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清貧に生きる野良神官は魔物退治をしながらお金を稼ぐ夢を見る  作者: 兎野羽地郎
第一部 第ニ章

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ロビンソン

 ベアトリクスは、森の中でメイベルさんに介抱されていた。


「勝てたみたいね。どう? 無事におっぱいから魔法出せた?」


 違うわよ! そんなとこから魔法なんか出したら魔物扱いされて神官位剥奪されちゃうでしょ! 

 メイベルさんも変な目で見ないでください。これですよ。これ!


 慌てて魔法陣を書き込んだ板二枚を服の中から取り出す。

 魔法陣を書き込んだ側が真っ黒けになっている。幸いなことに街道クッキーの焼き印は無事だ。


 ちなみに、一枚は私のものだが、もう一枚はマルセロさんのだ。パウルさんのにはピュリフィケイションの魔法陣が書き込まれていて、手に持って発動させる予定だった。


「なるほどね。魔法って服を通過して発動するんだね。それに魔法陣って、相手に向けて突き出さなきゃいけないって思ってたけどそうでもないんだ」

「神聖魔法だけだと思いますよ。他の魔法だと発動対象が服になっちゃいますからね。炎の魔法なんかだと服が燃えちゃって自分が火だるまになるだろうし。神聖魔法でも、厚着したり鎧の中に仕込んでいたりしたら上手く発動しない場合もあるそうです。ずり落ちても直せないし、激しく動く前衛で戦う方には向いていないかもしれません」

「ああ、だから例の戦闘服を脱いでるんだね」


 例の戦闘服とは緑マーブルのことだろう。私はニッコリ頷いた。




 今更ながらに考えてみると、パウルさんの作戦は良く出来ていた。

 発動対象が魔物や死体に限定したホーリーだからこそ着ている服を通過して効果をあらわした。魔物には神聖魔法は使えないから同じ手が使えない。つまり想定されにくかった。


「へえ。凄いんだ。私も強い魔物に襲われたら使ってみるかな」


 是非是非。お勧めですよ。起死回生の一撃です。


「それは難しいかもね」


 水を差すのは余計なことばかり言う魔法使いだ。


「どうして? 魔法陣や巻物なら神官限定ってわけでもないでしょ?」


 全くもってメイベルさんの言うとおりだ。


「魔法陣は平面でなければいけないの。紙や布に書いた魔法陣を体に巻き付けたら上手く発動しないわ」

「でも、木の板なら大丈夫なんでしょ?」

「木の板なら大丈夫だけど、メイベルさんや私には無理ね」


 それはおかしい。理屈に合わない。


「魔法陣はある程度の大きさが必要なの。私達が胸に仕込んだら変に目立っちゃって相手にバレちゃうでしょ? 角度の調整も難しいし。かといって谷間に挟むわけにもいかない。お腹にしこんだら動きが制限されるしね。この方法は使える人を選ぶのよ」


 そう言えば、この方法を実践する者を選ぶ時に、パウルさんはベアトリクスに相談していた……。


 ポカン、と口を開けていたメイベルさんが、私とベアトリクスの胸元を見比べ、ついで自分の胸元を見た。


「あっ、そうか。そ、そうよね。で、でも凄いわね。ジャンヌは色々な技が使えて」


 あはは、と胡麻化すように笑っている。


 確か私はアドルフ町長をも追い詰めた魔物に致命的なダメージを与えた殊勲者のはずなのだが……。なんだろう、この敗北感は……。


「流石は私の相棒だわ。おっぱい魔法なんて誰にでも出来るものじゃないもの。ハンスさんに自慢できるわよ」


 ニッコリと笑ったベアトリクスは、安心したのか目をつむった。


 もういいわ。好きにして。




 根城の山小屋に帰りつくと、簡単な酒盛りになった。

 話のタネはもちろん報酬だ。

 本来のゴブリン退治の報酬である一日銀貨二枚に加えて、クモ退治と謎の赤目男撃退の報酬がいくらになるかの皮算用は良い酒の肴になった。

 衛兵隊も特別報酬が出る。給料の査定対象にもなるらしい。来年は昇給できるだろうとは、マックバーンさんの言葉だ。


 私たちマルセロ商会は道中合わせてここまでで三日だ。日当だけで一人銀貨六枚になる。そして、単独でクモを退治した。クモはDランクなので銀貨十枚にはなるはずだ。これを五等分しても一人頭銀貨二枚になる。ベイオウルフの取り分になる一七五の会の預金も潤沢に補充される。回復薬とかも買っておこうかな。


