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清貧に生きる野良神官は魔物退治をしながらお金を稼ぐ夢を見る  作者: 兎野羽地郎
第一部 第ニ章

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洞窟の防衛戦②

 マルセロとエミリーの二人は、奮闘する衛兵隊の後方を駆け抜けて、二階の見張り場兼ロビンソンの私室に向かって走った。

 松明を持ち二人の前を走る案内の三匹のゴブリンの後を追う。


 マルセロは確かに前の洞窟と同じ構造だと思った。

 前回は攻める側だったが今回は攻められる側だ。たった二日で攻守が逆転するとは想像もしていなかった。

 ロビンソンが、二つの洞窟を同じ構造にした方が慣れている分戦いやすいと言っていたが、実際にマックバーンの作戦立案を容易にした。


 さらに奥に進むと螺旋階段がある。

 二人はゴブリンの後を追いかけて螺旋階段を上った。ゴブリン達はロビンソンによく躾られているらしく、一本の松明を下の通路に置き、残りの二本で良く見えるように階段を照らし、二人が足元を踏み外さないようにしてくれた。


 階段を上り終えると、二人はゴブリンに笑いかけて礼を言った。

 言葉は伝わらないのだろうが、気持ちというものは伝わるのであろう。肩をポンポンと叩いてやると喜んでいた。


 ゴブリン達はそのまま奥に進み狭い通路に潜り込んで姿を消した。今しがた走って来た通路の天井を崩し、二人がいる部屋への進入路を塞ぐためだ。ゴブリン達は天井を崩した後、彼らにしか抜けられない狭い通路を通って大広間へ移動する手はずになっている。


 階段の上は広い部屋になっている。

 床の上に粗末なベッドが置いてあるのに驚いたが、ロビンソンの私室というのであれば当然なのだろう。他にも、水瓶、小さなテーブルの上に置かれた簡単な食器、暖炉まである。部屋には枠組みをやはり石で固めた窓が胸の高さについていた。




 夜が明けるのを待って外を見ると、洞窟の入り口にいるオークの群れが見える。

 一番偉そうな奴がボスだろう。他のオークと違って槍と楯のみならず、鎧兜で武装している。兜にいたっては羽飾り付きだ。ゴブリン達も元は魔王軍の残党だとロビンソンが言っていた。今回攻め込んで来たオークの群れもそうなのだろう。


 ボスと思しき個体の周辺に、幕僚よろしく同じく装備を固めたオークが何匹かいる。

 何故かボスの傍に一匹、追従しているのか媚びているのか、人間が見ても随分とへりくだった態度をとっているオークがいる。武器も持たずなんとなくみすぼらしい。明らかに他のオークと違った。


 反対側の山肌に目を移すと、猟師達が話していた崖が見えた。その上に射手を置かれたら入口が丸見えになるから気をつけろと言っていた。オーク達は気付いていないようでそこには誰もいなかった。


 エミリーが水瓶の水を確かめた後で、塩を振りまき何やら詠唱を始める。

 神官の証である指輪を指にはめたまま水に浸していく。その隣では、マルセロが腰にぶら下げて来た矢筒と背中に回した革袋を床に下ろしている。矢筒には鋼の鏃の矢が十二本入っていた。


 儀式が終了したエミリーが指輪を水中から戻すと、マルセロが革袋を水瓶に突っ込んだ。袋に水を入れて取り出すと、袋に入った水に鏃を浸す。エミリーが成聖した聖水で鏃を清めた破魔の矢の出来上がりだ。それを神官であるエミリーが放つ。効果は銀の鏃に匹敵するだろう。元猟師のエミリーならではだ。


 窓から身を乗り出したエミリーが、やたらに目立つみすぼらしい感じのオークに狙いを定めて矢を放った。

 喉笛を貫かれたオークは、のけぞるように倒れ絶命した。


 ボスと思しきオークは、目の前で自分の手下を殺されるのを見て驚愕し激怒した。

 矢が飛んできた方向を見ると、人間の女が崖の途中に空いている穴から顔を出している。

 いつでも自分を狙えたのに、あえてそうしなかった。そう考えた。


 エミリーにしてみれば魔物に効果がある聖水に浸した鏃も鉄製の鎧冑には通じないと思っただけだが、オークのボスは挑発されたと思った。激昂して叫び声をあげている。いずれにしろ、これで本隊への圧力を軽減する役割は果たした。敵はこちらへも兵を送るだろう。




