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清貧に生きる野良神官は魔物退治をしながらお金を稼ぐ夢を見る  作者: 兎野羽地郎
第一部 第一章

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小部屋の真実

 町に帰ってハンスさんに報告すると、初めて行く道で一匹退治してくるとはたいしたものだ、と褒められた。

 気分良く帰ろうとすると、ちょっと待て、と言ってきた。どうやら、いつぞやのメンバー勢ぞろいでアドルフさんに会いに行くらしい。

 地下の小部屋で見つかった羊皮紙の内容が判明したのだそうだ。魔法使いが小部屋で行った研究の詳細な記録だったらしい。

 役場の会議室でアドルフさんに聞かされたその内容は、完全に私の予想を超えていた。




 五年前、研究に行き詰った魔法使いは二週間ほど旅に出た。中の原から南西の方角にある失われた都とか滅びの町とか呼ばれる廃墟だった。そこは、巨大な地下墓地を抱えている小さな神殿があるところで、かつて栄華を誇った国の都があったところだ。他国との戦争に負けた結果、国は滅ぼされ、その街も廃墟となってしまったらしい。魔法使いはその神殿に行くと、そこの神官に遺体の保存法を教えて貰おうとした。


 そこで教わったのは、魔法によるレヴァナントの製作方法だった。


 レヴァナントは蘇りし者とか還りし者とか言われている、いわば生き返った死体だ。生前に未練を残して死んだ者や、戦争とかで非業に死んだ者がなると言われている。それを人為的に生み出す方法がある。教会によって禁呪に指定されたアンデッドの魔法だ。


 しかし、元々魔法使いに研究の手伝いを申し入れた神官に拒絶されてしまった。教会が禁呪にしたのだから当然だ。やむを得ず、秘密裏に研究を続けた。そして、ネズミの死体の不死化に成功した。あとは、同じことを地下墓地の遺体に施すだけだ。


 禁呪には一つ問題があった。レヴァナントを作った者が死んでしまうと、効果がなくなるのだ。つまり、禁呪は代々受け継がれなければならない。


 魔法使いは、しかし答えを見つけ出した。生きながらにして自らがレヴァナントとなり、その上で遺体をレヴァナントとして隷属させれば、永遠の保存法となる事を。




「ここで、記録は終わっていた」


 アドルフさんの話が終わった。

 悄然と声も出ない。

 有り得ないことだ。遺体を保存するために、自らレヴァナントになるなんて……。


「彼は実行したのでしょうか」


 沈黙のなか、ハンスさんが最初に声を上げた。


「今となっては分からないな。その後の彼の行動から推測するしかないだろう」


 アドルフさんの声がただの音にしか聞こえないような感覚に陥る。


「皆に聞きたい。生きながらレヴァナントになると言うことは、死ぬということだろうか?」


 アドルフさんの問いかけに皆同意する。


「では、皆は自分で自分を殺すことができるかな?」


 皆、首を横に振る。

 自殺は禁止されている。これは女神さまの教えだ。自殺した者の魂は永遠に救われない。

 魔法使いとて中の原に住んでいたのだから、きっと同じ考えだったはずだ。

 そうなるとだ……。


「つまり、彼は誰かに殺されるために、教会で暴れたと?」


 ハンスさんの言葉は皆の考えを代弁していたのだろう。誰も驚かない。固唾を飲んでアドルフさんの言葉を待っている。


「つまり、他に共犯者がいたってことね」


 こういう時に遠慮なく発言するのはベアトリクスだ。しかも、話が先に進みすぎて理解できない。

 

「自らレヴァナントになることは女神様の教えに背くから、誰かに殺されないといけないんでしょ。てことは、誰かが魔法使いをレヴァナントにしたってことよね? 行方不明じゃ怪しまれるから、教会を襲った振りをして、公開で殺したとかさ」


