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第三話 古の巫女についての調査⑤

 暫くは巫女と二人にしておいた方が良いだろうと、皆は秘本を保管してある部屋に移った。そのまま、改めて宴会だ。


「後は、ジャンヌの弟子入りか。ここだけじゃねえんだろう? 全部回るのか?」


 アレックスに聞かれた。

 どうだろうか? 一か所で良い様な気もするが。


「五人の巫女全ての同意が必要じゃろうな。ただ、エグワード様がいらっしゃる。後は、ゲルマナ殿とジャンヌが話をすれば問題無いと思うがな」


 エリクソン様だ。大昔は関係者全員の同意が必要だったらしい。それが、いつの間にか多数決になった。そうしないといつまで経っても決まらないからだろう。しかし、その結果、千年前の南北の争いが起きたとも言える。派閥が出来て勢力争いに繋がるからだ。ある意味、強力かつ有能なリーダーが仕切った方が早いし効果的なんだろう。もっとも、元気なうちは良いが、事実上の引退の時期を見誤ったり、時期があってても後継ぎが駄目だったりすると困るが。


「まずは、仮説が正しいかどうかの確認ですね。それに、それが合っていたとしても、具体的にどうすれば良いかが分かりませんし、巫女を外に連れ出せるかどうかも分かりませんから」

「連れ出してどうすんだい?」


 エレノア様の言葉にアレックスが返す。


「外は楽しいぞ」


 エリクソン様だ。ゲルマナがニコニコと頷く。

 二人共、満足している様で何よりだ。


「そりゃあ、こんな所でじっとしているよりは良いだろうさ。でも、結界が機能していない時間が出来ちまうじゃねえか。天井はそれを気にしてんじゃねえか?」

「それが問題なのです。何か、良い方法があれば良いのですが……」


 エレノア様も行き詰った。現状解決策が浮かばない。大体、大いなる恐怖の正体が分からないからややこしい。もし、戦争や疫病なら、各国の情報網を駆使すれば分かるんじゃないか。現在、大陸では大きな戦争が起きているが、現状白い島には関係なさそうだ。疫病が蔓延しているとも聞いていない。


「どなたか、交代要員がいらっしゃれば良いのですが」

「そんな都合の良いのがいるのか? ジャンヌが天井になっちまったら、水の姉さん方が黙っちゃいねえぜ。白い島の人間がどうなるか。いや、それどころじゃ済まねえかもな」


 自分達にも降りかかってくると思ったのか、身震いしている。


「出来るのであれば、私が交代しましょうか?」


 ゲルマナ、それは違うよ。


「おめえがなっても同じだよ。なんでお前が止めなかったんだって、絶対に俺が折檻されんじゃねえか。勘弁してくれよ。ジャンヌもゲルマナも絶対に駄目だ」

「分かりました。では、幽霊ではどうでしょうか?」

「幽霊?」


 丁度良いのが隣の部屋にいるらしい。


「弟子入り出来るのか?」

「して貰いましょう」


 ゲルマナも大概だな。




 祭壇の傍らでひたすらに詫びているエグワード様を呼んで話をすると快諾を得られた。

 ただ、エグワード様は残念ながら天井の巫女とは会話が出来ない。ゲルマナが参加してようやく話し合いが始まった。


「エグワード様がこちらの巫女に弟子入りするのはやぶさかではないそうですが、出来るのか? と聞かれました」


 天井はビカビカ派手に光っているが、ゲルマナの通訳は至って平穏な感じだ。大分意訳が入っているに違いない。


「では、ジャンヌが光の魔法をすべて使える事……他の魔法も五つ使える事、それらが超上級レベルである事。五種類の黒石を持っている事を説明して下さい。我々は一旦隣の部屋に下がりますね」


 エレノア様が言って,説明役のエレノア様ご本人と神官勢を除くヘンリー一行が退出した。ゲルマナは天井を見ている。口が全く動いていないから、頭の中で会話をしてるみたいだ。天井も反応している様で、ゆっくりと明滅している。


「見せて欲しいそうよ」


 回答が返って来た。黒石全部を見せた後、ライトから順に放つ。ついでに、息継ぎ法でライトとダークの同時発動をやった。分かる人には分かるはずだ。


「分ったそうよ」


 よっしゃ! テスタメントまではクリアした。次はテスタメントの反対側だ。ヘンリー一行を呼んで祭壇の部屋に入って貰う。


「では、ジャンヌが思いついた巫女の魂魄をこの世に留める方法について、説明して下さい」


 再度のエレノア様の説明に、またもゲルマナが天井を見つめ、ゲルマナの説明を聞くかのように明滅する。

 突然、光が強くなった。正直眩しい。思わず目を逸らすと、眩しがっているのは私だけだ。


「ジャンヌ、どうかしましたか? 貴方だけが照らされていますよ」


 不思議な物でも見るかの様な視線をエレノア様に送られた。いや、エレノア様だけじゃない。天井を見つめているゲルマナ以外の全員がそうだ。


「ジャンヌ。眩しいのを我慢して天井を見て」


 ゲルマナが無茶を言う。しかし、しょうがない。何とか我慢して目を瞑らない様に天井の光を見る。すると、眩しくなくなると同時に白い霧の様なものに包まれた。そして、いつか聞いたことのある女性の声が頭の中に響いてきた。


(ジャンヌですね)

(はい。私の事を覚えてらしゃいますか?)

