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清貧に生きる野良神官は魔物退治をしながらお金を稼ぐ夢を見る  作者: 兎野羽地郎
第一部 第ニ章

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洞窟の防衛戦➂

 オークの群れは魔王軍の一部だった。と言っても本隊からはぐれた部隊だ。


 魔王の復活と共に編成された軍団の一隊として、本隊と共に森の奥から撃って出て人間共の立てこもる砦に攻め込んだ。そこまでは良かったのだが、頑強に抵抗されてしまい攻めあぐんでいる内に敵の援軍が二方向から来た。


 止むを得ず軍を二手に分けて迎え撃ったのだが、相手は距離を保ったまま仕掛けてこない。ならば、と備えを残してもう一押しとばかりに砦を攻めているうちに、いつの間にやら敵援軍に荷馬車を並べた野戦陣地を作られてしまった。

 その結果、三方向からカタパルトによる投石を受けるはめになった。近づけば板を打ち付けた車列に阻まれている間に、降り注ぐ銀の弓矢で撃退された。


 大きな包囲網の中で散々に打ち据えられた挙句、騎馬隊による突撃を受けて崩れに崩れ四分五裂になって森へ逃げ帰った。


 強い魔物が中央部を占拠していたので、そうでもない者達は東西に散った。ある者は東へ、ある者は西へ。そのうちの西へ向かった部隊の生き残りの一つがロビンソンが奪った部隊であり、一つが今回人間達の籠る洞窟に攻め込んだオークの部隊だった。




 オーク達は森の中に縄張りを作り自活していたのだが、ある日新入りのオークがとんでもない情報を持ち込んだ。


 魔物を自在に操る人間が出現して群れを奪われたと言うのだ。最初は全く信じなかった。しかし、繰り返し繰り返し話を聞かされている内に、確認してみようと思うようになった。何匹かの斥候を出したところ、果たして本当だった。


 しかし、その人間はゴブリンの巣からそう遠くへは行かない。幸い自分達の縄張りまでは来る気配が無い。

 要は接触しなければ良いと、遠くから見張りながら自分達の縄張りに居続けることにした。強者を避けて安全に暮らすに越したことは無かった。


 状況が変わったのは、オーガが群れに合流してからだ。オーガは魔法防御に長けている。簡単な攻撃魔法も使えた。


 魔物を操る人間は恐らく何かの魔法を使ったはずだ。その魔法をオーガが防ぐことが出来れば、ゴブリンの巣をも制圧し縄張りを広げることが出来る。クモは厄介だが数で押せばなんとかなる。弱者を征服するのは魔物の本能だ。


 そう考えた結果、生き残りのオークに案内をさせて攻め寄せた。途中、威力偵察よろしく狩りをして食料も手に入れた。




 群れのボスは、自分の眼の前で手下が殺されたのを見て、激昂した。

 ただでさえ人間は武器を持たないのが一人しかいないと思っていたのに、戦士までいた。

 話が違う。幸いなことに人間は数も少なく、そう強くもなさそうだ。そうでなければ、この洞窟まで案内させた生き残りの首を落としてやったところだ。


 しかし、そのオークも今や喉を貫かれて息絶えていた。

 しかもやったのは人間の小娘一人だ。大胆にも崖に空いた穴から身を乗り出してこちらを見ている。さらに一矢を放つ。今度はオーガが一匹、あろうことか放った矢が頭蓋を貫通して倒された。鏃の先が反対側から突き出ている。


 ボスはなんとか平静を保って見せたが、手下どもは驚愕している。

 手下に命令して矢を放たせると、人間は中へ引っ込んで身を隠した。そうしておいて、こちらの様子を見ながら矢を放っては確実に手下を殺していった。


 鏃は銀や白銀ではない。魔法とも思えない。

 まさか新開発の弓で聖水に浸した矢を、上級神聖魔法が使える神官が放っているとは想像もしなかった。理由が分からないにも拘わらず自らの居場所を移動するのは癪に障るが、これ以上の被害を出すわけにはいかない。


 すでに四匹倒されている。手下もその矢の威力に恐怖していて、我先にと洞窟の中に入って行きたがっている。このままではボスとしての信用に関わる。

  魔王軍幹部に直接貰った部隊長の証である飾り付きの兜は伊達ではないことを示さなければならない。 

 ボスはオーガを一匹呼ぶと直接指示を与えた。森の木に隠れながら弓と魔法による攻撃で小娘を殺せと。

  成し遂げた場合は一番の手柄を約束した。




 命令されたオーガは、十匹の弓兵を連れて森の中に入った。

 移動中に一匹のオークが頭を射抜かれて殺されたが、元々囮にするつもりだったので問題なかった。

 囮の弓兵を木の陰に固めて配置し、自らは離れたところで機会を伺った。


 まずは弓兵に矢を放たせる。当たらなくても良い。二、三本ずつ射込んだところで、止めさせた。そうすると人間は穴から様子を伺うだろう。オーガが得意としたのは炎の魔法だ。穴に火球を放り込んでやれば良い。そう思い実行に移したところ、果たして人間は顔を出した。


 丁度タイミングを計って火球を放ったところだった。

 狙いたがわず直撃だ。仕留めた!

