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清貧に生きる野良神官は魔物退治をしながらお金を稼ぐ夢を見る  作者: 兎野羽地郎
第二部 第七章

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第十話 墓室の調査

明けましておめでとうございます。

 翌日。

 墓室の調査で補佐をさせていただく事になった。正確には、補佐の秘書様の補佐で照明係なのだが、そう簡単に野良が関わる機会は無い。ありがたく、参加させていただく。


 護衛担当としてアドルフさんも立ち合い、衛兵隊も参加した。吶喊の専門二班十人でガタイが良い。残念ながらベイオウルフの班では無かった。

 秘書様以外の神官も若手を含め五人来た。そのうちの三人が記録係らしい。


 まずは、入り口の穴の回りに聖水を振りまいて、大司教様が清めの祈祷をする。小瓶に入った聖水を振りまきながら唱和する秘書様の横に立ち、一緒になって唱和しながら聖水を振りまく。私の隣では、記録係の神官が墓の絵を描いていた。


 それが終わると、魔法使いの出番だ。

 作業は、マルセロ商会が請け負った。

 アンジェリカさんとパウルさんだ。


 入口の穴を広げ、簡単に出入りが出来るようにする。

 ここからは調査になる。


 そのまま、中に入り、墓室の前でもう一度清めの祈祷。その後、女神様を讃える祈祷と続き、儀式が終わった。


 大司教様が引き続き清めの祈祷をし、秘書様が唱和し、私がライトで照らす中、パウルさん達が床から盛り上がった土を少しずつ取り除いていく。半分ほど崩したところで石の板が出て来た。石棺の蓋だろう。パウルさんに魔法で持ち上げて貰うと、中には土が詰まっていた。 


 石棺は、石の板を前後左右に四枚立てて空間を作り、丸い石を底に敷き詰め土を入れ、遺体や副葬品を入れ、さらに土で埋めて、石の板で蓋をする形になっているらしく、いわゆる棺桶とは違っていた。


 大司教様はご存じだったようで、そう言った事を、若手神官や私に教えると、そのまま、少しずつ土を掘り出す様に指示を与え、パウルさんやアンジェリカさんが魔法を使う。


 流石は上級魔法使いだ。土だけを綺麗に掘り出すから、副葬品があっても傷めずに済む。


 青銅製の楯やら剣やらが出て来て、遂に首飾りをジャラジャラと付けた一体の骨が出て来た。骨は腕輪や指輪も付けている。

 記録係の神官が、絵を描いて、子細にそれらの紋様を写し取っていた。大きさを測り絵の横に書き込んでいる。

 一通り掘り出し、記録が終了すると、掘り出した土を石棺に戻して埋め直す。副葬品もそのままの位置に直して全部埋めた。石の蓋を載せて元通りだ。




 次は財宝の掘り出しだ。

 石棺を崩さない様に、遺骸の足元を真下に穴を掘っていく。

 アンジェリカさんが穴を掘り、パウルさんが筒の様にしたウィンド・バリアを穴の中に差し込んで崩れない様に支える。

 そうやって土を掘り出していくと、黒い箱が見えてきた。鉄製のようで随分と重そうだ。


 衛兵隊の力自慢が呼ばれ、二人中に入り、上の三人と一緒になって頑張って引っ張り出した。

 ある程度掘って、何も無い事を確認すると、土を固めながらどんどん放り込み、最後にお墓の盛り土を元通りにする。


「グリフィス王。この墓室はセルトリア国教会中の原教区大司教の名において保全致します。管理は当教会で行います。ご安堵なされよ」


 昇天しているから本人はいないのだが、そこは気分だろう。

 大司教様の言葉が終わると、皆で祈祷を捧げた。


 最後に、墓室の入り口を土で塗り固めて、さらに石を積み、簡単に人が入れないようにして調査終了だ。


 副葬品の記録を取っていたから、ここまで結構時間が掛かった。蝋燭を見たら二時間以上たっていた。




 やれやれ終わったと、ライトを消して松明に切り替え、外に出ようとしたその時だ。

 フワフワと白い物が天井から降りて来る。


「ジャンヌ。約束を守ってくれて嬉しいぞ。我はグリフィス。この地を治めていた王だ」


 えーと、まだいたんですか?