(ええ、一度お話させて頂きました)


 一回だけ巫女の真似事をさせられて宣託を受けた。


(あの時は、ありがとうございました)

(いえ、お陰で、あれ以来、お供え物が美味しいお菓子になったし、月に一回は神官と巫女が訪れてくれるようになりました。こちらこそお礼を言わせてね。ありがとう)


 よっしゃ! 正解だったぞ!

 思わずガッツ・ポーズをすると、コロコロと笑っている。少々、恥ずかしい。


(テスタメントを探し当てたのですね?)

(はい。ゲルマナ……そこにいる精霊や幽霊のエリクソン様、そして神官のプライス様にも協力を頂きました。隣にいるヘンリー一行にも)

(そして、エグワード様に出会った)

(はい。見て下さった通りです。今は私の師匠です)

(はい。伺いました)


 その後は、何故ここに来たのかを話した。これもエグワード様から聞いていた。

 思い付きだったテスタメントの裏側魔法陣は正解だった。そして、エグワード様の弟子入りは可能だと言った。ここまで話をして皆と相談したいと言ったら、霧が晴れた。




「では、正解だったのですね?」

「はい。エグワード様の弟子入りも可能だそうです」


 エレノア様に聞かれたので答えると、何故かエグワード様がどや顔をしている。まあ、三千年間苛まれてきた後悔が少しは解消されるのだ。


 しかし、交代枠が一人だけと言うのは寂しい。誰か他の幽霊がいたら良いかも知れない。


「幽霊と言ってもタダの幽霊ではいかん。神官として十分な修行を積んだ者じゃな」


 完全復活を果たしたエグワード様が仕切り始める。


「では、儂もお供しましょうぞ」


 エリクソン様だ。ヘンリー一行は、最高顧問と顧問を同時に天井役に取られてしまう事になるが大丈夫だろうか?


「お主は駄目じゃ!」


 意外にも、エグワード様が拒否した。


「ど、どうしてですか? こう見えても、若い頃は魔物退治で名を馳せて総大司教の立場にまで登りつめておりますぞ」

「ヘンリー一行の顧問がいなくなってどうする? お主は、相談役としての務めを全うせ

 よ」


 最高顧問は良いのだろうか?


「し、しかし……」

「しかしも、かかしもあるか! 儂は最高顧問じゃ。最高顧問たる者、こういった場所でひっそりと暮らし、かつ儂の意見が必要な時は、その者がここまで儂に聞きに来れば良いのじゃ!」


 何と言うか、もうちっと素直になれんかな。


「エリクソン殿。ここは、エグワード様のお言葉に甘えましょうぞ。そして儂ら一行の良き助言者となって下さらんか」


 ヘンリー様がエリクソン様の肩を叩く。


「そうか。しかし、それで良いのか?」


 あっさりと引き下がったヘンリー様を恨めしげに見る。


「何、交代を頻繁にすれば良いだけの事です。五人の巫女もエグワード様も順番に交代です。当番が外れた時に、またジャンヌ達の宴会の席にお呼びすれば良いだけですからね」


 プライス様だ。当番て……そんな軽い扱いでいいのか? しかも、勝手にうちの宴会に呼ぼうとしてるし。


「では、もう一人幽霊を加えませんか?」


 今度はゲルマナだ。なんか段々適当になってきてないか?


「もう一人?」


 エグワード様が聞いた。


「はい。この千年間、世をはかなんでひっそりと幽霊をやっていた巫女を知っています」


 なるほど。彼女なら良いかも知れない。時々宴会で話をするが、なんか影を引きずっていて一向に昇天する気配がない。ここで、先輩方と白い島を護る役目なら丁度良いかも知れない。


