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清貧に生きる野良神官は魔物退治をしながらお金を稼ぐ夢を見る  作者: 兎野羽地郎
第六部 第三十三章

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第七話 セルトーニュでの対策③ 

 幽霊の身元が判明した。この礼拝所を作った人に仕えた最後の待祭だった。思った通り、戦争で死んでしまった。死後、墓守として礼拝所の奥にある建物の地下にある墓を護っていたそうな。幸いな事に戦争は終わり平和がやって来た。礼拝所はごく普通の礼拝所としての役割を果たしていた。はずだった。それが、それまでの度重なる戦いで大分傷んでいたことから、建て直そうとの話が出た。それはそれで妥当だろう。そして、墓守の幽霊が抵抗を始めた。以来、彼は生きている者の接近を許さない危険な幽霊として存在し続けた。


「何故、抵抗したのですか? 新しい墓に移すだけではないですか。神官がきちんと処置するのですから問題はないですよね?」


 大司教様の言葉は当然だろう。私もそう思った。


「あのね、遺言なんだって。死体をここから移すなって。ここで集落の行く末を見守りたいんだって」


 厄介な遺言だなあ。本人はロマンティックな事を言ったつもりなんだろうが、後の事を考えて欲しい。


「この子は戦争孤児で、ここを作った司祭長? かな? まあ、偉い人の事なんだけどさ、その人に育てられたんだって」


 最後の待祭として、高齢のために病に伏せた司祭長だかの世話をしていた。偶然か必然か、その死に彼一人が立ち会ったのだそうだ。そして、遺言を聞いた。その後、指導者である司祭長が亡くなった事を知った他の集落が攻めて来た。礼拝所は幾度も戦場になり、多くの人が亡くなった。そして、遂に彼も亡くなった。彼は恩人の墓を護りたいがために幽霊になってしまった。


「そんな感じみたいよ。なんかね、地下墓地は崩れて埋まっちゃったせいで簡単には掘り出せないんだって。下手な事をやったら棺の中の遺体が壊れるかも知れないから。だから、今のままで放っておくしかないってさ」


 ふうむ。そんなものはクランプ・サンド……は中級だから発動しないのか。となると、上級以上の土魔法で……って掘る魔法ないかも。


「確かに難しいわね」

「でしょ?」


 湿地の巫女は男性の幽霊に案内されて地下墓地に潜入したらしい。階段が完全に埋まっていて、中も結構危ないそうな。下手な事をやれば辛うじて踏ん張っている天井諸共棺が押しつぶされかねないらしい。湿地の巫女曰く、霊術も使えるから元々魔法使いの素質があったはずで、上手く行けばチャームを覚えるかも知れない。何とかして味方に付けたいらしい。そのためには棺を無事に掘り出せば良いとの事。

 これは良く考えないといけないぞ。




 カドガン様や大司教様に聞いたが、良い思案は浮かばなかった。とりあえず、互いに害意は無い……少なくとも一方には湿地の巫女が脅しをかました成果だと思うが……事を確認し撤収した。ヨーグ様にも相談したいからだ。


「うーん。土木工事の専門家に聞いて見ますか?」


 ヨーグ様の考えは妥当だと思う。


「私の知り合いで丁度良いのが白い島にいます」


 今はモランディーヌで竜人と一緒に土木工事をやっているはずだ。レグネンテスにも行っているだろう。忙しいだろうが、相談するだけの価値がある。


「一旦、白い島に帰らせて下さい。いえ、書簡送信用の魔法陣が使える範囲までで結構です。直ぐに出直して来ます」

「わ、分かりました」


 明日には算段が立つだろう。




 北上し湿地の沖で書簡送信用の魔法陣を使って連絡を取ると、すぐにヘンリー一行がやって来た。待機していてくれたみたいだ。


「加勢が必要ですか? もしそうなら、騎士団員を動員しても良いとプライモルディア王の言葉を頂いています。この様に変装もばっちりで。なあに、どさくさに紛れてならバレやしませんよ」


 エレノア様? いく気満々ですね。しかも、変装って言ってもいつもの野良着だし、どうせ身元を聞かれたら自己紹介するんでしょ?


「えーと、ベアトリクスに相談したいんです。セルトーニュで土木工事が必要だからです。なので、ちゃんとセルトーニュ国王にも謁見の上、工事の許可を得ないといけません」

「そ、そうですか。それは残念……いえ、急いでベアトリクスに連絡を取らないといけませんね」


 露骨に意気消沈しないで下さいね。




 エレノア様がベアトリクスに連絡を取って、モランディーヌで工事をやっているのを連れて来てくれた。リュドミラも一緒だ。竜人も一人来た。


「聞いたわよ。地下に埋まってる棺を取り出せばいいのよね?」

「頑張ろうね」


 まあ、そうなんだが竜人は?


