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清貧に生きる野良神官は魔物退治をしながらお金を稼ぐ夢を見る  作者: 兎野羽地郎
第六部 第三十二章

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第二話 収穫の秋②

 宴会の翌々日、ベアトリクスを除く一七五の会と準一七五の会は、幽霊屋敷で会合を開いた。何故、翌々日になったかと言うと、ベイオウルフが王宮へ行って国王様に正式な返答をして来たからだ。それ以外にも色々と話があったらしい。

  会合の議題は試験場で結果を出した事への報酬をどうするかだ。ベイオウルフの話ではない。提案された三か所の内どれか一か所を選ばなければならない。なかでも、東の原の提案は非常に魅力的だが、現在の拠点である幽霊屋敷、農場、四号店をどうするかが問題になる。特に農場は、リュドミラが中心になって荒れ地を開墾し土から作って十分な収穫が上がるほどの畑に仕上げた。引っ越しするとなると面倒が見れないのであれば手放す事になりかねない。


「さて、エレノア様からのご提案は、皆も知っての通りだ。三つある。ベアトリクスがいないから決定はできないんだけど、一応現時点での皆の意見を聞いておきたい。重ねて言うけど、今日は決めないからね。遠慮なく、何でも言って欲しい」


 普段仕切り役をやるベアトリクスがいないから、ベイオウルフがやっている。月単位ではあるが最年長だからだ。


「じゃあ、私から」


 一番手はベイオウルフだ。


「宴会で話した通り、私は外国人になる予定だ」


 セリフだけ聞けばなんてことはないが、頬を染めている。


「だから申し訳ないが抜ける事になる。その点について謝っておきたい」

「いいぜえ、そんなの。仲間内から最高の玉の輿が出たんだ。それだけで十分じゃねえか。もし、内輪でやる結婚披露宴があるなら呼んでくれ」


 ベイオウルフが謝ろうとするのを、マチルダが遮った。確かに、謝られる筋合いはない。元々、結婚した時は抜けるのが前提だった。


「いや、一応だ。謝らせて欲しい。済まない」


 形は大事という事だろう。けじめをつけるために謝りたいのだと思う。マチルダもそれ以上は、何も言わなかった。


「それから、私の今後に関わる事について、ミアーナから説明があるそうだから、聞いて欲しい」


 ミアーナが立ち上がり、一礼したベイオウルフが座った。


「私から、ベイオウルフの今後……お金の事も含めてお話します」


 ミアーナから? メアリーを見ると澄ましている。てことは、お大尽あるあるだな。


「ベイオウルフの嫁ぎ先は、もう既に知っている様にプライモルディア王家です。つまり、プライモルディアで一番のお金持ちです」


 極めて分かりやすい説明ではある。


「そして、ベイオウルフは血筋的にはセルトーニュ王家の血を引いています。王位継承権も持っています。ただ、庶子だし出生の経緯が経緯なので、セルトリア王家の養女として嫁ぎます。つまり、形式的には王族同士の結婚です。そう言った場合の婚姻では、通常嫁ぐに当たっての支度金が渡されるのが慣習となっています。相場は……そうね……」


 ミアーナが言った金額に一同びっくり仰天した。何にそんな大金をつぎ込むんだ?


「通常は、結婚とその後の生活に必要な物を買い整えるためと実家への謝礼ですね」


 謝、謝礼! ちょっと露骨すぎないか?


 ベイオウルフは、その謝礼分を孤児院に寄付する積りらしい。まあ、実家と言えば実家だ。


「そして、ベイオウルフが今持っている私物の大半は誰かにあげるなり売るなりして処分する事になると思うの」


 勿体ないと言うなかれ、孤児院と衛兵隊と王国軍重装歩兵として生活をして来た者の持ち物なんか、王太子妃には必要無いのだ。


「そして、今後ベイオウルフが使うであろう衣類や装飾品、生活に必要な調度類は、セルトリア王家で整えようと言う話が進んでいます」


 ベイオウルフはセルトーニュ王家の王位継承権を持つのだが、ほぼ無いに等しい扱いを受けている。セルトーニュとしてはあまり関わりたくないのだろう。ミアーナの話では、一応結婚式には来賓を寄越すそうだ。ただし、王族では無く、王家の血を引く人らしい。基本的にセルトリアから送り出す態らしいから、セルトリア王家に関りのある人だろう。もしかしたら、ヨーグ様とセルトーニュのジャンヌかも知れない。


 しかし、そうなるとベイオウルフには一文のお金も入らないことになる。まあ、大金持ちに嫁ぐのだから生活には困らないだろうが。


「後は、ベイオウルフの貯金ですが……大体どの位あるの?」

「えーと、金貨三百枚程度かな」


 すげえ、とマチルダから声が上がる。ベイオウルフは王国軍兵士で王族直属だから高級取りだ。月に金貨三枚から四枚は貰っているはずだ。節約家だし、以前聞いた貯金額から考えても、その位は持っているだろう。