「なるほど! 流石はゲルマナ殿じゃ。どうじゃ、ヘンリー殿。一度彼女に話をしに行こうぞ」


 なんかどんどん話が広がってるぞ。


「待て待て待て! 一体何の話をしとるんじゃ!」


 ほら、エグワード様が怒った。天井もビカビカ光ってるし、もう知りませんよ。




 エリクソン様がエグワード様に謝罪し、ゲルマナが天井を見つめた結果、何とかその場はおさまった。

 改めて千年前の巫女の幽霊について説明し、彼女が了承してくれたら交代要員として天井を光らせたら良いのではないか、そう提案した。


「なんと不憫な。儂が変わってやりたいくらいじゃ」


 話を聞いたエグワード様は涙を流さんばかりだ。騒いだり泣いたり忙しい人だな。大体、あんたが代わる気で行っても巫女は動かんよ。


 感情の起伏が激しい自称悪霊は放っておくとして、天井の巫女の見解は本人と話をしたいと言う事だった。その結果、急遽ノームを呼び出す事になった。

 アレックスに聞くと宴会しようという事になったので、祭壇の横で天井の巫女も参加した宴会を改めて……三度目だ……開始した。今回はアレックスの提案なので、アレックスの奢りになった。ただし、底なしの幽霊が二人もいるので一樽限定だ。


「なんじゃ、遂にこんなとこまで呼び出す様になったのか?」


 初めましてになるエグワード様が、即座に面前に片膝をついた。


「ノ、ノーム様。まさか、お会いできるとは思いもしませんでした」

「ジャンヌ、何じゃ、この物々しい奴は?」


 そんなに邪険にしなくていいじゃないか。




 ノームは祭壇の巫女を知っていた。勝手にテレポートで入って来たみたいだ。門番の面目丸つぶれのアレックスがぶちぶち言ってるが相手が悪すぎる。


 ノームへの説明はゲルマナがした。言い出しっぺだけに積極的に動いてくれる。


「ふむ。悪くはない考えじゃ。」

「では、例の巫女に話しても良いですか?」

「構わんぞ。あれがやる気を見せるのであれば、それはそれで良い事じゃしな」

「出来ればノーム様もご一緒頂ければ」

「儂は関与せんよ。中立が損なわれるからな。ただし、テレポートで移動させてやろう。お前達だけではいけないじゃろうからな。ただし、ジャンヌとゲルマナだけじゃ」

「ありがとうございます」


 なんとかノーム公認を取り付けた。その後は適当に飲ませてけしかけて、騒がし過ぎたエグワード様を説教して貰った。そして、千年前の巫女の墓の入り口まで移動させて貰った。




 ゲルマナと一緒に巫女に話をした結果、交代は兎も角も天井の巫女に会ってみたいと言ってくれた。ノーム公認であり、行く手にエリクソン様がいる事も好印象を持った様だ。

 そのまま、とんぼ返りで帰って来た。


 エグワード様が、何か言いたそうにしてるがノームにひと睨みされて黙って引き下がる。そして、祭壇の傍に行って天井の巫女と四人で話をした。

 そして、千年前の幽霊は、白い島を護る務めの交代枠に意欲を示した。


(でも、私に出来るでしょうか?)

(きっと出来ますよ。ジャンヌがいますから)


 えーと、本当に大丈夫なのだろうか? 思い付きが当たったとは言え、実際にやった事はないんだが。




 出来るかどうかは分からないが、千年前の巫女は交代枠候補として認められた。ただし、天井の巫女は一人では決められないと言った。残り四人の同意が必要だと言うのだ。交代枠が認められた場合も、五人全員が順番に交代すると言われた。なるほど、公平だ。そうなると、仕方ない。ノームにお願いして、千年前の巫女の幽霊とゲルマナと私を残りの四か所に移動させて貰って、残り四人全員を訪ねた。その結果、全員の同意を得た。巫女自身は、それなりに外界に興味があったらしく、交代出来れば見物なりをしたいと言った。全員分の憑りつく石は祭壇のある部屋の壁の一部で良いだろう。順番は、私達が辿った順番になった。つまり、中の原湖の地下、お山、温泉町、白銀鉱山、最後がエングリオの女魔族のいる魔境だ。二人の幽霊は初心者になるから、慣れるまでは一人ずつが順番に一か月程度交代して経験を積むことになった。


 後は、テスタメントの魔法陣を描き写し、それを板状の珪石に彫り込み、裏から光を当てれば良いはずだ。そして、私が単独でアンデッドとソート・コミュニケーションの同時発動をする。そこまで話がまとまった。


「我が弟子よ。いや、もう弟子とは呼べんな。ジャンヌ司教よ。良くぞここまでの事をやってくれた。本当に礼を言わせて貰うぞ。ありがとう」


 師匠の幽霊も満足してくれた。目から鼻から口から、色々な液体を流している。


「満足して昇天しないで下さいね。師匠」

「わ、分かっておるわい!」


 顔を袖でごしごし擦ると、拗ねた感じでプイッと他所を向く。天井が明滅しゲルマナが笑っている。

 意外と可愛いじゃないか。

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