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清貧に生きる野良神官は魔物退治をしながらお金を稼ぐ夢を見る  作者: 兎野羽地郎
第二部 第八章

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第五話 教会地下道探索

 翌日。

 黒紫に身を包んで教会に行くと、院長先生とキャサリン先生が待っていた。

 白い神官衣を着た院長先生とは対照的に、神官衣の下にチェインメイルを着て、白銀の槍を持っている。

 町の人に見つからない様に、裏から入って来たらしい。


「お久しぶりです。お元気そうで何よりです」

「やあ、お前達。久しぶりだな。最近の活躍は聞いてるよ」


 叙任の事だろう。人目がある。ヤバイなあ。


「とある部隊の名誉隊長になったんだって?」


 そっち? なんで知ってるんだ? 


「聖水を成聖しているジェニファー先生に教えて貰ったんだ」 

「きっとからかわれているんです。一緒に魔物退治をやったものですから」


 ニヤニヤしている。仕返しをしないといけない。


「先生も随分と勇ましい恰好ですね」

「なんか、レヴァント退治以来、この格好を褒めてくれる神官が増えちゃってね。ヴィルと一緒に槍の練習してても、水の入った水筒の差し入れとかしてくれるようになったんだ」


 なんでだろう? と首を傾げている。

 神官達に認めて貰ったんだな。これなら当分の間は、一位の座は安泰だろう。




 皆で立ち話をしていたら、秘書様が、こちらですよ、と呼んでいる。

 ついて行くと、扉に鍵のかかった地下室の一室に通された。

 地下室には女神様の石像がある。


 なんで、こんなところに……。


 不思議に思っていると、皆が入った後で、扉に鍵を掛け、閂まで掛けたうえで、改めてこれから起きる事について沈黙を守る様に神前の誓いを要求された。精霊達も改めて私に約束をしてくれた。




「では、参りましょうか」


 秘書様が、いきなり壁の隙間に鉄の棒を差し込んで、壁石を剥がすので、何をするのかと思ったら、階段が出て来た。

 しかも、上下に繋がっている。


「上は行き止まりですから、下に行きます。結界で守られている場所は私が先導します」


 秘書様がカンテラを持って先頭に立つ。以下、大司教様とフィオナが続く。キャサリン先生と院長先生を中央にして、一七五の会の順で降りていく。殿は四大精霊二人だ。フローラはボニーが下げた籠の中の本体から顔をのぞかせている。


 下に降りると、棒が何本か置いてあった。大司教様と秘書様が、それぞれ一本ずつ手に持つ。

 レヴァナント騒動の時は、お二人共棒術で戦った、と聞いた。演習には参加していなかったが、腕には覚えがあるのだろう。

 院長先生は、白銀の錫杖を持っているから、必要ないようだ。


「ここから先は、はぐれない様について来て下さいね」


 先導の秘書様がカンテラをかざすと、扉が三つ見えた。その内の一番左の扉の鍵を開け、かび臭い闇の中に入って行った。




 石造りの地下道は三人が横に並んで歩ける幅で、天井は高く一階半といったところだ。

 水気は無く乾燥している。


 ホタルを一つ光らせて前を照らす。

 慣れてきたもので、列の先頭の人の頭上に漂わせるくらいは出来るようになった。

 今の所地下道は、いくつか枝分かれしているだけだ。秘書様は、道を覚えているのか、分岐点で迷わずに進んで行く。


「光の魔法と言うのは、便利なものですね」


 大司教様にも褒めて貰えた。


「良いわね、それ。私も覚えたかったわ」


 英雄カトリーヌに羨ましがられた。

 私も大したものだ。


「もしかしたら、この島で、つまり世界でジャンヌだけが使えるのかもしれないわよ」


 え? そんな凄い魔法だったんですか?


