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清貧に生きる野良神官は魔物退治をしながらお金を稼ぐ夢を見る  作者: 兎野羽地郎
第一部 第三章

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猟兵隊のモットー

 眠くて仕方がない。

 なんせ、昼夜逆転しているしな……。

 いくら寝ても、眠気がとれない。

 どうして、皆平気なんだろう。

 砦のあちこちでごろ寝してるくせに、出動となったらすぐ起きて元気そうにしてるし……。

 やっぱり訓練かな。


 待祭になりたての頃は朝早く起きるのが辛かったけど、早寝したら大丈夫になった。夜動いて昼間寝るなんて生活はやっぱり不自然なんだ。魔物じゃあるまいし……。


 あれ? なんか変だぞ?


 辺りを見回すと、パウルさんがいた。いつ寝てるのか分からないが、何故かいつも元気だ。


「パウルさん。ちょっと、良いですか?」

「なんだ。目が半分しか開いとらんぞ? ちゃんと寝とるのか?」


 おかしい。ちゃんと顔は洗ってきたはずなのに。


「そんなことよりも、教えて欲しいことがあるんですけど」

「どうした?」

「魔物って、昼間は寝てるんですよね。どうして昼間に森をうろついてるんでしょうか?」

「逃げてきた連中だからな。落ち着いて休める場所がないんだろう」


 なるほど。確かに私も、孤児院につくまでは気を張って歩いている。部屋に着くと同時にベッドに倒れ込んで寝てしまうが。


 てことは、あれか? 逃げてきた魔物もねぐらになる場所を見つけたとしたら、そこに隠れて寝てしまうのだろうか。寝ているところを襲撃すれば簡単に退治できそうだ。

 夜活動する魔物に合わせてこちらが起きているのではなくて、相手が寝ている昼間にこちらが仕掛けた方が良いに決まっている。


「じゃあ魔物がゆっくり休める場所があれば、そこで寝てるところを襲撃した方が被害も少ないんじゃないでしょうか? もし、土木工事やってそういう場所が作れたらおびき寄せができますよね?」

「その通りだとは思うが、悲しいかな儂ら人間には魔物が好む場所は分からんぞ」

「ゴブリン達に教えてもらえば良いのでは?」


 私達はゴブリンに伝手がある。ロビンソンさんを通じて聞けば教えてくれるのではないか。


「ふむ。今度聞いて見よう。今回は間に合わんがいずれ役に立つかもしれんな」


 そう言ってくれた。パウルさんは私達がネズミ退治をやっている間は、ゴブリン達に狩りを教えたりして交流を続けている。いつも街道クッキーをお土産に持って行き、例のそりに乗せてあげている。子供達にも随分と慕われているらしい。アドルフさんと孤児院生みたいなものだろう。


