じゃないですか」

「何、パウル流空飛行術でひとっ飛びじゃ」


 それを言ったら食いついてくるに決まってる。


「何それ? 空が飛べるの? あっ、思い出した。この間皆で乗ったっていうお椀でしょ?」


 お椀の操縦手がふんぞり返ってアピールしている。


「乗りたい! 乗りたい! だって、私だけ乗ってないもの。皆乗っているのにぃ」

「よっしゃ! 決まりだな。いつにする?」

「ええと、月曜日と金曜日はネズミ退治の日です」

「じゃあ、火曜日にしよう。明日よ、明日! お店には話しておくわね!」


 パウルさんがニヤついている。

 優しさということにしておこうか。




 テレポートの魔法陣で移動、ソリに乗って展望台へ、急な階段を降りて湖の岸辺に、そしてゴブリン達の巣に到着。工作所の二人が建ててくれた丸太小屋でロビンソンさんと語らう。

 ここまで、何と半時間。

 初めて上下水道管理事務所まで登った時と比べると、随分と便利になったものだ。


 ベアトリクスと二人で、感慨にふけってしまった。


「あんた達は恵まれているのよ。ここまで開拓した私達先輩を敬いなさい」

「そうだねぇ。歩いて来たら大変だよねぇ」

「ありがとう先輩。おかげで凄く楽しいわ」


 ベアトリクスが、ボニーとメアリーに暴風の様な先輩風を吹かせている。

 結局は他の人の力を借りているのだが、ベアトリクスが言いたいことは良く分かる。


「パウルさん。あのソリ素敵ね。私あんなにワクワクしたの初めてよ」

「そうだろう。どうも他の奴らは反応が悪かったのだが、一七五の会にもリュドミラに次ぐ理解者が出たな」


 薄紫の刺繍を入れた秋仕様緑マーブルを着たメアリーの言葉に、パウルさんが得意満面だ。・


 こちらとしてはゲンナリだ。

 あれさえなければもっと良かったのだが、二人目が登場した以上、毎度毎度、乗る事になるに違いない。


 ベアトリクスがロビンソンさんに魔物や動物の絵を描いた羊皮紙を渡すと、随分と喜んでくれた。マルセロさんの手による防水加工済みだ。

 これで、偵察任務の精度も上がるだろう。


「ところで、今日はどこに?」

「ああ、今回は魔物退治ではなくて薬草採取がメインなんだがな。例の渓流の辺りまで行こうかと思っとるんだ。どこか良い場所を知らんか?」

「薬草ですか。それなら、渓流に沿って西に行ったところに行けば結構採れるかな。僕も一緒に行きましょうか?」

「そうして貰えると助かるな。ついでとは言え、クマやオオカミがいたら狩っておきたい」

「分かりました。少し待って下さい。準備しますから」


 ロビンソンさんを加えて総勢六人になった。

 早速出発しようとしたのだが……。


「ちょっと待って。マルセロさんから手紙が届いた」


 部屋の隅の魔法陣が光っていて、羊皮紙の切れっ端が届いている。

 ロビンソンさんは中の原に来てから読み書きを勉強しているので、簡単な伝言なら簡単に読めるようになっている。


 切れっ端を見たロビンソンさんの顔色が変わった。

 何か下であったのだろうか?


