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清貧に生きる野良神官は魔物退治をしながらお金を稼ぐ夢を見る  作者: 兎野羽地郎
第五部 第二十四章

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第七話 第九回会合 

 ナメクジとヘビはどの様な関係にあるのか?


 エレノア様の仮説は、ナメクジのヌメヌメにはヘビを麻痺させる物質が含まれているのではないか? との事だ。


 十月の秘本調査で、ナメクジとヘビの項目を見ているのだが、その様な記載は無かった。無敵に思えたナメクジが石鹸水に弱い事や魔法陣に集まる事も書いていなかった。無論、エレノアの鎧の秘密……ヌメヌメを塗ったくったら魔法防御が非常に高い鎧兜や楯が出来る……についても書いていなかった。秘本を書いているのは門番のドワーフだ。もしかしたら、人間が発見した事は書いていないのかも知れない。


 アレックスに、十月の北東の森の回復作戦が終わった後で聞いて見た。打ち上げの宴会の場だ。アレックス……つまり、門番にも立場があるだろうから、中の原湖やお山の事で内緒話がしたいとだけ聞いた。察してくれたアレックスが、周囲に目配せした後でミュートを掛けてくれたので、具体的な話が出来た。


「簡単だな。書いている奴が自分の目で確認してねえからさ。例えば、俺っちは中の原湖の地下に保管されている秘本の門番だ。だから、俺が自分で見知った事は書ける。そうじゃねえ事は書けねえ。他人にその内容は教えねえし、門番同士の情報交換なんかしねえ。それと、書く内容は大体契約に沿って書いている。つまり、契約外の事柄については書かねえ」


 なるほど。それはその通りだ。年代記も、細かな国名とか人名については書かれていない。島の人間の歴史の概略だ。調査した時と今とでは概ね変化が無いから、追加記載はされていないらしい。


「ただな、ジャンヌが今調査している秘本の記録者に、自分が体験した事を語ってもいいんだぜ。書いている奴が自分で確認して間違いないと思ったら、追加記載するかもな」

「分った。来月行った時に門番と話してみる」

「そうしろ。書いている奴も追加する必要があると思えば書くだろうさ」


 ナメクジは兎も角も、人型四種が呪術によって産み出された事は伝えるだけ伝えておこう。攻略されていない魔境はまだまだある。記録者がその気になったら確認出来るだろう。




 アレックスに聞いた事を、十一月の調査の後……レグネンテスの秘本の最後の調査になった……、プライス様にも相談した上で門番に言ってみた。


「聞いた事はあるぜ。人型の魔物が呪法によって産み出された可能性があるってな」

「じゃあ、秘本に追加記載して貰えませんか?」

「出来ねえ。俺がこの目で見てねえからだ。曖昧なままじゃ、書けねえ」


 やっぱり、そうか。


「それにだ、もし呪法で魔物が作れるなんて書いてみろ。読んで真似する馬鹿が出て来るかも知れんだろ。そんな事はあっちゃならねえ事だ。書かねえほうが良い事だってあらあな」


 なるほどね。真実を探求するのが好きなドワーフにしては淡泊だと思ったが、意外にわざと調べない事があるのかも知れないな。




 北東の森の回復が終わったら、再度フィニスに行く。疫病対策の会合だ。

 今回は、会合の後にノーザン・グラムの湿地で実施されたナメクジの実験を確認したいとの事で、ヘンリー一行が加わった。お陰で船に乗らずに済んだ。一方で、メアリーはいつもキチンと船に乗っている。しかも、正使のマグダレナ様や副使のミアーナと違って交易船だ。船に乗る時にお見送りを受け、降りる時に歓迎される。その瞬間が好きらしい。船長にお酒を、船員に干し肉を、それぞれ差し入れるのも欠かさないから、頗る評判が良いらしい。しょっちゅう、あちこちに行っているのに、いつも待たずに船に乗れる。事前に予定を伝えていて、船の方が都合を合わせてくれると言っていた。ここまで来ると、何か政治的な力でも持ってるみたいだ。


 そのメアリーは、今回プライモルディアから来る船に乗って、シアーニャと共にフィニスの港町に到着している。グウィン様の奥方様がアイラの跡を継いで経営している店舗で合流出来た。


「お疲れ様、シアーニャ、メアリー。ヨーグ様との取引は上手く行った?」

「お疲れ様。ヨーグ様って良い方ね」


 今回が初荷だ。ヨーグ様は、自ら船に乗って荷を運んで来たらしい。一七五の会では、どの店でもパンを焼いたりお菓子を作ったりして販売している。二号店ではメアリーの弟子がやっている。セルトーニュ王国やゲルマニア公国で食べたお菓子のレシピが知りたいと、ヨーグ様に言っておいた。そしたらお土産と称して色々なお菓子のレシピをくれたので、そのままミアーナに転送したそうだ。さぞや喜ばれるだろう。返礼として渡したのが、フィニスのお酒。それと、シアーニャが持って来た海岸の精霊が飼育している二枚貝の干物。メアリーがレグネンテスの干し肉だ。つまり、お土産と称したお酒とつまみにする干物の商品サンプルだ。なかなかうまい事をやる。