 ベアトリクスの言い分では、討ち取った者が黒幕になる。


「もう一つの可能性があるぞ。討ち取った二人が、何も知らずに討ち取ってしまった場合だ」


 ハンスさんの言い分では、他に黒幕がいることになる。

 どっちもどっちだ。今となっては確認できないんじゃなかろうか。

 



 二人の仮説を聞いたアドルフさんが、ちょっと待っていてくれと、席を外した。

 そして、戻った時にはマルセロさんとアンジェリカさんが一緒だった。 

 皆一様に驚く中、ハンスさんがため息をついた。ベアトリクスは表情を変えずに、そういう事か、と呟いた。


 マルセロさんとアンジェリカさんは、二人とも沈痛な表情で俯いている。アドルフさんに促されるとアンジェリカさんがようやく口を開いた。


「例の魔法使いを討ち取ったのは、私達なんです」


 再び場が沈黙に支配された。




 最初に研究を始めた神官は、マルセロさんだった。

 マルセロさんは、魔法使いが暴れていると聞いて説得に向かった。

 そして、そこで見たのは、教会の地下で狂ったように魔法を放ちそこら中の物を吹き飛ばしている魔法使いだった。


 やむを得ず、マルセロさんは魔封じの魔法を使い、魔法を封じ込めた。

 あくまでも、説得するためだ。

 しかし、魔法使いは腰に差した剣を抜いてマルセロさんに斬りかかってきた。

 手や足に斬りつけられ、血まみれになって必死に逃げまわるマルセロさんを壁際に追い詰めた魔法使いは、剣を大きく振りかぶり……教会で魔法使いが暴れていると聞いて駆けつけたアンジェリカさんが咄嗟に放った魔法で倒された。


「その魔法使いは私の兄なんです」


 それは、涙ながらに話すアンジェリカさんの、まるで血を吐くような告白だった。




 禁呪、教会への暴力、そして尊属殺人……。


 マルセロさんは、自分が全てのきっかけとなった事に責任を感じ、還俗して魔法使いのお母さんに謝罪に行った。そして、赦されたマルセロさんは、その場で説得されて魔法使いの営んでいた魔道具屋を手伝うことになった。時を経てアンジェリカさんと結ばれ、店の名もマルセロ魔道具店に変えて、現在に至っている。


 マルセロさんは孤児だったが、今はアンジェリカさんと二人の間に出来た子供、そして魔法使いのお母さんと一緒に暮らしている。兄を、そして孤児院出身の自分を分け隔てなく親友として接してくれた魔法使いを手にかけてしまった後悔の証が、今二人が着けている魔封じの指輪らしい。二人は魔法使いを死なせた自分達の魔法を封じるとともに、その魔法使いをいつも感じていられるようにしていたかったのだそうだ。


 あの二人のいたずら好きの笑顔の背後にはそれほどの体験があった。

 私は全く気付かなかった。




 アドルフさんが口を出しかねていた皆の疑問に答えを出した。


「この二人は、地下での研究の結果については知らなかったようだ。儂が直接聞いたのだから間違いない」


 高位の魔法使いや神官には嘘は通じない。見破ることが出来る。


「問題は、何故教会で暴れたかよ」


 ベアトリクスはそこのところにこだわっている。


「ハンスさん。もし魔法使いだったとして、誰かに殺されるためにはどこへ行く?」

「王国軍か衛兵隊に殴り込みだな。当時は戦争中だ。有無を言わさず殺されるよ」


 ふと気になったので、聞いてみた。


「アンジェリカさんのお兄さんが誰かに操られていた可能性は無いのですか?」


 禁呪と呼ばれる魔法はアンデッドだけではない。心を操る魔法チャームや、体を操る魔法ドールがある。


「教会には強力な結界があって、そういった魔法は効果がありません。ただし、他の方法で既に隷属が完了していた場合は、話が違いますが」


 元神官のお弟子さんには、他の方法というものの見当がついているようだ。


「例えば、既に不死化が完了していた場合です。レヴァナントになってからでは結界も効果がありません。ただし、この場合、魔法使いは既に死んでいたことになりますが」


 魔法使いは闇落ちしたのではなく、誰かに殺されてレヴァナントになった……。研究への思いを利用される形で……。




 そこへ役場の職員が随分と慌てた様子で会議室に入ってきた。至急アドルフさんに来てほしいと言っている。アドルフさんは、ちょっと休憩にしよう、と言って部屋の外へ出てしまった。


