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清貧に生きる野良神官は魔物退治をしながらお金を稼ぐ夢を見る  作者: 兎野羽地郎
第六部 第三十一章

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第五話 竜人の里再び

 無事に母子が過ごす場所も出来上がった。メルの空気の泡でベッドごと移動した後、旦那とその友人の竜人一名を呼んだうえで竜人だけにした。他の者は交流拠点でお祝いの宴会をした。

 ノームがベアトリクスの事を気にしていたが、モランディーヌでレグネンテス魔法兵団の臨時講師として各国の魔法兵の前で土魔法の模範をやっていると聞いて、安心していた。


 途中で、竜人の奥方が飛んで来た。お礼言上だ。

 奥方様は交流拠点に来たのは初めてだったらしく、五大をはじめとする精霊、竜人、獣人、人間が一緒になって宴会している姿にびっくりしていた。


「いつも、こうなのですか?」


 奥方様が竜人の一人に聞いている。交流拠点に出入りしているのは若いのばかりだ。青、黄緑、赤、茶色と一通りいる。皆、適当にばらけて座っている。特に種族ごとに固まっていない。


「はい。この様にざっくばらんな感じです。はい」


 上下も左右もない。種族もバラバラだ。皆適当に座っている。火と土、水と風の組み合わせを維持している四大が二分されているから男女で分かれている時もあるが、それもいつもでは無い。アレックスやエルフの王子、ヘンリー一行あたりは結構自由に動いている。王都域とセルトリアでは違うが、獣人に至っては日によって違う。最近はゲルマナが両方に顔を出している。

 

「聞くところによれば、四属性の竜とも、この様にその場その時でざっくばらんに宴会をしているそうです」


 ドラゴンの時の宴会は、席次も何も考えていなかった。全部他国……地竜以外はフィニスなのだが、あそこは元々堅苦しい事を言わずに適当に宴会をやっていた。


「ジャンヌとやら、そうなのか?」


 何故か私に聞いて来る。


「はい。種族に差があるわけではありませんので」


 共存共栄と平等が基本だと思う。でなければ本心から協力し合うなんて出来ない。


「我らも見習わねばならん様だな」


 初めて族長と会った時は酷かった。明確に上座と下座があった。無論、竜人が上座だ。特に真ん中の族長なんか三段くらい高い位置にいる。人間と魔物……ヴァイオレットだったが……は下段だ。人間なら貴族と農奴位の扱いだ。尤もあれは会見だったから猶の事かも知れないが、人間の王族や大貴族同士なら、即戦争だ。


 奥方は、若手の話を聞いて腹をくくったのか、普通にエレノア様の隣に座って手を取った。


「この度は、娘のため、そして我が竜人族のために様々に心を砕いてくれた事に感謝します」


 なんとなく上から目線だが、今更簡単には治せないのだろう。




 竜人の姫と赤ちゃんについては、リッチーが全面的に任された。ゲルマナが言うには、浴びる魔力量については概ね問題無しだそうだ。後は姫の肥立ちを見ながら必要に応じて調整するらしい。

 現時点ではデューネ曰く、母子ともに極めて健康なのだそうだ。ただ、子供の方は、アンピプテラのままか、それとも竜人になれるのか、の問題がある。幸いな事に、姫を母親とは認識した様だ。母親とそれ以外に対する態度が違うらしい。その点は喜んで良いのだろう。後は言葉をしゃべれるかどうかだ。通常であれば、誕生後三か月程度で、簡単な言葉を喋り始めるらしい。人間で言う所の、母親や父親を呼ぶ言葉だろう。更には、アンピプテラの姿から人型に変身する事が出来るかどうかだ。それは幼児期が終わり少年少女の時期になる。何年も先の話だ。そこまで出来て、初めてリッチーの実験は成功する。ただ、母親をきちんと認識した個体は大体が問題無く成長してきたらしいから、一安心だ。リッチーは随分と奥方様達にお礼を言われ、お腹の大きい黄緑色の若い妊婦も喜んでいた。


今後は、時折デューネとゲルマナ……恐らく、他の三精霊も呼ばないと拗ねるだろう。特にノームが拗らせると面倒だ……が交流拠点での宴会に参加がてらに診る事になり、ゲルマナと私も参加する事になった。北東の森の回復の翌日か次の日で良いと言われたので、エリクソン様や湿地の巫女も参加出来る。




 宴会の最中、エレノア様やマグダレナ様がアレックスと耐魔の資材について話をしていたら、竜人が興味を示した。

 ああだ、こうだと騒いでいたが、何故かアレックスに私が呼ばれた。


「どうしたんですか?」

「こいつらが交渉してくるんだよ」


 聞くと、アレックスが竜人を指差している。


「交渉?」


 竜人が何を交渉してんだ?


