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第六話 魔王が復活する洞窟(エングリオ)②

 午前中の作戦が終わって、一旦地上に戻る。見張りの交代は既に来ていたから、皆で順番にテレポートで移動した。


 お昼ご飯までにはまだ時間があると言うので、作戦会議を開く。反省会だろう。


 会議の場では、やはり暗いとの意見が出た。照明器はカンテラや篝火よりは遥かに明るい。ただ、照射範囲が狭いから、折角ヘビを見つけても照らし続けるのが難しい。その分一匹、倒すのにも時間が掛かった。ムシと違って集まって来ないから追うのも大変だ。もっとお椀の数を増やして照明器の数も増やせばある程度は解決するのだろうが、エングリオは先の戦争で多くのお椀使いを失ってしまった。現在、空中斥候隊自体が再建中だ。それにライトの魔法陣も数十本程度しか無い。一回で二時間しか持たない。セルトリアでやった様に事前に用意した桁違いの魔法陣を大量に使う訳にはいかない。


「いっその事、魔物は追い払うだけにして草刈りを優先してはどうでしょうか?」


 エレノア様だ。今回のやり方そのものは、セルトリアのやり方を踏まえての事だから軍事顧問の様な立場になる。


「狭い範囲に追い込んで、一気に片をつけるか」


 セルディック王は、エレノア様の考えを即座に理解した。


「その方が良いと思います。草を刈って、跡地の地面を掘り起こし、炎の魔法で焼き固める。それをどんどん進めて行きましょう」

「そうだな。午後はそれでやってみるか」


 と言うわけで、午後の編成が変わった。




 お椀に乗るのは、神聖魔法使いと照明器を操る斥候が主体になった。お椀使い一名、神聖魔法使い二名、斥候二名の五人編成だ。私が乗るお椀はベアトリクス操縦のお椀で、隊長さんも乗って来たから、六人編成になった。

 戦士と属性魔法使いは地上班に編入された結果、ヘンリー一行は地上班に編入された。

 私はセンス・ライビングでの探知から、本来の照明役に戻った。ホタル八個を飛ばして目一杯で照射する。狙いなんて無い。ひたすらに照らすだけだ。照らした範囲に、同じお椀に乗った神官が適当にホーリーを放つ。センス・ライビング使いの役目は、魔物の探知では無い。いない事を確認する役目だ。魔物がいない範囲を作ったら、今度はグレイシエイトで氷の壁を作って囲む。後はヘンリー一行の得意技の土木工事だ。多少薄暗くても良いから、なるべく広い面積にホタル八つを飛ばして照らす範囲で草を刈り、岩を砕き、それを運ぶ。篝火が置かれ作業様の灯りが確保されたら、クランプ・サンドで掘り起こし、炎の魔法で焼いて固めて行く。超上級魔法使いが複数人いるから捗った。

 起伏はあれど高くもないしなだらかだ。氷の壁との境目は、空堀を掘った分土塁が積み上げられた。まるで野戦陣地を建設する様な風景が繰り広げられた。




「この様な戦い方があるのですなあ」


 隊長さんだ。敵前の野戦陣地構築の経験がないらしい。逆に、私は、そんなのばっかりだった様な気がする。ついこの間も、メディオランドで上空支援をやって来たばかりだ。


「儂は砦の防衛戦ばっかりやってましたんで」

「重装歩兵ですか?」

「そうですね。分かりますか?」

「お体を見れば」


 なるほど、と笑っている。結構な大男だ。ベイオウルフと良い勝負だ。


「突貫と壁の役割ばかりでしたな」


 捕虜収容所でそう言う人達に出会ったな。皆元気にしてるんだろうか。


「魔物相手であれば、さぞかし大変だったでしょう」

「そうですなあ。何せ学も無い平民でしたし、馬も碌に乗れませんでした。この体だけで戦える場を志願したら、重装歩兵になれと言われましてな」


 色々と話を聞くと、エングリオ国内で当時未成年だったセルディック王と共に戦った魔王軍戦が初陣だったらしい。セルディック王は自領の村の者達の中で有望な物を騎士に叙任し、直轄軍に引き入れた。今でもやっている事を成人前からやっていたわけだ。


「昔は、魔境から一番近い村は捨て駒だったそうです。援軍なんか来ないから、魔王が復活する宣託が下ると皆逃げていたそうです。それを踏みとどまる様に変えたのがセルディック様でした。折角開墾した地をむざむざ渡す必要は無いと仰って、頑丈な砦を作って兵を配置し、フォルスタッフ卿と共に自ら移り住まれたのです」


