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清貧に生きる野良神官は魔物退治をしながらお金を稼ぐ夢を見る  作者: 兎野羽地郎
章間閑話

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Backyard of 野良神官⑦

第二章、第十八話の露天風呂体験です。

第十八話投稿時に一部掲載されていて、余りにも長いので(確か9千字を超えたはず)カットする積りだったんですが、そのままのっけてしまい。後で削除した部分の改変版です。

 お風呂は公共のもので露天風呂だった。中の原川の支流の川べりにあり、川の水を引き入れて小さな池を作り炎の魔法で沸かしたお湯を流し込んでいるらしい。基本的には中の原の共同浴場と同じで、要は屋根が無いと言う事だろう。


 露天風呂は初めてだ。コブリン退治に向かう道中とは言え、馬車に一日揺られたし、折角だから満喫しよう。


 受付で料金を払い脱衣所で服を脱いでお風呂場に行くのだが、屋根が無いというだけでこんなに恥ずかしさが増すとは思わなかった。体を洗う時に使う海綿と手拭しか持ってきていないので、とても全部は隠せない。勿論、壁はしっかりと高さがあり、外から見えないのは分かってはいるのだが。


 壁に板が掛かっていて、注意書きがしてある。

 まあ、中の原のお風呂屋さんも同じだから。そう違いはないだろう。


 1.構内で走ったり暴れたりしない事。

 2.浴槽に入る前には身体を良く洗う事。

 3.浴槽内では石鹸や手拭は使用禁止。

 4.浴槽内では泳がない事。


 まあ、常識だな。この程度の事が守れないような者は、お風呂屋さんに来なければ良いのだ。


 5.覗きが出たら、大怪我をしない程度に撃退する事。魔法や投石紐の使用はほどほどに。


 ちょっと、待て。覗きが出る前提になっているぞ。


「あの、メイベルさん? この注意書きですが、最後のはどういう……」

「ああ、覗きかい? この村は、ちょっと有名なのさ」

「覗きが出るんですか?」

「出るね。でも、大丈夫だよ。覗く前に宣言して来るから」

「宣言?」




 話を聞くと、この村の男子の成人の儀式らしい。

 成人を迎える年の者や引っ越して来た成人男子は、年内に露天風呂を覗くのが習わしになっていて、実行しないとヘタレとして認定されるそうだ。例外は神官だけらしい。


「つまり、当たり前の様に覗きが出るんですか?」

「そうだね。でも、いわば儀式だからね。手順があるんだよ。だから、大抵は見られずに済むよ」

「手順?」


 どうも、良く分からない。覗きは犯罪だと思うのだが、村の儀式であり手順があると言う。


「まずは、これから覗く事を大声で宣言するのさ。自分が正々堂々儀式に挑む事を周囲に知らしめるためだね。そうすると、巡回している者が取り押さえに来る。それをかいくぐって塀をなんとかよじ登って覗くんだよ。無論、女湯に入っている客にも聞こえるから、覗きが塀の上に顔を出した瞬間に石を投げつけて撃退するのさ。猟師は投石が得意だからね。そういう客が入っている時に覗いた奴は不幸だね。張り紙の意味は、魔法や投石紐なんかを本気で使って殺さない様に注意しろって、意味さ」


 通常は、覗き宣言をしている間に巡回が駆けつけ、塀を登りきる前に取り押さえられるらしい。

 無宣言で覗いたり、梯子を掛けたり、穴を空けたりの姑息な行為は厳禁で、そんな事をした輩は取り押さえられた後でぐるぐる巻きにされ、村の入り口に繋がれるそうな。無論、姑息な変態である旨の立て看板付きだ。この村から出て行かない限り、その後の一生を日陰者として暮らすらしい。


