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清貧に生きる野良神官は魔物退治をしながらお金を稼ぐ夢を見る  作者: 兎野羽地郎
第六部 第三十章

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第三話 魔王の復活する洞窟の魔境⑯(モランディーヌ)前哨

 無事に分身一本を貰い、ハーピーの巣の近くに植えた。アルラウネの案内で茨ときづたを探して巣や木の周辺を覆ったので目隠し兼用のバリケードも作った。

 ハーピーは雛共々分身の木を珍し気に見ていたが、植え付けが終わって分身が出て来ると雛がびっくりしてピーピーと親の羽の中に隠れてしまった。


「あら? そんなに怖い? 折角、お土産持ってきてあげたのに要らないのかなあ」


 分身が水筒をちゃぷちゃぷ揺する。キャラ的に親しみやすいのは丁度良かった。

 水筒の中身は、ドライアドが自分の森で取れた蜂蜜を泉の清水にたっぷりと溶かした蜂蜜水だ。とは言え、音だけでは分らんだろうから、言葉でも説明していた。


 雛は親を見、私を見る。

 しゃがんでおいでおいでをしてあげると、おそるおそる傍に寄って来た。クイクイと首の後ろとかの柔らかい羽毛を指先で撫でてやると、気持ちよさそうに目を閉じている。

 落ち着いたのでお椀を取り出して分身の持って来たのを注いで貰い、私が毒味して、思い切りの笑顔を作ってあげた。安心したのか、自分でお椀から飲んで笑顔になる。


「美味しいでしょ?」


 ドライアドが言うと、今度は嬉しそうにピーピー鳴いている。


「ジャンヌもなかなか芸が細かいですね」

「野良ですからね。神官特有の生真面目さが薄れて丁度良いのかも知れませんよ」


 プライス様もプライス様だが、エレノア様もエレノア様だぞ。




 分身の使い方を説明した後、実際に木を使った移動を一回試して貰った。

 事前に、木の中は無論の事、幹、枝や根回りを始めとする木の周囲では粗相をして汚さない事や、なるべくなら使う所を誰にも見られない様にとの注意を受けた。分身が木に帰った後で、話しかけてみる。そうやって裂け目が出来たら中に入る。

 急ぎの話になったから木がやや小さい。もう少し大きくならないと一度に運べるのは、人間なら三、四人までらしいので三班に分かれた。

 お手本役のアルラウネが先に行き、次いでハーピー三体、最後にヘンリー様、エレノア様、プライス様に私が移動した。


 島の南部の平野部から、フィニスとノーザン・グラムの国境の山地だ。大分環境が違う。偶然とはいえ、天候も青空と曇天だ。おまけに降り積もった雪の量が違う。昼間でも寒さが違う。風が冷たく、夜はもっと冷えるのが簡単に予想出来る。雛は寒がって女性の羽の中に隠れてしまった。現時点での移住は嫌がるだろう。

 男性の方が飛び立ったが、ニ、三回上空を旋回していたが、直ぐに帰って来た。寒いし雪で覆われていて一面真っ白で眺めていても面白くなかったらしい。ただ、北の方にある高い山の険しい頂には興味を示したらしく。夏になったら行ってみたいとも言ったらしい。

 因みに、飛び立つ前の儀式は、木の陰に隠れてやって貰った。


「ほら、避難場所見に来たのに観光気分でしょ。本当に能天気なんだから」


 心配性のアルラウネが眉間に皺を寄せている。


「貴方の様に真剣に心配して下さるお仲間がいらっしゃれば、余程の事が無い限り、ハーピー達は大丈夫なのではないでしょうか。彼らの事を、どうかよろしくお願いします」


 プライス様がアルラウネに頭を下げる。もし町中であれば、大変な騒ぎになるだろう。


「まさか人間に魔物の安全確保を頼まれるとはね。世の中が変わったの? それとも、貴方達が変なの?」


 呆れたようにプライス様を見ている。


「どうでしょうか? 前者だと良いのでしょうが、恐らくは後者の方でしょうね」

「やっぱり?」

「残念ながら。でも、その変なのも、これから先に数が増えていけば、いずれはそれが普通になります。そう捨てたものでは無いですよ」

「あ、そう。じゃあ、頑張って増やしてね」

「努力はする積りです」


 遂に我慢しきれなくなったアルラウネが吹き出した。




 寒い寒いと帰りたがるハーピー達と帰る。

 木から出ると、明らかに暖かい。目隠しが風よけになるし、お日様が出ているから巣の前が陽だまりになっている。まるで、屋内に入ったみたいだ。これではハーピー達が移住を嫌がるはずだ。

