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清貧に生きる野良神官は魔物退治をしながらお金を稼ぐ夢を見る  作者: 兎野羽地郎
第一部 第三章

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アンジェリカさん

 アンジェリカさんやハンナさんと一緒に、砦全員分の朝ご飯とお弁当を作った。大好評だ。アンジェリカさんなんか、私達二人に指示を出しての大奮闘だ。


「流石だな、アンジェリカ。中の原のマドンナはここに健在だ。安心したよ」


 ルイスさんの誉め言葉に、エプロン姿で、うふふ、と笑っている。


「マドンナって何ですか?」

「ああ見えて、元中の原の人気ナンバーワンだったんだぞ。」


 パウルさんがこっそり教えてくれた。ナンバーワンはマドンナと呼ばれるらしい。


「結婚してランクを落としたが、エプロン姿がまた良い、と言うファンがいてな、現在は既婚者部門を独走中じゃ」


 なるほど。いつもエプロンを着けているのはそう言うことだったのね。


「ナンバーワンって、どうやって決めてるんですか?」

「簡単だ。自警団の集会所に行って投票するんじゃ。投票できるのは四十歳以上の男子だけだ」

「男性だけってのは分かりますが、どうして年齢制限があるんですか?」


 オッサンしか投票権がないのはおかしい。


「若いのは真剣になりすぎる。酒のつまみ程度がいいんじゃよ。町の中で妙な派閥が出来てみろ。いろいろ困るだろう?」


 なるほど。要は道楽だな。

 因みに、ここの山賊達も参加しているらしい。


 アンジェリカさんを見ると、いつの間にか食事を終わらせていた。ヴィルやベイオウルフと話をしながらご飯を食べているハンナさんを他所に、おかわりを要求する山賊共に満面の笑みで餌付けをしている。

 人気はああやって維持されるのだな。


「ヴィルとベアトリクスはどうなんですか? 二人共孤児院では美少女で通ってたんですよ」

「……オッサンはなあ……」


 俯いてしまった。

 なるほど。中身がオッサンと発想がオッサンと言うわけか。

 オッサンに恋するオッサンは稀だろう。中の原の男性諸氏もなかなか辛口だ。


「ジャンヌは先月10位以内に入っていたぞ」

「えっ、私が?」


 思わず手に持ったパンを取り落とす。

 素敵な笑顔のナイス・ミドルに新しいのを手渡して貰ったお礼を言った後で、本当かと聞くと、どうも本当らしい。


「かつては、カトリーヌ司教が長いことナンバーワンに君臨していた。戦う女神官は人気なんだよ」


 なるほど。随分と嗜好が偏っている気もするが、要は女神信仰なのだろう。道理で万事に豪快なキャサリン先生が人気になるはずだ。


 てことはあれか? いずれは私がナンバーワンになる可能性もあるのか?


 困ったな。どうしよう。

 今のところ還俗する予定は無いのだが……。

 とりあえず、アドルフさんに頼んで、あの胸から魔法を出す絵皿だけでも片づけてもらおうかな……。


 ここで我に返った。


 いかん、いかん。何を考えているんだ、私は。

 今日はネズミ退治をしなければいけないんだ。色ボケている場合ではない。

 顔でも洗って頭を冷やそう。緊張感を維持しないと、ネズミ退治すら満足に出来なくなったら大変だ。




 戻って来ると後片付けがはじまっていて、その頃には日替わり担当のマルセロさんとベアトリクスがやってきた。


「おはよう。どうだった?」

「土木工事だったわ。見てるだけだったけど、山の中で馬に乗ったから道中が本当に大変だった」


 これこれだ、と説明する。


「今日はどうするの?」

「基本的には昨日と同じだ。ただ、マルセロにテレポート魔法陣を描いてもらって、移動速度を速めたいんだが」

「構いませんよ。アドルフ町長には許可を貰っています。代金の話も済ませていますから、落ちついたら早速回りましょうか」


 どうやら、期間限定でテレポートの魔法陣を描くらしい。

 どこをどう繋ぐのかは良く分からないが、明日来れば分かるだろう。


「じゃあ、私はここに居るわね。一緒にいても役に立ちそうにないでしょ?」

「戦闘前に下調べをせんでどうするんだ。一緒に来い!」


 ランキング外の怠け者がサボろうとして、パウルさんに叱られている。


「もう、仕方ないわね。わかったわよ。行くわよ。じゃあ、ジャンヌ。ネズミ退治よろしくね!」


 私に向かってキレている。ニヤついていたのがばれたかな。




 道中の心配をしている魔法使いはともかく、山賊達にチヤホヤされてご満悦のアンジェリカさんと、昨日の分の報告をするために町に帰るハンナさんと共にテレポートの魔法陣で中の原に帰ってきた。


 帰り際に、三人共明日来るんだよな? と山賊達に何度も念押しされてしまった。

 考えてみたら、ランキング入り三名とオッサン娘二名の入れ替わりだ。

 少々むず痒い感じだが、まずはランクアップ、もとい、今日のネズミ退治を頑張ろう。




 中の原の町に帰ってきた。アンジェリカさんと一緒に鳥の頭亭に寄って鶏ガラを貰ってくる。


「すみませんアンジェリカさん。お手伝いしてもらって。私一人では一箇所で一匹しか倒せないので」

「ううん、大丈夫よ。私もネズミ退治なんてやったことないから。色々教えてね」


 何せ、上級魔法使いだ。どうするのか、と思っていたら、氷の中級魔法一発で片づけてしまった。ゴトンと固まった氷の塊の中にネズミが五匹閉じ込められている。


「半日もおいておけば死ぬだろうから、後で尻尾を回収しにきましょうね」


 ニコニコしている。


 圧倒的だ。これが元一位の力か……。

 無詠唱なので、ネズミが集まった後は一呼吸で終わってしまった。


 ホーリーの練習をしたいのですが、とおずおずと伝えると、いいわよ、とあっさり解凍してくれた。仮死状態に陥ったのか、動かないネズミ2匹をホーリーで止めを刺した後、再びネズミの氷漬けを作る。


