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清貧に生きる野良神官は魔物退治をしながらお金を稼ぐ夢を見る  作者: 兎野羽地郎
第一部 第三章

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新しい顔

 中の原に帰ると、衛兵隊詰所に知らない騎士様がいた。そばにはハンスさんが立っている。


「やあ、君達が一七五の会だな。ハンスから聞いているぞ。魔物退治をやってくれているそうじゃないか」


 精悍に日焼けした陽気そうな人だ。

 誰かと思ったら、衛兵隊の隊長だった。どうりでベイオウルフが姿勢を正しているはずだ。


「久しぶりだな。隊長。お役目ご苦労様でした」

「久しぶりだな。パウル。猟師に復帰したようだな。元気そうで嬉しいよ」


 どうやら私とベアトリクス以外は皆知っているようだ。それぞれに挨拶をしている。

 ヴィルまで知っていた。

 そう言えば衛兵隊長は王国駐屯軍の副隊長が兼任していた。つまりお兄さんの上官だ。


「君らを待っておったのだ。この度衛兵隊の副隊長が昇進して王都に転任になってな。新しい副隊長を紹介しよう。今まで魔物退治についてはハンス隊長代行が窓口になっておったが、これからは新任の副隊長が窓口になる。よろしく頼むよ」


 お見送りをしてくれ、お金を渡してくれる人が変わるのか。気前の良い人ならいいけどなあ。その点ハンスさんは、ある意味しっかりしていた。信用できたけど、お見送りの時に戦意をそがれる時が多かったからなあ。


「新しく副隊長を仰せつかったハンスだ。よろしく頼む」

「ほほお、ハンスが副隊長か。昇進したんだな」


 何故かパウルさんとベアトリクスがニヤついている。祝福? の笑みではないな。


「そうなる。王国軍と半数の衛兵隊がいない時にレヴァナントから町を守ったのだからな。当然の結果だ。給与も上がる予定だぞ」


 隊長の言葉に何故かハンスさんが渋い顔をする。


「そうか。ハンスが副隊長に昇進か。ならば儂らとしてはお祝いをせねばならんなあ。できれば最近給与の上がった人の奢りで」

「そうね。普段散々お世話になっている人が昇進したんだものね。お祝いをしなきゃいけないわね。できれば最近給与の上がった人の奢りで」


 意地汚い魔法使い二人が揃ってニヤニヤしている。

 ただのたかりだ。たちが悪いにもほどがある。


「そうか。新任の衛兵隊副隊長が奢ってくれるのだな。これは光栄だ。皆に自慢せねばならんな」


 ヴィルが止めを刺したな。

 




 給与の上がった新任の副隊長に追っ払われた後、アドルフさんの所に行くと役場職員の盛大な拍手で出迎えられた。特に、ハンナさんとヴィルの所属する部署では大歓迎を受けた。どうやら二人の山砦での活躍が伝わっていたようだ。それにしても、上品な雰囲気のハンナさんの部署とガラの悪そうなヴィルの部署のコントラストはなかなか強烈だ。


 いつもの様にアドルフさんが立ち上がって出迎えてくれ、いつもの様に部屋に入ると同時にベアトリクスが座り込んだソファを勧めてくれた。


「この度はご苦労だったな。ルイスからの報告書にも、マルセロ商会が色々と頑張ってくれたおかげで被害も少なく任務を達成できたと書いてあったよ」


 報告書とは、ハンナさんとヴィルが毎日運んできたやつだろう。


「お蔭で三つ目以降の網が随分と楽になったみたいだ」


 三つ目以降の網とは猟師の集団による魔物狩り部隊だ。


「私達の網を抜けたのがいたんだ」


「そうだな。トロルの様な大物がいない十匹以下の群れは最初から無視していたんだよ。強い群れから順にふるい落としていかなければならなかったからな」


 なるほど。てことは、ロバーツ様や一番目の網の東の原の兵士は、私達が倒した魔物より強いやつらを相手にしていたわけか。やっぱりロバーツ様やグラディス様は相当強いんだな。


「逃げた魔物はどうなったの?」

「退治したのもおるが、結構な数が北の方に向かったらしいぞ。あまり討伐対象地区には来なかったらしい」

「攻めてきたりはしないの?」

「分からんな。こちらとしては警戒を厳重にするくらいだな」


 ひとしきり山砦での話をしたところで、週末の収穫祭の話になった。そう言えばもう九月だ。収穫祭と言っても、要するに町の人が農家のお祭りに便乗して騒いでいるだけだ。


 マルセロ商会は例によって、お店を出して髪を染めてあげたり、緑マーブルを売りに出したりする予定だ。ロバーツ様とグラディス様が買ってくれたおかげで随分と人気が出た。大目に仕込んでおかなければならない。

 ベアトリクスに頼んで、お二人が緑マーブルを着ている姿を絵に描いて貰おう。


「次の仕事はないの?」

「そうだな。今のところはないな。しばらくは週二回のネズミ退治を頑張って貰えんか。なにか依頼することが出来たらその時に話をするから、それまではのんびりしていれば良いよ」