 大広間のマックバーンは、ウィリアムスのセンス・ライビングとロビンソンを通じたゴブリンの偵察情報とを、羊皮紙に描いた洞窟の簡易地図に書き込んでいる。戦闘が概ね狙い通りに展開していることに満足していた。


 カトリーヌの魔法は強力だが、相手が森の中に分散していては効果に限りがある。かと言って、狭い洞窟の通路でぶっ放したところで一度に倒せる相手はたかが知れている。

 魔法の強大さに敵が怯んで遠巻きに包囲されてしまったら、脱出出来なくなる可能性がある。


 適当な広さの場所……例えば洞窟内の大広間……に敵を集めて、一度に壊滅的なダメージを与えることができれば後顧の憂いなく脱出できる。


 そのためには多少の損害は覚悟の上で、相手を洞窟の奥まで引きずり込まなければならない。それがマックバーンの作戦だった。




 ベイオウルフが一人の兵士を担いで後退してきた。

 担がれている兵士は頭から血を流し意識を失っている。頭を潰されてはいないようなので無事に回復するだろう。流石に脳にまでダメージが与えられると、カトリーヌでも治癒できない。革製の兜が無ければ危なかった。


「どうした?」

「オークの投石です。楯に当てたのですが、勢いを殺しきれませんでした」


 マックバーンは今更ながらにオークの膂力の強さに驚かされた。

 構えた楯で弾き飛ばすどころか逆に楯が弾かれた。

 敏捷なゴブリンが抵抗した時を想定して身軽な装備で来たのが裏目に出てしまった。せめて鋼製の楯であればと今更ながらに後悔した。


「そうか。命に別条が無いようなので良かった。カトリーヌ司教に診て貰え」


 そこへ最初に運ばれてきた兵士がゆっくりと歩いてきた。やや片足を引きずっている。オークと真っ向渡り合って全身血塗れになって担ぎこまれたのだが、治癒の魔法が効いたのだろう。槍と楯は失われ、鎧も裂け目だらけだ。とても見られたものではないが、元気そうだ。


「もう良いのか?」

「はい。流石は英雄の回復魔法です。ちょっと血が足りないかもしれませんが、後送するぐらいなら大丈夫です。負傷者は俺が運びますよ。ベイオウルフは班長に前線の状況をお知らせしろ」

「無理はするなよ」

「ありがとうございます。大丈夫です」


 引きずっていたほうの足の太ももをさすると、ベイオウルフに変わって負傷者を背負い臨時病院まで歩いて行く。ふらついてはいない。任せることにした。


「前線の状況はどうだ?」

「魔法の効果がそがれているようで簡単にはいきませんが、なんとかなっています。パウルさんとベアトリクスの魔法で追い払って距離を取り、アンガスさん達の矢で攻撃しています。衛兵隊は、楯で防御し槍で相手が土塁を登ってこないようにするので精一杯ですね」

「構わん。勝てると思わせながら数を減らしていけ。ここまで引きずり込んだらこちらの勝ちだ」

「はい。では戻ります」


 うん、とマックバーンが頷くと同時に、先ほどの兵士が後送を終えて戻ってきた。


「俺も前線へ行きます。武器はありませんが投石と負傷者の後送ならやれます」

「すまんな。頼む」

「頼まれました! よし、ベイオウルフ。行こうか」

「はい!」


 無理をしているのは分かっているが、負傷者が出るたびに元気なベイオウルフが下がって来るよりは遥かにマシだろう。




 二人して前線に走っていく様を見送ると、マックバーンはウィリアムス神官に敵味方の動きを確認した。


「前線は二番目のポイントから動いていません。それから、まもなく天井を崩しに行ったゴブリンが帰ってきますね。動きが早いので無事でしょう」

「ありがとうございます」


 礼を言い、今度はロビンソンに向き直る。


「ゴブリンが帰ってきたら頼むぞ」


「わかりました。上手くやるように指示を出しましょう」


 頼んだぞと言いながら、地図に目を落とす。


 上手くいけば全ての魔物を後腐れなく一網打尽に出来る。なにせ英雄カトリーヌがいる。後は味方の損害だけ……。

 マックバーンは負けることはないと信じていた。もっとも指揮官が味方の勝利を疑っているようでは勝てる訳がない。後はいかに勝つかだろう。可能な限り被害を少なくし、魔物には絶望と恐怖を与え、生き残りが歯向かってこないようにしなければならない。そう考えていた。

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