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清貧に生きる野良神官は魔物退治をしながらお金を稼ぐ夢を見る  作者: 兎野羽地郎
第一部 第ニ章

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衛兵隊の宴会

「それでは、我らが中の原町の益々の発展と、伝統ある衛兵隊博打において見事三連勝し、本日の出資者の栄誉に輝いたハンス隊長と皆様のご健康と今後のご活躍を祈念して……乾杯!」

「カンパーイ!」


 遂に始まってしまった。大騒ぎになると評判の衛兵隊の宴会だ。

 場所は衛兵隊会議室。各テーブルには大皿に盛られた料理がズラリと並び、カウンターにはビールの樽が山と積まれ、大酒飲み達のお代わりに備えて鳥の頭亭のご主人オーウェンさん以下従業員達が準備よろしく整列している。


 私達一七五の会の三人は、ハンスさん、衛兵隊のお姉さん兵士ブリジットさん、それからパウルさんと同じテーブルを囲んだ。


「どうしてこうなったのか……」


 乾杯しながらも、思わず呟いてしまう。

 昨日はネズミ退治で二十一匹の成果を上げた。夢の二十匹越えを成し遂げたのだが、その祝杯というわけでは無い。

 つまるところ、ベアトリクスの企みだ。




 日頃から、町のオッサン達と仲良くしているベアトリクスは、あちこちの店の裏情報を手に入れている。

 ネズミ退治の餌に使う鶏ガラを分けて貰っては鳥の頭亭で晩御飯を食べていたから、ご主人のオーウェンさんや奥さんのみならず従業員までも含めてかなり仲良くなっている。いつも世間話よろしく色々お店の話を聞いているらしい。そうやって手に入れた情報が、鳥の頭亭で考えられていた宴会料理の仕出しであった。


 通常、人生経験の乏しい私が知っている範囲であるが、宴会は飲み屋でする。

 勿論、専属料理人を抱えているお金持ちは大きな屋敷で宴会を開くのだろうが、狭い家に住む一般人はそうはいかない。せいぜい、小人数でする家庭料理のパーティーくらいだ。結婚式のお披露目パーティーも、お店を借り切ってやっている。


 それ自体は良いのだが、致命的な問題がある。酔っ払いだ。

 飲むわ、騒ぐわ、暴れるわ、吐くわ、喧嘩をするわ、物を壊すわ、人数が多ければ多いほど大変らしい。衛兵隊の夜の任務の大半が喧嘩の仲裁なのだそうだ。

 オーウェンさんも、日頃から何とかならんのかと頭を痛めていた飲み屋の店主の一人だ。


 そこに目を付けたのが抜け目のないベアトリクスだ。解決策として広い会場に料理を持ち込む宴会の仕出し料理の注文を受ける事が出来たら店の被害も無いし儲けも大きいと提案した。何のことは無い。孤児院の慰問の再現だ。


 始めは、公園の立食パーティーか自警団の集会所を考えていたらしいが、衛兵隊の会議室でも似たようなものだ。第一兵舎が近いから酔いつぶれた者は放り込んで置けば良いし、調度を壊される心配も無い。前払いの金額に応じた料理とお酒が用意されるから、支払いでもめることも無い。追加料金が発生しないからハンスさんも赤字にならない。


 そういう風に利害の一致するオーウェンさんとハンスさんの橋渡しをする代わりに、ベアトリクスが私達の無料参加を条件にした。衛兵隊も、味もさることながら、値段の割にはボリュームが売りの鳥の頭亭ならいいだろうと賛成して貰えた。要するに思う存分お酒が飲めれば良いのだろう。


 それに、今回の宴会が上手くいけば、衛兵隊の宴会ですら上手くさばいたとの評判を鳥の頭亭は手に入れる。衛兵隊は酔っ払い対策の良き判例を手に入れ、今後の夜勤の巡回時の負担の軽減が予想できた。

 で、私達も乾杯に参加しているわけだ。


「お前達はまだいい。俺はもう一回あるんだぞ」


 ハンスさんがぼやいている。

 王国駐屯軍が不在の今、有事の際に出動するのは衛兵隊の任務だ。賭けに負けた四十一名中の半分だけが第一回として今回参加していて、残りの半分は別の日に第二回目として宴会を開くことになっている。


 お金を払うハンスさんは、当然両方に参加しなければならない。しかも、隊長代行である以上酔っ払うわけにはいかない。周囲が大騒ぎしている中、チビチビとしか飲めない。

 隊長代行以下衛兵隊全てが酔っぱらってしまっては、何かあっても使い物にならないだろうから賢明な措置だとは思う。

 もっとも、タダでお酒が飲めるせいか、機嫌良さそうにはしている。


 


 三杯目に手を出したパウルさんが、一杯目をチビチビと飲んでいるハンスさんと話をしている。どうやら、この辺りには蜘蛛が増えた様には思えなかった、というような話をしている。


