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清貧に生きる野良神官は魔物退治をしながらお金を稼ぐ夢を見る  作者: 兎野羽地郎
第一部 第一章

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孤児院裏の戦闘①

 その神官は、扉を何度も叩くような音を聞いて裏庭へ調べに行った。

 多数の仲間が東で出没したレヴァナントを浄化するために出動したので、教会には大司教を含めて五人しかいない。


 音がしたのは教会の裏庭から共同墓地へ降りて行く道の扉で、日が落ちたら閂を掛けている。町の者はそのことを知っているから、人の出入りがあるとは思えなかった。確認しに行くことを同僚に告げ、カンテラを持って出たのだった。


 扉を叩く音は不規則で力任せに殴っているかのようだ。不審に思った彼は、念のため閂は外さずに小窓だけを開けて外を覗こうとした。今夜は扉の上の方で篝火が焚かれているから、外が見えるはずだ。


 いきなり小窓に手が突き出された。同時に腐臭が漂ってくる。

 突き出された指はとても生身の人間の物とは思えない色をしており、爪が剥がれ落ちている。

 その手は開いた場所を握り、扉を外すつもりなのか、揺さぶり始めた。


 思わず尻もちをついた神官は、それでもなんとかカンテラを持ち直すと、近くの胸壁の階段を上がり扉の向こう側の様子を見た。

 そうして、レヴァナントの群れが扉を破ろうとしているのを見て驚愕し、何度も転びながら裏庭を走り、教会へ逃げて行った。




 教会では手分けして対策をとった。

 まずは侵入を防止しなければならない。念の為、教会に残っていた浄化の魔法が使える三人の神官を裏門へ向かわせた。扉を破られないようにバリケードを作るためだ。

 町の衛兵隊と裏庭に接して建っている孤児院に通報しなければならない。

 残る二人は大司教とその秘書で、その二人が手分けして事態を知らせた。




 教会の裏庭では三人の神官達が、集合墓地へ続く階段の扉前でバリケードを作り始めた。

 万が一に備え用意していた薪を大量に積んだ荷車で扉を塞ぎ、押し込まれないように周囲に何本もの杭を打ち込んだ。扉は既に破壊されかかっていたが、レヴァナント達が侵入してくる前になんとか間に合った。

 裏庭を囲う塀は街壁を兼ねている。高さも厚さも十分だ。扉さえ塞いでしまえば何とかなると考えていた。


 十分に杭を打ち込んだところで、一人の神官がカンテラを持ち大きく円を描く様に何度も動かすと、それに答える様に教会の二階の窓で小さな光が円を描いた。


「大司教様には伝わった。これで教会の扉は全て閂がかけられるだろう。我らはここで少しでもレヴァナントを倒すのだ」


 大司教は門を塞いだら無理せずに孤児院の方へ逃げる様に指示を与えていたが、彼らとて浄化の魔法を使える神官だ。町や教会を守るべく少しでも役に立とうと考えていた。

 何よりも、大司教はレヴァナントを浄化する魔法を使えない。それどころか、ダメージを与えうるホーリーすら使えない。レヴァナントに襲われたらひとたまりも無いだろう。彼らとしては、大司教にこそ逃げて欲しかった。


 三人の神官は一か所に集まり跪くと、大司教と町の無事を彼らの信仰の対象である女神に祈った。




「浄化の魔法で少しずつ順番に倒していこう。三人いれば五十体から六十体は倒せるだろう」


 恐らく年長者であろうカンテラを持った神官の声に後の二人は頷くと、そのうちの一人が扉の西にある石段を上っていった。


 共同墓地へ続く階段は崖に沿って作られているのだが、扉の前で唐突に終わっている。その先はそのまま切り落されていていて、登って来た者は、並みの人間なら到底飛びつけない距離に直角に曲がった外壁を正面に見ることになる。扉から中に入ろうとする侵入者を魔法や弓矢で攻撃する仕組みだ。


 神官が登った石段の上からは、レヴァナント達が扉の前に群がっているのが見えた。時折押されてはみ出した個体が落下しているが、せいぜい三階程度の高さから落ちたくらいでレヴァナントが動けなくなるはずはなかった。落ちる前よりはどこかしかが不自由になった状態であろうが、また上って来るだろう。


 神官は右手をレヴァナントの方に突き出すと、詠唱を終え浄化の魔法を放った。三体のレヴァナントが光に包まれるとグズグズと崩れていく。浄化が完了したからだ。

 自分の魔法が十分通用する事を知って喜色を浮かべた神官は、続けて二回目、三回目と順に浄化していった。その間、残りの二人は大きな篝火を二つ作って周囲を照らし、扉の状況が教会から見えるようにしていた。


 外壁の上の神官が六回目の浄化を完了した時に、何体かのレヴァナントが他の個体を押しのける様にして登って来るのが見えた。驚いたことに、それらのレヴァナントは武装していた。あちこちから骨がむき出しになり腐食した肉が骨にへばりつくようにくっついているが、比較的新しい個体なのか、その肉はどこか生々しさを感じさせた。恐らく、先の戦争で死んだ兵士の死体だろう。身元の分からない兵士は止むを得ず一か所にまとめて埋葬したのだ。十分な深さに埋めたせいか、完全に白骨化していないのだろう。


「武装した兵士のレヴァナントがいるぞ!」


 外壁の上にいる神官はバリケードの前に立ち篝火に照らされた二人の神官に向かって叫ぶと、さらに二体を浄化した。


 武装したレヴァナントが手に持った斧を投げつけようとしているのを見て、なんとかその個体を浄化した。ほっとする間もなく、するどい音をたたて飛んできた矢が左肩に突き立った。

 バリケードの前にいた二人は慌てて石段の途中まで行き、倒れた神官を引きずり下ろして矢を抜いた。


 バリケードは斧を持つレヴァナントに徐々に破壊されつつある。


「とにかく、弓矢を持ったやつだけはなんとかしよう」


 カンテラで教会に合図を送った神官が言った。




 魔法は弓矢に敵し得ない。射程距離と発射回数が違うからだ。しかも、放たれた魔法よりも放たれた矢の方が圧倒的に速かった。遮蔽物の多い森の中や敵味方入り乱れた混戦状態ならともかく、戦場で弓兵の集団に対抗するには、矢除けの魔法で守り続けるか、上級魔法のさらに上をいく圧倒的な破壊力の攻撃魔法で先制するかのどちらかだった。当然そのような魔法を使うものはほんの一握りだ。少なくとも彼らは使えなかった。


 もう一人の神官が、ちょっと待っていてくれと言って、バリケードの材料にするつもりだった板を一枚待ってきた。扉が壊されたので用無しになっていたのだ。


「これを楯代わりにしよう。私がこいつを持って囮になるから、弓をもったやつを狙ってくれ」


 そう言った途端、肩を射抜かれた神官が板をひったくっていきなり立ち上がった。


「私が囮になるから、君らでやってくれ」


 すぐに矢が飛んでくる。


 残った二人は、胸壁の影から狙いを定め、立て続けに魔法を放った。二人の魔力が尽きるのと、板を抱えた神官が板を貫通した何本もの矢に身体を貫かれ遂にこと切れるのとが、ほぼ同時だった。板を持って囮になった神官は声も無く崖下へ落ちていった。しかし、その犠牲は、少なくとも弓矢を持つものを全て倒せたことで報われた。


 残った二人は孤児院の方へ逃げていった。

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