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清貧に生きる野良神官は魔物退治をしながらお金を稼ぐ夢を見る  作者: 兎野羽地郎
第五部 第二十四章

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第六話 エングリオ王都東部の魔境④

 陽が十分高くなった時点で出発する。明け方まで見張りについていたベアトリクスとカーラは、私とアナベラがそれぞれに放ったアウェイクで起こしたせいでややご機嫌斜めだが、仕事だ。止むを得ないだろう。


 ナメクジを降ろしたのは、湿地からそう遠く無く、かつ小川の傍だ。そして、森には魔王軍とも言えるオーク達がいる。基本的に関係が無いはずだから離れた場所にする。ノーザン・グラムへは、ムカデやゲジゲジは兎も角も、カエルが必要だ。水辺の傍だと予想した。なので、十五か所でも、まあまあ分散出来たと思う。


 実際に荒れ地上空へ行くと、効果は上々でナメクジが集まっている場所が一か所あった。もっと放したのだが、どこかへ行ってしまったのか姿が見えない。

 ナメクジがいる場所は、草っ原の真ん中で小川に囲まれている。中州の様なものだ。暫し、三か所の上空を旋回して様子を見、一旦高度を上げる。


「攻撃を開始します。魔族の反撃に気を付けて下さい。


 上空班は、雷の魔法が届かないくらいの上空にいる。太陽の中だ。まず、反撃を食う事は無いだろう。こちらもまあまあの距離を取っている。見逃さない様にして反撃しないといけない。


「コキュートス!」


 エレノア様だ。今回のお椀は工夫を凝らし、底に大きな穴が空いている。お椀の下にライトの壁を貼り付けた。上級と言え翼を持っていない。攻撃は下から来ると予想した。なので、反撃出来る様にした。穴に落ちてはいけないので、皆前後に分かれて乗った。

 巨大な氷柱が五本完成し、地面に向けて一気に加速する。飛んで行くのは、原っぱだ。

 元々の氷柱自体が大きい。それが上から下へ向けて発射されるのだ。魔法陣は、まず無事では済まないだろう。


 エレノア様が、放った方向に差し出した両手を動かすと、氷柱の飛ぶ方向が変わった。向かう先には何も無い。ただの地面だ。ナメクジも居ない。


 ところがだ。円弧を描いて飛んで行く氷柱が地面に刺さる前に防がれた。空中で止まり、氷の塊が出来上がった。きっと、ウインド・バリアだ。やはり、魔族がいた。


「コキュートス!」


 再度放つ。

 今度はナメクジを無視して、一直線に何も無い地面に向かって飛んで行く。

 氷に覆われたウインド・バリアが移動して、またもや防がれた。


「コキュートス!」


 三連発だ。慌ててライトの壁を解除し、エレノア様に向けて、ハンド・オーバーをかけた。




 エレノア様が四度目の魔法を放とうとした時、上空班の放った丸太ホーリーが少し離れた所にある灌木に向かって放たれた。


「ジャンヌ!」

「はい。ホーリー!」


 穴から錫杖を突き出して、八斉射を放つ。落ちない様にベアトリクスが支えてくれる。それを見たカーラとアナベラも腰を持ってくれた。

 魔族が楯にするためにウインド・バリアを凍らせた氷が、支えを失った様に落下する。解除した。それとも、仕留めたか?




 上空班の放ったクランプ・ウォータで飛ばされた聖水が灌木にぶつかり飛沫を上げる。


「ホーリー!」


 二発目を放つ頃には、ヘンリー様、ヴィルにボニーが白銀の矢を灌木に向けて放ち始めた。


「ホーリー!」


 もう一回八斉射を放つ。

 既に灌木の周辺は、飛ばされた聖水で水びたしだ。


「敵がテレポートを発動しました」


 エレノア様が探知した。逃げられたか。




 瞬間、殺気を感じた。顔を上げると、魔族が矢を放っている三人の背後に立っている。腰の剣の柄に右手を掛けた。左手には、体が半分隠れる様な真っ黒い大きな丸い楯を持っている。ダークで作った楯だ。左目を瞑っている。きっと、上空を見上げるために、一方の目を太陽の光から守ったのだろう。

 素早く察知したヘンリー様が振り向きざまに、右手に持った白銀の矢を突き出した。魔族が剣を抜いて斬り払い、一歩飛び下がる。矢が真っ二つになった。


「ライト!」


 錫杖でお椀の底を叩き、口から魔法を放つ。

 一瞬こちらを見た魔族はライトをまともに浴びた。フェイントに掛った。うめき声を上げ、楯をかざしながら、一歩下がる。右目を閉じて、瞑っていた左目を開ける。

 ヘンリー様が白銀の剣を抜打ちに斬りつけると、半歩下がりながらダークの楯で弾き返してきた。


 魔族がよろめく。ウィルソンさんがお椀を揺らしたのだ。同時に、ベアトリクスがウインド・バリアを魔族の背後に展開する。下がろうとした魔族は、強制的に行動を阻害されて一瞬動きが止まった。