 その時に砦の守備兵を増やそうと村の若い衆に戦闘訓練を施し、周辺の平民や農奴にも声をかけた。それに名乗り出た一人が隊長さんだったわけだ。


「自由農民の三男坊なんか、何をするにも不自由でしてな。一念発起して精励した結果、なんとかここまで来られました」


 今やセルディック王の幕僚としてお貴族様達と肩を並べて、一軍を預かる部隊長だ。


「今回の作戦が成功した場合、ご領地を賜るとか」


 同じお椀に乗る神官が言った。そうだとすれば隊長も歴とした貴族になる。


「既に、その様な噂が出回っておりますか」

「ええ、違うのですか?」

「今、その様な話は止めましょう。踏ん張りどころで無理をするやも知れませぬ故」

「なるほど。了解致しました」


 なるほど。私も頑張ろう。




 作業は順調に進んだのだが、途中で魔物が逃げなくなった。眩しいのを我慢して踏みとどまっている節がある。味方のお椀部隊は、魔物を追うために聖水の矢を射かけたが、頭を振って躱そうとするだけだ。


「おかしいですね」


 隊長さんも不審に思ったようだ。


「この向こうはどうなっているのですか?」

「ちょっと、待って下さいね」


 カンテラの灯を頼りに地図を確認すると、湿地があって、更にその奥は池になっている。


「湿地に行きたくない様ですな。しかし、ヘビは泳げるはずですが」


 これは危ないな。


「一旦、全体を下げて下さい」

「どうかしましたか?」

「手強いのが湿地に潜んでいるかも知れません」

「なるほど。では、一旦下げましょう」


 湿地と言えば、思い当るふしがある。念のため、ホタルを湿地方向に向けて全開にした。


「ねえ、グレイシエイトで氷の壁作っとけば?」


 ベアトリクスだ。良い考えだ。ここの魔獣は毛が生えていない系だから、越そうとしないだろう。隊長さんに承諾を貰い、一旦下降、全体を下げると同時に属性魔法使いにグレイシエイトで壁を作ってくれと依頼した。


 超上級魔法使い三人が氷の壁を作るために進み出て来て、細長いのを三つ作った。

 その時だ。突然、水が飛んで来てお椀が一基撃ち落された。お椀は先行していたから、氷の壁の向こうに落ちた。


「メイルシュトロームか!」


 いや、多分、水を飛ばして来た。


「兎に角、救出しましょう。ベアトリクス!」

「はいな」


 飛ばしていたホタルを解除し、錫杖の先から目一杯で照らす。

 ヘビの只中に墜落したお椀の乗組員は、オーバー・フローを乱射し、何とか凌いでいる。お椀を作り直さないと言う事は、被害が出たか。


「降下してくれ。応援する」


 流石は重装歩兵。手槍を構えた。地上戦をやる気だ。


「いっその事、皆で降りよう!」


 ベアトリクスがお椀をお皿に変えて急降下する。私がライトで牽制し神官が両手を頭上に掲げてオーバー・フローを放つ。威力は低いがヘビには効果がある。何とか着陸点を確保した。即座に隊長さんが味方の方へ行く。一人が足を怪我したのか、隊長さんが担いで来た。


「無事ですか?」


 聞くと、神官一名が足を骨折、一人が気絶、お椀使いが手を骨折、斥候は二人共無事だが、照明器が壊れた。お椀使いの怪我が痛い。直さないと重量オーバーで小型のお椀では飛べない。


「ここで迎え撃ちましょう。怪我人の治療をお願いします。ベアトリクス、壁を作るから雷お願い」

「オッケー!」


 ライトの壁で三方を塞ぐ。後ろは氷の壁があるから、大丈夫だろう。


「これは……」


 隊長さん以下エングリオの人が驚いている。そう言えば、エングリオの神官は超上級の猛者しかライトの壁を見た事無かったな。


「後で説明します。武器は通りませんが魔法を通します。ホーリーで攻撃して下さい」


 兎に角、乱射して貰う。目一杯で光らせているから、ヘビは近づいて来ない。牽制を兼ねてこちらの神官一人がホーリーを放ち、ベアトリクスがサンダー・ボルトを水平発射している間に、もう一人の神官が怪我人の治療をした。

 しかし、これだけでは危ない。


「ベアトリクス、グレイシエイトで壁作って!」

「オッケー!」


 詠唱し終えて目の前で氷の山が出来ようとした時だ。大量の水が宙を飛んで来た。メイルシュトロームだ。間に合わなかったか。




「皆さん! 掴まって!」


 咄嗟に叫ぶ。掴まるものは、近くにいる人になるが、少しでも支えがあった方が良い。

 メイルシュトロームで飛ばされた水は、氷の壁を越えて流れ込んで来た。ライトの壁では持たない。背後は氷の壁だが、左右には前後の壁と壁との間隙がある。押し流されてちりぢりになるか……。と思ったら、隊長さんが壁を両手で支えてくれた。咄嗟に皆でその背中を押す様な態勢を取る。無論、それで、どうこうなる程度の圧力では無い。ただ、壁が隊長さんを頂点にした三角形になったお陰で、頭から水を被って水浸しにはなったが皆がバラバラに押し流されずには済んだ。ベアトリクスの氷の壁が出来るのがもう少し遅かったら、圧力で全身の骨がどうにかなっていただろう。壁を越して流れてきた分助かった。