 巣に入り、持って来た蜂蜜酒で軽く宴会した後、ドライアドとアルラウネに後を任せて砦に帰った。




 翌々日、メディオランドから超上級魔法使い二名と上級魔法使い二名が来た。四人共、土の魔法が得意だ。

 先行して来た人達で、後から来る本隊や他国の魔法兵に土塁の作り方をレクチャーする役割を担っている。

 見張り台についても、カーブの使い手が一人いるので、ベアトリクスがお手本を見せていた。

 私は特にする事が無い。夜間の作業は既に休止となり、ウィルソンさんのお椀に乗って、ヘンリー様、ヴィルやボニーと一緒に、森の偵察を続けた。




 三日後、ヘンリー一行が帰ることになった。正直、私は来ても来なくても一緒だった。前回、北東の森の回復に帰る時に、時期的に微妙だった。もう終わると思ったからだ。念のために、エレノア様に、二月後半も来た方が良いのかを聞いた。そうしたら来いと言われたから来たのだが、数日滞在だけで終わってしまった。ただ、王都に挨拶をしに行くと言われたので、そのためなのだろう。


 王宮では十分な歓迎を受けた。

 今回の報酬は教会から出るのだが、特別にモランディーヌ王家からも出た。


「ただ兵を起こして討伐するだけではなく、囲い込む事で兵を損ずることなく民の被害を無くす事が出来ました。皆喜んでくれています。その点について、心ばかりのお礼です。是非、受け取って下さい」


 謁見の場では、ヘンリー一行に特別の声掛かりがあった。民間ではなく王族に対する態度で、少年王は玉座からではなく立ち上がってヘンリー様と抱擁を交わした上での発言だった。


 謁見の後の晩餐会では、入場の時に国家宰相が一行の一人一人の名を呼んで参加者に紹介してくれたし、改めて少年王から感謝の言葉をかけてもらえた。幸い、今回来ている一七五の会は皆どこかの騎士だ。全員が出席出来た。


 晩餐会の席上では、例によって正装したメアリーと秋冬用緑マーブルのベアトリクスが輪を作っている。ヘンリー様とエレノア様が、ヴィルやボニーを連れて少年王や近衛筆頭の二人と談笑している。私は、プライス様、モランディーヌ王都教会長の大司教様、それに魔物退治にも参加した魔物退治班の司教様から、色々と話を聞く事が出来た。

 特に、魔物退治班の司教様は、今回の一件の裏話的な噂を聞かせてくれた。

 セルディック王の提案は、モランディーヌでは魔物退治が出来ない事から諸侯会議で肩身の狭い思いをしているのを見かねての事だと、言う人がいる。しかし、会議での見栄えは良くなるかも知れないが、先陣を切って戦うモランディーヌ軍は損害を覚悟しなければならなかった。それが、兵を損ずることなく魔境の攻略を成し遂げた。国軍再編成中のモランディーヌとしては、願ったり叶ったりだったはずだ。正確には、包囲完了後に魔王の洞窟内部の戦いが待っているのだが、それは、二か国で経験済みで、それほど大きな戦いにはならないはずだ。暗闇の中での地味な戦いが待っているが、ベヒモスを含めて攻略法が完成された以上、一万近いオーク共と森の中で戦うよりは遥かにましだろう。

 そんなこんなで、流石は元英雄が率いていると、モランディーヌでのヘンリー一行の評判は随分良いそうだ。


 明日が早いとの理由で、魔境に攻め込んで行った分の損害を被らずに済んだ貴族達による盛大なお見送りを受けて退出した後は、王都一の宿屋に分宿させて貰った。少年王は王宮で止まって欲しいとの意向だったが、あくまでも民間の団体だと言い張って辞退したからだ。


 一息入れた後、何時もの様にヘンリー夫妻の部屋に集まった。二人は一番高い部屋だ。ベッドルーム以外にも応接室的な部屋が付いている。相談内容は晩餐会の内容確認だ。教会に泊まる予定のプライス様とハリソンさんも来た。


「今後の予定ですが、封じ込めが終わった後の魔王の洞窟の攻略も依頼される見込みです」


 国家宰相から、意向確認があったらしい。魔王の復活する洞窟ともなれば、ヘンリー一行は一日の長がある。自国の分だけではなく、エングリオでもベヒモスが生き残っていたにもかかわらず、攻略を成し遂げている。しかも、両方とも被害が極軽微だ。モランディーヌとしては、各国の応援よりもヘンリー一行に任せた方が良いと考えても不思議ではない。


