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第七話 新型ベヒモス 

 巫女は、私が光の魔法五つ全部を覚えている事を喜んでくれた。五つ全部覚えてかつ上級以上は伝承のレベルでもそう沢山はいないはずだ。そして、北の大教会……つまり今のメディオランド王都大教会の副教会長と光の魔法の使い手である私、そしてレヴァンナントとは言え元滅びの町の神官のウィルソンさんがエリクソン様と一緒いる。更には、先代の光の魔法の使い手が作った国の四代目夫妻がいる。かつて南北に分かれて争っていた両陣営が今は手を携えている。しかも、立ち合いはノームだ。自分が出来なかった白い島全体の融和と共存共栄に尽力してくれと頼まれてしまった。


「共存共栄は女神様の教えですので、神官として出来る限りの事をしたいと思います」


 我ながら曖昧な回答だが、巫女は喜んでくれた。


「どうじゃ? 儂の様に外の世界を見てみんか? 世の移り変わりを幽霊として見て行くのも良いぞ」


 エリクソン様の誘いに対する巫女の答えは、否だった。今までに巫女の心が悲しみに包まれているのは痛い程伝わってきてた。恐らく、期待すらしたくないのだろう。裏切られた時に哀しみがより強くなるからだ。幽霊ながら、共存共栄の世の実現を祈りつつ女神様への祈りを捧げる日々を送っていたいのだ。

 昇天は出来ないかも知れない。出来るとすれば、それは島が融和した時だろう。ただ、現在の政治情勢では無理だ。


「ノームにお願いがあります」

「何じゃ、ジャンヌよ」

「二、三年に一回程度で良いですから、私をここに案内して貰えませんか?」


 ここまで場所が秘匿されていたら、しかも場所の特定をしない方が良いなら、ノームに案内して貰ったほうが良い。


「何故だ?」

「光の魔法を受け継ぐ者として、巫女と話がしたいからです」

「ふむ。他の精霊達も呼ぶか?」


 呼ぶとすれば四大だけになるかな? そこら辺は、巫女は当然として、精霊達にも聞かないといけない。


「精霊達が良いと言ったら会ってみたいわ」

「え?」


 巫女の声か? 話せる様になったのか?


 ヘンリー様達を見たら、何の変化も無い。聞こえたのは私だけか?


 巫女を見ると、ニコニコしている。どうやら、私だけに聞こえるらしい。


「ふむ。それもそうじゃな。では、此度はどうする? 精霊は儂だけじゃが、構わんか? どうせ宴会の準備はしておるのだろう?」


 当然の様に、ワインと街道クッキーを持って来ている。巫女も了承してくれて、宴会になった。




 宴会では、ヘンリー様により千年間の白い島の歴史が語られ、エリクソン様とウィルソンさんにより北の侵攻後に滅びの町と呼ばれるようになった南の大教会について語られ、プライス様により光の魔法の功績……特にアンチ・セプシスやソート・コミュニケーションが如何に多くの人を救って来たかを伝えた。そして、私からは、どうやって五つの光の魔法を覚え、最後に五つの黒石を手に入れ、四大精霊と誼を通じたかを説明した。その間、巫女はただニコニコと聞いていた。


「なんじゃ、ジャンヌも結構苦労しとるの」


 あんたの言うセリフじゃ無いぞ。ノームの試練が一番きつかったんだからな。


「ちゃんと助けてやったろうが」

「まあ、そうですが。樽に化けて様子伺ってましたよね? 他の精霊はそうでも無かったですよ?」

「なんじゃ、甘いな。簡単に己が存在をバラシおって。次の宴会で儂の方から言っておこうか」

「止めて下さい。精霊があんな風に人間と語らってくれるなんて知らない人の方が多いんですから。正体が分らなければ、普通は怖がって近づかなくなります」

「怖がった方がいいんじゃ。ジャンヌ、きっかけを作ったそなたが特別なんじゃぞ」

「そうなんですか?」


 精霊達には良く特別扱いされる。理由が分らないから、この際すっとぼけて聞いてみよう。


「当り前じゃ。大体、光の魔法を使える事自体が特別じゃろうが。知っての通り、二百年に一人なんじゃぞ」


 そう言えば、そうだった。我ながらどう考えても普通じゃ無い。


「でも、光の魔法の使い手と精霊って何か関連があるんですか?」


 結界は光の魔法で解除する。この辺はデューネやメルには聞いていない。


「儂らが使うのは、いわゆる属性魔法になる。後は人間が言うその他じゃ」

「はい」

「そして、光と闇の両方の系統でもある」

「そうなんですね」


 まあ、そんなとこだろうとは思っていた。何と言っても中立を重視する。だから、私のライトでも初代国王様のライトでも結界を突破出来たんだろう。四大精霊は両方を拒み、同時に両方を受け入れるのだろう。


