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第四話 テスタメントの効果

「どこだろう? ここ」


 湿地の巫女が青白い炎を上げてくれたから、地下のどこかという事は分かった。青白い炎に照らされているのは、土の壁、土の床、土の天井。かび臭く、淀んだ空気。

 テスタメントを発動した場所は石造りだった。全然違う場所だ。


「テレポートみたいに跳ばされたのかな?」


 フィオナが不安そうにしている。霧の中の次は地下だ。不安にもなる。


 今居る場所は地下道とかの一室と言ったところだろう。下に降りる階段があって、その先には通路がある。


「センス・ライビング放ってみるね」

「うん」


 実際に放ってみると、無事に発動した。巫女の霊術が使えるから大丈夫だと思ったけど、正解だった。


「いるわ」


 反応がある。扉からちょっと距離を取った位置に何匹かの魔物がいる。


「魔物?」

「うん、しかも群れよ」

「群れ?」

「多分、ナメクジ」

「え?」


 いつものパターンだ。扉の向こうには魔物除けの魔法陣があって、ナメクジが集まっているんだろう。おかげでここは安全なのだ。


「ナメクジは石鹸水で倒すんだっけ?」


 フィオナだ。良く知っているな。誰かに聞いたんだろうか。


「うん。でも、そのままウインド・バリアで作ったお椀で飛び込そうか。姿隠して探索しよう」


 折角、もの凄い魔法を授かったんだ。無理に押し通る事は無い。まずは探索して安全なルートを探ろうか。




 首をひっこめて貰い、完全三人合体になる。ソート・コミュニケーションをかけ、フィオナのカモフラージュと私のオールマイティ・ガードを発動し、扉を開ける。私には何も見えないが暗闇を見通す目を持つ者が二人もいる。


(本当だ。ナメクジだね)

(気持ち悪いわ)


 ニ十匹近くがナメナメと押し合いへし合いしているらしい。フィオナが言う様に、想像するだに気持ち悪いとしか言いようがない。しかし、その気持ち悪いのがいるから、他の魔物が扉に近づかないんだなあ。


(天井までの高さはある?)

(うん。越せるよ)


 実質一人だから、小回りが利く様に小型のお椀にしてくれた。やや縦長だ。私は普通に座っていて、お椀の縁は頭が隠れる程度だ。目の前には探索図を描きやすい様に飛び出した部分がある。胴体と同じくらいの高さと幅にしてくれている。そして、底から突き出した台の様な物に座っている。丁度、テーブルに向かって座っている様な姿勢になっているから楽ちんだ。おまけに、いざとなれば縁が延びて天井になる。そうなれば、例え火の中水の中……だろう。


(じゃあ、飛び越えて行こうか)

(おっけー!)


 そのまま、飛び越えた。何かあったら帰って来て休めばいい。ディアナ様に貰ったパンとお酒があるから、暫くは探索出来るだろう。




 ナメクジを飛び越えて距離を取ったところで。もう一回ソート・コミュニケ―ションをかける。


(フィオナ、右側に反応。距離は百歩かな。魔物よ。多分、オークの群れ。オーガもいるかも。ばらけているから、広い部屋があるかもね)

(はい。右百歩先に広い部屋。そこにオークやオーガらしい反応多数)


 フィオナには探索図を作って貰う事にした。相手が魔物の場合、攻撃は私の担当だ。フィオナが図面作り、巫女は勿論お椀担当だ。


(この先に分岐があるよ。ニ十歩くらい先。左右に分かれてる。右にオークの群れだったら、どっちに行く?)


 もしオークの巣に跳ばされたんだったら、オークを奇襲するのが一番だろう。しかしだ。


(先に、反対側の何もいない方の探索進めようか)


 戦いは状況を確認した後だ。兎も角も、ここが、どういった場所なのかを確認したい。


(分かった。じゃあ、左に行くね)

(うん。よろしく)




 通路を左に行くと、行き止まりだった。


(この壁ね)


 行き止まりの奥。右の壁。この先はセンス・ライビングが届かない。真っ黒なイメージしかない。ナメクジの塗料を使ったか、あるいは……。


 フィオナが描いている地図に印を入れて貰う。

 念のため、お椀を近づけて壁に右手のひらをくっつける。フィオナが壁抜け出来そうなら問題無い。


(駄目ね。厚さじゃないわ。何か抜けられない様にしてあるみたい)


 やはりそうか。


 因みに、少し移動して試すと厚さがあり過ぎて抜けられないと言われた。つまり、あの壁だけが違うのだ。


(一旦、さっきの三叉路まで戻ってくれる?)

(え? あ、うん。いいけど。どうするの?)

