表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
清貧に生きる野良神官は魔物退治をしながらお金を稼ぐ夢を見る  作者: 兎野羽地郎
第四部 第十四章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

338/852

第五話 プライモルディアの古代人

 四日目の朝、カドガン様に案内されたのは、王都から馬車に乗って二時間程走った所にある森の中の物凄く立派なお屋敷だった。

 参加したのは、フィニスがアイラと樽酒のオッサン。セルトリアがマグダレナ様、ハリス様と私。二か国の合計五人だ。

 サクスブルグは。何か言いたそうにしていたが、ヘクサム家の執事が、交易についての助言が欲しい、と言ってきたので、機嫌を直していた。メアリーもミアーナも残るし丁度良かったのだろう。


 馬車に乗って王都を出る。先導の騎士が二十騎、後方警備の騎士が二十騎、そして馬車の周囲に十騎、護衛についてくれた。馬車が一台、私達の前を走っている。教会でお会いした五人のお貴族様で、私達も出席する古代人の会合の参加者らしい。

 森の中は、鹿や栗鼠の姿を見る事が出来、小鳥たちも馬車を恐れる事無く直ぐ近くの枝に止まってこちらを見ていた。


 お屋敷は、崖を背に東に向いて建っていて、隣には祠があった。

 お屋敷自体は何度も立て直したらしく新しかったが、祠は苔むしかなり古い。見ていると、なんとなくフィニスの水竜が守る遺跡を思い出した。


 玄関に着くと、前を走っていた馬車に乗っていたであろう者達が出迎えてくれた。

 五人共既に晩餐会で顔は会わせている。

 形式的な挨拶だけをして、中に通される。

 前室に入ると女神様の像があった。そこで沈黙の誓約を行った。

 使用人が開く扉の中に入ると、豪華なシャンデリアが掛かる大広間がある。


「ここは、先の戦争中に政変が起こり失脚するまでは国家宰相を務める家格の貴族の別邸でした。現在は、王都大教会長……つまり私と五人の貴族によって管理されています」


 五人の貴族は、失脚した貴族達の次に地位の高い連中だったらしい。つまり、第二集団だ。

 第二集団らしく、そのまま最大の貴族の跡は継げなかったようで、相互監視の意味も込めて共同管理としているらしい。


 大広間の横にある応接室に案内される。ただし、でかい荷物を背負った樽酒のオッサンは入室を許されなかった。この事は、事前に話があったので、アイラもオッサンも文句を言う事無く、素直に従っていた。


 豪勢な調度に囲まれた長方形のテーブルがある。

 正面は空席だ。カドガン様は相手方の五人の貴族と同じ側に並んで座った。私達は反対側に座った。座ると同時に、使用人が手際よく飲み物を配り始めた。


 カドガン様がアイラのためにソート・コミュニケーションを掛けても良い、と言って下さった。ハリス様も頷いているので、上級を掛けた。光が迸ると同時に、貴族達がどよめいた。


「まず、一言申し上げておきます。ジャンヌ神官が、我が国でも購入しているただの病気を治す魔法水の魔法の使い手である事を聞いてより、我ら西の教会に所属する者は、北の大教会、つまりメディオランド王都大教会との情報交換を強化する事にしました。つまり、ジェームズ王太子殿下を中心とした調査に協力致します。従って、今までの調査結果は既に存じ上げている事を申し上げておきます」


 プライモルディア王都大教会が、西の教会と呼ばれていたとは知らなかった。


「なに、勝手に名乗っているだけです。いわば、結社の様なものですね。我らプライモルディアの民は、他の国とは異なる伝統を持っております。その点、フィニスと似た立場かも知れません」


