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清貧に生きる野良神官は魔物退治をしながらお金を稼ぐ夢を見る  作者: 兎野羽地郎
第五部 第二十四章

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第十一話 ナオネント公国へ⑥

 傭兵達は無事に降伏した。


 降伏した者、ダークで焼かれた者、怪我をした者、気絶している者の順番に、ロープで後ろ手に縛って数珠繋ぎにし、縛り終えた者から必要に応じて治療を開始した。


 死者はいない。怪我人はいたが、回復魔法を使える者が三人いる。超上級一人に上級二人だ。見た目はアレだが、命に関わる傷では無い。ほとんどの者が初級並みのヒール一、二回で治った。顔と両手を焼かれたのは、私が中級並みを放って直した。矢が刺さって歯が抜けた人は残念だったが、これは罰だと我慢して貰おう。


 拘束と治療が終わるとお頭の尋問だ。ソート・コミュニケーションを使うから簡単だ。しかも、治療中にハロルド様とハーミット様が、フィオナを連れて顔役を攫ってきた。お頭は巫女に、顔役はフィオナに、それぞれ散々脅かされたのもあって、あっさりと口を割ったらしい。

 連中の目的はまずは魔法水、次いで身代金。ハルモニア公国、セルトーニュ王国、セルトリア王国がゆする相手で、場合によっては、西リーベルか東リーベルに売り渡す事も考えていたらしい。


「因みに、私の身代金て幾らくらいですか?」


 こう見えても超上級魔法使いだ。それなりの金額にはなると思うのだが……。事実、セルトーニュ海軍は、西リーベルのお貴族様を捕虜にして結構な身代金を稼いだと聞いた。


「戦争中に捕虜になったのであれば捕縛した捕虜との交換になりますが、今回は犯罪ですので取引には応じません」

「む、無価値ですか?」

「野良ですからね。教会もお金を出す事は無いでしょう」


 ハリス様は、魔法水が戦略物資になるとか言っていた様な……。


「取引には応じませんが、降下猟兵を主体とした部隊を編成し、救出作戦を実施します」


 そっちの方が高くつくんじゃないのか?


「金銭の問題ではありません。セルトリアが犯罪者との交渉には応じない姿勢を内外に示す事によって、我が国の国民を誘拐するなどと言った大それた事を考えないようにするためです。これは、誘拐の対象が王族であっても変わりません。最悪犠牲者が出るかも知れませんが、相手は国を挙げてでも必ず殲滅します」


 ふーん、そう言うものなのか。毅然としているんだな。




「ところで、捕縛した者達はどの様に?」


 ハリス様が聞いてきた。

 懲らしめたとは言え、そのまま放免では舐められてしまう。第一、身分を隠しているヘンリー一行は兎も角も、今回の使節団の副使はプライモルディアの王女だ。普通なら全員縛り首だ。


「尋問して分ったのですが、彼らは食い詰めです。仕事を与えてはどうでしょうか?」


 何でも、去年始まった戦争に傭兵として参加しようとしたのだが、セルトーニュは海軍主体だった。今回出会った西リーベルのお貴族様の様に、水面下での外交が上手く行って陸戦にはほとんど参加していない。エングリオのセルディック王が率いる軍が主体になった。つまり、傭兵はあまり稼げなかった。実際に、初めてハルモニア公国に行った時に、昼間っから飲み屋でたむろしている傭兵を見た。あの時は開戦直後だったが、陸戦が無いならずっとあのままだったかも知れない。海軍が出征したハルモニアでさえあれならば、お互いに関所を閉じて引き籠っていたナオネントなら猶更だろう。顔役も、戦争ともなれば裏の仕事が色々入るらしい。当てが外れて稼ぎ損なったわけだ。そこに、どう考えても金になる魔法水の作り手がやって来た。しかも、基本的に神官団だから国賓では無い。警護も薄い。アンリ様が言った様に半分実験だから、猶の事だ。そう言った情報が顔役まで届いた。最初は町中での護衛を依頼されたのだが、それでは稼ぎが少ない。いっその事と、護衛の話を分不相応と断り、一発逆転を狙ったらしい。そこら辺の発想は、傭兵だからなのかは分からない。


 エレノア様は、そう言った連中に仕事を与えてはどうか、と言うのだ。ヘンリー一行の特殊事情のせいで表沙汰にはしないのだが、本来なら縛り首になる者達を無罪放免して職まで与えるとは至れり尽くせりじゃ無いか。