 逆に、無事に覗きおおせた者は、一躍英雄として世話役に抜擢され村内でも良い顔が出来るそうだ。もっとも、近年そういった英雄は出ていないらしい。


「どうして、そんな事をするんですか?」


 ある意味、神官以外の男性は、皆一生に一回は覗きをやっている事になる。


「さあねえ、根性試しかなあ。でも、お陰で巡回は強化されているし、村の女性も受け入れているみたいだよ」


 儀式に挑む者以外の覗きは無論厳禁だ。ある意味、こっそりと覗かれず、反撃も可能なわけだから、覗き対策になっているのかも知れない。


 しかしだ。覗きが出る、と言われると、やっぱり気になってしまう。

 服を脱ぐにも気が引ける。


 私が躊躇している間にも、他の四人はあっさりと裸になった。ベアトリクスなんかは、初めての露天風呂のはずなのに、なんの迷いもなく裸になると風呂場に向かって駆けて行ったくらいだ。


「ジャンヌ! ベイオウルフ! 早く来なさいよ。凄いわよ!」


 ベアトリクスが大声で呼んでいる。

 ドボン! と音がしたので飛び込んだようだ。

 別の意味でも恥ずかしくなってしまう。ああいう行為にも、グルグル巻きの刑を適用した方が良いかも知れない。




「露天風呂は初めてかい?」


 メイベルさんが声を掛けてくれた。頷くと、身体を隠せる程度の大きさの布を貸してくれた。見ると猟師の二人は同じ大きさの布を体に巻いている。こういう事もあろうかと予備を持ってきたのだと言う。ロウリさんも持ってきてくれていたのだが、ベアトリクスが裸のままで走って行ってしまったので、貸すまでもなかったようだ。


 衛兵隊のベイオウルフは、いつもそうなのだろう。最初は恥ずかしいけど直ぐに慣れるよ、と気にせず裸のまま手拭い一本をぶら下げて入って行った。思い切って入る事が肝要なのだそうだ。覗きは見つけ次第取り押さえると言う。女性衛兵隊士はいつもそうらしい。


 ちょっと待て、その過程はどうするつもりなのか? 豪快にもほどがある。


 結局、衛兵隊と野生の魔法使いは気にしない事にして、布で身体を隠して入って行くことにした。

 浴槽に入る時は取らないといけないらしいが、そこにたどり着くまでが問題なのだから異存はない。

 浴室へはメイベルさんとロウリさんの二人の陰に隠れるようにして入って行ったのは、言うまでもない。


 露天風呂は思っていた以上に広く私達以外は誰もいなかった。この時間から夜にかけて段々と混んでくるらしい。

 覗きも夜にやってくるそうで、見通しの良い昼間はいないそうだ。巡回もいるから、安心らしい。


「私達は猟師だし、衛兵隊もいる。攻撃魔法が使えるのもいる。ここに入ってくるときに、ここの女将に言っといた。きっと外にはりだしてあるよ。これで見つかりやすい昼間に覗く者がいたら、命知らずにも程がある。だから大丈夫さ」


 なるほど。覗く奴も、しっかりと偵察をしているわけだな。

 ならば安心か。


 大きな石で縁取られた浴槽……というよりは池……のお湯が湯気を立てている。ベアトリクスが泳いでいるところを見ると、相応の深さがあるのだろう。脱衣所から入って右手が洗い場になっていて、座れる高さに四角い石が並べて置いてある。手桶に湯をとり、ベイオウルフの隣に座って身体を洗う事にした。


 石鹸は孤児院で作ってきたのを持ってきたから使っていると、いい物を持ってるじゃない、とカエルのように泳いでいた魔法使いが近寄って来た。どうやら忘れて来たようだ。


「持って来なかったの?」

「持って来ないわよ。普通そんな臭いの持ち歩かないでしょ?」


 臭いの……って、身だしなみよ、身だしなみ!


 結局、私しか持っていなかった。皆、備え付けの海綿で身体を擦るだけにするつもりだったらしい。


「借りておいて何だけど、ゴブリンの巣に行くときは持って行かないでね。その臭いで気付かれるからさ」


 メイベルさんにまで言われてしまった。それも随分と申し訳なさそうにしていたので、気まで使わせてしまった。 

 狩猟に出ている間は石鹸を持たないのだそうだ。


「そうよ、気付かれたらどうするの?」


 ベアトリクスがニヤニヤと追い打ちをかけてくる。

 あんた、絶対知らなかったでしょ!