 ベアトリクスとブリジットさんが二人して色々話し込んでいるのを聞いていたのだが、こっちの話の方が役に立ちそうなので、顔を突っ込んで無理やり割り込んだ。


「蜘蛛がどうかしたんですか?」


 話の筋が分からないので、とりあえずパウルさんに聞いてみる。


「いや、何。最近蜘蛛が多くなってきていると聞くのでな……」

「東のほうでしたっけ?」


 確かハンスさんがそう言っていた。


「正確には中の原盆地の北東部だな」


 中の原の北東部と言えば、魔王軍幹部の残党が立てこもる森に近い。何か関係があるのだろうか。


「アンガスが、魔物化した蜘蛛が出没しとらんかどうかの調査依頼を受けたそうだ」


 アンガスさんはレヴァナント騒動の時にアドルフさんを助けたのが縁で、直接依頼を受けたのだそうだ。


「なのに儂らには調査依頼が来とらんのだ。無念だと思わんか」


 パウルさんの目がすわっている。


 えっ? なにこれ? 私は悪くないわよね? これは首を突っ込む先を間違えたかしら。


「今更そんなこと言ったって仕方ないだろう。あんたは一七五の会と一緒に魔物退治をやらなきゃならんのだから。そういう契約なんだろう?」


 ハンスさんのありがたい言葉に、ブンブンと首を縦に振る。


「そんなことは分かっとるわい。物には順序ってものがあるんじゃ」

「順序?」


 ハンスさんと共に首を傾げる。


「そうだ。まず、町長が儂らに依頼をするのが筋だ。それを受けて謹んで断る。それが順序というものだ」


 これは面倒くさい。ただの酔っ払いだ。


 憤然と言い放つパウルさんを前に、ハンスさんがため息をついた。


「どうせ断られるのが分かっているなら、誰も依頼せんでしょうが」


 全くその通りだ。時間の無駄とはこのことだ。


「何を言うか。猟師には序列ってもんがあるんじゃ。確かに儂は長いこと猟師を休んでおった。しかしだな、魔法のパウル、弓のアンガスって言ってな。中の原の猟師では儂のほうが序列は上だったんだぞ」


 へー、凄いんだ。パウルさん、この辺りで一番の猟師だったんだ。


「ほほう。ちなみに、その後はどう続くんだっけ?」


 ハンスさんの言葉にパウルさんが気まずそうに目をそらした。


「確か、投石のマクガイア、投槍のマックバーン、それからえーっと、手斧の……誰だっけ? 確か地区ごとの猟師の元締めが勝手に自称してる通り名で、皆自分の名前を一番最初に言うんだよな。猟師の寄り合いでは年の順に呼ばれるはずだ。」


 あれっ?


 パウルさんを見ると、知らん顔をして四杯目を頼んでいる。


「とにかくだ。中の原町に住む猟師の元締めは未だ儂なんだから、最初に声が掛かってもおかしくはないだろう? 大体猟師の序列というものはだな……」


 何をうっとおしいことを言っているんだこのオッサンは……。大体、いるかいないか分からないような魔物の調査依頼は契約にないんだから、大人しくしてなさいよ。




 演説を始めた酔っ払いを持て余した私とハンスさんがやれやれと頭を抱えていると、さらに面倒なのが絡んで来た。


「どうしたの? 何の話してんの?」


 ベアトリクスだ。

 ブリジットさんはと言うと、隣のテーブルでベイオウルフと飲み比べを始めていた。ベイオウルフはそんなことをする娘ではないのだが、先輩の命令には逆らえないのだろう。見物の喝采を浴びながら飲んで、もとい、飲まされている。


 喧騒を他所に、パウルさんがかくかくしかじかと愚痴をこぼす。


「そうなんだ。それは酷いわね」


 一通りの話を聞いたベアトリクスは、事もあろうに同調している。


「そうだろう、そうだろう。やはり魔法使いは話が早い」


 えーっと、そもそも、パウルさんを飛ばしてアンガスさんに話を持っていったのは、魔法使いのアドルフさんなんですけどもね。ねえ、聞いてます?


「でも、落胆するのはまだ早いわよ」


 これはいけない。ベアトリクスが何か考えている。


「確かに、私達の契約には調査は無かったわ。でもね、その後のことは契約の範囲内よ」


 もう、駄目だ。嫌な予感しかしない。


「どういうことだ?」


 怪訝な顔のパウルさんを見て、悪い魔法使いがニヤリとした。


「地味な調査なんかはアンガスさんに任せておいて、私達は退治を請け負って派手に倒しちゃえばいいのよ」


 両手を広げたハンスさんが盛大に肩をすくめる。


「クモが見つかったら、どうせ衛兵隊に出動要請がでるんでしょ? だったら契約どおりについて行って退治すればいいじゃない」

「なるほど。その手があったか! 一流たるもの退治してこそだからな」


 勢いづいたパウルさんは、半分ほど残っていたビールを一気に飲み干すと五杯目を注文した。上機嫌でベアトリクスと乾杯している。




「あのー、クモって、どのくらい強いんですか?」


 恐る恐るハンスさんに聞くと、Dランク、と答えが返ってきた。


 Dランクって言うと、クマよりも強いのか。ハハハ……生きて帰れるかしら……。

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