 そして赤目男の撃退は、レヴァナント騒動に照らし合わせると一人金貨一枚と予想された。合計で金貨一枚と銀貨八枚だ。先月分の報酬額を超える額を三日で稼いでしまった。かなり危ない局面もあったが、ネズミ退治とは一回の稼ぎが違う。


「これで、マルセロ商会の名も轟くだろう」


 パウルさんも上機嫌だ。


 魔物達の間でパウルさんの名が轟いている可能性があるが、本人は全く意に介していない。強力な魔物に付け狙われるかもしれませんよとマルセロさんが言うが、返り撃ちにしてくれると意気盛んだ。もっともマルセロさん自身もニコニコしている。




 問題が一つある。

 小屋の隅の人影だ。ゴブリンを指揮していた男だ。


 両手両足を縛り付け猿轡を噛ませている。

 パウルさんの絶妙な匙加減の魔法とベイオウルフの力任せの突貫の結果、気絶したのを捕まえることができた。


 クモやゴブリンを引き連れて人間と戦ったのだから、裁判をやっても恐らく死罪だ。

 しかし、人間に襲い掛かってきたわけでもない。どちらかと言うとこちら側が襲い掛かっている。赤目男に操られていた可能性もある。

 それに、ウィリアムス神官が、虜囚の殺害は犯罪であると主張している。手を下すわけにはいかない。


 マックバーンさんが男の猿轡を外すと、殺せ! 殺せ! と喚き始めた。

 いつまでも叫び続けるのでうるさくて仕方がない。

 止むを得ないといった風に、ウィリアムス神官がため息をつきながら立ち上がった。


「私達に殺されたいのであれば、まずは私の言葉を聞きなさい」


 随分とドスの聞いた声だ。とても神官とは思えない。

 この男が……とマックバーンさんを指さす。


「この男が今ここで拘束されたあなたを殺せば、殺人罪でセルトリア王国法により罰せられます。しかし、あなたの拘束を解いて抵抗する敵を制圧すると言う形でなら、合法的にあなたを殺すことができます」


 合法的に殺すって…………。


「ねえねえ、あの人本当に神官なの?」


 ベアトリクスが私の袖を引っ張ってくる。どうにも恐ろしいことを言う神官もいるものだ。猟師たちも皆固唾を飲んで見守っている。完全に毒気を抜かれている。


「ここはセルトリアなのか?」


 男が反応した。


「どこだと思っているのですか? ここはセルトリア王国領内ですよ」


 言葉遣いが優しくなったウィリアムス神官が指輪を見せる。

 指輪には所属を示す中の原教会の紋章が刻まれている。ちなみに、野良の私は持っていない。


「すまん。紋章を見ても分からない」


 ならば、とマックバーンさんが指輪を見せる。

 衛兵隊は王国軍第一兵団所属だ。兵士は皆セルトリア王国軍の紋章を刻んだ指輪をはめている。


 恐らく従軍の経験があるのだろう。男の表情が変わった。


「ここはセルトリア王国、中の原地区北部の山中です。あなたは自分がどこにいると思っていたのですか?」

「エングリオだと思っていた」


 そして、自分はレグネンテスから来たと言った。


 レグネンテス王国はセルトリアの西隣になる。セルトリアの友好国の一つで、エングリオ包囲網ともいえる同盟関係にある。先の大戦ではエングリオ相手にかなり凄惨な戦いが起こったと聞いている。


「そうか。ここはセルトリアなのか……」


 男は急に笑い出した。

 自分がセルトリアにいることが、どうしてそんなにもおかしいのだろう?