「顔役は兎も角も、傭兵はどうする? 奴ら戦う事しか出来んぞ」


 ハロルド様が言うには、元々食い詰めたのが身体を資本に傭兵になっただけで、金も無ければ産業に必要な技能も無い。就職先があるとは思えない。


「セルトーニュではありませんが、傭兵を募集している国がありませんでしたか?」


 確かにあるな。私が知っているだけでも、エングリオ、モランディーヌ、ゲルマニア、それにローランドと四つもある。しかし、今の所、今回狙われた当事者であるセルトリアとプライモルディアにとっては、モランディーヌを除いて非同盟国だ。その内の、モランディーヌは、今の所あまり信用されていない。


「ほほお、草にでもするのか?」


 ハロルド様が言う草とは、要は密偵らしい。北西海岸同盟の密偵として送り込むわけだ。


「そこまでは考えていませんが、我々の国への情報提供者が増える分には問題無いでしょう」

「で、どこに送り込むよ」

「ゲルマニア公国です」


 テレジア様の所だ。戦争と疫病の影響で兵数が減っていると聞いた。戦争が再開したら、最初に狙われるかも知れないから、数を揃えるのは急務だろう。


「現状のままで開戦するとすれば、かなりの苦戦が予想されます。東リーベルには有名な傭兵団がありますが、誰も行きたがらないでしょう」


 現時点で本国の東リーベルが絡まない単独同盟国はいないそうだ。ゲルマニア公国領を最初に狙うと思われる西リーベルが同盟を結ぶことは無いだろうし、西リーベル包囲網を作っている各国がゲルマニア公国と単独同盟を結ぶとは思えない。同盟を結んでしまったら、西リーベルがゲルマニアに攻め込んだ時、東リーベル本軍が動けない状態でも戦争状態に突入してしまう。そこまで積極的に西リーベルと争う気は無いだろう。つまりそういった国に拠点を置く傭兵団が雇えないと言う事でもある。逆に言うと、自国に拠点を置く傭兵が行くのを止めない国は、ゲルマニアとの友好関係を築く意思があるとも言える。ゲルマニアにとっては有難い話だ。とは言え、傭兵だって命が惜しい。勝つのが難しい国に行くとは思えない。縛り首と引き換えになる様な連中は別かも知れないが。


「今回の事をナオネント公に内々でお知らせして、彼らをゲルマニアに送り込みませんか?」

「そう上手くいくかの?」

「そこはナオネント公に平身低頭でお願いしましょう。ナオネント公だって、表沙汰になれば恥をかくだけですからね」

「儂が晩飯を減らされんで済むなら、何でも良いぞ」


 国家外交を左右し兼ねない事を、そんな理由で承認しても良いのだろうか? はなはだ疑問だ。




 結局、傭兵団の頭はエレノア様の提案を飲んだ。飲むだろう。飲まなければ縛り首だ。

 後日談になるが、ナオネント公も承認する事になる。その後、セルトーニュ国王にも承認され、傭兵団は無事にゲルマニア公国へ渡った。エレノア様曰く、テレジア様とその配下も、傭兵団が密偵である事を見抜いているだろうとの事だ。ただし、セルトーニュの傭兵団を雇うと言うのは大きな宣伝効果があるそうで、セルトーニュとの同盟なり密約なりを交わすきっかけになるだろうとの話だった。つまり、セルトーニュがテレジア様との対話を望んでいる事が、内外に知れ渡るわけだ。


 この町で出会った西リーベルのお貴族様の話が本当なら、東リーベルが無闇に仕掛けなければ戦争は無い、少なくとも南西部では無い。もしも、テレジア様がセルトーニュや西リーベルと不戦同盟を結ぶことが出来れば、開戦しても去年東リーベル本軍に占領された町の周辺部だけで済むんじゃなかろうか。要は、東リーベルの国王だ。

 ただの病気は、治療法が分るまでは業病と呼ばれていた。しかし、本当にその名にふさわしい病気に罹っているのは、一部の王侯貴族だけなのかも知れないな。




 ともあれ、一人の死人も出さずに解決できた。予定の三日が過ぎたので、アンリ様から依頼された実験の結果を確認して帰るだけだ。


 実験は三つある。


 一つは、どのくらい南に行ってアンチ・セプシスを放てるかだ。これは既に実施した。実験をする理由は明白だ。セルトーニュ南部で一神教に改宗する人が増えた結果、初級魔法でさえ使えなくなってきた。魔法が使えるかどうかは、疫病対策や西リーベルとの戦局に左右する。そこは確認しないといけない。アンリ様が言うには、戦術的には、川が防衛線になるから川より北で魔法が使えれば良いらしい。実験の結果、分かった事は、祠や教会の敷地内であれば二段階落ちの魔法が安定して放てる。そして、図らずも森の中でも安定している事が分った。きっと、平野部よりも魔力が濃いのだろう。