「だって、使える人の名前なんて、ジャンヌ以外聞いたこと無いもの。それに神聖魔法でしょ? 例え、禁呪を使って覚えたところで、使えないわよ」


 そう言えばそうか。

 中の原で墓守をしているレヴァナント使い達から得た情報だ。

 禁呪で魔法を覚える事は、レヴァナントになった者でしか使えない。普通の人間では精神が持たないらしい。


「いったい、どうやって覚えたの?」


 えーと、演習の時にホーリーで目つぶしをしていたら覚えたのですが……。


 大司教様に笑われてしまった。


「ホーリーが使える若い神官に、練習させないといけませんね」


 レヴァナント騒動の時の孤児院の先生の活躍に次いで、演習の棒術の部で院長先生に簡単に優勝を奪われてしまった事で、戦える神官を目指している者が増えたらしい。

 そう言えば、コウモリ退治で砦に行った時、今年は去年と違って教会で結構倒していたな。何か指示が出ているのだろうか。 


「本来は、魔物退治は神官の務めの一つですからね。争いを忌避するのは良いのですが、今の教会は、人々を魔物から護る事に疎かになってしまっているのですよ。魔物退治を請け負っているのは、貴方のような無所属神官ばかりでして」


 思えば嘆かわしい事です、とため息をついている。


「教会で務めを果たしていらっしゃる方もいれば、私の様な者もいます。無所属でも神官は神官ですから、役割分担という事で良いのではないでしょうか」


 そうしないと、お金が稼げないのだ。

 教会が総力を挙げて魔物退治を始めたら、入る隙間が無くなってしまう。


「貴方に女神様の祝福を」

「あ、ありがとうございます」


 院長先生がニヤついている。

 いかん、見抜かれたな。




 畏れ入っていたら、二番目のドアについた。


「ここから先は罠が仕掛けてあります。魔物は出ませんから、ゆっくり解除しながら進んで行きますね」


 秘書様の言葉に、院長先生が待った、を掛けた。


「どんな種類の罠なの?」

「特定の床石を踏んだり、壁石に触ったりすると、落とし穴があったり、矢が飛んできたりします」


 それは、恐ろしい。


「全部発動させたら駄目なの?」


 剛毅な院長先生は、錫杖で叩きながら進む気らしい。


「範囲が広いので、解除しないと被害が出るかもしれませんよ」

「フーン」


 残念そうにしている。


 あれっ? そう言えば前もあったぞ?


「あの。魔法で攻撃されたりもするのでしょうか?」

「私が通った範囲ではありませんでした」


 前は、エレノア様やパウルさんのお椀に乗っていたな。

 今回は、風の上級魔法使いはいないようだが……。


 こっそりメルを呼んで相談する。


「大丈夫よ。石が落ちてこようが、炎が噴き出てこようが平気よ」


 そこまでは言っていないのだが、心配はなさそうだ。


「あの、すみません。良い方法があるかも知れません」




 メルにお願いして、空気の筒を作って貰った。

 いつぞや、お山で経験した泡の長細いバージョンだ。

 筒の中を歩いて行けば、空気の膜が守ってくれる。

 透明なので、中でホタルを光らせても外に光が届く。天井に縦に四つ並べてくっつけて貰い、列の先頭から背後まで隈なく照らしながら進むことも出来た。


 所々で、足元の床に穴が空いたり、壁から槍が突き出されたりするが、なんともない。

 これを解除できるのは、風の精霊の力が及ばない場所らしい。

 地下なので可能かどうかが分からなかったが、他の四大精霊の結界外なので、空気がある以上は大丈夫なのだそうだ。


「これは、また凄い物ですね」


 大司教様が恐る恐る膜を触りながら感心している。


「でしょう? ちょっとは、風の力を見直した?」

「いやはや、お見逸れしました。我々人間は遠く及びませんなあ」


 メルと大司教様は初見だったのだが、すっかり仲良くなったようだ。

 色々と話をしていく中で、この先には何があるの? とメルが聞くと、祭壇があると言う。


「祭壇?」

「はい。我々の祖先がこの島に渡ってくる以前より、この島に住んでいた方々の作った祭壇です」


 お山にあったのと同じ奴だろうか?