 その瞬間を見逃すヘンリー様では無い。左から剣で斬り掛かる。楯で止められた所を、ヴィルがこれまた白銀の剣で突き刺そうとする。同時にボニーが白銀のナイフを投げつける。


「ライト!」


 八斉射でライトを放つ。

 錫杖の先端から放った光がダークの楯を消すと同時に、ヘンリー様とヴィルが飛び込んで、胸に剣を突き立てた。




 口から真っ黒な血を吐きながら、魔族は崩れ落ちた。まだ息はある様だが、白銀の剣が刺さったままだ。最早、テレポートを使う様な力も残っていないのだろう。両手が下がっているのだが、脱力していて手のひらをお椀の底に押し付けたりはしていない。


「見事だ。まさか、ここに飛び込んで来るとは思わなんだぞ」


 ヘンリー様が賞賛の言葉を掛けながら、二本の剣を抜く。傷口から黒い血が溢れ出した。

 魔族は口元を少し歪めた。きっと笑ったのだろう。


「儂は、三十数年前に復活した魔王と闘ったセルトリア王国のヘンリーじゃ」

「同じく、エレノアです」


 二人の自己紹介を聞いた魔族の両目が少し大きくなった。


「一つだけ、貴殿に言っておこう。この地を領有する人間の王は、この地を開墾したりはせんそうじゃ。安心して逝けば良い」


 ヘンリー様の言葉を聞いて、魔族はどう思ったのか? ただ、両眼を閉じた。


「カーラ、アナベラ、止めを刺して上げなさい」


 後ろを振り返ると、二人は腰でも抜かしたのか、両足を投げ出す様にして尻持ちをついている。


「座ったままでいいわよ。両手を突き出して、落ち着いて狙ってね。雷とホーリーでいいわ」


 ベアトリクスの言葉に無言でフンフンと頷くと、震える手を突き出し詠唱を終えた。


「いいわよ。放って」

「エ、エナジー・ボルト!」

「ホ、ホーリー!」


 魔法が発動し魔族に当たった瞬間に、ヘンリー様の剣が首を刎ねた。




 お弔いを上げて魔族を送った頃には、上空班が降りて来た。


「お見事でしたな。我らは何も出来ず仕舞いでした。申し訳ない」


 幾らサイトで拡大したと言っても、あんな遠くから狙って動く標的に当てるのは難しいだろう。こちらが剣を繰り出す時に、目の前にホーリーの光が飛んで来たら絶対に反応してしまう。一瞬の遅れが致命的になるのを知っている人達だからこその配慮に違いない。


「いや、即座に魔族を炙り出してくれたが故の、この結果じゃろう。こちらの事だけに集中出来たのも、最後を任せて貰えたからじゃ」


 ヘンリー様の言葉に大いに頷いた。




「しかし、ナメクジを使って魔法陣を探すと仰ってましたが、何故、あのような何も無い場所にあるとお分かりになったので」


 魔法使いの一人が聞いてきた。普通はナメクジが居た場所を狙うだろう。


「簡単です。ナメクジが這った跡がありました。でも、そこでは途中から跡が消えていました。だからカモフラージュの中に入ってしまっていると思ったのです」


 ナメクジに詳しいエレノア様ならではだ。


 実際に見て貰ったのだが良く分からなかったらしい。地面まで降りて指差して他との違いに気付いた。


「これがナメクジの這った跡ですか」


 既に乾燥していて糊がこびりついている様にしか見えない。砂埃を被っているので、ぱっと見では分らない。第一、こんなの普通は絶対に探さない。


「ええ。以前、ハリソン司教にナメクジの倒し方とかを教わった事がありまして」

「ああ、ハリソン司教ですな」


 嘘では無い。這った跡について教えて貰ったとは言っていない。


「ええ。なので、不意打ち的に本命の場所に猛攻を加えたら、魔族も動揺して魔法陣を護るだろうと考えました」


 そうなのだ。魔族が魔法陣を捨てる可能性もあった。壊れても新しいのを作り直せば良いからだ。魔族はノーザン・グラムの湿地の件を全く知らなかったのだろう。対になる出口が生きていると思ったに違いない。ただ、魔族も仲間の一人がやられてしまったのは分っていて、魔法陣を囮に仕返しをしようと待ち構えていたはずだ。一生懸命魔法陣探しをしていたらきっと隙が出来る。そこを狙った方が簡単だ。それなのに、人間には探知できないはずのカモフラージュを見抜いた。魔法陣が破壊されそうになった。動揺して、咄嗟に魔法陣を護ったんじゃなかろうか。そこはエレノア様も賭けだったに違いない。


「いや、お見事でした。流石は魔王を討伐されたお方ですな」

「いえいえ、貴殿らも、そしてセルディック王も、本命として洞窟に挑んで生還なさったのですから、同様ですよ」


 互いに褒め合っている。この辺りの感覚は何となく分かった。




 ともあれ、無事に魔族は倒した。術者が死んだのでカモフラージュも消えて、魔法陣も見える様になった。ナメクジがたかっているのでヌメヌメになっている。炎の魔法で追っ払い、石鹸水で洗うと綺麗になった魔法陣が出てきた。


「ねえ、あっちのナメクジは、何に集まってたのかな?」


 確かにそうだ。魔族がわざわざ魔法陣を描いたとは思えない。おまけに草っぱらだ。集まる理由が分らない。様子を見に行くと、子ヘビの死体が半分骨になっていた。もしゃもしゃと食べている。もしかして、ナメクジが子ヘビを狩ったのか?


