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清貧に生きる野良神官は魔物退治をしながらお金を稼ぐ夢を見る  作者: 兎野羽地郎
第五部 第二十四章

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第九話 湿地のカエル集め

 私は、エオウィン様の要請により、滞在を延長して次の満月までカエル集めの手伝いをする事になった。センス・ライビングの使い手が希少である以上、そしてその大半が教会神官である以上何日も続けて稼働出来ないからだ。魔物退治班に編成されているのであれば問題はなかったのだろうが、そうでは無かった。幸いなことに、ヘンリー一行が迎えに来てくれるらしいので、国王様の許可を取って稼がせて貰う事にした。カエルはDランクなので一匹銀貨十枚なのだが、一緒になってカエル集めをする方々が皆エオウィン様配下の兵士ばっかりなので、報酬は私が独り占め出来る。要は、冬眠しているのを見つけ出して、掘り起こして凍らせて氷室に運ぶだけだ。生死は問わない。どうせ氷漬けにするからだ。獲らぬカエルの皮算用では、一日頑張れば五、六匹は見つかりそうなので、一日で銀貨五十枚。二十日間頑張るとして銀貨千枚、つまり金貨五十枚になる。エオウィン様や魔族幹部との大激闘を制した超上級魔法使いがご一緒してくれるし、なかなか良い仕事だ。休日は、アイラやサクスブルグと一緒にグラム地区の隔離施設なんかを訪問出来るみたいだし、お受けする事にした。




 カエルは、ヘビやナメクジと違って、一匹一匹が個別に穴を掘って冬眠するらしい。なので、一か所見つけたらいっぺんに捕まえられると言う事は無い。お椀の底にワームの魔法陣を描いて寒くならない様にしつつ、お椀の縁から手を出して、いそうな場所を探知した。


「ジャンヌ様は、魔王討伐部隊にも参加されたらしいですね」


 超上級魔法使いが話しかけてきた。ノーザン・グラムの人は、国王様、王妃様、アイラとサクスブルグを除いて皆がジャンヌ様と呼んで来る。エオウィン様の病気が猛威を振るっているせいだ。


「はい。支援です。大勢いましたから、どこまで力になったのかは分かりませんが」


 ご謙遜を、とエオウィン様が突っ込んでくる。


「私も参加しました。力が及ばなかったせいで酷い戦いでした」


 確か、二層の魔族幹部との大激闘で大きな損害を出したはずだ。生き残っても大怪我をした者もいたから半数程度のメンバーで受勲していた。


「しかし、魔王討伐後の受勲の場で、ジャンヌ司教様のお仲間であるメアリー殿の呼びかけにより、群衆に国名のコールを受けました。私は当時はグラムに仕えておりました。他国を含む仲間二人と応援に駆けつけてくれた牽制や支援の半数を喪い、勲章など受ける資格は無いのでは、と悔やんでいたのですが、あのコールに救われました」

「困難に挑んだ事が賞賛に値するのでは無いでしょうか。それに、暗闇の中と言う極めて困難な状況の中で二層の魔族幹部を見事討ち果たしましたよね?」


 ぽかんと口を開けた。私が知っているとは思わなかった様だ。私は二層の魔族幹部を送った事もあって、終盤に戦闘に参加したメディオランドの牽制から経緯を詳しく聞いていた。


「あのコールを思いついたメアリーは、魔王を見事討ち果たした英雄達だけではなく、魔王の復活以来、魔王を始めとする魔王軍との戦いに参加した者全てが群衆のコールを受けるに値する、と言っていましたよ。貴方は国の代表として戦ったのですから、国を代表して勲章を受ける資格があったはずです」


 そう言う娘なのだ。メアリーは。争いごとが嫌いな平和主義者だが、こと何かを護るとなれば果敢に戦う事が出来る娘だ。


「有難うございます。ジャンヌ様。私は旧グラムの騎士として、名跡を継がれるエオウィン様の配下ではありますが、ジャンヌ司教様とメアリー殿、ひいては一七五の会に何かあった時は、出来るだけのご助力をしようと思っております。どうか、ご承知おき下さい」


 エオウィン様が力強く頷いている。まさかエオウィン様の病気が他人に感染するとは思わなかったな。こっそりとアンチ・セプシスを放っておいた方が良いかも知れない。




 エオウィン病の感染者は、超上級魔法使いだけあって、一人で何役もこなしてくれた。エオウィン様の命を受け、湿地の探索を続けていたせいもあって、カエルが冬眠していそうな場所を探すのが上手だった。カエルは、実はそれほど深く潜るわけでは無い。意外と浅い場所にいるそうだ。ナメクジなんかと違って山まで行く必要は無く、広大な湿地の中に一杯いた。干潟が広がる様な河口近くは兎も角も、少し河口から離れた中州にいた。大体は木が生えている様な少し盛り上がった場所だ。