(結界よ。オークを封じ込める事が出来るわ)

(なるほどね。頭いいじゃん!)

(まあね)


 巫女に褒められた。何でもいいから結界の練習をしておけと、ゲルマナに言われたのは、内緒にしとこう。




 オークがいる方の通路に中級神聖阻止結界のプリベントを二つ縦に並べて仕込む。Eランクのオークやオーガならほぼ阻止できる。幽霊も阻止してしまうが、合体していると問題無い。これで背後を襲われる心配が無くなった。改めて行き止まりに挑む。


(多分、ライトね)


 ナメクジの塗料を使っている可能性もあるにはあるが、簡単な方から試したい。


(ライト!)


 無発声発動法は、こういう時にも役立つ。声を出さずに念じながら息を吐けば魔法が発動する。その内に、囮属性だけではなく斥候属性とか言われそうだな。




 予想は見事に当たり、壁の一部が消えた。そのまま、するりと通過する。


(何も無い部屋ね。正面と右の壁に扉があるわ)


 二人によると、広さはニ十歩四方。高さは五、六歩程度。意外と天井が高いな。


(センス・ライビングかけてみるわ)


 お椀が少し前進した時だ。


(ビーーーーーーーーーーーーーーーーー!)


 耳障りな音が鳴り響いた。アラームだ。やられた!




 警報の音が鳴り響く中、ドタドタと足音が二方向から響いて来て、ガタガタと扉が揺れた。そして、二つの扉がほぼ同時にバタンと開いた。揺れていたのは閂を外していたのだった。開くと同時に幾つもの壺が投げ込まれた。壺は床に落ちると割れてしまい、中に入った黄色みがかった粘り気のある液体を床にぶちまけた。直後にファイアー・ボールが次々に飛んで来る。床に広がった油に燃え移り、部屋の中はあっという間に炎上した。


 炎の中で、三つの影が甲高い悲鳴を上げると、その陰に向かって幾本もの矢が飛んで行き、次々に刺さった。三つの影が崩れ落ちる。悲鳴を上げる事もなく炎の中で横倒しになり、遂には動かなくなった。それを見たオーガがゲタゲタと笑っている。


 三つの影が単に燃えるだけの塊になったのを確認したのか、鎧兜に加え籠手まで付けて身を固めたオークが何やら叫ぶと、警報が鳴りやんだ。そして、両方の扉が閉められた。そして、またガタガタと閂が掛けられた。




(行ったかな?)

(そうみたいね。足音聞こえなくなったし)

(ふう。良かった)

(フィオナのお陰ね)

(幻術は奥方様に大分仕込まれたから)

(良かったわよ。本当に。私だったらとてもあそこまでは作り込めないし)

(ありがとう! 巫女に褒めて貰ったら自信が持てるわ)


 ディアナ様に超上級状態変化魔法を授かっただけの事はある。たった、三筋の髪の毛で炎の中で断末魔の叫び声を上げて死ぬ者の姿を演出して見せた。


(ジャンヌ、これからどうする?)


 湿地の巫女が聞いて来た。


(絶対に上級魔族が見回りに来るわ。こんな手の込んだの、オークやオーガだけで作れるわけないし)

(じゃあ、今のうちにこの部屋から脱出だね)

(うん。ボスっぽいのがいたのとは違う方の扉から抜けよう)


 巫女がお椀を移動したから、扉の横の壁に手をくっつける。炎に炙られているから結構熱いが、オールマイティ・ガードをかけているから火傷はしない。


(じゃあ、私、閂を外して来るわね)

(ありがとう、フィオナ。気を付けてね)

(任せて!)


 元気よく返事をしたフィオナは、ふっと気配を消した。




 閂が外れたので、扉の外に出る。閂が戻ったのを確認して、扉の横の壁に手をくっつけると、一旦中に入ったフィオナと合流出来た。

 通路の天井が凄く高いので上に上がる。そのまま、ゆっくりと移動する。


(もう少し行くと、左手に部屋があって、そこにオーク達がいたの。オーガやトロルもいたわ)


 流石は最強の斥候だ。欲しい情報を簡単に手に入れてくれた。


(トロルがいたんだ。だから天井が高いのね)

(そう。きっと、通せんぼする気だわ)


 確かにそうだ。あんなデカいのがいたら、それだけで通れなくなる。しかもトロルだ。サイクロプスと違って動きは遅いが、実は勇敢だったりする。逃げたりしないだろう。まさに壁だ。


(じゃあ、どうしようか?)