 カドガン様がアイラに語りかける。


「我らは、メディオランド王都大教会とも、ある意味一線を画しているのですよ。所属はしていますが裁量は自由なのです」


 フィニス同様、古代人としても誇りがあるのかも知れない。

 その誇りが、今まで古の巫女に関する情報について口を閉ざしていたのだろう。その重い口がようやく開くのだ。




「まずは、この場所について説明いたします」


 カドガン様が話題を変えた。サクスブルグを蹴飛ばした話がいよいよ始まるのだ。


「古の巫女の時代から、この地は我らの先祖の聖地とされてきました。古の巫女の一人が住んでいた地です」


 一人はこの辺りにいたわけか。海の原で見た地図とは大分西になるが。


「その巫女とは、一体どの様な方達だったのですか?」


 マグダレナ様だ。


「我らに伝わる伝承によると、古代に生きた偉大な指導者に仕えた五人の巫女です。人手も武器も極めて不十分だった時代に、強力な魔法を使い、魔王を討伐した者達です。その後、大いなる魔法で魂魄をこの島に留め、魔王や魔族のこの世における力を減じている、と言われています」


 その辺りまでは、私も知っている。


「その指導者とは?」


 ハリス様だ。一緒に年代記の調査をした。

 年代記には、島を統一していた様な指導者の記録は無かった。せいぜい、村単位レベルの領主がいたくらいだ。恐らくは、今の様な国際会議も無く、下手をすれば交流すら無かったかも知れない。


「正確な事は伝わっていません。ただ、島全体に影響力を持っていた人物では無いかと思われます。なぜならば、巫女は島のあちこちから集められ、数多くの強力な魔族を討伐し、封じ込めたのです。そして、島のあちこちに散らばって暮らしたようです」


 出生地は兎も角も、現在のフィニスとセルトリアに住んでいた事は竜の証言がある。そして、フィニスの巫女はその地で亡くなった。現在判明している範囲で、年代記を始めとする五つの本を残し、祠を築いて五つの黒石を残し、効果が不明な魔法陣を一個残した。問題が一つある。私が関わっている調査の始まりは魔王の封印に関す事だが、その内の二つは四大精霊と係わりがある。どういう事なのか。


「四大精霊とは、どの様な考え方なのですかな?」


 貴族の一人が言ってきた。


「い、いや。属性魔法に代表される四属性で……」


 しどろもどろになってしまう。


「結構です。一般に言われている四大の考え方は大陸から入って来た事はご存じですね。この島の古代からこの世の元素として分類されている数字は五です。従って、五大が正しい。もっとも、これも古代人……つまり、人間が勝手に決めたものですから、実際は幾つなのかは女神様に聞かなければ分かりませんな。ただ、古代人は、五を聖なる数字としていて、故に五角形を聖なる印としていた様です。また、その倍数も有効です」


 現在、この屋敷の管理をしている貴族が五人いるのも、その聖なる数字に基づいているらしい。以前の持ち主は、大司教様を除き、自身を含めて十人の貴族で会合を開いてらしい。


「貴方がたの調査報告には、四大と五大を混同された形跡が見受けられます。当初、セルトリアで調査された段階では、古代の文献に関する遺跡は、四大精霊にまつわる物とし、今から二千年前から三千年前に造られたと推定されていました。それは誤りでしょう。なぜなら、古の巫女は、少なくとも五千年より前に生きていたからです」

「しかし、我々の調べた祭壇には四大の印が刻印されていました」


 ハリス様は、四大の印を知っている。祭壇にも地を表す□と風を表す▽の刻印があった。


「貴方がたは五大の印をご存じないのか?」

「恥ずかしながら」


 五大が、太陽、月、星、大地、水を表す事は知っているが、印までは知らない。


 貴族の一人は、羊皮紙を取り出して印を書いてくれた。〇、☽、△、□、▽、になるらしい。

 月以外は四大と一緒だったりする。どっちが古いのか知らないが、古いのを応用したとしか思えない。

 誰だって間違えるんじゃなかろうか?