 上空からセンス・ライビングをかけながらお椀で上空を飛ぶと、半時間もしない内に一匹見つかったそうだ。クランプ・サンドで穴を掘り、見つけ次第頭をアイス・キューブで凍らせる。ナメクジの様に一々頭を石鹸水で洗わないから簡単だっただろう。暫し休憩した後、解除してスリープで熟睡させる。手足にロープを掛けてお椀に吊るし、北岸の砦の傍に作った氷室に運び込む。氷室はカエルが入る大きさの穴を掘ってあるので、その穴に放り込んで蓋をして土を被せる。そのまま使う時まで冬眠だ。氷室を作ったのも超上級魔法使いだ。はっきり言って、ほとんどの仕事を一人でやっている。午前中に三匹捕まえた。午後からは見つけて眠らせるまでと、氷室に運ぶのとを手分けした結果、倍の六匹確保出来た。素晴らしい成果だ。一日の稼ぎは銀貨九十枚……金貨四枚半だ……になった。流石にこれでは申し訳ないので、晩御飯の時は皆に振る舞う酒代を、砦勤めの人達の分も含めて私が出す事にした。それが金貨二枚半くらいになったから、実質的な稼ぎは金貨二枚だ。エオウィン様は難色を示していたが、本来神官は皆のために働くものだし、稼ぎが良い日は皆に奢るのがセルトリアの屋の習わしだと言って半ば強引に納得して貰った。


 晩御飯の時は、アイラやサクスブルグも来てくれた。私が飲み代を出すと聞くと、エオウィン様と一緒に相談した結果、一番近い村での大宴会になった。そちらの酒代は王家が出すらしい。エオウィン様は村人にとっては領主様だ。その領主様が湿地で漁が出来る様に魔物退治をしてくれているだけでもありがたいのに、宴会を開いて無料で招待してくれた。普段放牧を主体に細々と暮らしている人達にとっては嬉しかった様で村長以下村人がお礼を言いに来た。


 その時に、魔法水を作っている人だと、エオウィン様から修辞に満ち溢れた紹介の言葉を頂いたのはちょっとアレだったが、お陰でその後で村長さんと話をする機会を得た。


 現在エオウィン様の幕僚になっている人達は、皆旧グラムの人達ばかりだ。メディオランドとの戦いに負けて王都が占領された時は、どうなる事かと思っていたらしい。他国に占領された地が酷い目に会うのは、旧セプタンアクウィラ領での大貴族の悪事を知っているだけに十分に想像出来る。エオウィン様はあの件を反省材料にし、しかも自分がグラムの名跡を継ぐことを十分に利用して、旧セプタンアクウィラ王に付き従った者を引き継いで旧グラム領を自分で統治する事にした。積極的に新しい農法を取り入れ、魔法を賦役化した結果、生産量が目に見えて上がった。産業を奨励し交易を盛んにし得た利益で疫病対策や生活困窮者対策に力を入れた結果、今では名君として仰ぎ見られる存在になったらしい。

 勿論、その背景には、ノーザン・グラム王の巧みな外交手腕が大きく反映されている。敵対していたメディオランドやフィニスと強固な同盟を結び、かつモランディーヌへの影響力を増した。東海岸側の連携は瓦解したが、以前よりも白い島での存在感を発揮しており、いずれはグラムとノーザン・グラムは一つにまとまり大きな国になる。エオウィン様には随分と期待しているらしい。




 そのエオウィン様とアイラ、そしてサクスブルグを加えた面々で、黒石や秘本の調査の今後の見通しについて聞かれた。宴会が終わって砦に帰った後だ。別室に四人で集まった。


 無論、沈黙の誓約があるから、口外は出来ない。当事者たる大司教の位にある者が作った正式な報告書を関係者限定で閲覧可能にするだけだ。今の所、報告を見る事が出来るのは、総大司教様、関係した教会の大司教様、関係各国の王都大教会長、そしてそれら女神様の代理人たる上位の神官が認めた者だけだ。通常は、国王とその正当な代理人だけで、例外が西の教会を守護する十人の貴族になる。つまり、アイラやサクスブルグには黒石は兎も角も、秘本について知る立場にない。なので、沈黙の誓約外についてのみの話になった。


(黒石については、五つ全てが見つかったと聞いております。ジャンヌ様の身に何か変化はございましたか?)


 こうやって本気で心配してくれるのは有難い。


(今のところは特に)

(それはようございました。では今後の調査如何といった所ですね)

(はい。今まで見つかった秘本の場所から推察するに、エングリオ王都付近と旧滅びの町での調査が必要になるかと思います)

(左様ですか。エングリオのセルディック王も帰国した様ですし、いよいよ大詰めですね)

(そう思います。ただ……)

(何か、ございましたか?)

(詳しくは申せませんが、私達人間は、もしかしたら何か勘違いをしているかも知れません)

(勘違い?)