 昨日いた幽霊の声が聞こえる。

 また、担がれた。

 なんだか雰囲気が違うのは、今日は王様だからだろう。

 残念ながら、調査中はライトを使うのでフィオナは外だ。

 顔が見れないのは残念だが、きっと昨日と同じ青塗りだろう。


「そう申すな。その方気に入った故、一言挨拶をしたくてな。ヘビを倒し、我らが共に暮らしたアルラウネを保護し、そしてこの墓室を清めてくれた。礼を言う。司祭達にも世話になった」


 私達の教義では司祭では無くて司教なのだが、まあ、いいだろう、大司教様もそこは突っ込まない。


「グリフィス王。あなたの遺された記録は、教会の、いえ、世界の宝となるでしょう。こちらこそ、御礼申し上げます」


 大司教様が恭しく頭を下げ、皆もそれに習う。


「うむ。時間が随分とあったので書いてはみた。もしその方たちの役に立つのであれば、良いのだがな」


 その後は、延々と、如何にしてその記録を書くに思い至ったかを説明してきた。要は生きている内に書けなかったから、幽霊になって書いていた様だ。

 大司教様も手慣れたもので、ほうほう、とか、それは凄いですね、とか相槌を打つものだから、ますます調子に乗って喋っている。蝋燭も差し替えられた。


 遂に、バッタリと衛兵隊の一人が倒れてしまった。

 口から泡を吹いている。

 神官以外は皆フラフラだ。ベアトリクスも立ったまま寝ている。


「おお、大丈夫か。済まんな。慣れておらん者には耐えられなかったか」


 慌てている所をみると優しい方の様だ。


「では、司祭。長居は禁物の様だ。最後に一つ。ジャンヌ、そなたにこれをやろう」


 懐から革袋を一つ出して渡して来た。

 大司教様が頷いてくれたのでありがたく貰っておく。


「では、司祭。そろそろ昇天したい。頼んだぞ」

「分かりました。では、ジャンヌが昇天のお手伝いをしましょうか?」

「おお! 良いのか?」


 断れるわけがない。


「私でよろしければ。お手伝いさせていただきます」


 満足そうにしているので、気が変わる前に昇天の祈祷をする。

 院長先生ならアセンションを使うだろう。

 なんと、大司教様が唱和して下さった。


「ではな。ジャンヌ。世話を掛けた……」


 白いモヤモヤが光の玉になって、ゆっくり外へ出て行く。

 詠唱しながら、追いかけると、そのまま、遥か上空へ上っていき、遂には見えなくなった。


「ジャンヌ神官。お疲れ様でした」

「いえ。大司教様こそ」

「あの方にはすっかり騙されてしまいましたね」


 全く、オッサンの性質というのは、いつの時代も変わらないのだな。

 後でフィオナに聞くと、どうやらフィオナも騙されていた様だ。幽霊相手に昇天したフリが出来るとは、大した方だ、と大司教様が何故か褒めていた。


「まあ、うちの若手神官には良い経験になったでしょう」


 見ると、二人ほど魂を抜かれた様な顔で惚けている。

 男の癖に軟弱だな。


「あなたが立派なのですよ。幽霊のフィオナは兎も角も、昨日も二時間、そして今日も二時間。よく聞いてくれました。ありがとうございます」


 お礼を言われてしまった。




 さて、財宝だ。教会への寄進の品だが私が貰える物もあると言う事で、箱を開けて見せて貰えるようになった。

 巻き付いた鎖を斧で叩き斬ると、鍵は掛かっていないようなので、簡単に開いた。


「おおお!」

「す、凄い、まさしく、お宝……」


 眩いばかりのキンキラキンだ。


 腕輪、杯、指輪、良く分からない置物みたいな塊。

 全部金だ。流石は、あんな大きなお墓を作る王様だ。

 裕福だったのだろう。


 フローラの話では、この辺りを治めていたのは、狩猟中心の部族だったそうなので、戦闘力もあったに違いない。その証拠に、恐らく崇拝の対象だったらしい神様の金の像があったが、どう見ても男性神だ。