 ハリス様も肩を落としている。

 精霊達は、四大と言う言葉を受け入れていた。もっとも、肯定もしていなかった。きっと、どっちでも良いのだろう。ただ、調査場所が五か所ずつという事についての裏付けが取れた事は間違いない。どっちにしろ、調べるだけだ。




「五か所の遺跡は強力な魔法により浄化されていたはずです。つまり、精霊が好む場所でもあった」


 間が空いてしまったのを気にされたのか、カドガン様が再び話し始めた。


「それは、つまり、魔王が封印された場所だからですか?」


 ハリス様だ。ここが核心部分になる。


「そうです。巫女が討伐した強力な魔族とは今で言う魔王でしょう。ただし、これは、我らが持つ史料の記録から推測したものですが」


 マグダレナ様とハリス様が息を呑む。

 つ、遂に、辿り着いたのかも知れない……。


「そ、その史料はこちらの教会に残されていたものですか?」


 ハリス様の声が震えている。


「正確には、南の大教会から持ち出されたものです。西の教会は、北の大教会が各地の部族の領主をそそのかして討伐しようとしていた時に、調整役を買って出て、なんとか武力討伐を止めさせようとしていました。当時、最強の王国の庇護を受けていた南の大教会は、安穏としていたわけではありません。幾つかの史料を万一に備えて、こちらに移したのです」


 そんな事があったとは……。道理で、セルベトゥスとかいうレヴァナントの親玉を捕虜にしても分からない事が多かったわけだ。


「で、では、魔王を封じる方法も、ご存じなのですか?」

「はい。分かっています」


 なんと言う事だ。こんな所にあったなんて……。

 ハリス様は既に小刻みに手を震わせている。

 しかし、可笑しい。魔王を封印する方法があるのであれば、今までにも実施されているはずだ。


「しかし、方法は分かっていますが、使える者がいませんでした」

「そ、その方法とは、降神術でしょうか?」

「正確には違いますが、その様にも呼ばれていた様です」

「なぜ、使えないのですか?」

「古の巫女の使う失われた魔法の使い手がいなかったからです」


 そう来たか……。まあ、そうだと思っていた。


「今はジャンヌ神官が五つ全て使えるとか。復活も近いかも知れません」


 条件は魔法だけでは無い。他にもある。


「勿論、我らが把握している事以外にも条件があるでしょう。事実、黒石と呼ばれる物の存在は、我らには伝わっていないのです。恐らく、史料は他の場所に移されたのではないでしょうか?」


 やはり、そう甘くは無かった……。黒石が無ければ魔法陣に辿り着けないはずだ。

 ハリス様がため息をつき、テーブルの下で両の拳を握りしめた。


 調整役を買って出たのだから信用は出来たのだろうが、最悪ここも北の大教会側の討伐対象になり得た。複数の場所に移すのが妥当だろう。候補として上がるのは、エングリオとモランディーヌ、そして大陸になる。


 しかし、とカドガン様が続ける。


「しかし、我が国には、何人をも退ける不思議な壁があります。その壁は恐らく、ジャンヌ神官の魔法で解除出来るのではないでしょうか? 事実、ジェームズ王太子殿下率いる調査隊は、セルトリアとお山において、同様の物と思われる壁を突破したのでしょう?」


 当たりだ! 海の原の離島で見つけた黒石の地図に描かれた印の一つは、プライモルディアにあった。恐らく、エレノア様が潰したエングリオへ向かう峠道付近だろう。


「そ、それは、どこにあるのですか?」

「この屋敷の傍らに、古い祠があったでしょう? あの祠が入り口で、その地下になります。この屋敷の背後にある山の中を貫いている洞窟です」


 ハリス様と目を見合わせる。

 場所が違う。祭壇を守る壁があるのは、こんな王都に近い所ではないはずだ。


「カドガン様。文献についての伝承は残っていないのでしょうか?」


 引き続き、ハリス様が聞く。


「文献と言うと、お山の調査で見つけた様なものですね?」

「はい。そうです」

「残念ながら残ってはいません。西の教会にもたらされた情報は、最も重要な魔法陣とその魔法陣を発動させる魔法の存在です。その魔法とは、テスタメント。術者に女神の力を一時的に宿らせ、魔族を討ち封印する魔法と伝わっています」