 さらに三発連続で火球を放り込むと、穴の中が火の海になるのが見えた。

 狂喜してさっそく自らよじ上って行き、油の詰まった袋を幾つか投げ込んだ。

 洞窟はそう広くはなさそうだ。ならばこの火攻めに耐えられる人間はいない。後は火が消えてから検分すれば良い。


 オーガは早速ボスに報告をした。死体が見つかれば一番の手柄であることを保証された。奪ったものをボスの次に選べる権利を得たのだ。


 オーガは人間達が早く降伏すれば良いのにと思った。

 全部の命を保証することはない。一番良さそうな獲物を選んで、居並ぶ捕虜の前で生きたままかぶりついて食ってやろうと思っていた。

 さぞかし良い声で鳴くだろう。獲物が若い女ならなお良い。そういう意味では、窓から顔を出していた小娘を焼き殺してしまったのは残念だ。




 その頃、遅滞戦闘を繰り広げる衛兵隊は、三つ目の交差路に構えた穴と土塁を楯に奮闘中だった。ここが突破されれば大広間での決戦になる。


 ここに至るまでに十数匹のオーク共を血祭りにあげた。一方、血を流していない味方はいない。ある者は投石を受け、ある者は敵の矢……パウルの風の魔法により速度が大幅に落ちているとはいえ、負傷者を出すには十分な威力があった……が刺さり、至近距離からの投槍を受けた。

 負傷した者は後送されていった。その都度、カトリーヌの回復魔法により怪我を癒されて戦線に復帰してはいたのだが、体力そのものの喪失は回復魔法では補えなかった。


 攻撃としては、直接的な効果がほとんどないとは言え、相手の顔面を狙ったベアトリクスの魔法で牽制しておいて、その隙に矢を放ったり、槍で突いたりする即席のコンビネーションが効果を上げていた。


「ベアトリクス。そろそろ息が上がってきたんじゃないのか。院長先生のところに下がるんだ」


 大柄なベイオウルフは、常にベアトリクスの前で楯を構えて彼女を敵の攻撃から庇っていた。


「もう少しくらいなら大丈夫よ。ちゃんと自分の足で走って逃げる気力くらいは残しておくから、心配しないで」


 土の魔法で石ころを飛ばすと、パウルの魔法の風に乗ってオークの顔面に命中した。オークが激昂したところへ矢が放たれ眉間に命中し絶命する。その死骸の向こうから放たれた矢がベイオウルフの楯に刺さった。新手は次々に繰り出され圧力を加えてくる。


 すでに穴はオークの死骸で埋まっていた。その死骸を踏み越えてきた。

 魔物の身体能力の高さなのだろう。味方の死骸を踏んでもバランスを崩さずに進んで来た。




「そろそろ、矢が尽きるぞ」


 アンガスが大声を上げた。弓兵は矢が無くなれば攻撃力を無くしてしまう。


「もうそろそろだ。もう少し頑張ろう」


 衛兵隊の一人が言った時だ。突然目の前の天井が崩れた。ゴブリンの罠が発動したのだ。


 土塁と同じ高さ……洞窟の高さの三割程度の高さになる土砂により、何匹かのオークが生き埋めになった。幅はオークの身長分程度といったところか。大柄なオーク共はその距離を腹ばいになって進まなければならない。槍を揃えた衛兵隊の前では自殺行為だった。


 案の定オークは一旦後退した。恐らく土砂を取り除いてから攻めて来ることにしたのだろう。おかげで、戦い詰めだった本隊の面々は一息つくことが出来た。


「良し。ここまでだ。後退しよう」


 後退先は大広間である。最終決戦の場だ。




 オーガが焼き殺したと思っているマルセロとエミリーは、自分達が居た部屋の向かいにある崖の上に腹ばいになって下の様子を伺っていた。ロビンソンが使っていたベッドの敷き藁で作った藁人形を囮にして、テレポートで跳んだのだ。


 魔法を放ったオーガが大喜びの態でボスの所へ行ったのを見ると、抜け出したことは気付かれなかったようだ。

 崖の上からは洞窟の入り口がはっきりと見えた。二人は全ての敵が洞窟の中に入って行くのを待つことにした。


 二人が崖の上から見下ろしているうちに、戦局に変化があったようだ。

 洞窟の中から一匹のオークが慌てた様子で出て来たと思ったら、二人が籠っていた二階の部屋を火の海にしたオーガと二匹のオークを残して、ボスを筆頭に洞窟の中に入って行ってしまった。

 戦いは最終段階に入った。


 しばらく待って魔物の洞窟への出入りが無くなったことを確認すると、二人は動き出した。

 まずはエミリーが矢を放つ。一番手柄を楽しみにしていたオーガの意識はここで途絶えた。

 次いでマルセロがテレポートで一匹のオークのすぐ横に瞬間移動し、白銀のナイフでその首を切り裂いた。

 血の噴き出す音を聞き、突然のことに我を失っていたもう一匹のオークが槍を握り直した時、そのこめかみをエミリーの放った矢が射通した。


 一瞬にして崖の上にとって返したマルセロは、エミリーと共に様子を見ていたが変化はなかった。

 どうやら気付かれなかった。後は穴から出て来る魔物を順に始末していくだけだ。

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