 ベアトリクスの袖を引っ張る。他の皆も隣同士でヒソヒソやっている。

 

「なんか凄く嫌な予感がするんだけど。大丈夫かな?」


 話しが大きすぎる。個人の闇落ちなんかじゃない。


「問題はなんで教会の地下なのかよ。それが分かれば何か見えてくるかもしれないわ」


 ベアトリクスが言う通りなんだろう。犯罪……いや、陰謀めいた話になってきた。


 


 ひそひそと話をしていたら、アドルフさんが帰ってきた。

 そして、中の原地区の終わりではないかと言うような話を聞かされた。


「たった今、東部のいくつかの村から急使が来た。村の墓場から死体が蘇ってレヴァナントになり、村を襲っているそうだ」


 衛兵達は皆立ち上がり、室内が騒然となる。ありえないことだ。

 アドルフさんは、皆に落ち着くように言い、一旦全員を座らせると指示を出し始めた。


「ハンス、衛兵隊からお前の班以外で四班用意してくれないか。教会の神官の護衛を頼む」

「わかりました。編成は騎兵二班と歩兵二班でよろしいでしょうか」

「そうだな。騎兵は先行して情報を集め、歩兵は神官の乗る馬車に同乗して直接護衛してくれ」


 レヴァナントが湧いた村の数は複数だが、一か所当たりの数は少ないらしい。神聖魔法で対抗するつもりだ。


「それと、もう一つある。西の峠で帰還途中の魔王軍討伐隊が野盗の群れに襲われたらしい。脱出した者達からの救援要請があった」


 ハンスさんが眉間にしわを寄せた。衛兵隊の中には露骨に舌打ちをする者もいる。魔王討伐部隊が野盗如きに何を言っているのだと、言いたいのだろう。


「事情が事情ですし、自力で突破させれば良いのではないでしょうか」


 ハンスさんの提案に衛兵隊の皆が頷く。


「そうもいかんのだ。相手は魔法使いが何人か混ざっていて、その内一人は上級魔法を使うらしい。強行突破すれば被害が大きいぞ」

「上級魔法使い? それは本当に野盗なんですか?」


 ハンスさんの質問に答える代わりに、アドルフさんは無言で南の方角を向いた。セルトリアの南隣はエングリオ王国だ。


 魔王討伐軍の援軍として参加したエングリオ王国の兵が、近々中の原周辺を通過するとの布告はあった。本来なら、町の近くに宿営して歓迎の場を設けるのだろう。しかし、双方の感情的な部分を配慮して不要との申し出があったようだ。つまり、中の原のどこかにいるわけだ。

 

 なんかタイミング良すぎないか?


「しかし、上級魔法使いがいるとなれば対抗できる戦力はうちにはいないですよ」

「儂が行こう。衛兵隊を一班貸してくれないか。騎兵を頼む。駅逓を使うからな。ああ、ハンスの班は残ってくれ」

「それは……賛同しかねます」


 事もなげに言うアドルフさんにハンスさんが真正面から反対している。

 当然だろう、衛兵隊の立場が無い。しかし、結局は、アドルフさんに説得されてしまった。何せ相手は上級魔法使いだ。同等クラスがいかないと返り討ちにあってしまう。




 その時、突然ドアが開いて男が一人入ってきた。


「町長が儂に急用があると言っているようだが……」


 会議室に入って来たのは、パウルさんだった。

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