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清貧に生きる野良神官は魔物退治をしながらお金を稼ぐ夢を見る  作者: 兎野羽地郎
第一部 第ニ章

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支援要請

 ネズミ退治をするために、半分寝ているベアトリクスの手を引っ張ってマルセロ商会に顔を出すと、異様に生き生きとしているパウルさんがいた。


「遅かったじゃないか! 待ちかねたぞ!」


 いや、いつも通りの時間ですよ。こう見えても神官ですからね。時間厳守ですよ。隣で立ったまま寝ている魔法使いと一緒にしないでください。


「朝っぱらから何を騒いでいるのよ。うるさいわね」


 ほら、言わないことじゃない。輪をかけてうるさいのが目を覚ましちゃった。


「これが騒がずにいられるか。衛兵隊から支援要請が来たんだぞ。出撃だ」


 ベアトリクスの目が、ぱちくりと丸くなる。

 パウルさんの後ろでは、マルセロさんとアンジェリカさんがニコニコと頷いている。


「クモ退治ですか?」


 恐る恐る聞いて見ると、違うと言う。


「じゃあ、何なの? クマの大軍でも出たの?」


 ちょっと待ってよ! 死んじゃうから! そんなの相手に出撃したら死んじゃうから! 他をあたって下さい。私はこう見えてもネズミ退治で忙しいんですからね。


 思わず騒ぐと、クマではないと言う。


「ゴブリンだ。畑を荒らし、家畜を盗み、子供や女を攫う。魔王軍の兵士でもある。衛兵隊の補助ではあるが、我らマルセロ商会が公に認められた最初の支援要請だ。頑張ろうではないか」


「ゴブリン?」


 なんのことだろう? と、ベアトリクスと二人顔を見合わせているとマルセロさんが説明してくれた。


 なんでも、クモの調査をやっているアンガスさんがゴブリンの巣を見つけたらしい。その通報により、衛兵隊には一班分の出動命令が、近隣の猟師や私達には支援要請が出たのだそうだ。教会にも要請が出ているらしいから、神官も出向くのだろう。


「ゴブリンて、強いの?」

「一対一の場合は魔法が使えなくても男なら勝てるだろうね。問題は群れになるから数が多いことかな。支援要請が出たってことは最低でも十匹はいる巣が対象だね」


 マルセロさんがニコニコ笑っているから大したことはないのだろう。衛兵隊が一班五人出るとして、その倍なら十匹といったとこか。


「今回は、少なくても六十匹以上だそうだ。もしかしたら百匹以上いるかもしれないね」


 百匹!


「ネ……ネズミ退治は、どうするんですか?」


 マルセロさんの言葉を聞いて、気が遠くなるのを辛うじて堪えて聞いて見た。


「そんなもんはどうでも良い。キツネもイノシシもあらかた退治したのだから、今回はゴブリンだ」


 パウルさんが息巻いている。日々の務めに真摯に取り組もうとする私の意見は、そんなもん扱いされてしまった。


「で、報酬は幾らぐらい出るの?」


 これはいけない。ベアトリクスまでその気になってきている。


 百匹よ、百匹! クマ一匹よりもきっと強いわよ!


「緊急出動支援の場合の報酬は一括制だよ。ゴブリンの巣の場合は、倒した数には関係なく参加した全員が一人一回銀貨二枚ずつもらえるようだ」

「クマ一匹分ね。いいじゃない、やろうよ」

「うむ。そうでなくてはいかんな!」


 ああっ…ベアトリクスが返事しちゃった・・・・・・。


 ア、アンジェリカさん・・・・・・。

 アンジェリカさんに助けてもらおうとしたら、頑張ってね、と言われた。


「私は子供の世話があるから行けないの。皆と一緒に行けるジャンヌが羨ましいわ」


 アンジェリカさんの笑顔が、おとぎ話に出てくる人を騙す魔女の微笑みに見えた。

 まあ、魔女だけど……。




 がっくりと項垂れながら衛兵隊の詰所に行くと、ハンスさんの他にゴブリン退治に行くベイオウルフの班員五名がいた。

 班長さんは軽装歩兵系のマックバーンさんだ。ショートソード二本を腰の左右に装備している。


 こげ茶色の短髪でどちらかと言えば細い感じだが、ベイオウルフ曰く、脱いだら背中の筋肉なんか凄いとのこと。王国軍への誘いを断って、奥さんや子供さんと中の原で暮らしていくことに決めているらしい。

 この班は接近戦が得意なのがそろっているそうで、弓は猟師が請け負うのだろう。つまりマルセロ商会は魔法担当か。


 その五人に加えて、工作所の二人、猟師達が五人、回復役として教会神官が一人、そして、私達マルセロ商会が四人、総勢十七人だ。さらに、現地の案内役として、現地で調査中のアンガスさんが率いている猟師が何人か増えるらしい。


 二十人を超えるのだから大丈夫だと信じたい。

 というか、私は神官だから後方よね。きっと……。




 そして出発当日。

 アドルフさんと大司教様が見送りに来てくれた。

 行先は四つほど離れた駅逓のある村から北へ馬車と歩きで一日ほどだそうだ。緊急というわけではないので、それなりのスピードで片道丸二日かけていくらしい。無論、馬車代はおろか宿代も町が支給してくれる。


 馬車に乗るのは初めだ。それもただの馬車ではない。アドルフさん直々の依頼とあって特別仕立ての馬車だ。


 乗り込むと床の真ん中に丸い穴が空いていて筒が刺さっている。

 町役場の特別馬車専属の人が、風魔法で風を送って馬車を地面から浮かび上がらせて馬の負担を軽くするのだそうだ。

 馬車の外側になにやら裾と呼ばれる分厚い皮のような物が地面に垂らす様にくっついていたが、それで上手い事風を逃がさない様にするらしい。


 ガラガラと音を立てながら正門を抜けて街道に出たところで、筒に風を送る人が魔法を唱えて馬車が少し揺れた。窓から覗くと裾が膨らんで下から土埃が噴き出している。

 風の魔法で浮き上がった馬車は、まるで滑るように前に向かって進む。


 これが馬車なのか!