 ねぐらを作るのは無理として、せめて魔物が休憩したくなるような場所があれば良いのだが……。


「そう言えば、あの辺りには川や池が無かったですよね。魔物は水を飲まないのでしょうか? 水場があれば休憩くらいはしますよね?」

「あの辺りは平坦な地形だからな。川筋から外れているし、水場になるような場所はないと思うぞ」


 水を持って来なければいけないのか。穴を掘っても相当な雨が降らないと池にはならない。白い島では夏は雨が少ない。望み薄だ。


「しかし、今のジャンヌの話を聞いて面白いことを思いついたぞ」

「一体なんですか?」

「実はな……」


 パウルさんが話してくれた内容は、長年上下水道に関わってきた人ならではだった。




 次の日の夜。警戒所からの通報を受けた私達は、そろそろとオーク達に近づいた。


 オーク達は泉から湧き出る水を飲みながらくつろいでいる。

 人間に追われようやくの思いで逃げてきた。新鮮な水を飲んで一気に安心したのだろう。横たわって寝ているのもいるようだ。


 ボコボコと波紋を作りながら湧き出る水は小さな池を作り、溢れた水が心地良さげな音を立てて小川を流れて行く。


 そこに、随分と時間外なホタルが四つ飛んでいくと、なんだなんだと、注目し始めた。敵地だとやはり緊張するのか、寝ていたものも起き上がった。


 水の音、ある程度の精神の弛緩、そして、注意を引けども危険を感じさせない小さな光。

 それらが合わさった結果、オーク達が人間に取り囲まれたことに気づけなかったのは、仕方がなかったのかもしれない。


「今だ」


 パウルさんの合図で光量を上げる。

 突然大きく輝いた四つの光はオークの視覚を奪い、人間には獲物を狙うための十分な光をもたらした。




「上手くいったな」

「上手くいきましたね」


 アンジェリカさん、パウルさんと三人ニヤニヤしてしまう。

 聞くところによると、昼間も同じように池に集まって油断しているところを一網打尽にしたらしい。


 朝方にアンジェリカさんが来た後で、マルセロ商会が誇る上級魔法使い三人に突貫工事をやって貰った。


 まずはアンジェリカさんとマルセロさんだ。二人がかりで大型のテレポートの魔法陣を木の板に描いて貰う。表面に蝋を塗って防水加工を施す。それの入り口側を砦の地下の水場……崖下の川に繋がっている脱出口兼飲料水補給用……に沈める。

 次いで、魔物が集まる場所……初めて来たときにハンナさんが木に登って偵察した所だ……に大きな穴と溝を掘る。溝の先はどんどん延ばして谷に繋げる。仕上げは、穴の底に出口側の魔法陣を設置する。


 そうしておいて、魔法陣発動の合言葉を唱えると、あら不思議。谷川の水が魔法陣によって穴に運ばれ、泉のできあがりだ。

 魔法陣は一週間もすれば機能しなくなり、ただの水溜りになってしまうのだろうが別に問題はない。

 ロバーツ様に追われて逃げて来た魔物の休憩ポイントを作るのが目的なので、期間限定で十分だ。何より人工的に作るので猟兵が包囲しやすいところに自由に作ることができる。


「素晴らしいアイデアだよ。ジャンヌ!」

「王国猟兵にはなりませんからね」


 ナイス・ミドルが近づいてきたので、先制攻撃を仕掛けておく。


「……そうか。それは残念だが、それにしても良いことをやってくれた。おかげで昼も夜も待ち伏せに苦労しなくて済む」


 もちろん、魔物が通る場所はここだけではない。ただ、一番沢山通る場所で足止めし、かつ油断させられるなら効果はある。

 無事に奇襲が成功し、猟兵たちも喜んでくれた。


 偽装も見事なもので、ごくありきたりの泉によって出来た池にしか見えない。流石は中の原の誇る上下水道管理事務所の技術主任と顧問だ。

 逃げて来る魔物もこの辺りのことは知らないだろうから、突然泉が湧いて出たとは思うまい。




 砦に引き上げた後、なんとなく皆でバルコニーに集まった。


「後は北の峠ですね」


 ハンナさんが遥か北方を睨みながら腕組みをしている。

 北の峠は山砦からは距離も遠く、待ち伏せ地点にたどり着くまでの地形も険しく、峠を形作る尾根と尾根の間も広いため幅も広いと、突破されやすさでは三拍子揃っている。


「時間があれば何とかなったかも知れんが、今回は仕方ないな。今後、魔法兵が帰って来るだろうから、必要とあれば何かするだろう」


 パウルさんも残念そうだ。

 時間が無かった……きっかけが、他国の戦争に対する外交措置だったからだ。


「最初から時間をかけて準備すれば、もっと上手くいってたかも知れないですよね?」

「そうかもしれんな。だが、今回の発端は外交措置だ。魔物との戦いより、友好国との外交の方が優先されるからな」

「そういうものですか?」

「そういうもんだ」


 結局、この北の峠問題は私達が応援に入っている間は解決しなかった。

 ロバーツ様から、予定通りに十日間で別動隊と合流し東の原に帰還する、との連絡が入ったからだ。


 二週間の間、私が参加した戦闘は六回に及び、ネズミ退治を含めた個人獲得報酬は金貨三枚を超えた。なかなかの成果だ。一時は食い詰めるかとも思ったが、魔物退治屋を維持できて良かった。