「具体的な事は分かりません。ただ、封じ込め工事が終わるのが年内を見込んでいますので、早くて翌年の春からになろうかと思われます」


 エングリオの時と同じパターンであればモランディーヌ王家からの依頼になる。


「参加メンバーとしては、エングリオの攻略に参加したジャンヌとベアトリクスにもぜひ参加願いたいのですが。いかがですか? 報酬はエングリオの時と同じだそうです」


 私は照明役だろう。ベアトリクスはトランスレート要員だな。大量の土砂を魔王の復活する洞窟の入り口に飛ばして塞がないといけない。塞いだとて、魔王が復活したらすぐにでも除去されるかも知れないが、魔王が復活しなければ大丈夫だ。それに、モランディーヌは先の戦争での戦死者にしろ、大陸からの疫病の感染による病死にしろ、かなり被害が出た。多分、近々の内に魔王が復活する事は無いだろう。


「その時の予定にもよるけど、特に何も無ければ大丈夫よ。 ね?」

「はい。参加出来る様であればお願いします」


 まあ、早くても一年後だ。のんびり構えていれば良いだろう。




 エレノア様の次は、メアリーからの話になった。


「既に皆さんご存じの通り、囲い込みの防壁を作る算段として、始めの内は、今ある氷の防壁を目隠しとし、その内側に空堀と土塁を作る作業になります。そして、その後、目隠し無しで空堀と土塁を延長していく予定だそうです」


 当面は目隠しがあるから良い。問題はその後だ。雪が溶けているのに氷の防壁は変だし、今ある氷の防壁が溶けた後に空堀と土塁が出現するのも変だ。オーク共が警戒するかも知れない。


「作業は日中に行われます。これに対して、魔物の活動が活発になるのは夜中です。夜は人間は休みますので、当然手薄になります。これに対して、ある程度魔物の行動を抑制する必要があります」


 そこで必要になるのが結界とエングリオでも使った照明器らしい。

 エングリオは、幾つもの照明器を作ったのだが、現在利用価値がない。それをモランディーヌへ無償で貸し出してくれるらしい。魔物が森から出て来て襲撃の気配を見せたら照明器で照らして追い散らす。そうすることによって、オークが近寄って来ない様にする。そうしないと、特に満月の時なんかに小競り合いが本格的な戦いになってしまうと、損害が出る。ライトで照らす分には向こうも嫌な思いをするだけで死ぬわけではないから報復もない。

 しかし、実際にやるとなれば大量のライトの魔法陣が必要になるが……。


「今回の晩餐会で、一七五の会がライトの魔法陣を扱う事でモランディーヌと合意を得る事が出来ました。扱いは七号店になりますから、店長はよろしく手配願います」

「分った。必要な数教えてね」

「そうね。概算だけど……」


 メアリーとベアトリクスの間で商談が始まる。

 あのね、私聞いてないよ。


 幸いな事に、数はそれほど要らないらしい。少し照らせばオークは逃げる。照明器に使う小型魔法陣の発動時間ギリギリ二時間も必要ないからだ。お椀部隊も参加するから、一本を一週間くらいで使い切るとして、月に四本だ。三か所分であれば、月に十二本、完成までにかかる時間を十か月とすれば百二十本だ。三月一杯は氷の防壁を目隠しに使うから、四月までにある程度用意すれば良い。モランディーヌへはメディオランドから無税扱いで送られるらしく、月にニ十本、半年分の契約を結んだらしい。因みに、試供品として、干し肉や緑マーブルとかも積むそうな。


「ジャンヌ、とりあえず、来月分、ニ十本よろしくね。本店のマチルダにも言っとくからさ」


 あのね、ベアトリクス。私は何も聞いてないんだぞ!




 結局、疫病が沈静化して楽になっていた私のノルマが増えてしまった。まあ、月にニ十本と軽いし、時限式だ。良しとしよう。


「それから、ヘンリー一行と一七五の会はノーザン・グラムへ行きます。ハーピーについて話をするからです。途中でプライスをメディオランドへ送り届けるのですが、ジャンヌもそこで降りて下さい」

「あ、はい。分かりました」


 私だけがメディオランド?

 プライス様を見ると、頷かれた。合意の上というか、プライス様からの提案かも知れない。


「帰りは、私からジェームズ様にお願いしてメディオランド兵のお椀で東の原まで送って貰える様に手配します。そこで、ヘンリー一行と合流という事でよろしいですか?」


 ヘンリー様が頷いてどうやら決まった。


「何故、ジャンヌお一人だけなのかは、現時点ではどなたにもお話出来ません。ただ、貴方にとって悪い話ではありませんから、ご安心下さい」


 プライス様に言われたが、一体何だろう。

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