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清貧に生きる野良神官は魔物退治をしながらお金を稼ぐ夢を見る  作者: 兎野羽地郎
第一部 第三章

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新しい仕事と新しい住処

 収穫祭だ。

 頑張って作った三十着の緑マーブルは完売した。

 今回は猟師の人達も買ってくれた。元々実用重視で作ったから、その筋の人達に需要があるのは素直に嬉しい。


 何人か猟兵隊の人が休暇を貰ってわざわざ買いに来てくれた。と言うか、テレポートで跳んで来た。

 テレポートの魔法陣は、マルセロさんが定期的にメンテナンスをすることを条件に、山砦と中の原を繋ぐものだけは残してきた。アドルフさんが言うには、今後は主要な拠点を大型の魔法陣で繫いで有事に備えるらしい。




 販売も終了し一七五の会のメンバー五人で鳥の頭亭に行くと、いきなり乾杯された。

 何かと思ったら、私が中の原マドンナランキング総合八位に入賞した、と言うのだ。


「やるじゃないかジャンヌ。おめでとう。俺はお前なら上がって来ると思っていたぜ」


 オーウェンさんが上機嫌だ。きっと私に投票してくれたに違いない。


「ジャンヌに投票したの?」


 ベアトリクスが聞くと、目を逸らされた。

 どうせキャサリン先生に投票したに違いない。


 どうせ何もない。知らん顔をしてテーブルにつくと、ベアトリクスがランキングの結果を聞いてきた。

 一位は安定のキャサリン先生、以下、ハンナさん、アンジェリカさん、院長先生、ブリジットさん、エイミー先生、王国軍所属の人と続き、八位が私だ。


「やるではないかジャンヌ。何はともあれ中の原の歴史に名を残したな」


 そんなわけはない。オッサン達の道楽で町の歴史が作られてたまるものか。


「お祝いに奢って貰えるのかと思ったけど、なんか目的が崇高だから駄目なんだって」


 恥ずかしいから、そういうの止めてよ。


「猟兵隊の人が来ていたのはジャンヌに投票するためかもしれないね」


 あの人達はアンジェリカさんが餌づけ済みよ。


「ジャンヌ。凄いなあ。ねえ奢って?」


 リュドミラ、あんたストレート過ぎない?


 私に奢らせるつもりだ。セルトリアには幸運を得た者は周囲におすそ分けをする謎の風習がある。ついこの間もハンスさんがその風習の被害者になった。


「ランクインしたって何にもないんだからね」

「その割にさっきから随分と嬉しそうじゃない?」

「うむ。ニコニコしているな」

「良いことがあったら、おすそ分けをしないと罰が当たるよ。皆で良い思い出を作ろうよ」

「ジャンヌ。凄いなあ。ねえ、奢って?」


 しまった。顔に出てしまったようだ。いかん、いかん。

 しかし、ひとつ言いたことがあるがある。


「この中で、ランキング入りしそうな人の似顔絵を売りさばいてお金を儲けた人がいるのよ。奢らなきゃいけないのはその人じゃないかしらね?」


 一斉にベアトリクスを見る。目を逸らしていたが、観念した。


「仕方ないわね。一人一杯だけよ」


 歓声が上がる。当然だ。断りもなく勝手に人の似顔絵を描いて、売り上げは全部自分の懐に入れるなんて許されない。


「ご飯代はあんたが出しな」


 再びの歓声が上がり、結局奢らされる羽目になった。

 これって、選ばれない方が良かったんじゃないの?




 翌日。

 ベアトリクスとヴィルの三人でネズミ退治を終わらせた後で、ハンス副隊長さんのところに顔を出すと、アドルフ町長に呼ばれているぞ、と言われた。


 いつぞや、ハンスさんに晩御飯をたかった時……もとい、ご馳走になった時に、近々新しい仕事があるかもしれんぞ、と言われていた。それだろう。

 どうやら、マルセロ商会の面々も集まるらしい。

 ハンスさんも行くと言う。随分と大規模な話になりそうだ。またどこかの応援かも知れない。


 町役場に行くと会議室に通された。先月の面々に加え、ブリジットさんと班員の衛兵隊がいた。つまり、衛兵隊が二班参加するわけだ。

 それにロビンソンさんもいる。もしかしたら、ゴブリン達も参加するかもしれない。


「早速だが、皆に頼みたいことがある。東の原に行って貰いたい」


 東の原? 