 テスタメント……。確か、名前しか書いていなかった魔法だ。

 ドワーフの記録にも無かった魔法がここで分かるとは。

 術者が女神の力を宿して魔王を封じる……。そんな凄い魔法があるのか……。


 あれ? ちょっと待てよ。

 その術者ってのは、もしかして……。


「今の所、ジャンヌ神官が最有力候補ですね」

「最有力候補? それは、ジャンヌ以外にも候補者がいると言うことですか?」

「魔法を唱える者が一人いらっしゃれば、後は禁呪を使えば覚えられます」


 メモライズ……。確かにその通りだ。しかし、メモライズはアンデッドを使ってレヴァナントになった者しか覚えられないはずだ。使い手は恐らく滅びの町にいる……。解放を考えているのだろうか?


 ハリス様とマグダレナ様が唖然としている。カドガン様が簡単に禁呪の使用を口にしたのだ。さもあろう。


「き、貴国は、そして、西の教会は禁呪を禁止としていらっしゃらないのですか?」


 教会神官のハリス様が聞くと、詰問になる。それを察したマグダレナ様が聞いた。


「無論、法も教会も禁止しています。現在、我が国において禁呪の使い手は確認されておりません。しかし、魔王を封じる事が出来るのに禁止などとは言っていられないでしょう。解禁して使えば良いのではないでしょうか?」


 確かにその通りだ。


「北の大教会の思惑は承知しております。しかし、西の教会の大司教としては、例えば、効果が確認されれば、アンチ・セプシスもメモライズで他者が使える様にするべきだと思っております。禁呪も女神様に授けられたもの。女神を崇め、光を奉じる古代人の末裔としては、使って悪い理由こそ教えて頂きたいですね」


 ノーザン・グラムのサクスブルグが蹴飛ばされた理由が分った。

 いざとなれば、プライモルディア……いや、西の教会は独自路線を歩む積りなのだ。だから王家も古代人の会合に遠慮をした。フィニスが古代人の国であることは隠れも無い。そして、セルトリアもまた古代人の住む国でもある。王家がその血を受け継いでいるし、海の原の島に住む人達もそうだ。グリフィス王に代表されるように比較的融和が進んだ地域で、混血が進んでいるとは言え、平民が一揆を起こして建国した国だ。流れる血の何分の一かは、古代人と言っても過言ではない。


 ハリス様は、プライモルディアは生き残りの外交に長けていると言った。王国の存続よりも皆の安全を優先するのも、何よりも言い伝えを守ろうとする柔軟な姿勢なのかも知れない。




 一旦休憩になった。これから先は、沈黙の誓約の対象外だと言われた。扉の外にいる樽酒のオッサンも呼ばれて、改めて飲み物が配られた。

 樽酒のオッサンは、アイラに駆け寄っていた。無事を確認して安心したせいか、出されたワインを一気飲みして、ふう、と一息つくと笑顔になった。


 しばし、雑談と言うか、主に交易の話になったのだが、この場にはメアリーがいない。マグダレナ様とアイラにお任せして、テラスで風に当たる事にした。

 頭の中で聞かされた話を反芻する。


 東の教会を名乗るプライモルディア王都大教会は、禁呪の復権を積極的に考えているどころか、必要であれば直ぐにでも実施すべし、と考えている様だ。アンデッドの解禁失くしてメモライズは覚えられない。現在メディオランド王都大教会預かりになっている滅びの町の黒衣の神官を動員しても良いだろう。セルトリアも王国法では禁止されていない。エングリオもそうだ。禁呪、禁呪と言っても結局は人間が言っているだけの事、様々な考えがある事が分かっただけでも心強い。疫病対策として利用出来るのなら、孤児対策として利用する事も可能では無いだろうか。条件さえ整えば、なんとかなるかも知れない。


 ぼんやりと考えていたら、使用人が入って来た。


「セルトリア王国前国王のヘンリー様と前王妃のエレノア様が到着なさいました」


 そう言えば、途中で合流するとか言っていたな。

 穏便に事が進めば良いが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