「それはどうするの?」

「そうだね。今回の褒賞の開墾費用で賄えない施設や建物を買えばいいかなって思っている。だから、個人的には東の原かな。一からの開墾になるけど、その方が面白いよね」


 なにせ。五十枚相当の広さの土地も貰えるのだ。夢が広がるとはこの事だ。


「おい! 土地を買うっつったって、プライモルディア行った後はどうすんだ? セルトリアじゃあ外国人は土地を持てないんだぞ」


 マチルダが突っ込んだ。その通りだ。国籍が変わった場合は、相場でセルトリア人か国に売らないといけない。無視したら国が没収だ。


「マチルダに貸しとくよ。全額貸すから利子を付けて返してくれないか?」

「か、貸す? あたしに?」

「ああ、貸すんだ。返金は現金でお願いするよ」

「お、おめえ、王太子妃になるんだろうが?」

「結婚すればね。でも、このままエドワード様と結婚したとして、王太子妃が平民に金を貸しちゃ駄目なのかい? プライモルディアにもセルトリアにもそんな法律は無いよ。むしろ、商売人に投資して儲けているくらいさ」

「そんな事言ったって、おめえ……」


 将来的に義手義足作りや大サメ対策の人形造りをプライモルディアで指導してくれたら、その報奨金で少しずつ支払っても良いと言っている。これには、マチルダが言い返せなくなった。何せマチルダがお金を持っていないのは皆が知っている。義手や義足の試作品づくりにつぎ込んでいるからだ。

 ミアーナがクスクス笑っている。どうやら、勝負あったな。つまり、ベイオウルフは東の原を希望するわけだ。


 次いで私だ。私は東の原だ。元々狙っていた場所だ。東の原と王都域を結ぶ街道沿いにあり、今は荒れ地だが耕作できる土地もある。そして、ちびセレーナの森が近くにある様に敷地内には立派な森もある。それに、国境からも遠い。いざとなれば私達も防衛戦に参加した野戦陣地に逃げ込める。私達が目指す町づくりには良い場所だと思う。


 ヴィルとボニー、そしてメアリーは三人して同じ意見だった。中の原だ。ただで上質の農地が貰える。小作人も融通してくれる。そこでもっと稼いで、土地を買い足せば良いと言っている。無理の無い現実的な考えだと思う。


 マチルダは、東の原だった。理由は、平坦地の土地では自分達の街って言う気がしねえ、との事だ。言わんとしている事は分かる。


 そして、リュドミラだ。リュドミラは、ある意味この件について最も発言力があると言って良い。東の原を貰った場合、小作人が付かない。つまり、リュドミラがいないと開墾出来ないからだ。

 そのリュドミラは、意外にも東の原を選んだ。


「東の原の荒れ地の開墾は簡単に出来ないよ。だから土地だけ貰って、しばらくは平坦地で稼いだ方がいいと思うよ。じっくり計画立てて、目途が立ったら開墾しようよ」


 ヴィルとボニー、メアリーとは逆の発想だった。まさか貰った土地を寝かそうと思っている……正確には寝かさざるを得ないのだろうが……とは思わなかった。東の原の話が出た時に、深刻そうな顔をしたのは、即時の開墾……つまり、私達の夢の実現が今では無いと思ったからかも知れない。


 案の定割れた。ベアトリクスがいないから決定ではないが、平坦地が三人、東の原が四人だ。ベアトリクスが平坦地を選んだら四対四で多数決にもならない。


 準一七五の会にも聞いてみた。参考意見と言う奴だ。


 フィオナとゲルマナはどっちでも良いと言った。要は私の傍にいれたら良いらしい。フローラは東の原、キーラは中の原を選んだ。ここも割れた。フローラはちびセレーナの森が近い方が良いと言い、キーラは今まで通り四号店で働きたいと言った。