「緊急報だ。どうやら禁漁区に不埒者が侵入した」

「不埒者?」


 随分と命知らずな……。オオカミやクマに食われても知らないぞ。


「中の原で強盗が出たみたいだ。六人組で人質をとっている。人質は娼婦だ」


「誰? 人質の名前は分かりますか?」


 メアリーが顔色を変えた。娼館のお姉さん達は彼女にとって家族のようなものだ。無理もない。


 名前を聞くと、この間寝込んでいたお姉さんだった。


 メアリーがひったくるように手紙を見て、息を呑んだ。


「さて、どうするかの?」


 パウルさんが腕を組んだ。


「不埒者はほっといても良いだろう。我々の仕事ではない。問題は人質だ」

「お願いします。助けて下さい。お金なら娼館が出してくれるだろうし、私も働いてお支払いします」


 メアリーが取り乱してパウルさんの袖に縋っている。


「落ち着きな。パウルさんが考えてるのに邪魔しちゃだめよ」


 ベアトリクスが引きはがす。


「だって!」

「大丈夫よ。助けるかどうかじゃなくて、どうやって救い出すかを考えてるんだから」

「本当?」

「当り前じゃない。こう見えても一七五の会の技術指導員よ。任せておけば大丈夫」


 抱きしめているベアトリクスの方が背は低いので、どっちが慰めているのか分からない。

 仕方ないな。

 私が後ろから抱きついて、メアリーの頭を撫でてあげた。


「大丈夫よ。パウルさんは変な人っぽいけど、クレイジーな魔法使いだから」

「あんた、それ褒めてないわよ」

「そうかな? でも確かよね」

「まあ、間違ってはいないわね」

「ねえ、それって本当に大丈夫なの?」


 メアリーが心配そうな顔をしている。


 よし、はまった。助ける前提にメアリーの考えを進めた。ベアトリクスを見ると頷いている。ここは異心伝心だ。


「お金の心配なんかしなくていいから、マルセロ商会に任せときなさい。悪いようにはしないわよ。禁漁区なんて、私達の庭よ、庭」


 ふんぞり返って長椅子に座る。

 メアリーも落ち着いてきた。


「よっしゃ、方針が決まったぞ」


 パウルさんが、ニカッと白い歯を見せた。




 まずは偵察だ。

 ベアトリクスがお姉さんと六人組の絵を描いている間に、ロビンソンさんが鳥を集める。絵を見せて空中からの斥候を放つ。

 禁漁区はかなり広い。どこにいるのか見つけなければならない。


 鳥たちが帰って来るまに、町のマルセロさんとやり取りして情報を仕入れた。

 六人組は他所から流れて来た食い詰めで、とある村に押し入ってお金を盗んだらしい。その後、中の原で豪遊としけ込んだ後、気に入ったお姉さん一人を薬で眠らせて、攫って禁漁区に逃げ込んだ。


「そんなに簡単に泥棒と誘拐が出来ちゃうの? 警備方法見直した方が良くない?」


 ベアトリクスの言うとおりだ。


「手際が良すぎるな。連中、専門にやっとる奴らかも知れん」

「専門? そんなのがいるの?」

「西の原の山奥にな。山賊もどきがおるらしい」

「西の原って鉱山のある……」

「そうじゃ。重犯罪者や他所の国から流れてきて山賊やっとったような、懲役くらっとる連中だ」


 もちろん鉱山で働く全ての人が犯罪者ではないが、懲役刑の大半は鉱山労働というのは事実らしい。


「魔王軍討伐で警備の目が緩んだ隙をついて、集団脱走したのがおるらしいんじゃ。どこに潜んどるのかはわからんが、兵役の経験者が多いから、手強いぞ」

「お姉さんは大丈夫ですか?」


 メアリーは真っ青になっている。

 どうにも相手が悪すぎる……。


「大丈夫だろう。山に逃げたってことは、どこかに拠点があるだろう。そこに着くまでは、変なことをせん限り手は出さんだろうて」

「変なことってなによ?」

「人質が無駄に抵抗して足手まといになったら容赦なく殺すだろう」

「そんな……」


 倒れそうになるメアリーを慌ててボニーと二人で支えた。


「そこは娼婦だ。胎が座っとるから大丈夫じゃろ。取り乱したりせず、身の安全を第一に考えて大人しくしてるはずだ。第一、発覚したのが今朝だろう? まだ半日もたっとらん。逃げるのが先だから、まだ山の中を走っとる最中だな」

「逃げてるところを抑えるの?」

「いや、急襲したら人質が危ない。山賊なんかどうでもいいから、まずは人質の安全確保が第一だ」

「どうするの」

「まずは足取りを掴んでからじゃよ」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 六人組の男達が、木の下で焚火を焚いて、盗んだ干し肉とパンを齧っている。