 何やら事情がありそうだ。皆、目くばせをしあって男が落ち着くのを待った。




 男が笑い終わると、ウィリアムス神官が蜂蜜酒の入ったカップを口元に持っていき飲ませてやった。男は一口二口飲んだ後、妙にさっぱりとした表情になった。


「あなたについて教えていただきたいのです。聞かせて貰えますか?」


 男が頷くと、マックバーンさんに合図をして手足の拘束を外させた。

 蜂蜜酒を自分で飲んだ男は、さきほどまでとは打って変わって静かな口調で話し始めた。そして、その内容はにわかには信じ難いものだった。




 男の名はロビンソン。レグネンテス王国東部にある小さな農村の生まれだ。物心ついた頃から動物と交流できた。今ではサボーディネイションの魔法で魔物や動物を操ることができる。


 サボーディネイションという魔法は聞いたことがなかった。マルセロさんが言うには、古の魔法と呼ばれる特に希少な魔法の一つで、今や失われたものと思われていたらしい。


 本人は、そういったことはおろか、戦争が終わったことも知らなかった。

 しかも、自分がいる所をエングリオの山中だと思っていて、私達のこともエングリオの部隊だと思っていた。


 ここがセルトリアだと知って笑ったのは、赤目の男に拉致されるまでは、人知れずセルトリアで動物達と暮らすことを夢見ていたからだそうだ。

 魔物達と暮らしたとは言え、図らずもこの数年間は夢が叶っていたわけだ。男は語り終わると静かな口調で、殺してくれと言った。


「ロビンソンさん。なぜあなたは死に急ぐのですか。セルトリアはあなたの国とは友好関係にあります。あなたが性質の悪い連中に騙されていたのは明白なのだから、悪いようにはならないと思いますよ」

「私は生きていてはいけないのだ。本国に知られたら家族が殺される。セルトリアには身分差が無く農民の言葉にも耳を傾けてくれると聞いている。私の家族を守るために私をこの場で殺して欲しい」


 どういうことなのだろう。生きているのだから死ななくても良いではないか。家族を守るために殺してくれとは、理解しがたい話だ。


 私とベアトリクスが首を捻っていると、パウルさんが教えてくれた。

 他国では兵役中の脱走は死罪なのだそうだ。しかも場合によっては家族にも累が及ぶとのこと。


 とんでもない話だ。

 セルトリアでは国の方針に逆らいさえしなければ、戦いたくない者は戦わなくて良い。自警団だって皆自分で志願している。ましてや王国軍や衛兵隊は本人が兵士になりたくてなっている。退職も自由だ。強制連行などされようものなら、きっと内乱が起こってしまうだろう。


 しかし、他国は違うと言う。

 どうやらセルトリアは随分と変わった国らしい。


「ロビンソンさん。あなたが魔物を率いて我々と戦ったのは事実です。しかし、あなたは私達の村を襲ったわけではありません。不運にも互いの立場が違っただけなのです。今や戦いは終わりました。もう私達は敵同士では無いのです。我が国は虜囚には寛大な国ですよ。これからはセルトリアで新しい生活を始めれば良いのですよ」


 男は呆然とした。


「そ、そんなことが出来るのですか。密入国した者は送還されるのでは……」

「ロビンソンさん。あなたは公式には一度死んでいるのですよ。もちろん死んだ身である以上は、故郷の村には帰れませんし、恐らくご家族と連絡を取ることすらできないでしょう。しかし、かと言ってここで二回目の死を迎える必要はありません。私が中の原町長に掛け合ってみます。処罰されるかもしれませんが、どうせ死ぬなら同じではありませんか。今後のことは、その結果が分かってからでも良いのではないでしょうか」


 ロビンソンさんは一瞬呆気にとられたようだったが、オイオイと泣きだした。


 何かが込み上げて来たのだろう。脱走兵としての、そして魔物達と暮らした日々は、彼に何をもたらしたのだろうか。ひとしおならぬ苦労があったに違いない。ウィリアムス神官に肩を撫でられながらひとしきり涙を流した後は、神官様にお任せしますと項垂れた。

 流石は神官様だ。見事な諭し方だ。ベアトリクスと話すときの参考にしよう。




 ロビンソンさんは中の原に連行されることになった。

 道中で赤目男に見つかってはいけない。ベアトリクスの魔法で髪の毛を真っ赤に染めてベイオウルフの私服を着せた。身体の線が細いのと元々髪を伸ばしていたのもあって遠目には女性に見える。

 メイベルさんとロウリさんが面白がって化粧をすると、元が優男なのでそれなりに見えるのには驚いた。


「その筋に行けば結構なお金を稼げるかも知れんな」


 パウルさんの言葉は聞かなかったことにした。

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