 古来、男性神を信仰する部族は荒っぽいと聞く。戦って奪ったのかも知れない。

 例えば、島の北端の人達がそうだ。しょっちゅう隣の国に挑んでいるらしい。


 どうして滅んでしまったのかは分からないが、国というものはそういうものなのかも知れない。


 大司教様が、ガチャガチャやっているな、と思ったら、革袋が幾つか出て来た。中を見ると、金の粒が入っている。


「では、ジャンヌ神官。これがグリフィス王からあなたへのお礼ですね」


 手に持つと、結構な重量がある。


「ざっと、金貨三十枚といったところかの」


 パウルさんに見て貰うと、手で重さを計りながら言ってきた。


「いいのでしょうか?」

「グリフィス王自らのお言葉ですよ。あなたが使う事こそが供養になるでしょう」


 ありがたく頂いておくことにする。


「もう一つは、これですね」


 直接渡された革袋を開けてみた。

 中に入っていたのは、黒い石だ。

 球を上から潰したような平べったい円形で、一方は平らになっている。

 大きさは銀貨くらいだ。

 端の方に穴が空いている。

 なんだか良く分からないが装飾品のだろう。

 黒とはなかなか好みが渋いな。


 大司教様もアドルフさんも、どういった物かは分からないらしい。

 しかし、折角の贈り物だ。早速、革紐を通して首にかけてみる。


「申し訳ありませんが、それがどういった物なのかは私には分かりません。しかし、カトリーヌ司教やあなたのご友人達、それに時折王都から訪ねて来る年配の女性なら、御存じかも知れませんね」


 ニコニコと笑っている。

 全部バレていたようだ。




 大司教様と財宝を載せたアドルフさんのお椀を見送って、お弁当を食べた後でイノシシ退治に復帰する。


 アンジェリカさんもやってみたい、と言うので参戦だ。特別に餌も三か所に仕掛けてきたらしい。


 まずは、お手本を見せて貰う。


「グレイシオ!」


 七匹全部周囲の木を何本も巻き込んで一塊に凍ってしまった。

 相変わらずもの凄い。

 出力を思い切り絞ってさえこれだ。


「次は中級魔法でやって貰えんか?」


 氷の山はそのままで、次に向かう。


「アイスキューブ!」


 左右交互に三回ずつ唱えた結果、氷の塊が六個出来上がる。やっぱり全滅だ。

 アイスキューブはベアトリクスも使えるが、こうも立て続けには使えない。

 一匹は丸ごと凍らせる事が出来るが、二匹目は奇襲にならないので逃げられてしまう。


「流石だな。お前達も早くこのくらい出来るようにならんといかんぞ」

「どの位で上級魔法を覚えたらいいの?」

「二十歳が目安だな。エレノア様のようになるなら、それまでには超上級魔法一個使いにはなっとらんとな」

「後、三年半かあ……」


 うーん、とベアトリクスが眉間に皺を寄せる。


 エレノア様は兎も角も、パウルさんもアンジェリカさんも十九歳の頃には上級魔法一個使いにはなっていたらしい。


「魔法はスロープでは無くて、幅の長い階段を上がる様な物よ。ある日突然一段上がるの。それに初級魔法でも使い方次第よ。エレノア様がおっしゃっていた様に、イメージを強く持つ事ね」