「ちいーす! ベアトリクスに弟子入りした者っす。近々嫁が子供を産むんで、もっと稼がないといけねえで。今回は師匠が魔法使うってんで見に来やした」


 例のトランスレートを覚えたい竜人だ。それで、今回も来たわけだ。上級トランスレートなら初級並みだが物を跳ばせる。いや、竜人だから土の魔法が使い放題だ。


「モランディーヌの方もあるからさ、ちゃっちゃっとやっちゃおうか」


 ベアトリクスも簡単そうに言ってるしな。任せてしまってよさそうだな。




 急遽国王様と中州で面会……なので、ヘンリー一行は退散した……し、任せて貰う事になった。国王様は何よりも竜人の存在に大いに驚き、そして歓迎してくれた。ヨーグ様やナオネント公から副族長にお世話になったと聞いていたらしい。そして、礼拝所跡の幽霊は、色々と悩みの種だったらしいので、見事解決したら応援の人間二人には報奨金が出る事になった。各々金貨五十枚だ。私の五倍だ。そして、竜人には金銀財宝とでもいうのか様々な宝物が送られる事になった。


 気を良くしたのは応援の三人だ。真っ昼間にも関わらず、今すぐ行こうと出発した。


 安全が確保されているせいか、国王様や国家宰相、護衛の兵士が十名ほど。そして王太子様も来た。王太子様は四十代後半と言ったところか。騎士の名にふさわしい堂々とした方で、なんでベイオウルフの出自に端を発するお家騒動を心配するのか分からない位立派な方だ。


「此度の件、私からもお願いする。よろしく頼む」


 重装歩兵的な重々しい感じだな。国王様も恰幅が良い方だ。やっぱり血は争えないという事か。


 昨夜停泊した辺りに船を泊め、巫女が雑草を焼いて作ってくれた道を歩いて行く。先頭が案内の湿地の巫女、それと私、次いでベアトリクスとリュドミラ、最後尾がカドガン様と大司教様と秘書官様だ。竜人は私達の頭上を飛んだ。王太子様も参加したがったが、国王様とヨーグ様に押しとどめられた。




「応援連れて来たわよ!」


 正門前から湿地の巫女が声を掛けて中に入って行く。正門をくぐって直ぐに話を始めた。相手の姿は見えないから警戒されているんだろう。


「大丈夫よ。皆信用できるからさ!」

「え? ドラゴン? 竜人よ。知らない? え? 竜人なら聞いた事あるって? じゃあ、いいじゃない。本物よ」


 巫女に呼ばれた竜人が飛んで行く。何やら話をしていたが、両手を頭上に掲げてひらひらと動かしていたが、何かを言ったと思った途端に中庭の瓦礫が宙に浮いた!


「クランプ・ストーンよ」

「あれが?」


 普通は一回一個だよ。


「竜人って、やっぱり凄いわね。こんなに魔力が薄い所なのに」

「本当だね」


 知らぬ間に、ベアトリクスとリュドミラが両手を体の前に突き出して、手のひらをひらひらやっている。そう言えば、副族長が魔法を放つ前に同じ様な事をやっていたな。


「あんた達、その仕草。もしかして……」


 魔力を集める仕草だ。ベアトリクスは竜人に、リュドミラはベクティス伯に、薄い魔力を集める技を教えて貰ったんだ。二人にとっては、待ちに待った実践の場だ。


「うふふ。内緒よ。ねっ、リュドミラ?」

「うん。また今度ね」


 竜人もいるし、これは期待が持てるぞ。




 土木工事が始まった。まずは竜人がやった瓦礫の撤去だ。再利用に都合の良い場所を決め、ドンドン移して行った。ベアトリクスとリュドミラもやった。大分時間が掛かったし、動かせてようやく一個ずつだが、しっかりと飛ばせていた。発動出来ないはずの中級魔法がきちんと発動出来ている。


「まあね、練習したからね」

「ジャンヌも練習する?」


 練習すれば今すぐ出来るのか?


「どうかな。無理かも」


 二人して首を傾げている。

 じゃあ、言うなよな。




 土木工事はどんどん進み、瓦礫の撤去の次は、いよいよ棺の掘り出しになった。ベアトリクスは瓦礫が撤去されて広くなった地面に魔法陣を描いている。きっとトランスレートだろう。