 ヨーグ様はいたく気に入ったらしく、早速乗って来た船の船員と一緒に酒盛りをしていたらしい。きっと、これからも買ってくれるだろう。


「何て言ったらいいのかしら。男性としては頼りない感じに見えるけど、芯の強い方ね。結婚される方は、きっとお幸せになれると思うわ」


 これはもう、絶賛と言って良いだろう。もしかして、気になるのか? 三男坊とは言え、相手の実家は王族との繋がりを持つ大貴族だ。しかもセルトリア王家との繋がりもある。マグダレナ様の顧問になるのを要請されている身としては、申し分ない相手だろう。


「うーん、良い方だけど、私の好みとは違うかなあ。私は、そうね、支えてくれる方がいいかも。ほら、私は普段あちこち行っているでしょ。そういう忙しい私を陰ながら見守ってくれているっていうの?」


 あっそ。ま、好きにすればいいさ。




 そのメアリーが運んで来たセルトーニュ産の薬草は、会合で皆の拍手を持って迎えられた。ヨーグ様が白い島では採れないものを選りすぐってくれたからだ。それが定期的に入手できるようになる。


(大陸では、標高の高い場所や寒冷地で採れる薬草が不足しているそうです。フィニスとノーザン・グラム、そしてセルトリア中央山脈中腹で採れる見込みがありますので、ご協力をお願い致します)


 メアリーの言葉を受け、フィニスでは巫女様を中心に全土での採集を進める事が、ノーザン・グラムとセルトリアでは、ドライアドとの協力体制の元に採集を進める事が約束された。


 セルトリアからは、私が副所長をやっている医学研究所で実施されている疫病の元を見ながら魔法水の効果を確認する実験の結果、プライモルディアのカドガン様が発表された魔法水の効果が有るとされた幾つかの病気の元が確認出来たとの報告があった。裏が取れたわけだ。併せて、今後、ゲルマニア公国で実施された大同団結会議の結果に基づき、大陸を含めた各国の研究者と共にさらに多くの病気の元を確認する作業を春から開始する予定である事が発表された。


 プライモルディアでは、魔法水の効果検証と同時に薬草学の講座を東リーベルと連携を取って実施する事が発表され、参加者の呼びかけが行われた。そして、湿地の隔離施設に収容していた捕虜の返還が終了し、白い島への疫病の蔓延の可能性はほぼ無い事が報告された。


 ベクティス島から来た筆頭侍女様からは、大陸へ出征していた兵士の全ての沐浴が終了した事。戦争中、港を中心に商人や船員と言った一般人の感染十数名が確認されたが、全て沐浴処理をして完治させた事、プライモルディアの協力を得て、ローランド公国……特に感染が酷かった西部地区を中心に沐浴を行っている事が報告された。


(セルディック王としては、プライモルディアとの国境に設けられた隔離施設と魔法水製造施設を各国の港で増設するべきでは無いか、との事でした。可能でしたら、皆様でご検討下さいますようお願いします)


 完全にセルディック王の使いになっているが、ある意味それも含めて仲間入りさせた。その辺りの効果も出ている。


(エングリオの申し出は十分に分ります。ただ、魔法水を高値で販売する輩が不当に利を得ようとする可能性があると聞いております。いかがでしょうか? ご高名にして清廉とのお噂も名高いベクティス伯様の監視の元に、ベクティス島において魔法水の大量生産を試みては? 船で運搬すれば、多くの港をカバーできるものと思いますが)


 グウィン様の奥方だ。巫女様はアンチ・セプシスの玉なら私が了承した場所なら構わないと言っている。事実、湿地の巫女が二つ管理してる。ただし、ベクティス伯なら信頼出来るが、幽霊を探さないといけない。そうなると、球の作り方がエングリオに漏れるかも知れない。湿地の騎士団は、巫女と共に口外しないことを誓約してくれた。果たして、ベクティス島の幽霊で玉を作る事を巫女様が了承してくれるのだろうか?


(現在、フィニス、ノーザン・グラム、そしてプライモルディア……正確には西の教会の管理地でしたか、三か所で魔法水の大量生産体制が確立しています。いっその事、販売用の巻物の半分をベクティス島に振り向けてはいかがでしょう?)