 あの祭壇に行く途中にも罠を仕掛けた洞窟があった。


「祭壇て何のための祭壇?」

「その祭壇自体が結界のある場所への入り口なのです」


 どういう事だ? お山の祭壇はエレノア様達と一緒に散々調べたのだが……。

 カンテラだけでは灯りが足りないから、散々ライトで照らしたはずだが……。


「実物を見れば分かるのですが、祭壇には様々な模様が装飾として彫り込まれています。その内の幾つかを決まった順番で動かせば、鍵が外れ、祭壇自体が動かせるようになるのです」


 なるほど。それは分からなかった。模様が動くなんて考え付きもしなかったな。


「祭壇の下には階段があり、さらに地下道が続いているのですが、途中で開かずの扉がありましてね。グリフィス王の手記によれば、光の魔法で開くそうです」


 随分と複雑な仕組みになっているな。


「魔物はその祭壇の先にいるのね?」


 院長先生が聞くと、大司教様が頷いた。


「実は、私は祭壇が動く事を確認しただけなのです。その先には行っていません。ただ、歴代教会長が残していく引継ぎ事項にその様な事が記載されているのです。そして、グリフィス王の手記にも同様の記載がありました」

「何がいるの?」

「虫の類ですね」

「虫?」

「はい。ゲジゲジとかナメクジとかクモとかです」

「何種類もいるのね」

「はい。どういうわけだか分かりませんが、一種類ではありません。通常のルールが通用しないようです」

「ナメクジは面倒ね」


 石鹸水でヌメヌメを落とさないといけないと、ハリソンさんが言っていた。


「カトリーヌ司教は、やはり虫とも戦った事が有るのですか?」

「そうね。魔王の棲む洞窟の序盤戦は虫が一杯いたわね」

「どのように倒されましたか?」

「倒してないわ。エレノアが炎の魔法で追い払っただけよ」


 なるほど。確かに、全部倒していたらキリが無いな。

 しかし、ナメクジは炎で追い払えるのか……。


「ナメクジは魔法が効かないのよ。だから、逃げたわ」

「逃げたのですか?」

「ええ、連中は足が遅いのよ。だから、穴を掘って落として逃げたわ」

「なるほど。えーと、今回のパーティーにクランプ・サンドを使える方はいらっしゃいますか?」


 誰もいない。

 使えるリュドミラは平坦地の農作業が忙しいので外してしまった。もしかして、人選を間違えたか?


「まあ、なんとかなるわ。足が遅いから逃げちゃえば良いのよ」


 英雄の余裕という奴なのだろう。事もなげに言った。




 罠は全部発動したようだが、何の問題も無く突破した。

 ひたすらに一本道を空気の泡の中を進んでいるだけで、広間に到着した。

 お山と同じで十分な広さがあるが、高さはそうでもない。二階程度と言ったところか。ここなら、ドラゴンは出て来ないだろう。


 広間は安全なようで、空気の筒も解除した。

 秘書様が、幾つかある壁に設置された皿に油を注ぎ、カンテラの火を移してくれたので、薄暗くはあるが灯りは確保出来た。


 一時間近くライトで照らしていたのだが、ようやく休むことが出来た。


「この先には魔物がいます。ここで、少し休憩をしましょうか。ワインを持って来ましたから、皆さん飲んで下さい」


 大司教様が差し出す水筒を皆で回し飲みする。

 街道クッキーを持って来たので、皆に食べて貰った。

 蜂蜜水と日向水も持って来たので、メルとフローラにも行き渡る。

 ほっと、一息ついたところで、大司教様がゆっくりと話し始めた。


「今回の調査は、実はメディオランドのお山で実施された調査とも関りがあるのです」


 ネタばらしをしてきた。良いのだろうか?