 最終日の早朝、任務完了の宴会をするからこのまま残っていてくれ、と言われたので、食堂でパウルさん達と寛いで過ごした。


「今日で終わりだな。まあまあ稼いだし良い経験にもなったろう」


 パウルさんは水で薄めた蜂蜜酒を気付け代わりに飲んでいる。


「本当に良い勉強になりました。でもゴブリンがいなくて良かったです」

「確かにそれはそうじゃ。いたら尻尾を巻いて退散してしまったかも知れん」


 立ち上がったパウルさんが、首をすくめて逃げる振りをしている。普段からゴブリンに接する機会は多いから、ホッとしているんだろう。


「上手く逃げ延びてくれたんでしょうか?」

「どうじゃろう、ゴブリンは弱いからな。オークやオーガどもにこき使われているようだから、前線に立たされて東の原の部隊に狩られてしまったのかもしれんな」

「そうですか」


 そうか…。逃げていてくれたら、ロビンソンさんが救えたかも知れないけど、はかない願望なのかなあ……。


「いつか必ず、ゴブリンを率いてオークやオーガを狩ってやろうぞ」


 ニカッと歯を見せてウィンクしてくる。流石だな。本当に救われる。


「そうですね。その時は皆で一緒にがんばりましょうね」


 




 昼間組が合流してきた時点で、そのまま宴会になった。

 周囲を見渡すと山賊達が盛り上がっている。パウルさんもいるしベアトリクスもいる。宴会要員には事欠かない。おまけに魔王軍討伐に参加していた猟兵が帰還して人数が倍近くになっているから随分とむさ苦しい。


 って、あれ? 山賊の中に女性兵士が一人もいないな。


「猟兵は女性禁制なのよ」


 元王国兵のアンジェリカさんが教えてくれた。


「どうしてですか?」


 ルイスさんなんか毎日のように勧誘してきた。あれだけ頻繁に勧誘していて、女性禁制ってのは変だ。


「他の部隊と比べて帰還率が極端に低いからよ。子供を産む女性が戦死しないようにしているみたいね」


 えっ? 


「猟兵はね、前線の裏側、つまり敵しかいない場所に潜入して戦うの。戦争中に自警団が敵の補給部隊を襲撃出来たのも彼らの手引きがあったからよ」


 一瞬頭がぼうっとした。パウルさんが言っていた隠れ軍隊っていうのはそういう意味なのか……。


「じゃあ、どうして毎日のように勧誘してきたんですか?」

「さあ、どうしてかしら。ハンナとジャンヌが緊張していたからかもね」


 アンジェリカさんはニコニコしている。

 そういえば、砦の主のように過ごしていたヴィルやベアトリクスが勧誘された気配は無かった。

 ナイス・ミドルは、やっぱりナイス・ミドルだったんだ……。


「猟兵隊にもモットーってあるのよ。なんだと思う?」

「恐れ知らず、とかそういう感じのやつですか?」


 確かパウルさんがそんなことを言っていた。


「我ら栄光を求めず。ただ、〇〇のために戦う」


 姿勢を正したアンジェリカさんが暗唱するように口にする。


「○○ってなんですか?」

「各人自由に入れていいみたいよ。国のためでも、恋人のためでも、その人の名前でも。なんでも良いみたい」


 未完成なのか。でも不思議と一生懸命山賊のふりをしているルイスさん達に似合っていそうだ。


 そこへ噂のルイスさんがやってきた。


「やあ、ジャンヌ。今日でお別れとは寂しいな」


 相変わらずのナイス・スマイルだ。


「ルイスさんは、なんのために戦っているんですか?」


 一瞬怪訝な顔をしたが、アンジェリカさんを見て悟ったようだ。


「決まっているじゃないか。もちろん君達のような美しい女性のためだよ」


 肩に手を乗せてくる。

 さりげなく、馴れ馴れしい。

 アンジェリカさんを見ると頷いている。

 なるほど、ここは乗っかってやらないといけないのだな。

 小声で素早く詠唱を終えると、ライトの魔法を顔面にぶちかました。

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