 なるほどね。そう言う事か。それなら、安心かも知れない。半分と言うのは、本店分だろう。本店で作った巻物は、セルトリア国内用、レグネンテス用、そしてエングリオ用に振り分けている。


 後は、セルトリアで使う分になる。その点については、マグダレナ様から提案があった。


(我が国でも魔法水を大量生産する事を考えております。そこでの生産体制が確立すれば、販売用の巻物をベクティス島向けに振り分けられます。ジャンヌの負担を考えれば、先ほどフィニスからご提案がございました半分程度の生産量で見込みが立つのではないでしょうか?)


 後で聞いたのだが、セルトリア王宮が考えている魔法水生産施設とは、フィオナと出会った砦の事だった。存続が決定したのだが、改修もしなければならない。実は、私があちこち行っている間に、フィニスと相談し、しかもフィリップス様を砦に派遣して砦で暮らす幽霊達とも話がついたらしい。幽霊達は、そう言った形で砦の存続が確定するなら、と協力してくれる事になったそうだ。後は、憑りつく物を用意してフィニスに行き、玉に入るだけだ。今の所、私は年に何回かはフィニスに行く。そのたびに玉造りをやっている。後は私の承認待ちだったらしいが、王立医学研究所の所属施設になる予定だそうで、問題無さそうだ。


 結論として、ベクティス島とセルトリアでの魔法水の大量生産体制の構築について来春の会合までに検討する事になった。


(これで、ジャンヌの内職も大分楽になるのではないですか?)


 確かにマグダレナ様の言う通りだな。作った巻物を、ベクティス島向けを本店か四号店で、レグネンテス向けを二号店でまとめるだけで済むだろう。


 最後は、マグダレナ様とシアーニャからだった。魔法水は風邪やその症状が激しくなるような冬に流行る疫病には効果が無いとされている。その様な患者には薬草の投与を優先する事が啓発された。同時に、セルトリアとプライモルディアで、その様な症状を示す患者の病気の元が見えるかどうかを確認し、もし見えて魔法水で軽減出来るのであれば至急報として各国と情報共有する事が発表された。

 因みに、モランディーヌ向けは、ノーザン・グラムから提供を受けているので問題無い。上手く運べば、白い島の各国である程度の量を確保出来る見込みが立つ。




 無事に閉会となり、その後は休憩方々女子会になる。飲み物と共にミアーナの新作が皆に配られた。最近はセルトーニュのお菓子を模倣したのを作っているから甘々だ。女性しかいないのでべた褒めだ。ミアーナも鼻高々だ。


 女子会の主な話題は、アイラから提供されたナメクジとヘビにまつわる実験についてだった。エオウィン様からの言伝だ。サクスブルグとミアーナが露骨に嫌そうな顔をしている。もう少し頑張っても良いと思うぞ。


 アイラによると、エオウィン様は早々に実験を開始してくれた。上手く行けばナメクジが二つ頭を退治してくれるかも知れない。年内に目途が立てば、来春早々の本格稼働が可能になる。


(現時点で分かった事は、ナメクジよりもカエルの方が、ヘビの食いつきが良いと言う事です。そして、カエルはナメクジを好んで食べる様です)


 アイラから奇妙な報告が上がって来た。

 ナメクジは無敵では無いらしい。そして、ナメクジとヘビでは無くて、カエルとの関係性についての話になっている。


 ノーザン・グラムの湿地にもナメクジはいる。テレポートか何かの魔法陣を描いて集めておけば勝手に二つ頭が寄って来てナメクジに狩られると思っていたのだが、そう甘くはない様だ。カエルが集まって来てナメクジを食べてしまえば、二つ頭の餌になってしまう。二つ頭が集まった時点で攻撃すれば良いのだが、数が多いと大変だ。


 手順とすれば、ナメクジを集める前にカエルを集め、二つ頭が集まった所にナメクジを大量投下する……。


 正直、かなり無理があるな。


 二つ頭はカエルを食べて満足すればナメクジに手を出すまい。それに、湿地でナメクジを増やすためには、カエルから守らなければいけない。それはそれで、さぞや大変だろう。それに、ナメクジを大量飼育すれば、カエルが増える。そうなるとカエルを食べる二つ頭が成長して大きくなる。まずは、カエルを減らさないといけないのか。堂々巡りの様になってしまった。いっその事、タコ用の眠り薬を池に流した方が早そうだな。


 結局、実際を見て確認しようと言う事になった。参加するのはヘンリー一行と私だ。他の人達は、ヘビとナメクジとカエルには関わりたくないのか、エレノア様が誘っても皆目を背けてしまった。


「普通、そうだと思うわ」


 会合の後でメアリーが言った事が、女子にとっての真実なのだろうな。

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