「つまり、光と闇の使い手のいずれとも相性が良いのだ」


 相性が良い……。


「そうだ。光と闇の魔法を使う者は、人間でも希少だ。その希少な人間は我ら四大と相性が良い。そして、ジャンヌは、種族による分け隔てをせぬ。中立の儂らと立ち位置がよく似ておる」

「後は……」

「はい……」

「ジャンヌ、そなたぐらいよ。儂ら四大にしろ、ドラゴンにしろ、エルフやドワーフにしろ、本気で友達感覚で付き合おうとしとるのは。しかも、片っ端から宴会に呼んで、食い物や酒で篭絡しおるし」


 大笑いされた。

 しかしだ。篭絡とは失礼ではないか。第一、ノームの一番のお気に入りは、数多の山賊共の胃袋を篭絡したアンジェリカさんが作ったキノコパイのはずだ。私では無い。確か、サラマンダーも落としていた。


「共存共栄とは友人同士になる事ですし、美味しい食事を共にするのが仲良くなる一番の方法だと思います。それに、宴会で来賓をもてなすのは当然です」


 常識だと思う。


「どう思うぞ? エリクソンよ」

「いやはや、流石は女神様から光の魔法を授かりし者ですな。儂が初め出会うた時も、儂の悪霊に扮した渾身の演技を物ともせず、近寄って来ましたからな。この年にしては肝が据わっております」


 それは大根だからですよ。


「とても、二十歳前とは思えませぬ」

「えーと、二十四歳です」

「え?」

「当年六月で二十四歳です」


 まだ七月だから、二十四になったばかりだ。童顔と思われているのか知らんが、十代とは若く見過ぎだ。


 プライス様を見て、思い切り頷かれている。


「そ、そうか。それは失礼した。どうも生身の人間との触れ合いが千年も途絶えておったでな。見誤った。申し訳ない」

「分って下されば」

「因みに、シアーニャ司教は?」

「一個下です」

「そ、そうだったのか。そちらは見立て通りであったな」


 どうせシアーニャの方がしっかりしてますよ。国王顧問だし。王女様だから可愛いし。


 私の年齢に関しては巫女もびっくりしているのが伝わって来たが、面倒なのでスルーした。今度から初めましての挨拶の時は、年齢も言った方が良いかも知れんな。


 ともあれ、千年前の巫女とは楽しく過ごす事が出来た。また折を見て来ると伝えて、ノームの洞窟経由でエングリオの魔王が出る洞窟に戻った。途中、中の原に寄って、ベアトリクス、ヴィル、ボニーと合流した。




 砦に着くと、セルディック王が出迎えてくれて、早速会議になった。と言っても、魔石を見つけて砕くまでは、基本的に今まで通りだ。


 聞くところによると、ベヒモスにイノシシはやってないらしい。まあ、弱らせるのが目的だし休暇中だ。そうなるだろう。


「何か変化はありましたか?」

「知らぬ。人を出してもおらぬからな」

「そうですか」

「ああ、その代わり、イノシシは獲っておいた」


 一週間以上留守にした。交替で留守番する兵士が食料の確保も兼ねて獲ってくれていた。イノシシは砦の牢屋で眠らせてあり、そこから四層の塔へテレポートで跳ばすらしい。その方が簡単でいいだろう。数は十分揃っていたので、早速出撃する。


 実は、千年前の巫女の幽霊にベヒモスについて聞いてみた。正確には、魔物と魔力の関係だ。エリクソン様ものって来たので、話としては盛り上がった。

 巫女の話を聞いて分った事がある。魔物は千年前も今も左程強さが変わらないという事だ。


「人間は二千年に一度の魔力のうねりで能力が上がったと聞いています。何故、魔物の能力が上がらなかったのでしょうか?」


 エレノア様の質問はもっともだ。私も同じ感想を持った。しかし、私に伝わって来た巫女の返答は意外なものだった。


「巫女が言うには、濃い魔力の影響を受けた魔物は、別の魔物として存在したそうです」

「別の魔物?」

「はい。いわゆるBランクの魔物です」


 Bランクと言っても色々いる。要は、Cランクの魔物とAランクの上級魔族との間に放り込まれてBランクと呼ばれている様な物で、実際はAランクと比べて同等以上のBランクもいるかも知れない。クラーケンやらウミヘビやらタラスクやら二つ頭やらは、元々白い島にはいなかった。そう考えたら知らない魔物がもっと一杯いてもおかしくはない。


