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清貧に生きる野良神官は魔物退治をしながらお金を稼ぐ夢を見る  作者: 兎野羽地郎
第一部 第ニ章

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中の原にて

「で、結局、ゴブリンとクモを退治してボスを捕え、アドルフ町長を追い詰めた赤目男とやらを追っ払ったのか」


 契約期間一杯まではクモの調査を継続するアンガスさん達と山小屋で別れると、テレポートの魔法陣を使って一気に中の原に帰ってきた。

 早速ハンスさんに報告だ。


「どうだ。マルセロ商会に支援依頼をして良かっただろう」


 パウルさんが自慢気に胸を反らしている。


「良く生きて帰ってきたな。大したものだ」


 あらっ? これって、もしかして感心されてるの? 私達も大したものじゃない。

 ベアトリクスもにやけている。ベイオウルフもニコニコしている。


「で、報酬なんだがな……」


 パウルさんが揉み手をしながら肝心なことを切り出した。


「ゴブリン退治分は当然として、色々と相手にしてきた分も貰えるもんだと思っとるんだが……」


 思わず身を乗り出す。


「そうだな。ゴブリン退治分が四人の三日分だから銀貨二十四枚。それからクモ退治分が銀貨十枚だ。合計銀貨三十四枚ならネズミ六十八匹分だ。三日の稼ぎにしては上出来じゃないか」


 いちいち、ネズミに換算しなくても良い。いや、そんなことはどうでも良い。

 そこまでは当たり前。肝心なのは次だ。なにせこちらは、一人金貨一枚相当の殊勲を上げている。


「それから?」

「他にもあるだろ?」


 ベアトリクスとパウルさんがせっつく。


「それだけだな。あんたらが退治したのはそれだけなんだろう?」


 退治? 退治…………そう言えば…………。


「なにを言うか。あのアドルフ町長を追い詰めた魔物に致命傷を与えて追っ払たんだぞ! それだけでも十分な価値があるだろう!」

「猟師のあんたが何を言っているんだ。矢が当たったところで獲物に逃げられたら収獲は無しだろうが」

「レヴァナントの時は追っ払っただけで報酬が出たでしょ!」

「あれは、そういう約束だったんだ。普段の魔物退治とはわけが違う」

「ゴブリンを操っておった男も捕まえたんだぞ!」

「それはゴブリン退治の報酬のうちだ。第一人間は魔物じゃない!」


 パウルさんとベアトリクスが散々に噛みついたが、退治していない分の報酬は出せん、とハンスさんに突っぱねられてしまった。


 結局、三日分の報酬は……今回は緊急通報任務ということでベイオウルフにもクモ退治の特別ボーナスが出るらしくマルセロ商会分は四人割だ……一人頭に換算すると、商会へのみかじめ料……もとい、仲介手数料が一割引かれるから、銀貨七枚と銅貨四枚。日割にすると銅貨四十八枚。ネズミ五匹分に満たない。


 食費や宿泊費といった経費は全部払ってくれたとは言え、下手をすれば全滅したかもしれない戦いの割には、随分と安いような…………。


 それでも、今月の私の稼ぎは退治報酬だけでも金貨一枚を超えた。もっとも、そのうちの半分がネズミ退治の報酬だったりするが、ネズミ退治しか報酬が無かった頃に比べれば大いなる成長だ。しかし、月に金貨二枚稼いで一人前扱いされるのだから、まだまだ頑張らなければならない。