「兄貴、上手いこといきましたね」

「何言ってんだ。まだまだこれからだぞ」

「そうは言っても、ここまで来ればあいつらも粗方諦めるでしょう」

「そうじゃねえよ。人間の追手なんて最初から問題にしてねえ。問題は魔物だ」

「大丈夫でしょう。この辺りにいたとしても、ゴブリンか、せいぜいオーク。俺達にゃあ、白銀の剣と銀の矢がある。なあ、お前ら?」


 振り向いた先では、四人の男が手に持った干し肉を齧りながら頷いた。二人とも弓兵だろう。左手は弓を放さない。矢筒は何時でも矢羽を掴めるように腰に縛り付けてある。


「それよりも、その女にパンと水をやっとけ。折角攫ったんだ。弱って死なれでもしたら、目的が達成できねえ」

「へえ、分かりやした」




「ほら、お前も飯食えよ」


 男の視線の先には、横倒しになった麻袋から首だけ出した女が猿轡を噛まされている。目だけが動いてるところを見ると、手足は袋の中で縛られているのだろう。


 ナイフを抜き女の首元に突きつけると、ドスの効いた低い声で語りかけた。


「ここは、もう森の中だ。大人しくしてりゃあ殺しはしねえ。何も言わずに飯だけを食うんだ。いいな。大声出しやがったら、ぶっ殺すぞ。いいか?」


 女が頷くと、麻袋をたてて身体を起こしてやり、猿轡を外した。


「ほら、食わせてやるから齧っとけ」

「自分でやるから、手を外してよ。どうせ足は縛られてんだから逃げたりはしないからさ」

「仕方ねえなあ。その代わり、右手の親指は切らせてもらうぜ。それが嫌なら文句言わずにこのまま齧るんだ」

「はいはい、分かりました。このままで結構です」


 男が手に持つパンに齧りつくのを見ると、男はニヤニヤと笑った。




 女が水を要求し、やれやれと男が水筒の水を飲ませてやっていた時、突然大声が聞こえてきた。


「助けてくれえ! 誰か、誰かいないかあ! 魔物だあ! 助けてくれえ!」


「おい!」


 リーダーと思しき男が声を掛けると、女に猿轡を噛ませ袋に押し込む。きっちりと、袋の口を閉じると剣を抜いて身構えた。他の連中も矢をつがえ、声のする方向に向けている。


「助けてくれえ! 誰かいないかあ! 魔物が出たあ! あっ! あんたら、助けてくれ! 魔物が、魔物が出たんだ!」


 大声を出していた男は、三十代だろうか。毛皮を羽織り、弦の切れた弓を持っているが矢筒は無い。顔も体も泥まみれだ。


「助けてくれ、魔物が出たんだ。相棒が殺された」


「おい、水を飲ませてやれ」

「へい。ほら、落ち着けって」


 差し出された水筒を手にせき込みながら慌てて一口、二口、水を飲むと、崩れ落ちるようにその場に倒れ込んだ。


「どうした。どこで魔物に出会った。それとお前は一体どこのどいつだ」

「す、すまねえ。この先で、オークとオーガが五、六匹いたんだ。お、俺はこの辺りの猟師だが、仲間が殺された。さ、三人いたんだが、皆死んじまった」

「この辺りの猟師だと? ここは禁漁区だって聞いてるぜ」

「へへへ、密漁だ。内緒にしといてくれ。今年は稼ぎが良くねえんだ。だから、普段入らねえ禁漁区に来たんだ。なんでもするから、助けてくれ」

「密漁だあ?」


 へへへ、と転がり込んで来た男が卑屈に笑う。


「うわっ、ほら、来やがった。やつら変な魔法を使うんだ」


 指差す先には、蛍の様な光が四つ……。フワフワと飛んでいる。


「なんだありゃ? おめえ、あんなもんが怖いのか?」


 光はユラユラと近づいて来たかと思うと、目の前の地面にポトリと落ちた。そのまま小さく光っている。


「なんでえこんなもん。虫じゃねえのか?」


 一人が近づいていくと、転がり込んできた男は悲鳴を上げて逃げようとし、足がもつれたのか麻袋の上に倒れ込んだ。


 突然光が大きくなり、男達の視界を奪う。同時に強烈な風が襲ってきた。


「うわああ!」


 立ち上がって弓をつがえていた三人の仲間が吹き飛ばされ、木に激しく打ちつけられた。


「兄貴!」

「ああ、魔物か人間か知らんが腕は立ちそうだな」


 二人して片膝立ちになり白銀の剣を抜く。

 一瞬目の前が白く光った。


「来るぞ」


 轟! 


 またしても突風だ。今度はさっきよりも風圧が強い。慌てて地に伏せる。


「うわ、うわあああ!」


 ベキッ! と鈍い音がして、木の枝が折れた。


「くっ、飛ばされるっ……」


 それでも、なんとか耐え抜いた二人は、風が収まると慌ててその場を逃げ出した。


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