「巫女が言うには、巫女の知っているベヒモスはまんま牛だったそうです。なので、我々の知っているベヒモスとはまた別物ですね」


 つまり、私の知っているベヒモス自体が、もう変なのだ。ここで見つかった新型ベヒモスの様に、魔物同士が食い合う結果、変な魔物が発生して来るらしい。今回見つかった新型ベヒモスは、プロミネンスを使うとか、妙に大人しいとか、首が二つあるとか、確かにベヒモスとは思えない。てっきりベヒモスがいると思っていたからベヒモス扱いしてきたが、冷静になって考えると、あれをもってしてベヒモスと言う方がおかしいのかも知れない。

 ただ、元の魔物が何かによって変わるのであれば良いが、元の魔物が同じなのに成長の過程で変異を遂げた。これを別の種類と言って良いのかどうかは分からないらしい。ただ、見つけた時の形態で人間が勝手に名前を付けたりしていた。魔物に関する秘本には、見た事無い魔物の記載があったが、考えたらそう大きな違いはなかったかも知れない。例えば、ケルベロスとオルトロスの違いは頭が三個か二個かの違いだ。無論大きな違いなのだが、例えばオルトロスが魔力の濃い環境でイノシシを沢山食べたら新型ベヒモスになるかも知れない。


「では、あの新型は……」

「ベヒモスでは無いかも知れませんね」


 結局、意図的に濃い魔力を受けて変異した先がどうなるかなんて誰にも分らないのだろう。なにせ、リンドブルムはリッチーがヘビに改良に改良を加えて作ったのだ。


「いずれにしろ、巨大な魔石が原因で変なのが産まれて来たのだとすると、魔石の影響を取り除けば元に戻るんじゃないかって言ってます」

「なるほど。ではやっている事に間違いは無かったのですね」


 新型ベヒモスが何なのかは分からないが、やる事は一緒なわけだ。


 巫女に相談した結果、思い付きでやっていた事にある意味裏付けがとれた。いずれリッチーや副魔王にも相談するとして、今は魔石の探索が第一だ。


 書簡送信用の魔法陣で連絡すると、眠っているイノシシが飛ばされて来た。重いので一回につき一匹ずつの全部で十匹飛んで来た。


「十匹ですか?」


 副隊長さんだ。


「ああ、十匹だ。腹が減っているだろうからな」


 一週間も放ったらかしだったのに優しいな。


「ああ、飢えている状態で餌をやった方が感謝されるだろう。そうやって信用させて我々に手を出さん様にするわけだ」


 なんか飴と鞭になってないか?


「当り前だ。家畜を使役する時もそうじゃないか」

「家畜ですか」

「そうだ。この先どうなるか分からんが、今まではこの四層の魔獣を殺し尽くす役割を担ってくれた。その分の餌代を今支払っているんだ。そう、陛下はおっしゃった」

「でも、最後は殺すんですよね?」

「お前達だって豚を飼ってると聞いたぞ。あれは殺さないのか?」

「なるほど」


 面白い発想だな。新型が家畜か。魔石を壊して小さくなったらセルディック王の番犬……番牛かも知れんが……に推薦して魔獣狩りをやって貰っても良いかも知れない。




 実際に、イノシシを運んで首を斬り、血の臭いをまき散らすと、新型がやって来た。前回よりも早く来た。あまり周囲を見回していない。

 皆で塔の出口で見ていたのだが、新型はこちらをちらと見た後、イノシシの臭いをかぎ、そのままもしゃもしゃと牛の様に食べ始めた。その後、お椀に乗って、結構近くを飛んだのだが、目玉を動かしてこちらを見ているだけだ。ロビンソンさんがいなくても分る。明らかに敵意が無い。それどころか、警戒心が無い。懐いたのだろうか?


「前と比べて、あまり尻尾を振りませんね」

「そうだな。警戒が薄れたのではないか?」


 副隊長さんと二人してベヒモスの後姿を見る。


「後ろからコッソリ近づいて、撫でてみますか?」


 エレノア様が半ば笑っているが、多分無理だろう。て言うか、普通の牛でも無理だ。


「後ろから近づくと蹴飛ばされますよ。それに、今はまだ脅かさない方が良いと思います」

「それが良さそうですな。もう少し様子をみましょうか」


 どうやら副隊長さんも牛を飼った事がある様だ。なんとなく分るのだろう。


「分かりました。では、今まで通り音も消して魔石探索をしましょうか」

「はい。それが良いと思います」


 エレノア様が肩を竦めた。副隊長さんを見ると、私と目を合わせてニヤッと笑った。

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