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清貧に生きる野良神官は魔物退治をしながらお金を稼ぐ夢を見る  作者: 兎野羽地郎
第五部 第二十五章

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第二話 第十回会合(セルトリア)

 五月の二週目に、国立医学研究所で第十回の疫病と生活困窮者対策の会合が開かれた。主な話題は、大陸の動向だ。シアーニャの話によると、冬場に小康状態になっていた西リーベル北部海岸地方のお腹にくる疫病は、王都周辺にまで広がっていて、夏場に向けて感染者が増えていく可能性があるらしい。情報提供者は、アンリ様やロイド様のお知り合いになる西リーベルの疫病担当者だ。


「西リーベル王都は、どの様な状況なのですか?」


 ノーザン・グラム代表のサクスブルグが聞いてきた。ノーザン・グラムは、フィニスと共同で、西リーベルへ魔法水の供与を行っている。巻物と魔法陣を底に描いた水槽を定期的に送っているから、動向は気になるだろう。因みに、妊娠が発表されたアイラは、大事をとって欠席している。


「王都では、ほとんど感染が確認されていないそうです。王都を流れる川の輸送力を利用しているからでしょう」


 川の河口はゲルマニア公国領になる。テレジア様は、軍隊以外の交通に制限を加えていないそうだ。アンリ様もいらっしゃるし、その点は安心だ。


「つまり、王都と北部海岸線の間で感染が確認されているのですか?」

「いえ、王都では無く、北部海岸線に河口を持つ大きな川から少し離れたところでの感染が確認されているそうです。つまり、陸路の限界ですね」


 供与された巻物と魔法陣は、少しでも魔法水の効果期間内に遠くへ運べる様に、ベクティス島の対岸にあるベクティス伯専用岸壁に停泊した西リーベルの専用船で発動させている。無論、海岸沿い用の魔法水は、ノーザン・グラムの港で作ったのを運搬している。魔法水は川を利用して内陸へも運んでいるのだが、感染地域を流れる川が無いと、途中で降ろして荷馬車で運ぶしかない。如何せん広いだけに限界がある。残念な事に、魔法水の恩恵を受ける事が出来る地域は、そうでは無い地域の感染者の受け入れを拒否しているから、患者の移送も出来ないらしい。国単位で対策が取れない以上、どうしようもないそうだ。


「しかし、川の流域が安定している以上、現在引き続き感染が確認されている地域から、全土に広がる事は考えにくいと。そして、大同団結会議で話し合われた感染防止対策も民衆に流布されている事から、昨年の春に比べて感染者数は少ないそうです。なお、魔法水購入のための税金が課せられたそうです」


 課税は必要経費分だろう。元々の巻物の値段を安く設定しているとは言え、大型水槽用の魔法陣は手間暇がかかるから高くつく。船で運んでいるから運賃も必要だ。無論、交易船を利用しているから特別料金は取っていないはずだ。こればかりは、どうしようも無いな。


「それから、感染の経路が特定できたかも知れません」


 シアーニャが言うには、お通じ系らしい。

 プライモルディア……正確には西の教会は、湿地で患者を受け入れ治療をしている。その患者の体内から排出される物を、片っ端からサイトで拡大した結果、お通じ系……特に大きい方……から病気の元になる黒天が沢山発見されたそうだ。


「従って、トイレの位置を井戸や水場から遠ざける事が第一になります。排出後の手洗いや洗顔、うがいを徹底する事によって、ある程度感染を予防できるものと思います。特に、患者が汚した肌着類を扱った後は特に注意が必要です。出来れば、皮手袋の装着が望ましいそうです。また、手袋を洗う場合も、石鹸を使った場合と、そうでは無い場合は、かなりの違いがあったそうです。沸騰させたお湯で煮るのも有効ですが、布類は兎も角も、革製品は難しいですから、石鹸水を使った洗浄が良いと思います。無論、手洗いも同様です」


 未確定ながら、カドガン様が主体となった、プライモルディア、ハルモニア、セルトーニュの三か国合同で実施している湿地での実験結果らしい。セルトリアでは患者がいなかったので出来なかった。

 研究成果は、未確定なので、正式な報告にはなっていない。ただ、先行情報として、湿地の研究成果はカドガン様の名義で、白い島の全ての国と、大同団結会議に参加した大陸の各国の担当者に伝達されている。