 お湯の池に入る。見上げると青空が見える。気分爽快だ。

 お湯は吐出口から熱いのが流れて来るから、冬でもお湯の中にいれば十分暖まるらしい。

 雪が降る中での露天風呂は風情もあって中々良いだろう。


「ほら、これ持っときな」


 メイベルさんが手桶を渡してくれた。

 覗き宣言が聞こえて来たら、石を入れて、体の前に浮かべておけば良いそうだ。

 見ると、池の縁に投げるに手ごろな大きさの石がゴロゴロと転がっている。


「こうすれば接近戦にも使えるよ」


 ベイオウルフが手拭で石を包んで結ぶと、ブンブンと振り回す。


 相手が死んじゃうから使っちゃ駄目でしょうが。第一、接近戦をやるつもりなのか?

 どうも、衛兵隊は攻撃的でいかんな。




 その時だ。

 若い男の大声が聞こえて来た。


「遠からん者は音に聞け! 近くば寄って目にも見よ! やあやあ、我こそは東中の原の住人……」


 出た! 覗きだ!


「やってくれるねえ。真昼間っから、この面子に挑むとはねえ」


 メイベルさんとロウリさんは既に右手に石を持っている。

 ベアトリクスが詠唱を始めた。

 ベイオウルフは全裸で立ち上がって、さっきの武器を振り回している。

 いかん、相手が死んでしまう。


「ちょ、ちょっと、二人共。この場は投石の得意な二人に任せようよ」


 慌てて引っ張って、湯船に潜ませる。


 覗きは、宣言を終わったのか、静かになった。

 分厚い塀をよじ登ろうとしている気配が聞こえて来る。


「こらあー。なにやっとんじゃあ!」


 塀の外で叫んでいるのは巡回だろう。何人か走って来ているようだ。


「ほら、皆。手が掛かったら準備するんだよ。顔が出る瞬間に仕留めるよ。合図したら一斉に投げてね」


 メイベルさんが完全に猟師モードになった。

 皆、一斉に右手に石を持つ。


 片手が掛かった……。


「痛て! この、ガキ。蹴りやりがった。こらあ、抵抗するな。大人しくしろ! おい、棒で叩き落してやれ!」


 塀の向こうでは攻防戦が繰り広げられているようだ。

 バンバン、と棒で叩く音が聞こえて来る。


 もう一方の手が掛かった。


「来るよ! 手と手の間だよ。よおく、狙ってえ…………」


 メイベルさんが呼吸を図っている。指の動きを見て、体を持ち上げた瞬間を狙う積りだ。


「今だ!」


 一斉に、石を投げる。

 あろうことか、ファイアー・ボールまで飛んで行く。

 手拭に包まれた石が派手な音を立てて壁の縁に当たると、削れた壁の破片が飛び散った。

 投げたうちの二個が狙いどおり壁すれすれの高さに飛んで行く。


「ぐえ!」


 二つとも命中した! 一瞬顔が見えたが、まともに当たった。のけぞりながら落ちた様でそのまま、手も見えなくなった。直後にベアトリクスのファイアー・ボールが顔のあった辺りを通過した。どうやら、仕留めたらしいが、ベイオウルフの石かベアトリクスの魔法が当たってたら、本当に死んでたかも知れない。


「やった! ロウリ。良くやったね。当たったわよ」


 流石は、猟師だ。二人の投げた石が見事当たった。ある意味命を助けたのかも知れない。

 因みに私のは壁の手前で落ちた。


「やあ、皆さん、ご協力ありがとうございます。お陰で覗きは取り押さえました。これから、女性をここに配置して皆さんが出るまでは見張らせておきますのでご安心を。どうぞごゆっくり。しかし、皆さんは猟師でしょう? 魔法使いや皮鎧の方もいるそうですな。この真昼間だ。皆さん方を相手に覗いた男の度胸を褒めてやって下さい。きっと、良い顔役になれるでしょう」