「皆も知っての通り、先月ロバーツ様が北東の森で十日間の魔物狩りを行った。ここにおる者達の尽力もあって無事に作戦は成功したのだが、退治しただけではせっかく制圧したエリアを手放すことになる。この度そのエリアに我ら人間の拠点を作ることになったのだが、その手伝いをお願いしたい。もちろん、本来は東の原で解決するべきことで我ら中の原の者に行く義務は無い。しかしな……」


 アドルフさんは私達を見て、ニコニコ笑った。


「ロバーツ様から直々のご指名があったのだよ。出来ればマルセロ商会の皆に依頼したい、とな」


 これは大変だ。アドルフさんを通じたロバーツ様の依頼なんて、国の依頼と同じだ。そう簡単に断れるものではない。


「私達は拠点なんて作ったことないけど。大丈夫なの?」


 ベアトリクスの言うとおりだ。そういったものは王国をあげての大工事になるはずだ。


「その点は大丈夫だろう。この間の討伐に使った一番目の網の砦があるからの。ようはその網目の強化だ。お前達が二番目の網で色々と工夫を凝らしたらしいな。随分と助かったと、山砦のルイスが言っておった。あれを一段前に進めて貰えればいいんだよ。本格的な工事はその後で時間をかけてじっくりとやるようだからな」


 何をするのか? いまいち分からない。


「つまり、迎撃用の臨時の野戦陣地を作るのか?」

「うん。簡単に言うとそうなる。東の原で別動隊をやっとった連中が進出する予定だ。マルセロ商会はその支援になる。ある程度は魔物との戦闘が予想されるのでな。護衛として衛兵隊を二班と、山砦のルイスの隊を半数つける」

「中の原に魔王軍残党を入れんつもりだな」

「そうだ。それと今後の北東の森に対する侵攻作戦の前線基地にするんだよ」


 パウルさんも納得したようだ。後方での作業なら安心だ。


「一つ聞いても良いですか?」


 マルセロさんだ。こういう場ではあまり発言しないのに珍しい。


「前線基地が強化された場合、東からの侵攻は阻止できるとして、北からの侵攻はどうするのですか? 今後、最大の問題は中の原最北部の魔物をどうするかだと思うのですが」


 確かに北に逃げた魔王軍残党は手つかずだ。数が増えたら南下して押し寄せてくるかもしれない。


「今のところ解決する方法が無い。無い袖が振れん以上、ある袖を振るしかあるまい。それに東を抑えれば、北に合流する魔物を減らすことが出来るだろう。現時点でできることと言えば、ロビンソンの一党に湖周辺の警戒をお願いするくらいしかないな。どうだ、頼めるか?」


 ロビンソンの一党とは、ロビンソンさん率いるゴブリン達だ。森の獣まで仲間に引き入れて、ちょっとした勢力になっている。


「それは問題ありません。ただし湖周辺の禁漁区だけですよ。そうしないと仲間が猟師に狩られてしまいますから」


 アドルフさんが頷いたのを見たロビンソンさんは安心したのだろう。それではお引き受けします、と言った。


 ロビンソン一党には森の鳥たちが仲間に加わっている。つまり空からの観察が可能なわけで、監視者としてはこれ以上の人選は望めない。報酬は月に金貨一枚と能力の割にはお安いが、その代わり人頭税も賦役も免除だし、皆禁漁区の森で自由に自足自給の生活を送っている。


「行くのはいいけど、報酬はどうなるの?」


 ベアトリクスが行くと言っちゃった。参加確定だ。


「報酬は一人あたり金貨四枚。魔物を退治した場合は別途に基本報奨金の半額を出す。支払元は東の原だ。期間は一か月ほどになるかと思う」

「もう一つお願いがあるんだけど」

「何だね?」

「私は今月一杯で孤児院出なきゃならないのよ。でもほら、最近遠出が多いから探せてないの。どこかに良い物件があったら教えて貰えないかな」


 ベアトリクスは四月に成人した。なので、任期半ばの九月末に退去期限の半年になる。


 それにしてもだ。あまりにも個人的すぎないかい? 普通そう言うのって自分で探すでしょうに。

 公私混同も甚だしいが、意外にも優しいアドルフさんは答えを用意していた。


「儂は官舎に入っとるんだが、実は私邸があってな。月金貨二枚で借り手を探しとるんだが、見た目が悪いせいか見つからないんだ。そう広くはないが、ベッドルームが八つにリビング、キッチン、バスルームが付いとる。バックヤードもある。何人で住んでも構わない。そこはどうだ?」