 食堂に場所を移して、ぶんむくれる二人を私とマルセロさんで宥めていたら、ハンスさんがやってきた。町役場から伝令が来たようだ。


「そう怒りなさんな。悪いが今から、ベイオウルフを連れてアドルフ町長の所へ行ってくれ。話があるそうだぞ」

「行かいでか!」


 町長に直談判する積りだろう。パウルさんが荒々しく席を立った。




 町長室にはウィリアムス神官と男装に戻ったロビンソンさんがいた。そればかりか、大司教様と院長先生、さらにジェニファー先生までいる。


「聞いたわよ! あなた達、アドルフが殺されそうになった魔物をとっちめたんですってね。流石は私の教え子だわ」


 院長先生が飛びついてきた。ソファではアドルフさんが苦笑いしている。


「一体どうやって追っ払ったの? 先生に教えて」

「ジャンヌがおっぱいから魔法を出して追っ払ったんですよ」


 違うから! いつまで言ってるのよ。いい加減にしてよ。


「そうなのね。ジャンヌは慎ましかったから心配していたのだけど、立派に成長したのね」


 あの、院長先生? それはどういう意味ですか? おっぱいから魔法なんて出せませんよね? 慎ましいとか成長したとか、どこのことを言ってるんですか?


「あら? 出せるわよ。魔法が手からしか出ないなんて誰が言ったの? その気になれば、目から鼻から足からでも出せるわよ」

「えーーーーーーーー!」


 驚愕の事実だ。手を突き出さなくてもいいのなら、奇襲攻撃のバリエーションが増える。


「口からでも出せるのか?」


 早速パウルさんが食いついた。しかも、口から魔法を出す気でいる。


「もちろん出せるわよ。なんなら今ここでやって見せましょうか?」


 院長先生がおもむろに口を開ける。無詠唱にしろ、どうやって発動する気だろう。


「院長先生。もうその辺りでよろしいですわ。ジャンヌが魔法陣を胸に仕込んでいたことは聞いていますわね? 変なことを吹き込んで変な魔法使いが出来上がったらどうするんですか」


 ジェニファー先生が立ち上がって、パンパンと手を叩いた。


「はいはい。あなた達も真に受けてはいけませんよ。口から魔法を出せるのは院長先生くらいですわ。院長先生は魔物に噛みついて、そのまま口から魔法を出して止めを刺すような人ですからね。色々な意味で特別ですから、真似をしてはいけませんよ」


 ドン引きだ。なにを好き好んで魔物に噛みついたのか。お腹が空いていたのだろうか。


「えー! 覚えておけばいつかきっと役に立つわよ」


 魔物に噛みついたことは否定も肯定もしなかった。聞かなかったことにして流したな。


「口から安定して魔法を使えるようになるために何年練習されたのですか?」

「三……いや、四年かな」

「しかも、魔王を倒した後ですわね?」


 つまり魔王を倒せるレベルの人が何年も修行しないと、口からは魔法は出せないのか?


「でも、それじゃあ戦争や事故で手足を無くしてしまった人は一生魔法が使えないじゃない。体のあちこちから使えるようになったほうがいいわよ。別にいちいち魔王を倒さなくってもコツさえ掴めば誰でも出来るわよ。それに口以外の場所ならもっと早く出来るようになるのよ」

「確かにおっしゃるとおりですが、そういった方には必要だから教えて差し上げれば良いのでしょう? 手が使える者に足で手の代わりをさせる方法を教える必要はないですわ。ましてや、わざわざ口から魔法を出すために時間をかけて教える必要はありませんわ」


 確かにジェニファー先生の言うとおりだ。口から魔法を出す方法を覚える四年の間に他のことを学んだ方が良い。魔物に両腕を根元から食いちぎられるようなことがあったら考えよう。


「アドルフさんは出来るの?」

「出来んことはないが不安定だし威力も落ちるな。真面目に練習せんかったせいもあるが、手が使えるうちは手を使ったほうが良いと思うぞ。それと言っておくが口からではないぞ。足だ」


 聞いたベアトリクス本人がびっくりしている。そりゃあ、そうだろう。

 練習したんですね。しかも出来るんですね。


「お前達はやらんでも良い」


 今度はパウルさんだ。一番に食いついた癖に人にやるなと言っている。


「儂がやる。儂の様な年長の者は伸びしろが無いから新しい魔法を覚えることもそうそうない。使い方の工夫だけだ。伸びしろの大きいお前たちは新しい魔法を習得することに力を尽くせばいい」