 塀の向こうで訳の分からない事を言っている。全く良い迷惑だ。

 まあ、しかし、この後は、ゆっくりと露天風呂を楽しめる様だ。やれやれだな。




 ひと悶着あったが、改めて露天風呂で気分よく汗を流した後は、宿に帰る途中にある食堂で晩御飯を食べることにした。この村は中の原東部でも流通の拠点なので、色々な種類の素材が集まるのだそうだ。中でも川魚が有名だという。せっかくなので食べることにした。なにせ中の原の町以外の食堂でご飯を食べた事がない。今日の昼はお弁当だった。それに、普段、鳥の頭亭や森の幸亭で肉ばかり食べているので、魚は久しぶりだ。


 楽しみにしていたら鯰が出てきた。今までに見た事はあるのだが、何分顔つきがアレだ。しかも顔の割には値段が高いので孤児院では食べた事が無い。尤も、食べたい、という子はいないに違いない。初めて見た時は魔物かと思ったものだ。


 正直言って食べられるのかと思ったが、食べてみるとほっこりとした白身がなかなか美味しい。

 何事も見た目では判断できないという事だな。

 ついつい、白ワインのソーダ割りもすすみ、皆饒舌になって来る。


 私とベアトリクスは衛兵隊でも猟師でもない。言わば場違いな存在で、早速質問攻めにあってしまった。


「パウルさんと一緒に来たんだってね。あの人元気になったのかい?」


 メイベルさんはかつてパウルさんと一緒に狩猟に出た事もあるのだそうだ。

 パウルさんの今の身分をかいつまんで説明して復活したことを話すと、嬉しそうにしていた。パウルさんが中の原一帯で有名なのは、どうやら間違いないらしい。


 話は一七五の会の稼ぎにも及んだ。町の周辺の魔物退治だけでは食っていけないだろう、と心配されてしまった。

 隠しても仕方がないので正直に話してしまう。

 先月の報奨金合計は一人頭銀貨十三枚ほど。薬草やら毛皮やら肉やらが売れた分の稼ぎで実質その五割増し近くにはなっている。そこにレヴァント退治に参加した特別褒賞が銀貨一枚。月収は金貨一枚と言ったところか。それに巻物作りの収入である週に銀貨一枚を加えると、私個人の総収入になる。


 町役場の職員の平均月収が金貨二枚程度らしいから、残念ながらあまり良い収入とは言えない。もっとも、ベアトリクスはマルセロ魔道具店員として、ベイオウルフは衛兵隊としてのお給料を貰っているから、稼ぎが悪いのは私だけだったりする。


「そうか。なかなか大変だねえ。稼ぎが良いなら、お仲間に入れて貰おうかとも思っていたのだけど、そうもいかないね」


 頭数が増えると取り分が減る。こちらから、一緒にやりませんか、と誘えない状況なのがつらいところだ。


「猟師の稼ぎはどうなの?」


 聞きにくい事をため口で聞くのは厚顔の美少女ベアトリクスだ。


「善し悪しだね。私達は報奨金目当てじゃないからさ。普段は近くの森で獲物を獲って、二か月に一回くらいは山沿いの連中と一緒に山奥のオオカミやらクマやらを狙って遠征に出るのだけど、それでなんとかなってるくらいだね」


 二人ともアンガスさんと同じ村、つまりアンガスさんの差配に従って動いてるわけだが、今回の調査も比較的安全で稼ぎが良いので呼んでもらえて良かったと言っていた。メイベルさんは二人の子持ちで、子供達はお祖母ちゃんに預けているらしい。調査が終了する頃にはロウリさんのご両親と一緒に旦那さんが帰って来るので、久しぶりに一家が揃うそうだ。


 魔物退治屋の前途はあまり明るくなさそうな話だが、頑張っていくしかないわね。




 メイベルさんが全く表情を変えずに目だけを動かす。その方向のテーブルについたオッサン達が、覗きの話をしている。皆でテーブルの真ん中に額を集め、内緒話をしているフリをして聞き耳を立てた。