(オーク達がいる扉の更に向こうはどうなってるの)

(えーとね、もう一個扉があるね)

(じゃあ、そこまで行こうか。きっと確認に来るから、バレる前に出来るだけ移動しておこうよ)

(そだね)


 そのまま、真っ直ぐ進むと、フィオナの言うオーク達のたまり場? の扉があった。無視して通り過ぎる。更に進むと、扉で仕切られている所に出た。閂はこちら側にある。という事は、ここから先は外に繋がっている可能性がある。


(ねえ、扉の上に壁はある?)

(あるよ)


 つまり、その部分はトロルの頭も届かない。


(そこにくっつけて。扉の上。そこで様子見よう)

(低くないかな?)

(お皿にして、寝そべっても駄目かな)

(それなら、大丈夫だね。そうしようか)


 一人分だからお皿と言うか、細長い板に腹ばいになっている感じなったが、それで構わない。フィオナが目の前に書きかけの地図を置いたので、出力を絞ったホタルを一個額にくっ付けた。これで私にも地図が見えるようになる。手の届く範囲なら見える。姿を隠しているから外からは見えない。そうして、天井に引っ付く様にして留まった。


 念のためにセンス・ライビングを掛けると、溜まり場に結構な数の反応が有るだけだ。扉の向こうには無い。上手く行けば抜けて行けるかも知れない。




 フィオナが地図を整理している間、休憩がてら待機していると、魔物の側に動きがあった。いきなり、燃えた部屋の扉がガンガン叩かれている。溜まり場の扉がバタンと音を立て、足音が走り出て来る。ガタガタやっているから閂を外しているんだろう。そして、むわっと湯気の様な物が下から湧き上がって来た。どうやら水で消火した様だ。オーク共の悲鳴が遠ざかる。慌てて逃げているのか?

 私達が出て来た扉の方から怒声が聞こえる。巫女が言うには鎧兜に身を固めたオークが出て来たらしい。随分とがなり立てている。どうやら、バレた。黒焦げの何かの死体でも置いておけば良かったんだろうが、そんな物は無い。その代わり、状況に変化が起きた。


 きっと、ボスのオークは、自分達の事は棚上げして、こっちの連中の手落ちを責めているんだろう。私達の下の扉を指差して、わあわあ言ってるらしい。溜まり場方向から更なる足音がする。数が多い。トロルもいるらしい。こっちの方へ走って来ると、がたんと閂を外した。そのまま、大きく開けっぱなして、続々と出動していく様だ。トロルも一緒に出て行ったらしい。


(今よ!)


 全部出たのか、後続の足音が聞こえない。チャンスだ!


(オッケー!)


 するっと、扉の上の方を通り抜けた。




 出来ればトロルの後を追いたい。なので、加速して通路になっている所を進んだ。途中で曲がり角を左折した。


(また扉があるよ。でも開けっぱなしだね)

(トロルはいる?)

(うん。扉の向こうに立ってる)

(じゃあ、扉抜けて、そこまで行こうか)

(分かった)


 まっすぐ進み、ふいっと上昇した。扉を抜けたのだろう。天井に張り付つく様にして止まった。


(この先に、魔物の群れがいるよ。見える範囲で、オークが二十くらいかな。ボスはいないね。後は、オーガが見える範囲で三匹、トロルが一匹だね)


 前方、斜め下方向から言い騒ぐ様な声が聞こえて来る。


(ねえ、もう少し前進出来るかな?)


 フィオナだ。地図担当だ。前方に四差路的な書き込みがある。


(あの分岐まで行く?)


 私には見えないが、どうやら分岐があるらしい。


(うん。どうなっているのか確認したいの)

(分かった)


 するすると前に進む。


(正面奥に扉、左は直ぐに右に曲がっているわ。右は……あれ?)

(どうかしたの?)

(右は石造りの通路になっているんだけど、見たことある様な……)


 フィオナに覚えがあるという事は、北方か? 一気に、そこまで飛ばされたのか?


(いえ、そうじゃないわ。この大きさにしろ、壁の窪みにしろ、北方では見ていないと思うけど……)


 立派な石造りで、幅も高さもちょっと見ない規模らしい。ドラゴンが普通に通れる大きさだそうだ。確かに、そんなデカい洞窟の入口なんて、そうそうない。しかも、壁の窪みが、まるで灯火用の篝火とか油皿でも置くための様に並んでいるらしい。


(どこだったかなあ? ジャンヌや巫女と一緒に見たと思うけど……)


 この三人で一緒に見たって事は、場所が限られるな。フィオナと私が一緒だったのは、魔王関連しかないが……。


(あ~! 思い出した)


 巫女が先に思い出した様だが……。


(ここ……、魔王の洞窟の入り口だ)

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