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清貧に生きる野良神官は魔物退治をしながらお金を稼ぐ夢を見る  作者: 兎野羽地郎
第一部 第四章

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予兆

 魔王軍の封じ込めに成功し、セルトリア王都は魔王復活以前の活況を取り戻し始めていた。六千人の王国中央軍のうち半数がまだ戻ってきていない。周辺業種に落ちる金は減ってはいるが、代替えとして魔王軍を囲む各地の砦に出張して業務を継続しているので、なんとか賄えていた。


 勿論国庫への負担は大きく経済が立て直されたとは言い難い・しかし、直接的な脅威が大幅に軽減したことで、人々の間では楽観的な風潮が広がっている。

 なんと言っても、常に前線で指揮を執り続けていた国王が王宮に帰還した。峠は過ぎた、と考えるのも無理はない。




 セルトリアの王宮では、前線からビクター王国軍兵団総長が呼び出されたのに併せて、国王の側近何人かが、謁見の間控室で顔をあわせた。


 国王以下、エバンス宰相、ビクター兵団総長、ハリス王都大司教秘書官長がテーブルを囲み、ヒューズ国王警護官長が扉の近くで制帽を小脇に抱え立っている。


「わざわざすまんなビクター」

「いや気にするな。それよりもハリスまでいるということは何かあったのか?」


 国王の謝罪を半ば遮って、公式の訪問であることを現わす赤い祭衣を着たハリスの顔を見る。教会は行政に干渉しない。通常王宮で顔をあわせることはあまりない。


「ハリスに来てもらった理由は後で説明する。それよりも、ロバーツからの報告を読んだか?」

「ああ。ガーゴイルがオークを運んだそうな。容易ならんな」

「防ぐ手立てはあるか」

「敵が多ければな。見つけることさえできれば対応できる。小規模であちこちの村に分散して攻めて来られては防ぎようがない」


 ビクターはお手上げだ、と言わんばかりに両手を広げた。


「果たして攻めて来るでしょうか?」


 両肘をテーブルに置き、組んだ手の上に顎を乗せ考え込んでいるエバンス宰相が独り言のように言った。その表情にはトレードマークともいえるニコニコ顔がない。


「来ないと言うのか」


 ビクターは、もちろんエヴァンスが単なる思い付きで物を言う男ではないことを知っている。それが分かっていても、つい険しい視線を向けてしまう。

 エバンスは姿勢を正すと、一つ頷いた。


「小規模で攻めてきたところで、こちらが駐屯軍を派遣すれば制圧可能ですよね。つまり、相手にとっても全滅は必至なわけです。占領しても維持出来なければ意味はありませんから」

「その通りだが、我らが守るのは土地ではなく人だぞ。皆殺しにされた後に援軍が駆けつけても意味がないだろう」

「その通りですが、いずれ全滅するのが分かっていてわざわざ攻めて来るでしょうか?」

「通常の軍であればな。相手は魔物だ。人を殺すためだけで動くかもしれん」


 どちらかと言うと客観的な物言いをするエバンスの言葉は、時折計算高く聞こえる。分かっていても、直情型のビクターとしては、あえて釘を刺すような物言いをしてしまう。


「今までの記録では、魔王軍に限って言えば、そういった事例はありませんよ。魔王軍とて、ただ人間を殺すだけではなく、何らかの利益を求めているようです」

「貯蔵した食料や武器か? 農耕を営まん魔物は狩猟が生きる術であろう。人間の村をその対象にせんとも限らん。人を殺して奪う。山賊のようなものだ」

「つまり、四六時中全土を護る必要はないわけですよね?」


 要点はそこだった。恐らく参加者全員に分からせるように言ったのだろう。ようやくビクターは理解した。彼の考えとほぼ同じだったからだ。


「警戒すべきは、収穫期と冬。そして魔王軍残党が棲む森に隣接している地域。王都域は魔王討伐軍が駐屯していますから除外できます。東の原も大丈夫でしょう。このところ、東の原兵団が北東の森に攻撃を仕掛けていますから」

「問題は中の原、西の原、海の原、の三地域か」


 頭の中で地図を思い浮かべているのであろう、国王がやや斜め上に視線を向け指折り数えている。


「その内、西の原は鉱山地帯を通らねば農耕地へは行けません。海の原は山地から海辺の町が近いです。つまり、早期の発見が可能です」

「となると、中の原だけか」

「恐らく」


 国王は、エバンスの顔を見、次いでビクターの顔を見た。ビクターも頷いている。話し合ってもいないのに二人の意見が一致している。まず間違いないだろう。


「その中の原ですが、ロバーツ様のもう一つの報告書をお読みになりましたか?」


 エバンスがビクターに向きなおって聞いて来た。


「ああ、その魔物が何者かに操られていた可能性がある、と言う奴だな」

「そのあたりは、ヒューズが詳しいでしょう」


 扉の傍に立っているヒューズ国王警護官長を見る。


「中の原に魔物使いがいる」


 ヒューズはポツポツと話し始めた。


「サボーディネイションとやらを使う男だな」


 長々と喋るのが苦手なヒューズに変わって、ビクターがフォローするように話の接ぎ穂を継いでいく。昔からそうだ。仲間の誰かとの会話の中でヒューズの考えが明らかにされてきた。

