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清貧に生きる野良神官は魔物退治をしながらお金を稼ぐ夢を見る  作者: 兎野羽地郎
第一部 第三章

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第十一話 戦う理由

 次の戦いは夜戦になった。 

 相手はオーク二十匹ほどだ。

 離れた場所だったので、五人一組になって、順に警戒所までテレポートで移動した。

 どうやら、潰せなかった北の方の峠を越えようとしてきたらしい。


 移動先から待ち伏せ地点までは、ベイオウルフにおぶって貰った。

 かなり恥ずかしいが怪我をするよりはマシだ。

 なにせ真っ暗なのだ。他の人は良くも歩けるものだ。


 夜戦は苦労するらしい。

 なにせ暗闇では人間が圧倒的に不利だ。

 普段は火矢を放ったり、松明を手に持ったり、場合によっては諦めたりしているようだが、いかんせん山の中だ。山火事になったら大変なので、かなり手加減せざるをえず、相当苦戦していたみたいだ。

 早速、今までにパウルさんと実験した方法を試す事にする。




 草むらの陰に隠れて詠唱し、ライトの魔法で手のひらにほんの小さな光を作る。パウルさんが作る魔法の風に乗るようにふわっと手を離すと、そのまま、風に乗って魔物の方へ飛んで行った。


 そよそよ、とした風にのってふんわりと飛んで行く様はまるでホタルの様だ。少々季節と時間が外れてはいるけれど。

 早く動かすと、私の制御から外れて消えてしまうのでゆっくりとしか飛ばせないのがかえって良いようだ。そのまま、魔物の正面に飛んで行くのだが、飛んでいる光に気を取られていて、こちらに気付く気配が無い。


「今だ!」


 合図が出た。

 下に向けて両手を使って目一杯で光らせる。

 神聖魔法なので、人間にそれほどではなくとも、魔物にとってはかなりまぶしかったようだ。魔物の群れの正面で思った以上に強烈に光ってしまい、おかげで魔物達は皆、膝立ちや四つん這いになっている。


 顔を両手で覆い下を向いて唸っているところを、すかさず弓隊が囲み一斉に矢を放ち、アンジェリカさんが半数近くを巻き込んだ氷の山を作る。 

 止めを刺すために、喚声を上げながら歩兵部隊が突進した。




 何匹か逃げられたようだが、夜戦に追撃は必要ない、との事だったので、そのまま放っておく事になった。

 まずは突破されない事が第一なので、目的は達成したのだろう。


 何より怪我人もなく無事に砦に帰ってこられたのは何よりだった。

 ルイスさんをはじめとする猟兵の人達にも随分と褒められた。


「君が居ない夜が寂しくなるな」


 ルイスさんが私の肩に手を置いて素敵な笑顔で言ってきたので、ニッコリ笑って顔面にホーリーをかましてやった。両手で目を押さえ、床に転がって悶絶している。

 皆が面白がって、魔物だ、魔物だ、と言いながら、弓に矢をつがえて取り囲んでいる。神聖魔法が効いたのだから魔物扱いで十分だ。


 それでもよろよろと立ち上がってきた。


「酷いな。誉め言葉なのに」


 神官に向かって紛らわしい事を言う方が悪い。


「院長先生にも同じことが言えますか?」


 聞いてやったら、ふむ、と考えている。


「カトリーヌ司教はこの命を懸けるに値する女性ではあるな」


 なるほど、手厳しいお仕置きをされる事は分かっているらしい。




 パウルさんとアンジェリカさんが、外に来い、と言う。


「両手で魔法を使った事はあるか?」

「はい。1つの魔法の出力を上げる時は両手でやりますが」

「そうでは無くて、左右交互と言う意味だ」

「左右交互?」


 良く分からない。

 首を捻っていると、こんな感じよ、とアンジェリカさんが実演してくれた。


「アイスキューブ!」


 右手のひらに一口サイズの氷が一つコロンと転がる。

 ネズミの氷漬けを作った中級魔法だ。魔力を抑えているのか、随分と小さい。

 同じ魔法を、今度は左手のひらで唱えると、両手に一つずつ氷が出来た。


 それをもう一回ずつ唱えると、両手に二個ずつの氷が乗っかった。

 そうか。この間の昼の戦闘で、アンジェリカさんが氷の楯でオークの槍を防ぎ、右手で首を凍らせたのは、左右の手を使った時間差攻撃だったんだ。


 ようやく理解できたので、早速やってみる。

 出力は最小限でいいぞ、と言うので、まずは右手で。


「ライト!」


 ホタルみたいな光が出来た。

 左手でもやってみる。

 出来た!