「例の耐魔の資材あるだろ?」

「はい」

「あれの作り方を教えろっつうんだよ」

「駄目なんですか?」

「駄目じゃねえが、竜人が本気で作り始めたら俺っちらはあがったりだ」

「そうなんですか?」

「あたりめえだ。魔力を扱う時の持久力が違うわ。生産量が上がって量が出回ったら値が下がるじゃねえか」

「なるほど」


 値が下がった方が、エレノア様とマグダレナ様は喜ぶんじゃないか? もっとも、そこら辺が理由で中立たる神官の私が呼ばれたらしい。




「でも、大量生産と言っても、原材料の生産は間に合うんですか?」


 ナメクジ牧場にも限界があると思うのだが。


「まあ、教えてやるよ。こっち来い」


 ここから先は国家機密だ。エレノア様に確認を取った後、離れた場所でミュート付きで教えてくれた。エレノア様も一緒だから問題は無いだろう。


「実はな、上手く行ったのよ」


 ナメクジが増えたのか?


 耐魔の資材の肝はナメクジだ。あのヌメヌメが魔法も武器を弾く。染料を混ぜて煮れば色々な物に塗りたくれる。そして、塗ったら魔法効果を無くす。ただし、武器での攻撃は弾けなくなる。それを発見したのはエレノア様だった。だから、ナメクジ牧場をやった。


「いや、やつらがな、濃い魔力を浴び続けたら膨らんで急にデカくなるのは知ってるだろ?」


 聞いた事無いぞ。成長とは違うのか?


「それでな、更に濃い魔力を浴び続けたら破裂しちまうじゃねえか」


 それも聞いた事無いぞ。どうして私が知っている前提で話すんだ?


「それがな、卵の頃から濃い魔力を浴びていたら、かなりデカい個体に成長する事が分ったんだよ。そいつがな、ヌメヌメを派手に出すんだこれが」

「そうなんですね」

「ああ、それでな、更にそいつらを掛けあわせて卵を産ませるとな、濃い魔力に晒したら大量のヌメヌメを出すデカい個体が出現する様になったのさ」


 リッチーが開発したらしい。仕事してるじゃないか。竜人の未来を切り開こうとする男は違うな。


「それにな、ナメクジのヌメヌメにエルフの接着剤を追加してモルタルに混ぜたら、これがまた、具合が良くってな」


 モルタルは石と石をくっつけるために使う。石が頑強に出来たがってもモルタルが弱ければ意味が無い。ナメクジのヌメヌメとエルフの接着剤を加えて作ったモルタルは、魔法防御だけではなく、物理攻撃にも十分な耐性を示したらしい。アレックス曰く、そう言った耐魔の資材で作った石垣を崩せるのは、数百年以上の年月か、もしくはご自慢の白銀の槍で火竜がぶっ叩いた時くらいだそうな。実験は不可能だろうから推測なのだろうが、兎に角頑丈なのは分った。

 エルフが前に出て来ないのは、機密事項扱しているからなのだそうだ。材料が一個欠けたら本当に強いのは出来ないわけだ。




 エレノア様の話では、耐魔の石材は国を挙げての産業にしたいらしい。

 リッチーの活躍でナメクジのヌメヌメを大量生産出来る目途が立った事により、耐魔の資材の大量生産も見込める様になった。石材は、中央山脈に採石場があって、そこでもドワーフとエルフが活躍している。なので、セルトリアは自国での安定生産が出来る。魔王軍対策は教会絡みだから儲けにならないが、国によっては対人間の戦争用に使うだろう。国境の砦なんか猶更だ。一七五の会が絡む事は無いが、セルトリア王家としては白銀に次ぐ高額取引物件として期待を寄せているらしい。




「魔王軍対策に関しては、儲けは無しでいいんですね」

「はい。そこは諦めました」


 諦めた……。つまり狙ってはいたんだな。


「なるほど。じゃあ、注文を受ける窓口をドワーフだけに絞ったらどうですか? 例えば、魔王軍対策の場合、セルトリアはいわゆる卸売りで教会が小売りになりますよね」


 不遜な言い分だが事実だと思う。


「そうなりますね」

「それに、商品の発注・受注及び供給をする者と生産する者や原料を集める者が別れていても良いですよね?」


 四号店の基本だ。四号店は、平坦地で必要とされるありとあらゆる商品の注文を取る。取った注文の内一七五の会で作っていない分は中の原の商人から取り寄せる。その場合、うちは儲けが無い。うちは注文を取るだけだ。注文された商人は、自分とこの商品や職人から買った品を渡してくれる。そうやって手に入れた商品の稼ぎは全部中の原の商人に渡す。つまり、中の原の商人は店舗を構える事無く、売れ残りも無い受注販売の窓口を持っているわけだ。その分、安く出来るものは安くして貰っている。

 そのやり方をここでも当てはめる。この場合、ドワーフが一七五の会に当たる。うちと違うのは、作り方を竜人に教えるドワーフが技術指導料として、いくばくかを上乗せすれば良い。つまり卸値と小売値の違いだ。これは普通の取引になる。エルフはドワーフと契約しモルタルをドワーフに渡す。ドワーフは竜人からの注文に応じてモルタルを渡す。後は、竜人とドワーフが独占契約を結べばよい。