「皆さん既にご存じの通り、原初の遺跡には様々な噂があります。四つあるだとか、中の原湖の遺跡がここの教会と地下で繋がっているだとか」


 パウルさんに教えて貰った。でも、デューネの話では湖の底に繋がる様な地下道は無いらしい。


「中の原教会の伝承から分かる事は、女神様と我らの先祖が最初に邂逅した遺跡が中の原湖の遺跡である、という事のみで、二番目以降が無いとは伝わっていないのです」

「つまり、四つ以上あると言うのね?」


 院長先生の質問に大司教様が頷いた。


「正確には、いくつあるのかも分かりません」


 そんなに一杯あるのか? 


「遺跡を護りたい、との先祖の言葉に女神様がお応えになられて、あのような地形をお創りになったとすれば、他の邂逅の地にも同様の現象が起きた、とは考えられませんか?」

「大司教様。だとすれば、人間が意図的に原初の遺跡……いえ、女神様との邂逅の地を選んだことも考えられるわね?」

「そうなのです。王都大教会では、その様に考えてメディオランドのお山の調査を実施したそうです。ヘンリー様達が、お山の地下に祭壇があった事を、教会にお伝えになったそうです」


 ジャンヌも知っていますね、と聞いてきた。

 メルやウィルソンさんと出会った場所だ。

 頷くと、大司教様はニコニコしながら話を続けた。


「その結果判明した事は、ジャンヌ達が見た祭壇にはやはり地下道があり、その先の扉は封印されていた。という事です。かなり時間をかけて、様々な方法で封印を解こうとしたらしいのですが、解除出来なかったようです」


 て事は、あれか? 今回成功したら、私はお山の地下道にある封印を解きに行かなければならないのか?


「恐らく、そうなるでしょう。今のところ、推測に過ぎないらしいのですが、遺跡は四か所あるそうです。カトリーヌ司教のおっしゃった様に、光の魔法を使える者がジャンヌ一人だけであれば、残りの三か所の封印も解くことになるかも知れません」


 随分と、大掛かりになって来たな。後の二つは、確か、エングリオの火と、レグネンテスの土だっけ?

 同盟国のレグネンテスはともかく、エングリオには行きたくないな。


「何のためにそこまでして調査するの?」

「分かりません。私も知らされていないのですよ」

「つまり、王都大教会の指示と?」

「はい。今回のグリフィス王の手記の内容は、王都大教会にも伝えてあります。そうしたら、先日、試験しろ、と指示があったのです」

「封印の先には何があるの?」

「中の原教会に伝わる伝承では、祭壇があると」

「また、祭壇?」

「はい。巫女が宣託を受ける場所です」


 フーン、と院長先生が腕を組んだ。


「そこが邂逅の地、つまり、女神様が降臨される場所というわけね」

「それは分かりませんよ。伝承から考えるに、女神様との邂逅の地はデューネ殿の住処でしょう。この先にある祭壇は、また違った意味があるのかも知れません」


 とんでもない話になった。女神様が降臨? 

 もしかしたら、私は女神様に直にお会いできるのかしら。


「こんな話を私達下々に話しても良いの?」


 島全体に知れ渡っている英雄が変な事を言っている。

 恐らく、全部の国の騎士に叙任されているはずだ。


「ジャンヌがいなければ話にならないのですよ。それに、キャサリン神官や一七五の会を巻き込んだのは、カトリーヌ司教だったはずですよ」


 大司教様と秘書様が笑い出した。


「そうだっけ?」


 あっけらかんと、こちらを見る。


「院長先生。しっかりして下さい!」


 文句を言うと、精霊と幽霊を巻き込んだのは貴方でしょ? と返された。


 そう言えばそうだった。

 やばいな。脇の汗が酷い。


「師弟揃っていい加減にしやがれ!」


 キャサリン先生の言葉に、大司教様と秘書様が声を上げて笑い、他の皆には思いっ切り睨まれた。


「まあ、良いじゃないの面白そうだし」

「そうね。たまにはこういった事もないとね」


 メルとデューネに救われた。フローラとフィオナも頷いてくれる。


「ありがとうー」


 院長先生、抱き着くのは私が先ですよ。

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