 窓の外を街並みが流れて行く……。


 ガラガラと車輪が回っている音はするが、基本的には浮いているようでさほど揺れもせずに走っていく。まるで船に乗っているみたいだ。

 風魔法で馬車を浮かせる方法が考案されるまではとんでもなく揺れていて、速度を上げた時は舌を噛まない様に布とかを噛んでいたと聞いた。皮肉な話でこういった魔法の応用利用は先の戦争中に飛躍的に向上したらしい。


 元は子供を喜ばせようとして風魔法で馬車の模型を浮かせ、さも走っているように見せたのが発端なのだそうだ。それを見て輸送部隊の行軍速度上昇に役立つと考えた人がいて、出来上がったらしい。きっとパウルさんのような人が発案し、工作所の親父さんのような人が作ったのだろう。


 街道の南に川が流れ、北側には畑や放牧地や森や丘が続き、所々に農家の集まった小さな集落があり、はるか遠くに北の山並みが見え、といった同じ風景が延々と続く。普通は飽きるのだろうが、私とベアトリクスはうとうとしているマルセロさんや神官を他所に、窓から外をひたすら眺めた。




 途中の休憩を含めて二時間ほどで最初の駅逓についた。

 街道沿いの村で背丈ほどの石の壁で囲まれている。

 初めて実物を見る村は、思っていたよりも大きくて、絵本で読んだ範囲では村と言うよりは町だ。しかし、中の原地区では中の原だけが町でそれ以外は全部村と呼ばれている。途中で見た集落も、中の原町域を越えてからはこの村の村域らしく、さしずめこの辺りの中心地といったところなのだろう。


 村というのは地域を指すもので集落の事ではない。大体、○○村中央とか呼ばれる所に駅逓のある大きな集落があり、その集落を便宜上村と呼んでいるのだと、送風役のオジサンが教えてくれた。

 この村全体の人口は大体五百人くらいで、私達がいる駅逓のある一番大きな集落は二百人程度の人が住んでいるのだそうだ。


 村は中の原川の水運も利用しているので、川と街道に沿って家が立ち並んでいる。

 村の駅逓は中央の広場にある。衛兵隊の詰所も兼ねているらしく、衛兵隊長が駅長さんを兼ねていた。

 駅の横には厩があり、替えの馬が何頭か繋がれている。

 今回は至急と言うわけではないので馬を替えないから、水を飲ませたりして休憩をとる。馬車を浮かせる人も休まないといけないので、その間に私達も外に出た。




 中央広場と呼ばれる広場は、多分どの村に行ってもあるのだろうが、円形に家が取り囲んでいて、馬車に乗ってくる人を目当てにしている幾つかの屋台が駅逓の近くに並んでいた。そのうちの、街道クッキーの看板をかけているオバサンの屋台に行く。


 街道クッキーはセルトリアの名物で、駅逓のある村で売っている。

 小麦に卵とバターを加えた生地に蜂蜜を混ぜたお菓子だ。干しブドウを入れたのとかもある。農家の人が持ち寄った材料で作ったものを駅逓で売っている。元々現金収入に乏しかった農家の人のために考え出されたお土産で、屋台のオバサンもきっと農家の人だ。


 他国ではパン釜なんかは領主の貴族によって厳重に管理されていて、使うためには結構なお金を払わないといけないらしく、クッキーなんかそう簡単に食べられないようだ。


 セルトリアでは誰でも自由に公共のものを利用できる。元はどこだったかの村のお母さんが子供達のために作っていたのを朝市で売りに出す様になり、その美味しさに目をつけた役場の人が地域全体の商品にしたのが発端なのだそうだ。元手があまりかかってないから値段も安く、今では他国から来た人のお土産としても人気になっている。


 最初に作って売りに出したお母さんは、国全体に広めるために王都に招聘された。その地域経済への貢献によって勲章まで貰ったのだそうだ。


 もちろん、クッキーだけではなく、野菜や果物なんかも安く売っている。

 中の原町もそうなのだが、朝市の立つ時間には農家の人や漁師が持ち寄ったものなんかが自由に露店で売られていて結構な人出になる。


 孤児院の工作所で作ったものも朝市で売ったりした。子供達と先生一人でゴザを敷いたところに商品を並べるのだが、売れた時は嬉しかった。町役場の場所整理の人にお金を払って売り場を確保するのだが、確か銅貨二枚だったはずだ。ありがたいことに孤児院は無料だ。




 ベアトリクスと二人でオバサンのところに行くと、一七五の会の財布のお金でクッキーを三個買った。 一個の値段は中銅貨一枚で銅貨の半分だ。お菓子と言っても子供の握りこぶしくらいの大きさがあり、小食の私の場合二個も食べたらお昼ご飯に丁度良い。


 買った時、木の札を一枚渡された。

 小さい焼き印が一つ押してあり、この村の名前が読み取れた。クッキーに押してある焼き印と同じだ。

 なんでも、中の原地区にある駅逓の焼き印を三十個集めて中の原町役場に持って行くと、街道クッキー十個を詰め合わせたセットが貰えるらしい。

 今回の出撃ではあと六か所の駅逓を利用する予定だ。保存食がてらに少しずつ買って、七個焼き印を揃えよう。

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