(はい)




 レグネンテス東部白銀鉱山跡の祭壇に保管されていた秘本の調査の結果幾つかの事が新しく分かったのだが、その中で最も曖昧だったのは、やはり魔族についてだった。

 元々、今現在……もっとも、三千年前から秘本に書かれているのだから人間的な感覚で言うとかなり大昔からの事なのだが……の性質についてのみ記録されていて、どの様にして生まれたのかは全く分からなかった。ただ、死んで復活する旨の記載があったのは上級魔族のみだった。


「私としては、魔族と人間が同列に扱われている事に大変驚きました」


 最後の調査が終了した時のプライス様の感想だ。

 確かにその通りだろう。少なくとも魔物退治屋になるまでは、魔王と女神様は敵対する者で相対する存在だと思っていた。何となく女神様の方が上かなあとも思っていた。人間の伝承では、女神様を含む多数の神様の末裔に当たる何人かが人間の祖であるとされている。女神様と魔族は遥かな昔から対立していた存在で、仇同士だ。つまり、魔王は人間よりも格上だ。事実教義書には、戦神は女神様から魔物を倒すために白銀の剣を貰い、人間と共に魔族を討伐したとされている。教会も魔族を明確に敵と見なしており、私も含め皆そう思っていた。そう言った考え方に疑問を感じたのは、精霊達や魔王と話をしてからだ。精霊達や魔王は女神の存在を肯定しなかった。そして、獣人に伝わる伝承では、獣人の祖と人間の祖は同じになる。秘本では魔王と人間が、個の実力の差こそあれ同格だ。女神様が人間よりも格上なのは明らかだから、魔王は女神様の格下になる。


「ジャンヌ、貴方はどう思いました?」


 何故か私に聞いてくる。私的にはただただ驚きだ。


「何と言えば良いのか分かりませんが、精霊達や魔王は女神様の存在を認めていないような発言をしていました。そして、人間にも、大陸の方々は女神様以外の神様を崇めています」


 どちらかと言えば、白い島とセルトーニュ以外は皆そうかも知れない。


「つまり、女神様の存在は、普遍的な存在では無いと?」

「少なくとも、その様に解釈している方々がいらっしゃる事は事実です。後は信じるか信じないか、つまり信仰心では無いかと」


 無難な回答だと思う。他人の言い分を否定する根拠は無いのだ。


「私もそう思います。少なくとも、我々の様に魔法を使う人間が現実に女神様を信仰する者の内にのみ存在するのが、その証拠だと思います」


 プライス様も同意を示してくれた。ただ、それだけでは説明できない者がいる。女神様の存在を肯定していない魔族や精霊達だ。女神様への信仰心は皆無なのに魔法を使う。


「同じではないでしょうか。崇拝の対象を我々は女神様と呼び、彼らは別の概念で呼ぶ。同じ様にこの島で産まれ育った者達ですが、伝承や考え方が違っていても可笑しくはありません。我々人間だけの伝承や解釈が正しいとはかぎりませんよね?」


 プライス様はプライス様で結論を導き出していた。何が正しくて何が間違っているか、そういう発想自体が違うのかも知れない。

 私達は魔王が復活しない様に封印する手段を探しているのだが、見つかる物はそういった物では無いかも知れない。




(私達は、人間の伝承に基づいて今後の調査結果に何らかの期待を抱いているだけかも知れません。そして、その期待が正しいものとは限らないと思います)


 聞く人が聞けば背教者認定されても仕方が無い発言だ。人間の伝承とはつまり教義書の事だからだ。言って失敗したと思った。


(勿論、今私が言った事は、野良……教会無所属神官である私個人の考え方です。教会の公式見解とは異なりますので、ご注意下さい)


 エオウィン様は、私の目をじっと見つめてきた。


(ジャンヌ様、我々三人は、ジャンヌ様に未来を授かりました。近々、公式に発表になると思いますが、アイラが懐妊の兆候を見せ、サクスブルグがヘクサム公と改めて正式に婚約します。その全てにジャンヌ様のお力添えがありました)


 それは凄い!

 二人を見ると、揃って赤い顔をして俯いている。おめでとう、と声を掛けると、小さい声で、有難う、と返してくれた。


(ジャンヌ様は、様々な種族と誼を通じ、彼らの言葉に耳を傾けておられる。我が国もアイラとサクスブルグを中心にジャンヌ様の様にあろうと努めております。そして、種族による考え方の違いに戸惑う事も良くあります。ましてや、ジャンヌ様ともなれば、その様な事は数多くあるでしょう。しかし、ジャンヌ様であれば、正しい答えを見つけて下さるものと信じております。ジャンヌ様、今後、ジャンヌ様がどの様なお考えを持たれたとしても、我ら、そして我が国はジャンヌ様を支持する事をお忘れなきよう) 


 赤い顔で俯いていた二人が、揃って力強く頷いた。


 なるほどね。精霊や魔物と一緒に住むようになって色々な事を経験している様だ。ましてや精霊の力を重んじる国の王族だ。悩みも多いのだろう。カエル集めに誘われたのは、この話をするためだったのかも知れないなあ。

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