 なるほど、そういうことか。なんにせよ自分はやりたいのだな。


「院長先生。もしよければ儂に体のあちこちで魔法を使う方法を教えていただけんか。必要ならば授業料もお支払いしよう」


 パウルさんがきっちりと院長先生に向かって頭を下げた。本気らしい。どうも口から魔法を出すということが、パウルさんの琴線に触れてしまったようだ。


「実はそのことで、お前達に話があるんだがな」


 アドルフさんが真面目な顔で私達に言ってきた。




 アドルフさんの話とは、新しく学校を作るということだった。

 明日にでも魔王軍討伐軍の一般徴募兵の大半と傷の癒えた重傷者が帰還する。

 重傷者の中には手や足を失った者もいる。帰還後の生活の支援を考えなければならない。傷病者手当は出るのだが、それだけでは不十分なのは先の戦争経験から分かり切っていた。かと言って手当てを厚くするお金は国にはもう無い。

 そこで、職業訓練を兼ねた学校を作れば良いという案が出た。


 場所は自警団の集会所。基本無料だ。使えない時は町役場か衛兵隊か王国駐屯軍の会議室、場合によっては教会や孤児院の工作所あたりで代用するそうだ。


 週に三回、午前と午後の一回ずつ。

 教える講師は、先の戦争で手足を失ったにもかかわらず、実際に職を得て働いている人達が中心になるらしい。他にも、教会の工作所で働いている神官を始めとする技術職や魔法使いといった、手に職を持った人達も幅広く募集する。

 

 マルセロ商会の上級魔法使い三人にも白羽の矢が立った。上級魔法使いならではの応用力を買われたようだ。

 院長先生は手だけではなく体の色んな所を使った魔法発動のコツを伝授する役割で、身につければ大変役に立つからと選ばれたのだそうだ。


 ちなみに、授業料は身障者の方については無料で、そうでない者……パウルさんのような五体満足にも関わらず口から魔法を出したいような趣味の人は有料だ。


 魔法部門の講師としての報酬は一回銀貨二枚。公費から出る……と言いたいところだが、お金が無いので義援金を募る。

 週に六コマならば銀貨十二枚。月に四十八枚だから公費で出せるのだろうが、一人の生活を皆で支えるという思想が大切だと言っていた。


 素晴らしい考えだ。手足の不自由な人達は生活に難渋している。救済措置としてお金を渡すだけではなく、本人がお金を稼げるのが一番だ。




 でも、私達には関係ないような……。


「それなんだが、こちらのロビンソンだが、暫くの間マルセロ商会で引き受けてくれんか?」


 へっ?


 パウルさんやマルセロさんと顔を見合わせる。ベアトリクスは腕組みをしている。何故そういう話になるのか腑に落ちない。


 住む場所は町役場の官舎がある。収入は……町役場で臨時職員にすればいいのではないか? 厩で馬の世話をさせればいいと思う。以前やっていたのだから問題あるまい。駅逓の馬の世話でも、農家の放牧の手伝いでも良いはずだ。動物を自由に操れるのなら引く手あまただろう。本人もそれを望んでいるはずだ。マルセロ商会では動物は扱っていないので、宝の持ち腐れだ。


「どういうわけですか? 私達では動物の関係の仕事は……」


 マルセロさんが何か言いかけたが、途中で口ごもった。なにか思い当たったようだ。


「ほとぼりが冷めるまでは魔物退治をやってもらうの?」


 ベアトリクスがすかさず言い足した。


「それもあるが、それ以外にもやって貰いたいことがあるんじゃ」


 いつになくアドルフさんの口が重い。


「何をすればいいの? 私達で出来ることならやってあげるわよ」


 ベアトリクスが内容も聞かずに簡単に引き受けた。本当に大丈夫なんだろうか?


「実はな。もう一度ゴブリンの巣に行ってきて欲しいんじゃ」

「はあ?」


 今度こそベアトリクスも首を傾げた。

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