 二つ目は、西リーベル内陸部……今回分ったのは南西部だけだが……の疫病蔓延の状況の確認と対策法の実践だ。状況については、実情を見聞きしたロイド様がまとめるだろう。 

 対策について分った事は、川船の運搬力を使う事によって南西部はある程度守れると言う事だ。ただし、実際に運ぶと言うか販売するには、外交が必要になる。これは北西海岸条約全体で考えるんだろうな。


 最後の三つ目が、もっとも大切な実験だ。

 実はエレノア様が絡んでいる。白い島から、ナオネントまで魔法水が跳ばせるかどうかだ。エレノア様が私を湿地まで送ってくれたのは、実はこれが一番の理由だ。湿地の巫女が玉を管理するからプライモルディアでも魔法水の量産が出来る様になった。セルトーニュへの魔法水の供与はプライモルディアの分担だから、ハルモニア公国向けだけでは無く、セルトーニュ全土へ魔法水を跳ばす事が出来る。ただし、魔法の発動が不安定なら失敗する。どうなるか本当に分らなかった。初日にナオネントの隔離病棟に寄った時、船で運んで来た大樽サイズの魔法陣を設置して来た。教会や祠であれば安定するなら、多分大丈夫だろう。

 帰路につく今日にも結果が分る事になる。




 最終日は、ナオネント公もやって来た。多分、傭兵の事を内々で話に来たのだろう。挨拶をした後は、ロイド様と一緒にどこかへ行ってしまった。他の神官勢は、皆川岸で患者を診ていたので、どうなったかは分からない。知らない方が良いのだろう。

 幸いな事に患者の経過は良好だ。ナオネントは元々魔法水の供与を受けている。今後も沐浴を続けると、体力の回復と共に完治するはずだ。


「ジャンヌ司教。この度は、色々と勉強になった。本当に有難う」


 帰り際、髭のお貴族様に言われた。三人の貴族は、ナオネント公の計らいにより特別に馬車で来た家族と従者全員が越境出来た。その代わり、教会でロイド様の疫病対策講座を受けて貰った。今はまだ春だが、これから夏に向かって感染が広がる恐れもある。なんとしても川で食い止めて貰いたいものだ。


「こちらこそ、色々な事を教えていただきました。ありがとうございました」


 髭のお貴族様には、ナオネントの周辺情勢と言うものを教わった。何でも、西リーベル南西部には辺境伯を名乗る大貴族がいるらしい。その方の軍事面での役目は、西リーベルの西隣の国を占めている異教徒……別の一神教らしい……への備えが主なもので、東部方面には全く関心が無いそうだ。その分、セルトーニュやゲルマニア公国の動向を注視していて、王都を扼する様な動きがあったら即座に軍を発出する可能性があるそうな。逆に言えば、王都と西部が落ち着いていれば大人しくしてる。無論、私には全然関係無い話だ。しかし、私の隣にいたのは、ハリス様とシアーニャだった。得た情報は、きっと白い島の役に立つはずだ。


「ジャンヌ司教様、わざわざこの地までお越し下さり、本当に有難うございました。今回の経験を活かし、アンリ様の提唱する大同団結にわずかばかりでも寄与するために、次回の会議には領内の者を派遣しようと思います」


 セルトリアまで来たお貴族様だ。

 この人がセルトリアにまで来なければ。今回の話は無かった。始めの内は、その仰々しい物言いに、魔法水で稼ごうと思っている輩だとばかり思っていたがそうでは無かった。一回断った後、アンリ様の所に行った。そこで、アンリ様に熱意を認められた。アンリ様は、地形を含めた色々な事を聞いて、今回の三つの実験を思い付いた。私とは大分違う。まだまだ遠く及ばない。

 ロイド様も、このお貴族様の真摯な姿勢が気に入った様だ。ある方向を見て、あれを差し上げます、と言った。カドガン様が持たせてくれた予備用のコウモリの感染防止服が何着か入った箱だ。わざわざ残してあったのだから、渡す積りだったのだろう。