「久々に英雄が現れたらしいな」

「ああ、俺が取り調べた。川漁師のスコットだ。真昼間。しかも、猟師、衛兵隊に魔法使いまで入っているのが分かってて、堂々と名乗りを上げたらしいぞ」


 いい根性してるねえ、とメイベルさんが呟く。


「やるなあ。最近の若いのは口ばっかだと思ってたが、なかなか生きの良いのがいるじゃねえか」

「それだけじゃねえぞ。駆けつけた巡回は、なんと八人だ」

「八人? 普段の倍じゃねえか」

「おうよ。なんでも、中の原の町長の客が泊るってこって、失礼があっちゃいけねえだろ? そんで、直ぐに取り押さえられるようにしてあったらしいが、まさかの昼間だ。交代の隙をついて名乗りを上げやがったそうだ」


 失礼があっちゃいけないなら、交代の時に隙なんか作んなよ。


「壁に取り付いてんのを、取り押さえようとしたらしいが、巡回の手を蹴飛ばし蹴飛ばしして、なんとか天辺に両手を掛けて、棒で散々殴られながらも塀の上に顔を出したんだそうな」

「やったなあ。顔役決定だな」

「ああ、あそこは父親が戦争で片腕になっちまって、正直生活が苦しかったからな。一発逆転を狙ったんだろう。なんせ、七年ぶりの英雄だ。今夜は牢屋だが明日からは、胸張ってけるぜ」


 そんな理由があったんだ。

 メイベルさんに聞くと、村の顔役になると月に銀貨十枚の手当てが出るらしい。その分、あちこちに行ったりして忙しいそうだが、十分元は取れるそうだ。


「ほら、去年、親父の後継いで顔役になった小生意気なガキがいただろ?」

「ああ、金貸しの子せがれだな」

「そうだ。今日、緊急でやった顔役会じゃあ、そのガキを除く全員一致でそいつのクビが決まって、その後釜に座る事になったらしい」

「丁度いいじゃねえか。自分ちがちょっと金持ちだからって、いつも偉そうにしてやがったからな。いい気味だぜ」

「あのガキ。親父がスコットんちに金貸してるの知ってて、スコットいじめてたらしいからな。ざまあみろだぜ。明日からはスコットの伝令掛かりだそうだ。あいつがスコットの手紙を後生大事に懐に入れて、あちこち走り回るんだぜ。いい気味だ」

「しかし、借金は残ったままだろう?」

「それが、顔役にいつまでも村民からの借金があるのは困るつってな。顔役会で建て替えたらしい。無論、顔役会へ返さなきゃならんのだが、利子は無しだそうだ」


 思わぬ展開に、皆で顔を見合わせる。

 こうなると、覗きの儀式も悪いだけではないかも知れない。




「ところで、なんだ。その中の原から来た客ってのは、どうだったんだ? スコットは見たんだろう」


 一瞬、息が止まるかと思った。

 確か、見られてはいないはずだ。私は素早く布を体に巻き付けて壁から離れた。見られたとしたら、先頭にいたベイオウルフだと思うのだが……。


「見た、らしいぜ」

「ホントか!」

「ああ、しかし、顔を上げた途端に石を二発喰らったんで、仰け反っちまって、見えたのは一人だけだったそうだ」


 ああ、ベイオウルフ。ご愁傷様である。衛兵隊の正義感のゆえだろう。


「で、どうだったんだ? やっぱりこう、な・か・の・は・らって感じだったのか?」


 なんだそれは? どういう意味だ。


「残念ながら、その娘はデカい布を体に巻き付けてたそうだ。ちなみに、胸は小さいのか、あまり膨んでもいなかったらしい」

「なんだ、つまんねえな。期待させやがって。次からは、見た内容も含めて顔役にしようや」

「馬鹿言うな」



 くそう……見られた……。


 あの時、身体に布を巻きつけたのは私だけだったりする。

 覗きは、顔に石をくらってのけぞった。つまり、壁が邪魔になって手前が見えず、一番遠い私が見られたわけだ。


「ジャンヌ。大きさなんか気にしちゃ駄目よ」

「そうだよ。大きいと邪魔なだけだからね」

「そうよ。胸なんか無くったって生きていけますよ」

「ほら、世の中には色々な趣味の男がいるからさ」


 問題はそこじゃないよ。布で隠してたとは言え、入浴姿を見られた事だよ。


 もう、泣いても良い?


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