「素晴らしい成果ですわ。正に大同団結ですね」


 サクスブルグも、頬を紅潮させている。西リーベルの蔓延状況は、ノーザン・グラムの評判にも関わってくる。流行の終息は、国としても大切な事なのだ。




「我が主、ベクティス伯から、皆様にご提案がございます」


 ひとしきり盛り上がった後で、ベクティス伯の筆頭侍女様が発言を求めて来た。


「皆様御存じの通り、我が主の領土はエングリオ王国に属してはおりますが、完全な自治と全ての戦争に関する中立を、歴代エングリオ国王に保証されております。無論、当代のセルディック王にも認められております。例外は、我が島の対岸にある港と港町を他国が攻撃対象とした場合のみであり、その時は、敵軍の殲滅が義務付けられております」


 撃退と言わずに殲滅と言った。本当にやり切るだけの実力があるだけに恐ろしい。


「つまり、我が島の沿岸は、我が主に挑まんとする身の程知らずが出現しない以上、基本的にどの国とも中立なのです」


 他国の王族相手の堂々たるもんだな。状況が状況なら恫喝だぞ。


「つまり、その中立的お立場を我々が利用しても良いと?」


 マグダレナ様の言葉に、侍女様が頷いた。


「伯爵は、島の港に魔法水製造施設を建造し、同時に大陸への魔法水供与に関わる船舶の停泊を認めても良いとお考えです」


 現在私が作っている巻物は、半分以上がエングリオへ行っている。それをベクティス島で集約して魔法水を作り、船で各地へ運べば良い。


「船員の入島をお認めになられるのですか?」

「港の拡張工事を行い、出島を作ります。そこは島外の扱いとし、魔法水に関わる船舶のみ停泊を認め、船員の上陸を認めます。ただし、出島から島に渡る事は許しません。従来通りです。そして、事前の許可なく出島に入ろうとする者は敵と見なし、殲滅します」


 港の拡張工事で出島を作る……流石はヴァンパイア、スケールが違う。


 その出島では、ベクティス島で作った魔法水の積み込みだけではなく、請負で作ったり、魔法水を荷馬車で運びやすいように樽詰めにしたりもするらしい。今までは、そう言った施設が陸上になかった。何故かと言うと、エングリオが西リーベルと交戦状態にあるからだ。独立国家としての縄張りを主張できる交易船上でしか出来なかった。言わば、カドガン様がプライモルディア王と相談して、湿地全体が国境とされていた不思議な中立地帯に隔離施設を作ったのと同じ発想だ。ベクティス島の対岸にある港は、無論エングリオ領であり、セルディック王の直轄地だ。上陸なんか簡単に認められないだろう。それが、ベクティス伯が、出島という不思議な中立地帯を島に設ける事により、各国の船員は休息を得、水や食料の補給を受けられるわけだ。


「その事、セルディック王には?」

「勿論、了承済みです」


 マグダレナ様が聞くと、あっさり返して来た。

 まあ、あのセルディック王の事だ。ベクティス伯さえ良ければ問題無しにするのだろう。


「ただし、伯爵は、他国の王家との取引を好みません。伯爵がエングリオ国王の臣下ですので」


 ふむ。頭越しは嫌だと言うのだな。しかし、巻物や魔法水は、各国とも基本王家の管理になっている。例外が、西の教会の管理になっている湿地と私が所属する一七五の会とマルセロ商会だ。


「可能であれば、一七五の会の支店を置いて頂ければと思っております。管理は私共にお任せ下さい」


 咄嗟に、メアリーを見る。


「失礼ですが、支店を出す場合、一七五の会のメンバーを店長にしております。こちらも、お客様の信用あっての商売ですので。せめて、例えば、月に一回でも結構ですから、こちらの者を派遣して監督出来るようにして下さいませんか? その場合でも、開店当初は、最低でも一週間は見させて頂きます」


 メアリーが、上手く応対してくれた。


 実はそうなのだ。初めて支店を出したのは、レグネンテスの二号店になるが、その時に皆で相談して決めた。二号店は、ベアトリクスが店長をやっている。尤も、常駐している訳では無いので、メアリーの弟子が店長代理だ。平坦地の四号店の場合も、現店長は準一七五の会のメンバーになるミアーナだが、慣れるまではリュドミラがやった。尤も、リュドミラはボニーに任せっぱなしで、ほとんど顔を出さなかったが。因みに、五号店候補はプライモルディアになるが、いまだシアーニャの管理する店舗が仮店舗扱いのままだ。


「では、リュドミラ殿ではいかがでしょうか? 私が代理を務めさせて頂きます」


 考える間もなく名を出したと言う事は、最初からその積りだったに違いない。しかし、リュドミラは適任と言えば適任だ。と言うか、例え名目だけにしても他にいない。

 リュドミラは、現在、ベクティス島の荒れ地を小麦畑にしようと奮闘中だったりする。


 話は一年程前になるのだが、伯爵に魔物退治を依頼された。その折に、農業研究者として島の農業を見たいとリュドミラも参加した。魔物退治自体はビショップとの和解と言う形で円満解決したのだが、その後でリュドミラは入島許可を得て伯爵に面会し、島の農業をより良くすることを依頼されている。以来、年に何回かは馬車に乗って島に行き、地元のアルラウネと一緒に農業研究をやっている。