 そういった二人の会話の中で一同が手に入れた情報は以下の通りであった。


 ・魔物使いを育てたのが恐らく滅びの町の神官達

 ・エングリオ国王に接近しているのが滅びの町の評議員長セルベトゥス

 ・禁呪を使えば、他人の魔法を真似をするように覚えることができる

 ・複数の魔物使いが魔物を操っている可能性がある


 恐らくかなりの数の犠牲者を出して得たであろうヒューズの情報を聞くにつれ、その場の皆の表情が変わってきた。容易ならざることがエングリオで行われている。


「中の原に攻めて来る時期は予測出来るか」


 国王は平静を装ってはいるが、口元を引き締めヒューズを真正面から射抜くように見つめている。既に攻めてくることが前提となっている。やや、冷静さを欠いている。


「エングリオ軍の動きで予測できる」


 国王と兵団総長が前のめりになった。


「今は北上の気配はない。恐らく西へ行く」


 ここで、ようやく国王の口元が緩んだ。


「西を攻めるとすれば厳冬期。北上は春まではない」


 ようやく、場の緊張がほぐれた。冬季には魔物の食料が枯渇する。条件は厳しいが魔王軍残党に攻勢をかける予定だ。そして、この冬を無事に越すことが経済的な立て直しの予兆になるとエバンスから報告されている。


「つまり、春以降はエングリオの動きを監視すれば、魔王軍残党の動きも予測可能と言うことですね」


 エバンスが確認すると、ヒューズはゆっくりと頷いた。


「ビクター。いかがでしょうか。エングリオは少なくとも冬は西に行く、その後攻めて来るとすれば?」

「早くて夏の終わりだな」


 ビクターの返事を聞くと、エバンスは国王に向かって姿勢を正した。


「この件は春までに何か対案を考えることにしませんか? 恐らく野生の魔物がガーゴイルと組むことはあり得ないでしょう。そして西の二か国には警報を出しておきましょう」

「いいだろう」


 国王はホッと一息ついた。


「ビクター。冬の間は大変だろうが頑張ってくれ。俺も顔を出す」

「すまんな。陛下が来てくれれば兵達が喜ぶ」


 難問が一つ先送りにはなったが、緊急事態は避けられたことが確認できた。




 次の案件は朗報と言って良いものだった。


「東の原猟兵団の報告書ですが、中の原と東の原で合同した北東の森の作戦中、新しい戦術が生み出されました」


 エヴァンスが普段のニコニコ顔を取り戻した。


「俺も読んだぞ。聖水を詰めた壺や魔法陣を描いた石を投石機で飛ばして魔物を攻撃したそうだな」


 ビクターも先ほどの緊張感はどこへやら、笑いながらテーブルの上に置かれたワインに手を伸ばす。


「どうですか? ビクター? 討伐軍でも使えそうですか?」

「数が必要だ。まず聖水を詰めた壺を雨と降らして近距離の敵を追い払う。その後、投石機でどんどん神聖攻撃魔法陣を送り込んで大声を出しながら攻めて行けば魔物は撤退するしかないだろう。魔法陣を並べておけば防御にも使える。問題は経費だな。なにせ、神聖魔法関連は値段が高い」


 ここで、ビクターはハリス大司教秘書官が顔を出している理由に気付いた。


「魔法陣を描けるものを軍で集めてくれ。魔法陣の値引きはできんが、中級以上の神聖魔法を使える者を旅費と食費だけで派遣できるぞ。前線で魔法を込めればいいのさ。無論教会の方針としてだ」

「それは気前が良いな」

「ただし、聖水の成聖は規定料金を貰う」

「あれは、どのくらいだった?」

「大樽一杯で金貨五枚だ」

「それだけあれば、一回の攻勢には十分だな。しかし、冬季攻勢全般ともなるとかなりかさむな」


 ここで、ハリスは口元に笑みを浮かべた。


「ここまでの話なら、俺がわざわざここで帽子を脱ぐ必要はない。良いものを見せてやろう」


 懐から一枚の羊皮紙を取り出してビクターに手渡す。


「これは王都域に住む教会無所属神官の一覧だ。無論聖水の成聖が出来る上級神聖魔法が使える者に限る。五人いる。元教会神官や金持ちに雇われている連中だ。何人か傭兵として雇えば安くつくぞ」


 ビクターは目を丸くした。教会への裏切りになるのではないか?


「心配いらん。教会の方針には何も違反してない。なにせ、こう景気が悪くては教会への寄進も少なくなる。景気よく魔物を退治して王都の景気も上げてくれ」


 ニヤニヤしている。

 その表情を見たビクターは首をかしげた。


「どうした?」

「いや、何と言うか、結構黒いな」


 思わず口を滑らせると、一同から笑いが漏れた。ヒューズまでもが俯いている。


「黒くて結構。魔物は教会の敵だ。人間同士の争いには加担せんが、魔物退治には表も裏も使い分けるのさ」


 ビクターは不敵に笑うハリスの顔をまじまじと見た後で国王を見た。


「ビクター。傭兵の雇用はお前に任せる。なるべく安く雇ってくれ」


 一同が和やかにワインを口にするなか、ビクターは一人羊皮紙を見つめるのだった。

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