 やや、光が弱いようにも思えるが利き手ではないからだろう。

 そのまま、右手、左手と連続で唱えて四つの光を出せた。

 アンジェリカさんが、出来たじゃない! と頭を撫でてくれる。


 二人が言うには、一つの魔法を分裂させるよりは簡単で、魔力の消耗も少ないらしい。逆に言うと、分裂炎を操るベアトリクスが凄いのだろう。


「よし、飛ばすぞ」


 パウルさんが風の魔法を唱えると、まるで四匹のホタルが飛んで行くように、フワフワと飛んで行く。


「いまだ。光量を上げろ。目一杯じゃなくても良い」


 ホタルに向けた両手に意識を込めると、強烈な光が外を照らし出した。

 なにせ通常の四倍だ。

 びっくりした山賊達が集まって来る騒ぎになってしまったが、パウルさんが説明すると、凄いな、と皆褒めてくれた。


「魔力の残り具合はどうだ?」

「大丈夫です。ヒールが何回か使えると思います」

「次の夜戦はこれでいこうか」

「はい。ありがとうございます!」


 パウルさんとアンジェリカさんがニコニコと頷いてくれる。


「君達がいない夜が本当に、うごおお!」


 アンジェリカさんと私の肩に手をかけて何か言ってきたルイスさんが、目つきの変わった鬼のアンジェリカに股間を蹴り上げられて悶絶している。


「流石は恐れ知らずの王国猟兵だな」


 パウルさんが、かかか、と笑っている傍らで、ルイスさんがこの夜二回目の魔物判定を受けて弓矢に囲まれた。




 翌日、相談があるので、交代が来ても少しの間残ってくれと、パウルさんに言われた。応援組で作戦会議をするらしい。

 マルセロさんとベアトリクスが来たので早速食堂兼会議室に集まる。


「夜戦のことじゃ。ジャンヌがライトを使ってくれた方が楽に戦えると思うんだがな。皆はどう思う?」


 常駐のパウルさんにそう言って貰えるのは嬉しいな。いつ寝てるのか知らないけど。


「僕とベアトリクスの時は夜戦では苦戦しますね。分裂炎で頑張ってくれてはいますが、神聖魔法の光で相手の視力を奪った方が効果も高いようですね」

「マルセロさんは使えないの?」

「ライトは珍しい魔法なんだよ。僕には使えないな」


 マルセロさんとベアトリクスのコンビでも、夜戦は難しいのか。ライトの魔法って意外といけてるんだ。


「一方で、昼間の戦いでは、マルセロのテレポートとベアトリクスの攻撃魔法のコラボは、相手を混乱させておるし、背後からの奇襲も出来るから、有効に機能しておると思うんだが」