 礼拝所の奥へ行くと、祠的な建物跡がある。完全に崩れているから原型が分からないが。どうやら、カタパルトの投石を何発も食らって崩壊したのだろう。


 例によって竜人が両手のひらを動かして瓦礫を一気に除去する。そして、階段が出て来ると、今度は祠の土台の周囲の土を大量に宙に浮かせた。そのまま移動させる。

 湿地の巫女が、多分ここにいた幽霊と一緒に偵察に出た。





「大丈夫よ。そのまま掘り出して」


 巫女のGOサインが出た。一気に掘り上げる。階段から瓦礫や土砂をどんどんと運び出す。とうの昔に階段が掘り出せた量が運び出されたのにまだ出て来る。


「地属性の竜人は、床の下の地形が把握できるのよ。だから、地下を埋めている土まで掘り出せるの」


 ベアトリクスの説明でようやく分かった。副族長が内海の島で拠点を作った時に使ったやつだ。そうか、だから地の精霊のノームや地竜は地下を自在に動けるんだ。




 無事に棺は掘り出された。石の棺だ。蓋を開けたら白骨死体が出て来た。神官衣を着ているから神官だろう。蓋をして二人の大司教と二名の神官、湿地の巫女がお弔いを上げる。きっとここの幽霊も祈っていただろう。

 船に向けてライトを点滅させると、ヨーグ様が船を寄せて来て、王太子様以下船員と兵士がぞろぞろと降りて来た。一旦、棺を移すのだ。礼拝所の幽霊用に瓦礫の欠片を一個拾い憑ついて貰った。それを棺の中に入れ、船に移した。


 その後は、礼拝所そのものの撤去だ。トランスレートの魔法陣を描いたベアトリクスが瓦礫全部を跳ばした。流石に一気にと言うわけにはいかず、大分小分けしたが、それでもテレポートの重量制限を超えている量が飛んで行ったから、やっぱり魔力の集積が出来ていた。凄い。




 太陽が沈む前に作業は終わった。砦跡はただの更地になった。外壁は補修すれば使えると言うのでそのままになった。棺は王都大教会に運ばれ、守り人幽霊との話し合いになった。


「あの地には新しい施設を建てようと思います」


 大司教様だ。国王様と王太子様もいる。恐らくは国の施策になる。


「何を作る気なんだ? 師匠のお墓も作るんだろうな?」


 大司教様相手にあんまりいきがらない方がいいぞ。ここまで来たら、何時でも強制昇天出来るんだからな。


「勿論、お墓は記念碑を添えて作り直します。新しく経てるのは疫病対策用の隔離施設ですよ」


 河口の近く、しかも王都からはある程度距離がある。川を遡って王都に近づく外国船を片っ端からチェックできる。


 多分、理解出来ないんだろう。きょとんとしてる。

 そのおまぬけな顔つきに国王様が頭を下げた。


「あの礼拝所は、白い島からこの地に移り住んだ者をまとめ、建国へ導いた偉大な指導者が眠る地。その指導者は疫病で亡くなったと聞く。その病徴から看取る者を拒絶したと聞くが、そなただけは最後まで付き添ったのだろう。今後は、偉大な指導者の墓守を兼ねて、我が国の疫病対策の地の守護者になっては貰えぬか。偉大な指導者が守った地を引き継いだこの儂には、そなたの協力が必要なのだ」


 国王様の言葉が決め手になって、遂に幽霊は湿地の巫女の提案を受け入れる事になった。




 湿地に帰った巫女は、墓守り幽霊に魔法記憶……メモライズだ……を使い、魅了……チャームだ……を覚えさせることに成功した。そして、巫女と一緒に鼠退治を何度か実践した。無論、この秘術は内緒で巫女はセルトーニュでも伝承者となった。そして、新たに建設される……て言うか、あらましは竜人とベアトリクスとリュドミラがあっという間に作ってしまったから、既に機能するらしい……墓と隔離施設の守り人になる事が、正式に国王様に承認された。


 その後、ハルモニア公国へ行き、一人の鼠退治屋を作った。やはり神官で、自身が疫病に感染して亡くなった。アンリ様がいた隔離病棟のお墓に埋葬されていたそうだ。巫女が言うには、そう言った神官の幽霊は実は沢山いて姿を現さないだけらしい。闇の魔法を使う者は、ハングリー精神が必要で、どこか癖があるそうだ。エリートの神官とは無縁の性質だ。

 確かに、そんな感じはする。なので、並みの神官は覚えられない。どちらかと言うと軽装歩兵の方が良いらしい。ただし、単独で幽霊をやっている軽装歩兵は、悪霊ばかりだそうな。やはり、神官が望ましいそうだ。その貴重な資質の持ち主が幸いな事に一人見つかった。


 ハルモニアの港とセルトーニュの港で対処出来れば白い島への輸出用はまず問題無い。これで一応の態勢が整ったわけだ。

 いずれ、セルトーニュの各公国で見込みのある幽霊を見つけて各公国で一人は鼠退治屋を作っていく予定だ。それはプライモルディアの役割となり、任務を終えた私は中の原に帰った。


 来月は五月祭りだ。結婚が三組控えている。三組とも農場で宴会するらしい。疫病対策も順調だし、皆で一緒に大いに騒ごうか。

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