「四号店は私が買い取ってもいいわよ」


 最後はミアーナだが、仰天発言が飛び出した。


「か、買い取るの?」


 びっくりだ。王女ともなればいう事が違う。メアリーを見ると、両手を口に当てて表情を隠しているが、目が明らかに笑っている。


「本当?」


 傍に控えていたキーラが飛びついた。


「本当よ。キーラも今のままが良いでしょ?」

「うん。あの店にいたい」

「一緒に続けようよ」

「うん!」


 なんか雇われ店長が従業員と盛り上がっているぞ。


「いいの? ミアーナ?」


 笑いを堪えているメアリーが聞いた。


「ええ、だって今のお店大好きだもの。キーラや三つ子や新しく来る娘と一緒に、今まで通りにやっていきたいの」

「そうだよね! 一緒にやろうよ!」


 これは、もう止まらないかも知れないな。


「でも、ミアーナお金持っているの? お給料のほとんどを生活困窮者対策に回しているでしょ?」


 これは三号店員だった時からそうだ。表向きは出ていたけど、裏では生活費以外の全てをマグダレナ様に渡していた。


「そうね。でも、お小遣い貰っていて、あまり使わずに貯めてあるの。買い取れるくらいには貯まっていると思うわ。あっ、パン釜は貸してね。使用料払うから」


 スラスラと相場の金額が出て来た。いつの間に、そんな事まで分かるようになったのだろうか?


「でも、ミアーナ。買い取ったら一七五の会の四号店じゃなくなっちゃうわよ」

「そうね。でも、本店と業務提携結んで今まで通りに出来ないかなあ」

「お店の名前はどうするの?」

「どうしようか?」

「う~ん」


 キーラと二人で首を傾げ始めた。メアリーが大笑いしている。


「まだ四号店売るって決めてないから、今から考えなくてもいいわよ」

「そう?」

「そうよ。だって、四号店のままでいいじゃない。仮に褒賞で頂く土地が東の原になったとしても今の農場やお店手放すわけじゃないし。リュドミラが直ぐに開墾できる訳じゃないって言うのなら、きっとそうよ」


 ミアーナとキーラが、様子見ようかと言い始めた。今すぐ買い取る必要なんかない。


「それに、リュドミラの考えを聞いて気が変わったわ。私はリュドミラの意見に賛成するわ」


 メアリーがそう言うと、ヴィルとボニーもそれに倣った。やっぱり、リュドミラの意見が一番強い。


「じゃあ、後はベアトリクスだけだね」


 ベイオウルフがまとめに入った。ベアトリクスが平坦地を選択すれば、一対七になる。多数決で東の原だ。


「実は、ベアトリクスには、書簡送信用魔法陣で返事貰っているんだよ。まだ中身は見てないけどね」


 流石は王太子妃予定者だ。仕事が早いな。




 ベアトリクスの意見は東の原だった。ただし、条件が付く。


「えーと、ベアトリクスが言うには、開墾する場合、小作人の募集と斡旋を国でやって貰えってさ。募集の対象は獣人が良いだろうって」


 なるほどね。良い考えだ。北東の森やエルフの里で出稼ぎしている獣人がいるが、人手が余っているらしい。全員が強力な魔法を使うから、土木工事が捗るだろう。


「後は、魔王が復活した時に備えて、耐魔の資材で作った砦があった方が良くないかって、王家に交渉しろってさ。もし駄目なら、せめて有事の際に東の原降下猟兵隊の陣地を避難場所に使わせて貰える様にして欲しいそうだ。これは私も賛成だね」


 耐魔の資材で作った砦か。確かにあってもいいな。




 結論として、東の原を貰う事を前提として、一回上空から観察させて貰う事になった。幸いな事に、ヘンリー様とエレノア様は孤児院に泊まっている。多分、見たいと言うだろうと予想していたからだろう。


 翌朝、参加者で孤児院に行くと、あっさりとOKが出た。ミアーナとベイオウルフは朝早くから四号店へ行き、フローラはグローリーを三つ子に預けての参加になった。中型お椀に乗って超高速で行くとあっという間だ。パン焼きさえなければミアーナもベイオウルフも参加できたのだろうが、仕方ない。午前か午後にもう一回行って貰う事になった。


 現場に行くと、降下猟兵の野戦陣地から東へ延びている街道沿いだった。その街道に沿っての範囲で西から、陣地、森、荒れ地、森、街道、川と言った地形になる。褒賞の対象地は東西に長い長四角形で、陣地前の森と荒れ地だった。


「あの陣地は、一七五の会の面々と戦った思い出深い地ですが、現在は巡回の際の中間拠点としてしか使用していません。守備兵も限られています。ただ、ご存じの通り北東の森には魔王軍残党がいます。魔王が復活するまでにはあの陣地を耐魔の石材で補修し、魔王軍対策の一拠点とする予定です。ですから、ベアトリクスの要求には添えると思いますよ。ただし、直ぐに開始とは行きませんから、現在進行形の魔王が復活する洞窟入口の要塞化が終わってからの事になります。ですので、リュドミラの要求の頃合いまで開墾を待って貰った方が、開墾用の人員や小作人の募集を同時に出せますから、丁度良いと思います」

「はい。分かりました!」


 エレノア様の説明にリュドミラが元気に返事をし、褒章の対象地が意外にあっさりと決まった。

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