 ベアトリクスがふんぞり返っている。


「そこでじゃ、ジャンヌを夜戦に、ベアトリクスを昼戦に固定した方が良い結果が出ると思うんじゃ。どうだろうか?」

「その場合は、僕も昼間に固定と言う事になるのでしょうか?」

「いや、そうはならんな。テレポートがあればあったで良いが、ベアトリクスの分裂魔法が結構効果を上げておるだろう」

「でも、テレポートとコラボした時の奇襲効果は劇的に高まると思いますよ」


 アンジェリカさんはテレポートと氷の魔法で沢山勲章を貰ったと聞いた。自信があるんだろう。


「しかし、子供の面倒はどうする?」


 パウルさんが遠慮がちに言うが、返ってきた言葉は、極めて甘い結果となってしまった。


「私とマルセロのどちらかがいれば大丈夫よ。ねえ?」


 アンジェリカさんがマルセロさんにウィンクすると、マルセロさんがウィンク返しをする。


 このところ入れ違いになっているせいか、こんなところで愛を確かめ合っているな。随分と仲の良い事で。ご馳走様ですね。

 ベアトリクスなんか、変な形に口を開けているし。


「そ、そうか。それなら、問題は無いな」

「それよりも、僕が昼間固定にならないと、回復魔法の穴が出来ますからね。作っている身としては売れた方が良いですが、勿体ないですよ」

「でも、私一人では重傷者の時は巻物に頼らないといけないのですが」


 マルセロさんと違って、私のヒールでは限界がある。


「でも、それは今も変わらないでしょ。それよりも、昼間に戦況を見てるだけは嫌でしょ?」


 ベアトリクスがフォローしてくれた。時々、愚痴というか自分の不甲斐なさをこぼしていたのを聞いてくれていたのはベアトリクスだからだ。


「なんじゃ、そんな事を気にしとったのか? そんなもん、夜戦であの光を飛ばすだけで充分御釣りがくるわい」

「そうよ。昼間はともかく、夜戦じゃ私の魔法では無理なんだから、あんたの光るやつとアンジェリカさんの魔法があれば一発じゃない」


 思わずベアトリスクの手を握ると、ニヤつかれた。

 これは、何か奢れと言う事だな。


「ならば、話はまとまったな。これからは、昼間組と夜組で編成を変えようか」

「パウルさんはどうするの?」

「儂はいつでもどこでも戦う魔法使いだからな。心配せんでええわい」


 流石は骨の髄までクレイジーね、とベアトリクスがあきれ顔で言うと、もっと褒めてもいいぞ、とふんぞり返ってご満悦だ。

 どこが誉め言葉なのか良く分からないが、本人が喜んでいるならいいのだろう。


「それなら、もう一つあるんですが」

「な、なんじゃ?」


 マルセロさんが声を掛けたクレイジーな魔法使いは、ふんぞり返りすぎて椅子から転げ落ちている。


「ハンナの狙撃力は昼間でこそ生きると思うんですよ。僕とベアトリクスが遊撃戦を仕掛けて相手を混乱させた時にボスを狙い撃ちに出来たら効果的じゃないでしょうか。夜はやはりライトで相手の動きを止めておいて、アンジェリカの魔法と猟兵隊で一気に叩いた方がいいでしょう」

「な、なるほどな。ならばハンナは昼間でヴィルが夜か。ああ、すまんな」


 パウルさんがマルセロさんに助け起こされながら立ち上がる。


「それから、ハンナの護衛にベイオウルフがいた方が良いと思いますよ。彼女が楯になってくれるでしょう」

「うん。んん、うん。ふー。そうだな衛兵隊にも話しておこうか」


 アンジェリカさんに差し出された水を飲み終えたパウルさんが衛兵隊の方へ歩いて行った。


「随分とせわしないわね」

「でも、戦いを見る目は確かですよ」


 マルセロさんがアンジェリカさんを見るとニコニコ頷く。


「パウルさんって、一体どういう人なんですか?」

「猟師よ。それからうちの技術顧問ね」


 アンジェリカさんがマルセロさんを見るとニコニコ頷き返す。


 もう、このくらいにしておかないと、そのうちベアトリクスが口から砂を吐き始めるな。

 パウルさんが無駄に慌てていたのも見ていられなかったんじゃなかろうか。


 結局、役場の二人と衛兵隊もパウルさんの提案に沿って二班に分かれる事になった。


「後はよろしくね」


 そう言って、ベアトリクスが夕食後に入れ違いに帰って行くのを見送るのが日課になった。




 ところで、ロバーツ様の魔物狩りは十日間続けるらしいので、この砦の戦いは今月一杯続くようだ。

 どうして十日間なのだろう? 理由が分からないので、砦で休んでいる時にパウルさんに聞いて見た。


「恐らく外交的配慮だ」


 パウルさんが声を低めて返してくる。

 外交的配慮? 自国の魔物を退治するのに外交が関わって来るのか? 良く分からない。


「東の方で戦争が起きとる。隣のメディオランドも出兵し、我が国との国境周辺を空にした。なので、こちらも国境に隣接した東の原の兵力を魔王軍残党にぶつけて不可侵を表明しとるんだ」


 東の方の戦争は、先月末から始まっているらしい。


「でも、グラディス様もいらっしゃるし、メディオランドは仲が良い同盟国ですよね?」

「王族同士は仲が良くても、相手さんの貴族や住民は不安がるだろうよ。それを理由に戦場から撤収しようとするかもしれんからな」


 なるほど。難しいものだな。


「でも、じゃあ、どうして十日間なんですか?」

「今月の末までには必ず戦争が終わるからな。それまでには東の原の砦に帰らにゃならん。準備と十日間の攻撃、全部合わせて三週間あまりなんだ。ロバーツ様が水かけ祭りに来たのは、最後の調整だな」


 今月末には戦争が終わる……。そんなルールがあるのだろうか。


「いいか、魔王軍本軍との戦闘で各国が援軍として寄越して来たのはほとんどが傭兵だ。傭兵ってやつは契約期間があってだな、普通はせいぜい四か月程度だ。今回は五月から各国が応援を寄越して来ただろう? 契約期間は多分今月一杯だ。契約を延長したら料金が跳ね上がる。余程の事が無い限りそれはせんよ。要するに、契約期間内だから戦争をやっとるんだ」


 そんな、無茶苦茶な……。


「それが現実だ。冬は余程の事がないと戦争はせん。なので、今の内なんだ」


 パウルさんの説明は、理解は出来るが納得できるものではない。そんなくだらない理由で殺し合いなんてやって良い訳が無い。


「儂らは魔物退治を頑張る。いずれは倒さなきゃならん相手だ。国王やロバーツ様は戦争に加担せずに、魔物退治を選んだんだ。人間相手の戦争じゃない。今はそれだけ分かっとれば良い」


 人間相手に戦争をする余裕は今のセルトリアにはないだろう。しかし、この国が人間同士の争いを選ばなかった事もまた事実だ。それはそれで誇りに思ってもいいのだろう。金勘定が原因で戦争が起きていると言う事に釈然としないものは残ったものの、現実は受け止めなければならない。

 今は頭を切り替えて魔物退治を頑張るしかないのだろう。

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