「それって、もしかして例の幽霊屋敷?」


 幽霊屋敷とは、王国軍駐屯地の向かいにあるボロボロの建物のことだ。確か町を作る時の最初の工事事務所で、無人で手付かずになっていた。町の子供達は幽霊屋敷と呼んでいる。

 もちろん幽霊なんている訳がなく、手入れをする者がいないので外見がボロボロなだけだ。

 アドルフさんが手に入れていたとは知らなかった。


「儂も退職が近いでなあ。部屋数が多いから、老後に備えて家賃経営でもしようかと思っとったんだ。まとめて借りてくれるなら、それに越したことはないんだがなあ」

「あんなボロボロ住めるの?」

「見た目は悪いが、柱や壁にヒビも無くしっかりしとる。床板は儂が張り替えた。調度の類は全く無いが、その分安くしたつもりだよ」

「部屋の中とかどうなってんの」

「実際に見てくれば良いよ。鍵は貸しておこう」




 早速マルセロ商会の面々にベイオウルフとヴィルを加えて、幽霊屋敷を見に行くことにした。

 幽霊屋敷は石造りの頑丈な三階建てだ。東は北の門に通じる通りに、南は大通りから一本入った路地に、西は住宅街に面している。

 入口の鍵を開けて中に入ると、入って左側が受付のような造りになっていて面食らった。元事務所だからだろう。それ以外は、がらんとした部屋に埃が積もっているだけだ。壁も何をどうしたのか、やたらとシミが目立つ。


「クリーン・アップ!」


 両手を広げて届く範囲の壁が綺麗になる。

 これは相当頑張らないといけないわね。


 北側にそびえる街壁までの間に小さな裏庭があって、草刈りをした跡があった。地下室もあって、屋上にも上がれた。


「ここって、敵が攻めて来た時に櫓になるって聞いたことがあるんだけど。だから今まで壊されなかったって」

「櫓にしては街壁から離れすぎとるな。壁と行き来もできん。眺めは良いから、せいぜい見張り台くらいだ」


 パウルさんに言われてみれば、この町に三階建てはあまりない。


「この町は地下に下水が通っておるからな。あんまり重い建物は造れんのじゃ」

「でも、ここって地下室があるわよ」

「ここは北の端だからな。地下を掘っても下水には行き当たらんじゃろう」


 てことは、地下室にネズミが出る心配はないな。


 ベッドルームは孤児院の部屋の倍は広い。

 しかも八部屋とはおあつらえ向きだ。

 正直困っていた。女の子の一人暮らしは何かと物騒だ。孤児院を出た子は、皆住み込みで働ける場所を探すか、幾つかの部屋を何人かでシェアして暮らしている。


「悪くないですね」

「問題はないと思うぞ」


 マルセロさんとパウルさんのOKが出た。

 ベアトリクスが、ベイオウルフ、私、ヴィル、リュドミラの順に顔を見る。月に一軒金貨二枚を八人で借りたら一人頭銀貨五枚だ。思わず五人でニヤニヤしてしまう。


 結局、まだ孤児院にいる仲間も同意してくれて、一七五の会で借りることにした。


 ベアトリクスが交渉して、それぞれの孤児院の居住期限が来るまでは、月に一人頭銀貨五枚で個別に貸してくれることになった。もちろん掃除や調度の準備は全部自分達でやる。

 しばらくの間はベアトリクス一人で住むことになる。でも東の原に遠征するし、私達が交代で遊びに行って掃除方々泊って行けば良い。寂しがり屋のベアトリクスでも大丈夫だろう。


 もっとも、自前のお風呂に入れるから、リュドミラはすぐに引っ越しそうだ。

 公共浴場に入りたがらない彼女は、自分の部屋のたらいに汲んだ水で身体を拭いているからだ。

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