 町役場の職員の三か月分の給料を二週間で稼いだ。十分だ。新たに魔物が出没するまでは、のんびりとパウルさんの手伝いをしながら、狩りの技術を勉強しよう。




 ベイオウルフ、ヴィル、そしてハンナさんとはそこで別れてマルセロ商会に帰ると、見知った女の子が店番をしていた。

 リュドミラだ。

 赤毛のロングヘアーに灰色の目。薄ピンクの服を着ている。見た目は十歳くらいの女の子にしか見えないが、れっきとした十五歳だ。

 一七五の会の五人目だ。今月成人した。


「お帰りなさい!」


 いきなり飛びついてきた。


「私にはお帰りなさいは言わないの?」


 ベアトリクスがやきもちを焼いている。


「そうだった。ベアトリクスもお帰りなさい」

「も、は余計よ」


 二人の仲が悪いわけではない。

 どちらかと言うと変わった趣味を持つリュドミラに、ベアトリクスが好奇心を抱いている、といった感じで、しょっちゅうリュドミラにちょっかいを出している。リュドミラはリュドミラで、自分の変な趣味にある程度の理解を示してくれているベアトリクスに構って貰えるのが嬉しいらしく、わざと突っ込まれる隙を作っている節がある。


「お揃いだからって、挨拶の特別扱いは駄目よ」

「うん。分かった」


 お揃いと言うのは、私と身体の一部がお揃いということだ。

 複雑だ。

 何故かと言うと、リュドミラは男の娘だからだ。




 リュドミラが孤児院に来たのは彼女が十二歳の時。二つ下の弟を連れて来た。


 その時に既に女の子の格好をしていた。顔も可愛いので皆始めは女の子だと思っていた。

 両親が病気で亡くなった後、山に近い村で魔法使いのおばあさんと一緒に暮らしていた。随分とおおらかな家庭だったようで、女の子の服を着ていても何も言われなかったそうだ。

 おばあさんが息を引き取る前に院長先生に手紙を書いていて、亡くなった後に孤児院に来た。


 当然のごとく来て早々に男子共にからかわれたのだが、魔法を使える彼女は相手の股間目掛けていきなり炎の魔法をぶっ放した。以来、うかつに手を出してはいけない相手に認定されている。

 それを見て気に入ったベアトリクスが、いい根性してんじゃない、と私達のところに連れてきて以来、いつも一七五の会のメンバーと一緒にいる。


 その時にメンバー全員の胸元を見た後、お揃いだね、と言いながら私の隣に座って以来、お揃いが一七五の会公認になってしまった。はなはだ迷惑だったが、お揃いなら仕方ないわね、と他のメンバーにまで言われてしまい、渋々従っている。


 孤児院の先生方の間でも、彼女の扱いは色々と議論されたようだ。

 遂にキャサリン先生が、私が確認してやる、と風呂場に引きずっていった結果、身体は男でも心は女、との認定を受けた。何があったのかは誰も知らされていない。

 風呂場から出て来たリュドミラは、何故かさめざめと泣いていたが、女の子として扱って良い、とキャサリン先生に言われたことを今では感謝しているらしい。


 キャサリン先生のとりなしもあって、リュドミラはお風呂当番になった。浴槽に貯めた水を炎の魔法を使ってお湯に変え、一番に一人で入っている。風邪を引いて寝込んだ時以外は、真面目に毎日お湯を沸かしていた。


 そのリュドミラも遂に成人した。

 彼女の夢は農家なのだが、やはり変わり者だけあって一筋縄ではいかない。魔法使いらしく、魔法を使って農業を改革することを目標に掲げている。なので、農家と言うよりは農業研究者になるのが夢だ。




 早速パウルさんがちょっかいを出す。魔法を応用利用して農業改革を成し遂げるというリュドミラの心意気が、琴線に触れないわけがない。


「やあ、リュドミラ。元気だったか。実は山の方で面白い実験を成功させてきたぞ」


 リュドミラはくっついていたべトリクスをほったらかして駆けて来た。遊び相手がいなくなったベアトリクスが、仕方ないわね、と呟きながらも話に加わっている。


「どんなことをしてきたの?」

「テレポートの魔法陣を使ってな、何もない荒れた林に泉と小川を作ったぞ」


 案の定リュドミラが目を輝かせる。灌漑は農業に必須だ。水の無い荒れ地に人口の泉を作ることができれば、畑地に変えることが出来る。早速三人して話し始めた。


 マルセロさんがニコニコ三人を眺めている。


「リュドミラは、マルセロ商会に就職しんたんですか?」


 一月前から農家の手伝いと店番の両方をやっていたの。農家はどうなったのだろう?


「最近はテレポートの魔法陣の依頼が多くなったので、もう一人くらい雇えるようになりました。上級魔法の巻物の売れ行きも上々ですしね」

「魔道具の開発をするんですか?」

「それもありますが、町長にお願いして土地を貸して貰ったんですよ」

「土地?」


 どこにそんな土地があるんだ? 第一借り賃も馬鹿にならないはずだ。


「ほら、下水処理場の周囲に空き地があったでしょう。あそこの一部を借りて、リュドミラ農業試験場にしたんです。もう柵も看板も立っています。教会の裏庭からも見えますよ」

「ただの原っぱでしたよね」


 雑草が生い茂っていたはずだ。時々盛大に草刈りをやっていたのを孤児院の窓から見た覚えがある。


「そこを農地に変えるんですよ。魔法や魔道具を使ってね。借り賃は半年に一回の研究成果報告です」


 土木工事の延長だな。パウルさんやアンジェリカさんがいれば、畑を耕して水を撒くくらい簡単だろう。


「ということは、リュドミラは土木工事部門ですか?」

「いえ、基本は魔道具開発です。僕のお弟子さんになりました。魔法と魔道具を使って荒れ地を農地に変えていくのが基本コンセプトですからね。毎日試験場に通って畑の面倒を見てますが、日中の暑い時間帯はここで店番です」


 真っ黒に日焼けしたリュドミラが畑にいる時は、子供が遊んでるようにしか見えないだろう。

 リュドミラにも黒紫と緑マーブルを作ってあげないといけないな。刺繍の色は聞くまでもない。ピンクに違いない。

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