 二十歳になった自分の姿を想像してみる。

 白銀の錫杖を持ち、ホーリー・オーバーフローをドラゴンに向かって唱える自分は、ちょっとカッコ良いかも知れない。


 いかん、いかん。二十歳の姿にまで、お揃いを想像するようでは、いかんな。




 三か所目では、私達が頑張る事にした。

 私はホーリーだ。アトリクスの雷の魔法と一緒に唱えて一匹を狙い、討ち果たす事が出来るようになってきた。


「いつも通りよ。最初にアイスキューブ。ジャンヌはホーリー、動きを止めてから止めのエナジー・ボルトね。右端のデカいのを狙うわよ」


 冬になって餌が乏しいのだろう。一心不乱に食べている群れの上空に忍び寄ると、ボニーの矢が放たれるのを合図に、まずはホーリーで攻撃する。

 両手を使った目一杯だ。


 放った瞬間、腕が痺れ肩まで衝撃が来た。

 掲げた両手から極太の光が放たれ、イノシシを貫通する。一撃だ。


 あれ? 


「なんじゃ。中級魔法を覚えとったのか?」


 いえ、そんな事はありません。


「あんた。どうしたのよ? マルセロさんのホーリーみたいよ」

「ジャンヌ。凄いなあ」


 皆が驚いている中、アンジェリカさんが真顔になっている。


「パウル。今日はもう引き上げよ。カトリーヌ司教の所へ行きましょう」


 院長先生のところ?


「黒い石か!」

「そうよ。以前、マルセロに聞いた事があるの。魔法の威力を上げる魔石の事。もし、ジャンヌが幽霊に貰った石がそうなら、きちんと確認しないとジャンヌが危ないわ」


 危ない……。そんな状況になっているのか?


「勿論、安全な物で、純粋に使用者の魔法の威力を上げる物なのかもしれないけれど、もし強制的に魔法制御力を使うのであれば、初級魔法使いが、無理やり中級魔法を使わせられている事になるわ。最悪、ジャンヌの脳が壊れるわよ」


 あのオッサン……いや、グリフィス王は良い人だったと思うが……。


「ジャンヌ。その石ちょっとかして」


 首から外し、ベアトリクスに渡す。


「私が持ってるから、もう一回ホーリー唱えて見て。目一杯じゃなくて、出力絞って」


 そうか。持ってなければ影響がないなら、持ち歩かなければいいんだ。


「ホーリー!」


 良かった。いつも通りだ。


 目一杯で唱えても、いつもと一緒だ。

 少なくとも、使える時は選べるようだ。


「呪いではなさそうね。良かったわ。でも、今日はやっぱり引き上げましょう」


 アンジェリカさんの言う様に、イノシシを回収して早々に引き上げる事にした。




 町に帰ってきて、院長先生に事情を説明し、診て貰う。


「ふーん。初級魔法が中級魔法にねえ……」


 首を傾げている。


「ジェニファー。知ってる?」


 ジェニファー先生も知らないらしい。

 ただ、呪いでは無いそうだ。その点は良かった。


 ジロジロ見て、いきなりホーリーを放った。

 極太だ。


「変わらないわね」


 ええ! あれが初級なのか?


 院長先生クラスになると、石なんかなくても効果倍増の様だ。


「上級魔法とかも試したいけど、ここでは無理ね」


 どう考えても騒ぎになるだろう。

 それに、フィオナが危ない。滅ぼされてしまうかも知れない。


「とりあえず預かっておくわ。アンジェリカ。マルセロが帰ってきたら見せたいわ。ここに来るように言っておいて」

「分かりました。週末には帰って来るはずですから、伝えておきます」

「マルセロが分からなかったら、エレノアに聞いてみるわ」

「はい。よろしくお願いします」


 ヘンリー様達が幽霊屋敷に出入りしているのは、院長先生とジェニファー先生は知っている。それに、中の原に来るとすれば、孤児院に泊まるだろう。お任せする事にした。


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