 最初から荒れ地の農業は難しいと言っていた。しかし、意欲的に取り組んでいるリュドミラは、フローラだけではなくセレーナやレナータにも相談し、刈った草を燃やしたり、蚯蚓を増やしたりするだけではなく、荒れ地を掘り返したりして土を作っているらしい。何せ、魔法に関しては、嵐を巻き起こす人がいる。試験場の畑数枚と狭いとは言え、作業そのものはあっと言う間らしい。無論、侍女様はその事を良く知っている。


「マグダレナ様、王宮としてはいかがでしょうか?」

「今私が聞きましたので、特に問題はありません」


 マグダレナ様の許可が出た。後は、本人に確認して返答する事になった。


 その後、前回からの継続案件になっている事について確認が行われ、セルトリア王都域東部地域での魔法水の大量生産に目途が立ったとの報告が、マグダレナ様からあった。




 会合が終わると、フィリップス様が退席して女子会だ。ミアーナの新作の試食会を兼ねて行われた。話題は、俄然サクスブルグの婚約だ。

 相手が、ノーザン・グラムで一番のお貴族様とあって常識的に考えれば政略結婚なのだが、シアーニャと侍女様以外は、皆なれそめから現在に至るまでを知っている。あの大人しいヘクサム公が、どんな風にプロポーズをしたのか、興味津々だ。


「ねえ、もしかして、サクスブルグの方から申し込んだの?」

「ね、姉様、そ、そんな事は……」


 実の姉になるグウィン様のお后様がいきなりぶち込んだ。流石のサクスブルグも口ごもる。シアーニャが目を丸くし、侍女様が表情も変えずに前のめりになり、聞き耳を立てる。


「どうだったの?」

「へ、ヘクサム公から、申し込んでくれましたわ」


 ほほう、聞き捨てならないな。いつ? どこで? どんな言葉で? 詳しく教えて貰おうか。




 それは、昨年の秋の終わりのある日、ヘクサム公の屋敷の裏庭に幾つか設置したウサギ小屋での事。冬の寒さに兎が参ってしまわない様に、壁の金網を板で覆ったり、新しい藁を入れたり、藁を編んで作った寝床用の新しい巣箱を入れたりと、冬越しの準備を兎担当のディフォドールを含めた三人で進めていた時だ。


「ねえ、私達、これからどうなるのかなあ」


 サクスブルグが、ぼそっと呟いた。魔族らしく勘の良いディフォドールは、餌を取って来ると小屋を出たらしい。


「僕は、ずっとこのままがいいな」


 代替わりに当たって、軍事と裁判を仕切っていたヘクサム家の職務は大きく変わった。今は、交易、農業改革、疫病と生活困窮者対策の家になった。兎の飼育は、生活困窮者対策として取り入れているのだが、本人も飼育法を覚える事を名目に愛玩用を飼育している。


「私は、続けられないかも」

「兎の飼育、止めちゃうの?」

「なんかね、縁談が幾つか来ているみたい」

「そうなんだ。王女様だもんね」


 ヘクサム公の表情が陰った。とサクスブルグは思ったらしい。


「相手は、どういう人なの?」

「気になる?」

「そう言うわけじゃないけど……」


 もう、はっきりしないなあ。サクスブルグは、少し焦れた。


「兎の飼育に興味が無さそうな人よ。だからさ、兎の飼育が好きな人が引き止めてくれたらいいのになあって」

「引き止める?」

「そう、一緒に兎の飼育しようって。誰かいないかなあ。そう言う人」

「…………」


 思わせぶりに上目遣いで覗き込むと、俯いて黙り込んでしまったらしい。


「ねえ、私達って、これからどうなると思う?」

「ぼ、僕は、ずっとこのままがいいって思っているよ」

「私達が?」

「う、うん」

「これからも、私と一緒に兎の飼育をするの?」

「う、うん」


 ヘクサム公は、赤くなって俯いた。まあ、あの性格にしては、上出来だろう。




「その後は?」


 実の姉が追撃をかける。


「く、唇を……」


 途中で口ごもる。じれったいなあ。


「あのヘクサム公が、その状況で貴女の唇を奪ったの? 意外と強引なのね」

「え? いや、あの……その……」


 しどろもどろになっているな。


「サクスブルグ。もしかして、貴女がヘクサム公の唇を奪ったの?」


 近い将来自分の結婚相手を完全に尻に敷くであろう娘が真っ赤な顔で頷くと、祝福と彼女の勇気を讃える笑い声に包まれた。

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