「えーい! グレイシエイト!」


 ベアトリクスが二発目を放って天井まで繋げてしまう。これで正面攻撃は無い。


「皆さん! 無事ですか?」


 隊長さんの背中に掴まって振り向きざまに言うと、どうやら全員流されてはいなかった。


「怪我人はどうなった!」


 隊長さんが叫ぶ! 壁を押さずに済むので、くるぶしが完全に埋まるくらいズブズブの足元をなんとか進みながら後ろに行った。

 壁を解除して代わりに周囲を照らすと、全員いた。一人だけ負ぶわれている。


「治療は完了です。ただ、気絶していたのは、まだ息を吹き返していません」


 まさか溺れたんじゃないか?


 寄って行くと何とか息をしている。もう一人の神官が咄嗟に鼻と口を塞いだ様だ。


「直撃だったら流されていました。咄嗟に氷の壁を築くとは、素晴らしい判断です。ありがとうございます」


 神官にお礼を言われた。超上級が初級ヒールを放っただけとは言え、あの短時間で怪我人全員を回復させたのだ。咄嗟に出来る事では無い。


「まあね。こう見えても長いからね」


 あのね、ベアトリクス。この中では、私とあんたが最年少なんだよ。




「大丈夫ですか?」


 エレノア様の声がする。中型お椀で助けに来てくれた様だ。


「これはエレノア様、申し訳ござりませぬ」

「味方がホーリーを乱射していますから、今のうちに撤収しましょう」


 降りて来たのは、エレノア様とウィルソンさんだけだ。全員が乗れる。

 お皿の形になり、全員が泥まみれのままで乗ってしゃがみ込む。


「敵は?」

「恐らくは、アンフィスバエナかと」

「そうですか。ではこのままでは帰れませんね。メギド・ファイアーを一発食らわせておきましょうか」


 目の前に魔法で作った氷の山があるから、センス・ライビングが使えない。迂回して湿地か池の上空に行かないとどこにいるのか分からない。


「突撃ですか?」

「いえ、ここからです。単なる宣戦布告ですよ」 


 もう既に趣味の領域に入っている様な気もするが……。


「隊長、よろしいか?」

「伝説の魔法ですな。エレノア様、是非反撃の狼煙を上げてくだされ。このままでは、士気が下がります」

「流石は隊長。分ってらっしゃる。では、やりましょう」


 戦闘狂に火が付いたな。




「前方にあった氷の壁はベアトリクスが作ったのですか?」

「そう、グレイシエイトよ」

「ならば簡単です。では、ホーリーを使える方は協力して下さい。


 ホーリーを使える者は二人だ。気絶していたのが回復したが、頭を打った可能性が高い。魔法は使わない方が良いから、念のために休んでもらう。


 エレノア様が詠唱を開始した。高く掲げた両手から発生した火球が大きくなるに従って、周囲が赤く照らされる。果たして氷山の向こうの二つ頭には見えているだろうか?


 応援のお椀が次々に集まって来た。


「メギド・ファイアーですね。助太刀します」


 顔見知りの猛者が声を掛けてきた。他のお椀にも指示を出してくれている。

 超上級神聖魔法使いが私を含めて五人、上級神聖魔法使いが五人だ。かなり強力だ。


「ホーリー・ランスだ。目一杯で狙うんだぞ。連射しまくれ」


 これは……魔王討伐戦でベヒモスに放った時よりも凄いのが出来るんじゃないか?


 詠唱が終わり、完成した。


「ベアトリクス、分っていますね」

「大丈夫。任せて」


 グレイシエイトの壁が次々と解除されて水の塊になる。辺りは洪水だ。


「プロミネンス!」


 放たれた。私も八斉射口から付きを断続的に発射した。


 赤い火球が白い色に代わる。遠ざかっているはずなのに熱い。なぜだかプロミネンスの周囲で爆発する様な音が連続的に聞こえて来る。プロミネンス自体もギラギラと表面の光が弾けている。


「目標を確認、一気に突っ込ませます」


 火球の速度が上がった。周囲は昼間の様に照らされている。前方に水が盛り上がっている、あそこだ!


「行きます! ベアトリクス!」

「はいな。ウインド・バリア!」


 一瞬視界が歪む。空気の壁が出来上がったのだ。


「グレイシエイト!」


 着弾と同時にエレノア様が間髪入れずに空気の壁を氷の壁にしてしまう。ほぼ同時か……天井が崩れるんじゃないかと思う様な爆発音が鳴り響いた。

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