「これは、どういう事でしょうか?」


 ナメクジ飼いのエレノア様も分らない様だ。


「ん?」


 ヘンリー様が何かに気付いた様だ。上に避難しろと言うので、上空に舞い上がる。


「あれは、ヘビですね」


 草の陰からナメクジを見ている。


「退治しますかな? どうだ? カーラ、アナベラ、やってみるか?」


 司教様だ。


「え? ヘビってDランクですよね?」


 ビビッているが、Aランクの魔族の止めを二回も刺したんだぞ。


「いえ、少し待って下さい。ナメクジを狙う様ですね」


 恐らくヘビは、私達人間を狙ったに違いない。それが居なくなった。なので、残ったナメクジに狙いを定めた様だ。草むらから頭をもたげてゆっくりと進み始めた。


「少し様子を見ましょう」


 エレノア様の提案に乗り、太陽の中に入って観察する事にした。




「ヘビが動きましたね」


 エレノア様が食いついている。もしかしたら、ヘビも飼いたいのかも知れない。

 ヘビは人間がいなくなって遠慮しなくなった様だ。ズルズルと草むらから出て来て、一直線にナメクジに向かった。


「食べるのかな? 仕返しってわけじゃないわよね?」


 ベアトリクスも一緒になって見ている、隣にはカーラもいる。魔法使いの好奇心はなんにでも発揮されるな。




 ヘビは、そのままナメクジにかぶりついた。が、ヌメっている。流石はナメクジだ。ヘビの長い二本の牙をものともしない。ただ、ヌメヌメと蠢いている。

 ヘビが何度も何度も挑むが牙が立たない。それに飲み込む事も出来ない。


「何やってんの?あれ?」


 同じ様な光景を十回以上も見せられて、魔法使いが焦れてきた。


 その内に、ヘビは疲れたのか、動きが遅くなって来た。もはや噛みつく事も出来ないでいる。鎌首をもたげる力まで失ったのか、ぐったりし始めた。


「まさか、ナメクジはヘビの天敵なのでしょうか?」


 意外な事実だ。ただヌメっているだけでは無かったのか。


 ヘビは完全に動きを止め、口から泡を吐き始めた。赤い目が暗い色に変わる。


「もしかして、毒か何かでしょうか?」


 まさかと思うが、あのヌメヌメか? 色々な役に立つんだな。


 ナメクジ達は、ヌメヌメとヘビの死体に集まると、もしゃもしゃと食べ始めた。


「一度実験する必要がありますね。あのナメクジ……いや、この湿地でもっと採集して、私が持って帰りましょう」


 エレノア様だ。きっと、エレノアの鎧を量産する積りだ。


「い、いや、それは、我が国の王にも確認を取らないと……」

「実験の結果、ヘビ退治に役立つ事が分かったら、必ずセルディック王にお伝えします。そうですね、一七五の会に書簡を持たせましょう。一度、セルディック王に、その旨を伝達して下さいませんか?」


 魔法使いに対して、エレノア様が言い募る。譲らない気だ。


「実験はセルトリアだけで実施なさるお積りか?」


 今まで黙っていたフォルスタッフさんが聞いた。


「いえ、ほとんどがノーザン・グラムでの実施になると思います」

「アンフィスバエナ退治ですかな?」

「はい。元々、そのためにここまで来ておりますので」

「分かりました。では、一旦砦に帰って、セルディック王に伺いましょう」

「有難うございます」


 二つ頭か。そう言えば子ヘビが山ほどいるんだったな。もし、実験に成功すれば、ヘビの類は絶滅できるかも知れないな。それに山ほどのナメクジも手に入るかも知れないし。




 エレノア様の提案は無事にセルディック王に了承された。ノーザン・グラムにも連絡をし、そっちは協力要請になった。

 上手く話がまとまったので、エレノア様がニヤついている。今夜は、沢山のナメクジに取り囲まれる夢でも見るかも知れないな。


 因みに、二体目の魔族に魔法を当てたカーラとアナベラだが、無事に新しい魔法を覚える事が出来た。

 カーラがウインド・バリアとウォーターを覚えて四個使いになった。近いうちに中級魔法使いになれるかも知れない。アナベラは、クリーン・アップを覚えた。きっと、ベアトリクスと同じで、カーラが部屋を散らかしているに違いない。


 私は初級神聖破邪結界のインペタムを覚えた。これで初級結界はコンプリート出来た。そして、ベアトリクスが土の上級魔法サンド・ストームを覚えた。超上級になるかも知れないので、わざわざフィニスに行ったのだが、昇給ならずだった。全部コンプリ―トしながら覚えていくのはベアトリクスらしい。ただ、フィニスからの帰り道に、ノーザン・グラムに寄ってナメクジの話をしてきたので、湿地の実験は進むだろう。

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