 それを五回繰り返して二十三匹の成果を上げた。

 じゃあ行って来るわねと、てくてく下水処理場に向かって歩いて行ってしまった。

 出勤のついでにネズミ退治をやったようなものだ。




 アンジェリカさんを見送った後、色々と考えてしまった。

 周囲の人はこんなにも凄いのに、私は未だネズミ一匹が関の山だ。このまま魔物退治屋を続けていても大丈夫なのだろうか。


 ハンスさんに報告した時に、元気がないじゃないか、と言われた。アンジェリカさんが凄すぎた、と言うと、当たり前だ、と返された。


「アンジェリカは元王国軍魔法兵のエリートだ。アルベルトの一件で辞任しなければ、今頃は王都の中央軍で部隊長くらいやっていてもおかしくないんだぞ」

「そうなんですか?」

「今でこそエプロンなんか着けてニコニコしているが、戦争中は鬼のアンジェリカって呼ばれて随分とおっかなかったもんさ。あいつが魔法で攻めつぶした敵は千人では効かんぞ。それに、王国軍を辞任した後も、還俗したテレポートのマルセロと組んでエングリオ相手に遊撃戦を仕掛けて、いくつも勲章を貰っているんだ。お前達とは年季が違う」


 鬼のアンジェリカ…………とてもイメージ出来ないや。

 でも、そんなに凄い人だったんだ。


「長い間、中の原人気ナンバーワンの座にいたカトリーヌ司教を、初めて追い越したのがアンジェリカだ。お前らではまだ遠く及ばん」


 あれっ? なんか話の方向が違ってきたような……。


「どうせ、アンジェリカの魔法を見せられて自信をなくしたんだろうが考え過ぎだ。お前は神官だろう。頑張って魔物を退治していればいずれ追い抜けるよ」


 ちょっと、待って下さい。なんの話ですか?


「トップテンに入ったらしいじゃないか。神官は有利なんだよ。キャサリン神官を見ろ。いつの間にかナンバーワンだ」


 なにやら演説を始めてしまった。どうしたんだろう?


「今度の収穫祭ではキャサリン神官が選ばれるだろうが、入賞圏内に居るんだからもっと自信を持って頑張れ」


 これはどうも話がおかしい。




「なんの話ですか?」


 うん? とハンスさんが首を傾げる。


「今年の中の原マドンナ選抜の話じゃないのか?」

「なんですか、それ?」

「……そうか、忘れてくれ……」


 ひらひらと、手を振ってそっぽを向く。しまった、といった表情だ。


 しかし、ここまで聞かされてそのままで済ますわけがない。


「今度ベアトリクスを連れて来ますよ」


 この言葉は効いたようだ。

 ハンスさんはため息をついていたが、結局話してくれた。




 九月の感謝祭では毎年中の原成人女性ナンバーワンを投票して発表するらしい。その予備選として、毎月似たようなことをやっているのだそうだ。私がランクインしたのは七月の分だった。ちなみに去年は既婚者部門がアンジェリカさん。未婚者部門がキャサリン先生。総合がキャサリン先生となっていたようだが、この間のレヴァナント戦をきっかけにハンナさんがランキングを駆け上がってきたそうだ。


 選ばれたところで何かあるわけではなく、ただ単にオッサン達が酒のつまみにして喜んでいるだけなのだが、女性でもランキングの上位陣には気にしている人もいるらしい。

 なので、現在入賞圏内にいる私もそうだろうと思って、気にかけてくれたのだが……。


 お門違いにも程がある。


「すまん。勘違いだ。忘れてくれ」


 珍しくハンスさんが弱気になっている。これはこれで面白い。


「いいですよ。その代わり、誰に投票するつもりなのか、こっそり教えて下さい」


 頭を抱えたハンスさんだが、どうします? と詰め寄ったら白状した。


「今のところカトリーヌ司教だ。誰にも言うなよ」


 辺りを伺うようにして小さい声で言ってきた。


「でも、院長先生はもう五十歳ですよ。守備範囲広すぎるでしょ」

「そういうものではない。中の原マドンナのコンセプトは戦う女性だ。色恋沙汰とは違う」


 憤然としている。


「もっと崇高なものなんだ。勘違いしてはいかん。いいか、はかない女性が、何日も、いや何年もの間、日々の鍛錬を積み上げた結果として身に着けた技量を発揮し、我が身を挺して町のため、そこに住む人のために戦っていてこその美しさなんだ。そこを忘れるな」


 怒られてしまった。しかも演説付きだ。


 どうやら戦争中もやっていたらしく、活躍したアンジェリカさんが英雄カトリーヌを追い越したのも、そこら辺が絡んでいるらしい。

 何が崇高なのかは良く分からなかったが、これ以上引っ張るとやばい、と思ったので、早々に退散した。

 帰り際には、誰にも言うなよ、と何度も口止めされてしまった。投票内容を口に出すのはご法度だそうな。


 オッサン達の感性にはついていけないや。

 でも、どういう訳か気が晴れたからいいか。

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