 人間……セルトリア王家限定になるだろうが……への売値は今と一緒で、そこからドワーフの取り分を減らした額が竜人の取り分になる。ドワーフは自分で作ったものだけでなく、竜人の作った物まで扱ってその卸値と小売値の差額を手に入れる訳だ。ドワーフが欲張らない限りは大丈夫だろう。


 説明した所、いいんじゃないか、との回答を貰った。

購入者の人間、受注元のドワーフ、請負生産の竜人の形をとる事になった。ドワーフは技術指導だけではなく、原価に小売り料金を乗せて販売する。この辺りは人間の商いと一緒だ。大量生産の結果単価が安くなってもドワーフは競合に負けたりはしない。


「竜人が大量に作って安く販売して下されば、助かります」


 王族二人も喜んでくれた。値段は教会絡みになったから儲けがなくなった。今は、兎に角にも量が必要になった。生産量が増えれば自国の分にも回せるだろう。



 話しがまとまりかけた時、奥方がやって来た。竜人達が念のために知らせたらしい。


「ふむ。魔法を弾く石材とな?」


 奥方様が聞いている。相手は資材開発者のアレックスだ。


「そうだ。作りようによってはモルタルも作れるから隙がねえ。だから色々な形に固めることも出来るんだ。勿論、普通の石材の上に塗り固めて強化する事も可能だ」


 アレックスが解説している。横にいるリッチーが大いに頷いている。


「それは武器にも応用できるのか?」

「武器? 武器は無理ですなあ。防御陣地作るためのもんだから守り一辺倒ですな」

「ふむ。なかなか面白いの」

「ま、ドワーフとしても良い仕事をさせて貰ったよ」

「それで、魔王軍対策にするのか?」

「買った人間が何に使うかはドワーフにゃ関係ねえぜ」

「ふむ」


 奥方様に改めて聞かれたエレノア様が頷いた。


「人間は人間で、魔王の復活に備えねばなりませんので」

「なるほどの」


 奥方様は、他の竜人達と話をした上で私の傍に座った。

 嫌な予感がする。


「ジャンヌは、一連の話を把握しておるのだな」

「ええと、ごく大まかな事だけは」

「それで良い。我が族長にも、先ほどの話をして貰えぬか」

「私が、ですか?」

「そうじゃ」

「えーと、私だけですか?」

「ジャンヌは、里での族長との面会を許された唯一の人間じゃ。少なくとも、今生きている者ではな。だから、ジャンヌが来ねば話にならぬ」


 どうでもいいじゃないか。四属性の竜との宴会を用立てたのはヘンリー一行だよ。フィニスだって絡んでるんだよ。


 正直言って一人では行きたくないが、取引の提案をしたのが私だ。正直言って断りにくい。しかし、一人となると話は別だ。


「ヘンリー一行……エレノア様とかと一緒ではだめですか?」

「そうなると、また待たせる事になるやもしれぬ。セルトリア王家の者には娘の事で随分と世話になった。待たせるのは失礼になるであろう。そう難しい事ではない。その者共も一緒に行く」


 そう言って、若い竜人達を指差す。竜人達は、行きます、行きます、と積極的だ。今回の話に乗っかりたいのだろう。


 エレノア様を見ると、お願いします、と言われた。

 まさかとは思うが、こうなる事を見越して私を呼んだのか? そして、取引について説明させたのか?

 エレノア様の目をじっと見続けたら目を逸らされた。

 畜生、どうやら、やられた……。




 結局、竜人の里へは、翌日行く事になった。無論奥方様も一緒だ。

 人間側は、私だけだが、精霊は良いらしい。なのでゲルマナに同行をお願いした。それから、詳細を説明できるようにアレックスに頼み込んで一緒に来て貰う事にした。ノームにも声を掛けて来て貰う事にした。本当はデューネに来て貰いたかったのだが、デューネとサラマンダーは高い所が苦手らしい。メルはウィルソンさんと話し込んでいたから止めて置いた。なので、今回もノームにお願いした。


 久しぶりの竜人の里は、以前と違って活気があった。

 奥方様がノームと並んで先頭を歩いているから皆挨拶をするのだが、後ろからついて行く私達にも挨拶してくれた。以前とは大分違う。しかも、私達の後ろからついて来る竜人の若手が、セルトリアのジャンヌだと私を紹介すると、改めて挨拶してくれた。


 意外にも緑マーブルを着ているのが何人もいた。正直、これは驚いた。交流拠点に出入りしている竜人がそうなのだが、まさか族長の里でもこうだとは思わなかった。


「族長も着ているぞ。部屋着だから家にいる時に限るがな」


 奥方様の話では、紫色を着ているそうな。確か竜人用は三号店が主体だからメアリーが頑張ってデザイン担当をしたはずだ。気に入って貰っているのを聞けば喜ぶだろう。今度言っておこう。

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