「よろしいのですか?」

「その代わり、蔓延防止にご協力下さい。今後、感染者が出た場合、あの黒い感染防止服を着用する様にご指導願います」

「有難うございます。お心づくしに感謝します」


 ハルモニアの川船に乗って帰路につく。ナオネント公と護衛の騎士も同乗する。お貴族様三人とお大尽達、地元の両方の教会神官に見送られて出発した。

 遠ざかる人影をいつまでも見ていると、大分離れた後で小船が出航した。拡大出来るサイトがかけられなくて残念だ。きっと、ヘンリー一行を見る事が出来たからだ。




 結論から言って、三つ目の実験は成功した。丸三日で、隔離施設に設置した大樽三から四分の一程度の魔法水を跳ばす事に成功した。大型水槽を作り、幾つもの魔法陣を同時に発動させれば、もっと跳ばせるだろう。これで、ナオネントの各地教会へ時間を掛けずに魔法水を供与する事が出来る様になった。セルトーニュでは白い島から最も遠い場所の一つだったから一安心だ。ただ、ナオネント公国は愚かセルトーニュ全体でもテレポート使いはいないかも知れない。値の張る魔法陣をプライモルディアから購入する事になるから普段使いは出来ないだろうが、緊急時には役立つはずだ。


 今回は個人的にも良い勉強になった。実際に現地での蔓延防止策を見る事が出来た。そして、新しい発見があった。地形で広い範囲の疫病の蔓延防止を図る事が可能だと言う事だ。頭ではなんとなく理解出来ていたのだが、実際にこの目で見る事が出来た。山地や川を防衛線にする。発想が戦術と同じだ。以前、パウルさんから聞いた事がある。技術と言うものは、戦争期間中が最も進歩する。医療手法と殺戮手法だ。一方は命を救い、一方は命を奪う。皮肉な話だ。そして、共に人間の体に詳しくなければならない。出発点自体は同じで目的と手法が異なるだけだとすると、要は為政者次第なのだろう。そして、同種族同士で殺し合っているのは人間だけだ。もしかしたら、だから人間は技術が進歩しているのかも知れない。


 そして、一つの疑問がある。ナオネント公やセルトーニュ国王は、夏になって問題の疫病の感染が拡大した時に、西リーベル南西部に魔法水を供与するのかどうかだ。尤も、送り届ける必要は無い。今回の様に、三人のお貴族様が患者を連れて来れば良いからだ。無論、外交上の取引に使われるだろう。条件は相互不可侵が基本だろう。以前ヴィルが言っていた、政治を疫病対策に利用する方向へ進めば良いと思う。疫病対策に地形を利用した戦術が有効なのであれば、外交を利用する事も有効なはずだ。その時は、疫病対策を政治に利用する様な、非人間的な事にだけはなって欲しく無いな。



一七五の会経営規模(現金宝石等、個人資産を除く)


 ・店舗:本店(セルトリア王国中の原)、二号店(レグネンテス東部セルトリア国境付近の村)、

 三号店(セルトリア王都)、四号店(平坦地)、仮店舗プライモルディア

・自由通行権及び自由商業権:メディオランド、レグネンテス、フィニス、ノーザン・グラム、プライモルディア、エングリオ、ゲルマニウム公国、セルトーニュ一部地域

・特別通行許可証:プライモルディア

 ・畑地:畑地八枚(農場機能を持つ建造物を含む)

 ・家畜:山羊、羊、豚、若干

 ・契約動物:蜜蜂八群


第二十四章 了

第24章終了しました。

ここまで読んで下さり、本当に有難うございました。

そして、章末であることが分かるように投稿・掲載していませんでした。

通常まとめて予約投稿しておき、前日に一七五の会の経営規模やあとがきを追加しているのですが、すっかり忘れておりました。ラストである事が分らないとまだ続きがあるのかと思いますよね。修正し、お詫び申し上げます。


また、そういったバタバタの作品にも関わらず、ブックマーク登録・維持、評価、いいね、そして主誤字修正の報告を頂きました。本当にありがとうございました。


それとご報告を。

感想欲しさに、「ネトコン感想11」のタグをつけていたのですが、第一次選考を通過したようです。本作を選んで下さった審査担当の方には感謝しかありません。ありがとうございました。


では、今後の投稿予定を。このところ湿地シリーズとでも言う状況が続きますが、実は次章でも続きます。金曜日に閑話を一題、週末明けの月曜日に第一話投稿開始からのペースは変わりません。どうか、よろしくお願いします。お気に召しましたら、ブックマーク登録、評価、いいねをお願いします。また、感想も是非お寄せください。

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